大阪高等裁判所 昭和53年(ラ)615号 決定 1979年2月13日
抗告人 月城栄祚
右代理人弁護士 黒田登喜彦
右同 平松光二
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
(一)、一件記録によると、次の事実を認めることができる。
1 昭和五〇年九月二五日、債権者網野啓一(承継人三井常杓)、債務者大阪金脚株式会社、所有者青松相仁とする昭和五〇年(ケ)第四一六号不動産競売事件(以下、①事件という)につき原裁判所が競売開始決定をした。
2 昭和五三年二月二七日、債権者月城栄祚(抗告人)、債務者檜山成治、所有者青松相仁とする昭和五三年(ケ)第一二八号不動産競売事件(以下、②事件という)が、①事件に記録添付された。
3 同年六月七日大阪地方裁判所は昭和五三年(ヨ)第二一五九号事件につき①事件に関して根抵当権実行禁止の仮処分がなされ、翌八日右仮処分決定正本が原裁判所に提出された。
4 原裁判所は右正本の提出を受けたが、①事件の競売開始決定を取消すことなく、①事件の競売手続を一時保持させたまま以後の競売手続を停止した。
5 同年六年一二日抗告人は前示記録添付した②事件によって競売手続続行の申立をし、原裁判所はこれに基づき爾後②事件につき本件不動産の競売手続を続行した。
6 同年九月一四日抗告人は金二、〇〇〇万円の最高入札人として②事件につき競落許可決定を受け、同年一〇月二〇日その代金を納入した。
(二)、民訴法六八七条三項の引渡命令の相手方となる「債務者」とは、競落許可決定がなされた競売事件における債務者を指すのであって、既に競売手続(執行手続)の停止された競売事件の債務者を指すものではない。そして、同条項の引渡命令の相手方となる者は、右の債務者及び競売開始決定後における債務者の一般承継人、特定承継人であって、競落人に対抗することができる権原を有しない占有者に限ると解すべきところ、抗告人が本件引渡命令の相手方として申立てている大阪金脚株式会社は競売手続の停止された①事件の債務者ではあるが、競落許可決定当時の競売債務者およびその承継人にあたらない。かえって、同人は競売開始前から本件不動産の賃借人として競落人に対抗し得る権限を有し、右権原によって本件不動産を占有している者であるから、同人に対する引渡命令の発付を求めることができないことは前説示により明らかである。
(三)、したがって、本件申立を却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 村上博巳 吉川義春)
<以下省略>