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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)5号 判決 1978年7月31日

第一審原告(昭和五三年(行コ)第四号事件被控訴人・昭和五三年(行コ)第五号事件控訴人) 加藤庄一 ほか四名

第一審被告(昭和五三年(行コ)第四号事件控訴人・昭和五三年(行コ)第五号事件被控訴人) 西税務署長

訴訟代理人 辻井治 塩津英雄 ほか四名

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決中「原告の青色申告書提出承認取消処分の無効確認の訴えを却下する。」

とある部分を除き、その余を取消す。

二  第一審原告の訴えをいずれも却下する。

三  第一審原告の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

事実

第一申立

一  第一審原告

1  原判決中、第一審原告の敗訴部分を取消す。

2  第一審被告が訴外丸善鋼材株式会社に対してした次の各処分は、いずれも無効であることを確認する。

(一) 右訴外会社の昭和三三年一一月七日から昭和三八年三月三一日までの五事業年度の各法人税に関する昭和三九年三月三一日付更正及び過少申告加算税、重加算税の賦課決定

(二) 昭和三九年三月三〇日付青色申告書提出承認取消処分

3  第一審被告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

1  主文一、三、四項同旨

2  (本案前)

主文二項同旨

3  (本案)

第一審原告の請求をいずれも棄却する。

第二主張

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決三枚目裏七行目の「国が、国が」を「大阪国税局長が」と訂正し、同四枚目表一行目の「差し押えたうえ、」の次に「国が」を、同六枚目表七行目の「成立」の次に「(ただし、<証拠省略>については原本の存在を含む。)」を各挿入する。)から、これを引用する。

一  第一審被告

1  本案前について

(一) 行訴法三六条前段の要件は、後続処分のなされる蓋然性が存するが、未だ後続処分のなされていない状態において、これがなされることを阻止し、もつて、これにより生じる損害を未然に防止するために先行処分を争う方法を認めたものと解されるから、本件のように、既に後続処分としての滞納処分が現実化してしまつている場合には、後続処分そのものを争うべきであつて、その先行処分である本件納税告知及び更正処分等(以下、単に本件課税等処分という。)を争う法的利益は存しない。

(二) しかも、第一審原告が不利益な地位に立たされたとする処分は、滞納処分として行われた債権差押であつて、訴外会社に対してなされた本件課税等処分そのものによつては何らの不利益も受けていないから、同条後段前半の「法律上の利益」を有する「当該処分」は、右の差押処分であり得ても、これを先行する本件課税等処分ではない。また、一般の確認の利益は、抗告訴訟においても必要であるが、それが存在する場合とは、自己の法的地位の不安定を除去する必要があり、そのためには当該訴えが紛争を解決するにつき有効かつ適切であるといえる場合である。ところが、本件では除去する必要のある第一審原告の不利益は、訴外会社に対する債権差押により発生したものであるから、最も直接的原因たる右処分を争うことが有効、適切であり、他方、差押処分に先行する課税処分を争つても、右両処分はそれぞれの別個の処分であるから、仮に、本件課税等処分に対する第一審原告の主張が是認されたとしても、直ちに差押の効力を排除できるとは解し難く、従つて、第一審原告の不利益な地位が即時除去されるともいえない。

(三) 更に、同条後段後半の「当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限る。」という要件については、第一審原告は訴外会社に対する差押処分に基づき国が提起した別件の債権取立訴訟において、本件課税等処分の無効を主張して主要争点とし、これにつき十分な審理、判断を受けて、既にその目的を達しているので、この点からも本訴無効確認を求める適格がない。

2  本案について

行政処分を無効とするには、瑕疵の重大性及び明白性を要するところ、本件納税告知処分について問題とされる瑕疵は、支払者たる訴外会社の源泉徴収義務の存否であつて、告知処分自体の瑕疵ではないとして、瑕疵の重大、明白性はこれを要しないと解する余地があるかの如くであるが、右のような見解は正当でない。何故ならば、支払者の徴収義務の存否、範囲が告知処分の内容それ自体を構成するものでなく、その前提問題にとどまるとしても、これに関する違法を理由に告知処分に対する抗告訴訟を提起し、処分の取消ないし無効という形でその法的効果を否定するに足るものと認める以上、この関係において告知処分自体の有する瑕疵を理由とする場合と異つた扱いをすべき特段の理由は存しないからである。また、徴収義務を確定する処分が存しないということは、問題の瑕疵を告知処分について主張することを遮断する効果を認むべき先行処分がないため、その瑕疵を告知処分の瑕疵として問題にしうることを意味するにとどまり、瑕疵の重大、明白性を要しないで告知処分の無効をきたすことまでも帰結するものではない。

従つて、支払者の徴収義務の存否、範囲に関する瑕疵を理由に行政処分たる告知処分を無効とするには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要すると解すべきである。

本件において、納税告知処分を無効と判断すべき重大、明白な瑕疵は存しないから、これに対する本訴請求も理由がない。

二  第一審原告

1  行訴法三六条前段の「当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者」については、それだけで当該処分の無効確認を求める適格があり、同条後段の制約は受けないものと解されるから(最高裁判所昭和五一年四月二七日判決、判例時報八一四号)、第一審原告が本件各処分に続く債権差押及びその取立訴訟による国税債権回収のために、自己の財産を仮差押され、更に、本件訴訟の帰趨如何によつては、近い将来にその本執行手続がなされるおそれが大である以上、第一審原告に本訴提起の適格があることは明らかである。

