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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)19号 判決 1978年10月25日

控訴人

赤鹿頼正

被控訴人

神戸市

右代表者

宮崎辰雄

右訴訟代理人

木村保男

外七名

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、本件中間確認の訴を却下する。

三、控訴費用および中間確認の訴についての訴訟費用は、いずれも控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本来の訴訟(第一九号本件控訴事件)について

(一)  訴外神戸市長が、神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業の施行者として、昭和三四年七月二〇日控訴人の所有する従前の土地、即ち神戸市生田区元町通三丁目一七番地の一宅地173.91平方メートルについて、土地区画整理法に基づく土地区画整理を施行し、仮換地(いわゆる現地仮換地)として同市三宮元町地区三四街区一二号130.80平方メートルを指定し、その効力が翌二一日に発生したこと、控訴人は現実には昭和三六年八月一五日に至つて従前地の部分の使用収益を停止し、仮換地の使用収益を開始したこと、および右従前地の部分は使用収益をする者のなくなつた土地(道路予定地)として、施行者たる訴外神戸市長が管理するようになつた(土地区画整理法一〇〇条の二)ことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  <証拠>によると、控訴人は右事業の施行者たる訴外神戸市長を被告として仮清算金交付請求(請求額は本訴と同額)等の訴訟を提起(神戸地方裁判所昭和三八年(行ウ)第一八号裁決取消請求事件、同三九年(行ウ)第一二号処分取消等請求事件)したが敗訴となり、その控訴審である大阪高等裁判所において右請求に仮換地指定処分による損失補償を求める請求(請求額は本訴請求額と同じ)を新たに予備的に追加拡張して訴訟を追行したが(同裁判所昭和四三年(行コ)第二号裁決取消処分取消等請求控訴事件)、右拡張請求を棄却する旨の判決があつたので、さらに上告(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第三九号事件)したが、上告を棄却されたことにより右控訴判決が確定したこと、右控訴審で追加拡張した請求は、仮換地指定処分により仮換地よりも価値の高い従前地の使用収益ができなくなつたことにより控訴人の被つた損失が、従前地と仮換地との評価の差額金一、〇三〇万五、六〇〇円であるとし、右損失が受忍すべからざるものであるとして、直接憲法二九条三項に基づき訴外神戸市長に対し、その損失補償を求めたものであることがそれぞれ認められるところ、本訴においても控訴人は従前地の価額と仮換地の価額との差額金一、〇三〇万五、六〇〇円が前示仮換地指定処分によつて控訴人の被つた損失であつて、被控訴人が従前地の部分を道路として公共使用したことに対する正当な補償をなすべき額であるとし、控訴人の被つた右損失が受忍すべからざるものであるとして、直接憲法二九条三項を根拠として被控訴人神戸市に対し補償請求をするものである。従つて、本訴の訴訟物は前訴たる確定判決の訴訟物と全く同一であり、本訴は前訴の既判力をうけるものというべきである。

(三)  もつとも、本訴は神戸市を被控訴人とするものであり、前訴確定判決は前示事業の施行者たる神戸市長を相手方とするものであり、神戸市長は地方公共団体たる神戸市の機関としての地位を有する行政庁ではあるけれども、前訴確定判決の既判力は、神戸市長所属の地方公共団体たる神戸市にも及ぶと解すべきである。けだし、市町村長施行の土地区画整理事業において、事業施行の結果、施行者が支払うべき清算金・損失補償金等も、最終的には市町村長所属の地方公共団体たる市町村が負担すべきこととされているのであつて(土地区画整理法一一八条二項)、損失補償金の支払の訴において、市町村長又は市町村のいずれを被告とすることも許されると解せられる所以もこの点にあり(大判昭和五年一月二九日(連合部)民集九巻二号七八頁参照)、反面、市町村長又は市町村のうちのいずれか一方を被告として提起した損失補償等請求の訴についてなされた確定判決の既判力は市町村長及び市町村のいずれについても生ずると解すべきであるからである。従つて、本訴は前訴についてなされた確定判決の既判力をうける不適法な訴であるというべきである。

なお、控訴人は本訴においては仮換地指定処分により使用収益をする者がなくなつた従前地の部分を被控訴人が道路として公共使用したことに対する正当な補償として、前訴における請求額と同額を憲法二九条三項に基づいて請求するものであるから、前訴と本訴とは別個であつて前訴の既判力は本訴に及ばない旨主張する。しかしながら、仮換地指定処分の効力が発生したことにより、控訴人は仮換地を使用収益できる反面、従前の土地を使用収益することができなくなつたのであるから(控訴人の自認する、仮換地指定後に従前地を第三者に譲渡しその所有権を喪つた事実を論外としても)、その従前地(正確には、減歩された従前の土地部分)の使用収益権(所有権といつても、それは所有権に基づく使用収益権にほかならない)を侵害されることはあり得ないのである。したがつて前訴において従前地と仮換地との評価額の差額である金一、〇三〇万五、六〇〇円と昭和三六年八月一五日から完済まで年五分の利息相当損害金を憲法二九条三項に基づいて請求し、本訴において被控訴人が従前地を道路として公共使用したことに対する正当な補償として前同様憲法二九条三項に基づき同額の補償金と前同一の利息相当損害金の請求をすると主張してみても、結局は、従前地と仮換地との価値の差額を損失として請求する点において、実質的には前訴と本訴の訴訟物は同一であるというほかはなく、本訴は前訴の既判力をうけることに変りはないから、控訴人の右主張も失当である(なお、控訴人主張のように、従前の土地と換地(現在は仮換地)との間に価格の減少があるときは、将来換地処分がなされる際に、清算金又は減価補償金として、減少分が支払われるべきことは、前訴判決に説示しているとおりである)。

二、中間確認の訴え(第二九号事件)について

まず、中間確認の訴えの適否について判断するに、本来の訴訟が前訴の既判力を受けることを理由に却下され、中間確認の訴えにおける請求権の存否が、本来の請求を判断するについての前提問題となり得なくなれば、中間確認の訴えは不適法となると解すべきであるところ、前示認定のように、本来の訴訟はその前訴についてなされた確定判決の既判力により不適法となつたから、本件中間確認の訴えもまた不適法というべきである。<以下、省略>

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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