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大阪高等裁判所 昭和54年(う)484号 判決 1979年8月28日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人宮崎定邦作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官滝本勝作成の答弁書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

控訴趣意第一点について

論旨は要するに、水質汚濁防止法は工場又は事業場ごとの「特定施設」からの排出水を規制しているものであって、「特定施設」をもつ工場・事業場全体の排出水を規制しているものではないから、原審でも弁護人が主張しているとおり、原判示工場内にあるボイラー室のシスタンクの自動給水装置に故障があったため、水道水が一日約三六立方メートルも流れ放しになり、それが工場の汚水専用排水管とは別の排水経路である工場裏側の側溝へ流れ込み、そこから公共用水域である三出川へ流出していたのであって、工場の総使用水量から右故障による排出水を控除すれば、本件工場の一日当たりの平均的な排水量は、五〇立方メートルに達しておらず、したがって同法違反として罰則を適用される余地はないのに、原判決は同法で規制される排出水は、特定事業場から公共用水域に排出されているすべての水をいうものと解し、本件工場の総使用水量から右故障による排出水を差し引かず、被告人らに同法の罰則を適用したのは法令の解釈適用を誤まったものである。また仮りに、本件工場の「特定施設」以外からの排出水も含めて規制されるものとすれば、その汚染度も全排水について測定すべきであるのに、特定の排水口だけについて測定した結果を全体の汚染度に押し広げた原判決は、公共用水域の水質汚濁防止を目的とする同法の趣旨にも合致せず、法令の解釈適用を誤まったものであるというのである。

よって検討するに、水質汚濁防止法二条三項は、「この法律において、「排出水」とは、特定施設を設置する工場又は事業場(以下「特定事業場」という。)から公共用水域に排出される水をいう。」と規定しているから、同法にいう排出水には、特定事業場から公共用水域に排出される水である限り、それが特定施設自体から排出される水であるか否かを問わず、また事業に利用されたか否かを問わず、これに含まれると解するのが相当である(名古屋高裁昭和五〇年一〇月二〇日判決・高刑集二八巻四号四三四頁参照)。原判決挙示の関係証拠によると、原判示工場の使用水は水道水のみであったが、本件当時の一日当たりの平均的な水道使用量は、七〇立方メートルを下らない量であったことが認められ、その中にたとえ所論主張の如き故障による排出水が含まれていたとしても、同法の罰則適用の要件である排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号)一条、別表第二、備考2の「この表に掲げる排水基準は、一日当たりの平均的な排出水の量が五〇立方メートル以上である工場又は事業別に係る排出水について適用する。」という要件に該当するものといわなければならない。また同法一二条一項は、「排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。」と規定しているから、排水基準は各排水口ごとに適用されるものと解すべきであり、前掲証拠によると、原判示のとおり前記工場の排水口において法定の排水基準に適合しない排出水が排出されていたことが明らかである。したがって右と同旨の法令の解釈及び事実認定のもとに同法の罰則を適用した原判決に所論のような違法のかどは認められず、これと異なる前提に立つ所論は失当といわなければならない。その他所論にかんがみさらに記録を精査しても、原判決に所論のような違法があるとは認めることができない。論旨はいずれも理由がない。

控訴趣意第二点について

論旨は要するに、被告人らは水質汚濁防止につき、特定施設を設置した東洋木材防腐株式会社及び京都府の指導にしたがって行動しただけであって、本件犯行の故意がなかったのに、本件犯罪の成立を認めた原判決は事実を誤認したものであるというのである。

しかしながら前掲証拠によれば、被告人らは豆腐等を製造する原判示工場を設置、管理するものであるが、工場排水が悪臭を放ち、汚濁していることに附近住民からの苦情が絶えないことから、本件犯行の前である昭和五一年一〇月ころから同年一二月ころにかけて、所轄の京都府舞鶴保健所長や舞鶴市長から、実態調査のうえ度重なる改善勧告や警告を受けていたことが認められるのであって、このような事実に徴しても被告人らに本件犯行の故意がなかったとは到底認められず、その他関係証拠を総合すれば、被告人らの犯意を認めるに十分であって、原判決に所論のような事実誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村哲夫 裁判官 藤原寛 内匠和彦)

<以下省略>

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