2  訴外会社が借入金として計上した問題の金三二〇万円については、別件の債権取立訴訟の第一、二審及び最高裁判所の各判決において、いずれも真実の借入金であると明確に認容されているから、右判決の拘束力(同法三二条、三三条)により、これに反する主張は許されず、第一審被告は右判決の趣旨に沿つて本件各処分を是正すべきであるのに、これをしないから、行政の違法是正機能として本件抗告訴訟を提起する利益が与えられるべきである。

なお、第一審被告が右借入金を売上除外によるものと誤認して本件各処分に及んだことにつき、重大かつ明白な瑕疵が存することも、右別件判決の内容からみて明らかである。

第三証拠<省略>

理由

一  第一審被告が訴外丸善鋼材株式会社に対し、第一審原告主張の本件各処分をしたこと(請求原因1ないし3項の事実)はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで先づ本訴の原告適格について検討する。

1  本件各処分のうち、法人税に関する更正、過少申告加算税、重加算税の賦課決定及び所得税に関する源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定は、訴外会社の国税の納付義務を確定させるものであり、また、源泉徴収による所得税の納税告知は徴収義務者である訴外会社に対する所得税の徴収手続の一部をなすものであり、更に、青色申告書提出承認取消処分は訴外会社の青色申告書提出にともなう所得金額の計算上及び納税手続上の特典を奪うものであるが、いずれも、第一審被告が訴外会社に対してなしたものであるから、右各処分自体では、その相手方でない第一審原告(第三者)の権利義務に直接何らの影響を及ぼすものではない。

この点、第一審原告は、訴外会社は第一審原告の個人企業である旨主張するが、<証拠省略>によれば、訴外会社は一般鋼材及び鉄二次製品の販売等を目的として昭和三三年一一月一二日設立された資本金二〇〇万円の株式会社であつて、第一審原告がその出資をなし、代表取締役も義弟(岩田敞)を就任させるなど、右会社経営の実権を掌握していたことは窺われるけれども、このことから直ちに訴外会社が第一審原告の個人企業であるとみることは困難であるばかりでなく、第一審原告自身についても本件各処分により権利侵害を受けていることになるような関係(訴外会社との特殊な関係)があるとも認め難いから、右主張は採用できない。

2  もつとも、青色申告書提出承認取消処分を除く本件課税等処分については、その後大阪国税局長が昭和四一年四月八日滞納処分として、当該国税の滞納者(債務者)である訴外会社が第一審原告に対して五六〇万〇二二〇円の不当利得返還請求権を有するとして、これを差し押えたことは当事者間に争いがなく、右差押の結果、第三債務者である第一審原告は、訴外会社との間に右不当利得返還債務の消滅、変更をきたす契約をすることが許されず、差押後に発生、取得した反対債権で相殺することも禁止されるなど、不利益な地位に立たされることになつたわけである。

そこで、このような場合、第一審原告について、右滞納処分(債権差押)に先行する本件課税等処分の無効確認を求める適格があるかにつき考えるに、行政処分の無効確認の訴えの原告適格については、行訴法三六条に定めるところであるが、第一審原告は、先行処分である本件課税等処分それ自体については何ら法律上の利害関係を有するものでなく、ただ、その後続処分としてなされた滞納処分が、たまたま第一審原告を第三債務者とする債権差押の方法によつて行われたがために、前示の如き不利益な立場に立たされる結果になつたにすぎず(このことは、本件課税等処分に基づく滞納処分が訴外会社の所有物件に対する差押、公売という方法でなされたのであれば、第一審原告にはついに何ら関係が生じ得ないことからみても明らかである。)しかも、本件の場合、前記債権差押に基づき、国が昭和四二年一一月一〇日第一審原告に対し、差押債権の取立訴訟(大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第六二六四号差押債権取立請求事件、大阪高等裁判所昭和四九年(ネ)第七〇三号、同第八五九号各控訴事件、同第一九六三号反訴請求事件、最高裁判所昭和五二年(オ)第三三一号上告事件)を提起、追行して、既にその判決が確定しており(この点は当事者間に争いがない。)、そして、右訴訟において、国は当該取立請求のほか、詐害行為取消による第二次的請求及び債権者代位権による第三次的請求まで求め、一方、第一審原告は本訴におけると同様の理由で本件課税等処分の無効を主張して終始これを争い、この点についても既に裁判所の審理、判断を受けていることが<証拠省略>により認められるから、本件課税等処分の無効確認を求める第一審原告の訴えについては、同条前段に規定する損害の発生を未然に防止するといういわゆる予防訴訟的機能を働かせる余地はないし、同条後段の補充訴訟的機能についても、当該処分の効力の有無を前提とした現在の法律関係に関する訴訟である右別件訴訟によつて、既にその目的を達しているものといわなければならない。

そうすると、結局第一審原告は同条所定の適格を欠き、右訴えは不適法として却下を免れない。

3  なお、青色申告書提出承認取消処分については、第一審原告がその後続処分により損害を受けるおそれのある者にも、右取消処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者にも当るとは認められないから、その訴えも不適法として却下を免れない。

三  よつて、右と一部結論を異にする原判決部分は失当であるから、第一審被告の控訴に基づき、これを取消して、本件訴えをいずれも却下することとし、第一審原告の控訴は理由がないから棄却し、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井美則 永岡正毅 友納治夫)

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