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大阪高等裁判所 昭和54年(う)1065号 判決 1979年10月31日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、検察官山本喜昭作成の控訴趣意書並びに被告人及び弁護人黒田宏二作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

各論旨はいずれも量刑不当を主張し、原判決の被告人に対する量刑につき犯情に照らし検察官は軽過ぎるといい、被告人及び弁護人は重過ぎるというのである。

そこで各所論にかんがみ記録を精査し当審における事実の取調の結果をも参酌して検討するのに、本件は韓国籍貨物船基洋号の操舵手であつた被告人が、韓国釜山市で韓某から覚せい剤二キロ四〇〇グラムを日本に運び込むよう依頼され、運び賃として一キログラム当り一〇〇万ウオン合計二四〇万ウオン(邦貨換算約八四万円)を後に受け取る約束のもとに右運搬を引受け、同人から受け取つた覚せい剤五袋合計二キロ三〇〇・三六〇一グラムを持つて韓国釜山港から前記貨物船に乗船し、同船が原判示大阪港安治川第二号岸壁に着岸後二回にわたり右覚せい剤を携帯して上陸し本邦内に持ち込み、もつて営利の目的で右覚せい剤を輸入し、更に税関長の許可を受けないで右覚せい剤を密輸入すると共にその関税一一万三、六〇〇円を逋脱した事案であつて、右各犯行の罪質、動機、態様、及び本件密輸入にかかる覚せい剤が大量であることなどのほか、被告人は韓国在住の外国船員とはいえ、日本語に通じ何回も本邦の大阪、神戸、横浜等の各港に上陸し、覚せい剤がその乱用により人の心身を荒廃させるものであり、社会に害毒を流すため、我が国の法律によりその所持や密輸入が厳禁されていることを十分知りながら、多額の報酬を受ける約束のもとに本件犯行に及んだこと等の事情に照らすと、被告人がいわゆる運び屋の立場にあつたといつてもその刑責はまことに重いものというべきである。そして検察官の所論が指摘するように、本件密輸入の犯行に至つた経緯につき被告人が単なる顔見知りで名も住所も知らず、わずかに二回しかも偶然に会つただけの間柄である韓某から前記のような多量の覚せい剤を手渡され、報酬後払いの約束で危険な密輸入を引受けたと供述している点は不自然であり、また被告人の右覚せい剤の船内への搬入、隠匿の状況や陸上げの手口が巧妙であり、更に被告人が陸上げ後、右覚せい剤を国鉄大阪駅構内のコインロツカーに二口に分けて隠匿し、荷受人への右覚せい剤の引渡しは右コインロツカーの鍵二個を交付する手段をとつていたこと、などの同所論指摘の事情に徴すると、被告人は本件のような密輸入に手馴れており、本件が初めての偶発的犯行でない疑いが大きいといわざるを得ないけれども、他方被告人は船員として乗船して韓国と日本を往復する都度、日本で電気製品や時計などを買入れて韓国へ運び、韓国で朝鮮人参などを買入れて日本へ運びそれぞれ密輸入して売却し、利鞘をかせいでいたというのであるから、前記のような蜜輸入品の隠匿等の手段が巧妙であることをもつて、検察官の所論のように、被告人の本件覚せい剤の密輸入が初めての犯行ではなく、この道に長けた者の所為であるとまでは未だこれを認めるに足りない。その他の検察官の所論を考慮し、被告人には前科がないことなどの弁護人や被告人の所論指摘の点を併せ考慮すると、原判決の量刑は、被告人及び弁護人の所論のように重過ぎるものとは到底認められず、検察官の所論の指摘する各判決の量刑と対比しても検察官の所論のようにこれを変更しなければならないほど軽きに失するものとも認められないから原判決の量刑は結局相当というべく、各論旨はいずれも理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条、一八一条一項但書により主文のとおり判決する。

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