大阪高等裁判所 昭和54年(く)117号 決定 1979年10月26日
少年 R・K(昭三六・一〇・五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、右抗告申立人作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。
抗告趣意中事実誤認の主張について
論旨は、要するに、原決定は、少年の非行事実として、少年がA子に対し暴行を加えてその反抗を抑圧し、同女を強いて姦淫した旨の事実を認定しているが、少年はA子の同意を得て同女と性交したのであるから、原決定には重大な事実の誤認がある、というのである。
しかしながら、少年がA子の同意を得ないで同女を強いて姦淫した事実は、本件保護事件記録中の関係証拠により優に肯認することができるから、原決定には所論のような事実の誤認は存しない。論旨は理由がない。
抗告趣意中処分不当の主張について
論旨は、要するに、本件強姦致傷保護事件については、被害者A子との間に示談が成立しているから、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。
そこで、本件保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、本件保護事件中強姦致傷事件は重大な事件であるうえに、その態様は悪質であり、少年自身に対し厳しい反省が求められなければならないところ、右事件に対する少年の罪悪感は稀薄であつて、在宅保護のままでは少年の反省が得られないおそれがあることのほか、右非行態様などから窺われる少年の非行性の程度、右記録により認められる少年の性格、環境、保護者の保護能力の程度などを併せ考えると、右強姦致傷事件の被害者との間に示談が成立している(示談解決書には、納得が行く金銭の授受があつた旨記載されているが、実際には、金銭の授受はなく、被害者及びその内縁の夫をレストラン等に招待して飲食させ、かつ、清酒三本を贈つたにすぎない。)ことを考慮しても、少年の健全な育成を期するためには、在宅保護の措置では足りず、少年を少年院に収容して矯正教育を施す必要があるものと思料されるから、少年を中等少年院に送致した原決定は相当である(なお、当裁判所としては、少年院収容期間は短期間で足りるものと思料する。)。本論旨も理由がない。
よつて、少年法三三条一項後段により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 兒島武雄 裁判官 角敬 角田進)
参考 抗告申立書
理由書
一 今回の事件について強姦という事件で審判を受けましたが、合手方の人にも同意があつたので強姦ではないと思います。
二 私の両親がこの件につき合手方の家族と本人に対して示談の話しをいたし相手方の了解をえて、示談は成立しました。
右の理由により、少年院送致の処分は重いのでもう一度、審判をして下さい。
〔編注〕 この少年は、昭五四・一〇・五、加古川学園に入院し、約一〇月の院内処遇の後、昭五五・八・五、同少年院を仮退院した。