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大阪高等裁判所 昭和54年(う)1083号 判決 1979年10月30日

主文

原判決中有罪部分を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審の未決勾留日数中一三日を右本刑に算入する。

理由

<前略>

記録により事件の経過をみるのに、被告人は、昭和五二年七月一二日銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反の事実(原判決により無罪とされたもの)により通常逮捕され、同月一四日勾留状の執行、同月二三日起訴、同月二六日保釈釈放をそれぞれ受け、同年一〇月五日から保釈中のまま審理されていた。ついで、被告人は、同月一二日詐欺の事実(原判示第二、第三の事実にあたるもの)により通常逮捕され、同月一三日勾留状の執行を受けたが、同月二五日処分保留のまま釈放され、昭和五三年二月八日これを再構成した詐欺及び健康保険法違反の事実(原判示第二、第三の事実)と傷害、暴行の事実(原判示第一、第四の事実)により在宅追起訴されるに至つた。そして、同年四月四日から以上の起訴事実が併合審理され、昭和五四年一月二九日からは道路交通法違反の事実(原判示第五事実)も併合審理されて、同年五月二一日原判決の言渡しがあり、最初に起訴された銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反の事実については無罪、その余の事実については懲役一年、未決勾留日数中二〇日本刑算入とされたのである。

以上の経過に徴すると、被告人は、無罪とされた銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反の事実により一三日間、有罪とされた詐欺及び健康保険法違反の事実により一三日間それぞれ勾留されており、原判決は、これらを合計した二六日の未決勾留日数のうち二〇日を本刑に算入したことになる。

そこで、原判決の右未決勾留日数算入が刑法二一条に違反しているか否かにつき検討するのに、無罪となつた公訴事実と有罪となつた公訴事実とが併合審理された場合において、無罪の公訴事実について発せられた勾留状の執行により生じた未決勾留日数を有罪の公訴事実についての本刑に算入することが許されるのは、右の勾留によつて被告人の身柄が適法に拘束された結果として、その効果が有罪の公訴事実にも及んでいたことによるものであるから(最高裁判所昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決・刑集九巻一四号二九九六頁参照)、算入が許容される未決勾留日数は、無罪の公訴事実による勾留の効果が有罪の公訴事実に及んでいた日数を限度とするものと解すべきである。

これを本件についてみると、無罪とされた銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反の公訴事実について被告人が勾留されていた間(一三日間)においては、有罪とされた公訴事実についてはいまだ起訴がなされていなかつたのであるから、右の勾留の効果は、有罪とされた公訴事実については及んでいなかつたこととなり、したがつて、その未決勾留日数を有罪とした公訴事実の本刑に算入することは、許されないものといわなければならない。そうしてみると、原判決が有罪の公訴事実の未決勾留日数一三日を超える二〇日を本刑に算入したのは、根拠を欠き、刑法二一条の適用を誤つたものというべく、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。<以下、省略>

(瓦谷末雄 大野孝英 香城敏麿)

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