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大阪高等裁判所 昭和54年(ツ)23号 判決 1980年11月11日

上告人 第一地所株式会社

右代表者代表取締役 岡島米蔵

右訴訟代理人弁護士 平木純二郎

被上告人 藤井信一

右訴訟代理人弁護士 長野義孝

同 西垣昭利

同 斎藤ともよ

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二、三審を通じて被上告人の負担とする。

理由

上告代理人平木純二郎の上告理由は別紙上告理由書写のとおりである。

右上告理由第一点について

原審が適法に確定した事実のもとにおいて、本件売買が数量指示売買にあたるとした原審の判断は、正当として是認することができ、所論は理由がない。

同第二点について

数量指示売買において、売買目的物が不足であった場合又は契約当時物の一部が滅失していた場合に買主が善意であったときの代金減額請求権、契約解除権、損害賠償請求権は、買主が数量不足又は一部滅失の事実を知った時から一年以内に行使することを要することは、民法第五六五条の準用する同法第五六四条所定のとおりである。しかし、右代金減額請求権等の行使は、同条の定めるところに制限されるのみではなく、一般の消滅時効の規定の適用を受け、これによっても制限されるものである。すなわち、売主に対する担保責任の追求を早期にさせ、担保責任をめぐる売買当事者間の権利関係をなるべく早く安定させるという民法第五六四条の趣旨からすれば、買主が一般の消滅時効の期間を上回るような長年月の経過後に数量不足又は一部滅失の事実を知った場合であっても、その時から一年以内であれば代金減額請求権等を行使することができるものと解するのは相当でなく、同条が民法総則中の消滅時効の規定の適用を排斥するものとも解せられないからである。

そして右時効期間の始期は、買主が数量不足や一部滅失の有無を自ら検査して代金減額請求権等を行使することができるはずの状態になった時、つまり目的物の引渡しを受けた時であり、その時効期間は、当該売買が商行為にあたるときは五年その余のときは一〇年であると解するのが相当である。なるほど代金減額請求権、契約解除権は形成権であるが、形成権といえどもその消滅時効期間について一様に民法第一六七条第二項によって二〇年間とすべきものではなく、各形成権についてその性質に従って消滅時効期間を定めるべきところ、右代金減額請求権等は、売買契約の効力の一部として法が定めたものであるから、消滅時効期間に関してはその契約により生じた債権と同視しうるからである。

本件についてこれをみると、被上告人が昭和三八年一〇月三日宅地造成販売業者である上告人から本件土地を数量指示売買即ち実測面積が一二四・一四坪あるものとし、代金は坪当り一万三〇〇〇円の割合によって計算した一六一万三八二〇円とする約定で買受け、遅くとも昭和三九年一月二七日までに右代金を上告人に支払ったこと、および被上告人は昭和五一年四月一九日に至って本件土地を測量した結果本件土地の実測面積が上告人の表示した面積より一〇・一一坪少ない一一四・〇三坪しかないことを初めて知ったこと、は原審が適法に確定した事実であり、本件土地が昭和三九年一月二七日ごろまでに被上告人に引渡され所有権移転登記がなされていることは第一審判決も適法に認定し原審もこれを否定していないところである。

右事実によれば、本件売買契約は商行為にあたるから、本件土地の数量不足による代金減額請求権の消滅時効は、昭和三九年一月二七日ごろから商法第五二二条所定の五年の期間が経過した昭和四四年一月二七日ごろ完成したものであり、上告人が右消滅時効を援用したことは原判決及びその引用する第一審判決により明らかであるから、上告人の抗弁は理由があり、被上告人の本件請求は失当というべきである。

しかるに、原判決は、本件代金減額請求権は法定の期間の経過により行使しえなくなることは格別、これとは別個に時効によりて消滅する権利とは解されないとして上告人の消滅時効の抗弁を排斥し、結局被上告人の請求を認容したものであって、右は民法第五六五条、第五六四条、第一六七条の解釈適用を誤ったものといわなければならず、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決を破棄し、被上告人の本件請求を棄却した第一審判決は正当であり被上告人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。

よって、民事訴訟法第四〇八条第一号、第三九六条、第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷野英俊 裁判官 丹宗朝子 西田美昭)

<以下省略>

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