大阪高等裁判所 昭和53年(ラ)616号 決定 1979年2月26日
抗告人 月城栄祚
右代理人弁護士 黒田登喜彦
同 平松光二
被抗告人 株式会社 秀光
右代表者代表取締役 金順琪
被抗告人 金田こと 金裕治
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 記録によると、原決定別紙目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)については、債権者網野啓一(承継人三井常杓)、債務者大阪金脚株式会社、所有者青松相仁間の大阪地方裁判所昭和五〇年(ケ)第四一六号不動産競売事件(以下、第一事件という。)において同年九月二五日になされた競売手続開始決定(同月二六日登記経由)によって競売手続進行中、昭和五三年二月二七日債権者月城栄祚(本件抗告人)、債務者檜山成治、所有者青松相仁間の同庁昭和五三年(ケ)第一二八号不動産競売事件(以下、第二事件という。)が記録添付されたところ、同年六月八日第一事件について同月七日になされた同庁同年(ヨ)第二一五九号根抵当権実行禁止等仮処分決定正本の提出があったので、その後第二事件で競売手続を進行し、同年九月七日の入札払期日に抗告人が金二〇〇〇万円で最高価入札人となり、競落許可決定を経たうえ同年一〇月二〇日に右代金を納入したこと、被抗告人らは右第一事件の競売手続開始決定の後であるが、第二事件の記録添付の前である昭和五二年一一月二一日から本件不動産の占有を始め、現在もその占有を継続していることが認められる。
抗告人は、被抗告人らの本件不動産に対する占有は右記録添付の後であるから、同人らに対し引渡命令が発せられるべきである旨主張するが、右事実を認めるに足りる資料がない。
2 ところで、競売法三二条二項、民訴法六八七条所定の引渡命令は競落物件の所有者(債務者が占有者であるときは債務者)、その一般承継人及び右物件について差押の効力が発生した時である競売手続開始決定を原因とする競売申立登記以後の右占有の特定承継人に対してこれを発することができると解するのが相当であるところ、本件について第一事件の競売手続開始決定は抵当権実行禁止仮処分決定正本の提出があったため、民訴法六四五条二項の準用によってその後は第二事件の記録添付のときに競売手続開始決定があったものとされ、以後右事件について競売手続が進行したものであり、右事件について差押の効力の生じたのは右記録添付の時にほかならないから、本件不動産の占有の特定承継人については右記録添付以後右占有の承継のあった者に限り引渡命令を発しうるものというべきである。
そうすると、被抗告人らが本件不動産の所有者又は債務者からその占有の特定承継を受けたとしても、その占有開始は昭和五二年一一月二一日であり、右記録添付は昭和五三年二月二七日であるから、被抗告人らに対しては引渡命令を発することができない。
3 抗告人は、抵当権実行禁止仮処分決定正本の提出により第二事件について競売手続を続行するとしても、第一事件の競売手続はその取消又は取下によって終了したものでなく一時その進行を停止させられたにすぎず、右事件の競売手続開始決定の効力は存続し、したがってその差押の効力も消滅していないから、右効力発生以降の本件不動産の占有の特定承継人である被抗告人らに対しても引渡命令を発すべきである旨主張する。しかし、民訴法六四五条二項所定の競売手続の取消の規定はその停止にも準用される(大審院昭和八年一二月二八日決定、民集一二巻三〇五九頁)から、取消された場合と同様、右停止の事由が発生したとき記録添付事件について競売手続開始決定があったものとして(取消された場合につき、大審院昭和七年一月二〇日決定、民集一一巻三三頁)その後の手続を続行すべきであるから、右停止事由が消滅することなく競売手続が進行して競落に至った場合、競落代金の支払を終えた競落人が競落物件の引渡命令を求めるにつき、これを許すべき右物件の占有の特定承継人は右記録添付の時以降の者に限るものというべきである。したがって、抗告人の右主張は理由がない。
4 そうすると、本件引渡命令の申立を却下した原決定は相当で、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 高田政彦 弘重一明)
<以下省略>