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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1175号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一、当事者双方の求めた裁判

1.控訴人

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の右請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2.被控訴人

主文同旨。

二、当事者双方の主張および証拠関係

次に付加するほかは、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1.主張

(一)被控訴人

(1)控訴人の本件各意匠権の範囲は、条帯と金具そのものの形状の特殊性にあり、右両者の組合せそのものの形状に権利があるのではない。

しかして、イ号物件の条帯と金具そのものの形状と控訴人の本意匠および類似意匠の一ないし三における右形状とを比較してみると、その間には、既述の如き相違が存在するのであり、右相違が存在するということは、とりもなおさず、イ号物件の形状が控訴人の本件意匠権の範囲に属さないことを明示するものである。

なお、控訴人は、意匠の類否の判断基準につき、全体的観察による総合判断によるべき旨主張しているが、右主張にかかる総合判断によれば、本件において、右両者がどの点において類似するかについては何等具体的主張をしない。したがって、控訴人の右主張は、実質的内容のない主張というべきである。

(2)控訴人は、故意又は過失による誤った価値判断に基づき、類似しないものを類似すると、又、それを製造販売することは自由であるのに、それをすれば損害賠償責任を負うと流布したのであるから、控訴人の右行為は、単なる価値判断にとどまらず、やはり虚偽の事実の流布であり、不正競争防止法一条一項六号に該当する。

(3)控訴人は、個人であっても、本件においては、被控訴人と右法条一項六号所定の「競争関係」に立つ、というべきである。

(4)不法行為に基づく損害賠償請求事件中当該行為者が弁理士の意見にしたがって当該行為に出たという事実において、右行為者の過失の有無が判断される場合、右行為者が右の如く弁理士の意見にしたがって右行為に出たという事実は、右判断の際の一つの事情として、その参考とされるに過ぎない。

本件の如き違法性の明々白々な事案においては、控訴人の過失よりむしろ故意を推定すべきである。

(二)控訴人

(1)意匠とは物品の形状模様もしくは色彩又はこれ等の結合であり、しかも一意匠一物品主義という原則からして、本件意匠も、本件物品全体が意匠であり意匠登録され保護されるものである。したがって、意匠の類否の判断においては、全体観察が原則であり、その出発点である。

本件においても、イ号物件と控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三との類否判断は、全体観察による総合判断によるべきであって部分判断によるべきでない。

右判断基準によるとき、イ号物件は、控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三と類似するというべきである。

しかして、右類否を判断するに当っては、本件意匠にかかる物品そのものを比較対照すべきであって、右物品の使用状態を比較対照するのは、失当である。

(2)(ⅰ)控訴人の本件警告書の送付は、不正競争防止法一条一項六号にいう「虚偽の事実の陳述流布」に該当しない。

控訴人は、右警告書において、意匠権を有しないのに有するとか、意匠の類似について審決判決がないのにかような審決判決があるとかいっているのではない。控訴人は、右文書において、控訴人の登録意匠と被控訴人の商品の意匠との類否についての見解、厳密にいえば控訴人の主観的見解を主張しているのである。これは価値判断の領域に属する。

主観的見解、批評、抽象的推論の如き価値判断は、前叙法条一項六号所定の虚偽の事実に該当しないというべきところ、意匠の類否は価値判断であって事実問題ではない。

訴訟前に、関係者間で、通告書催告書警告書それに対する回答書によって価値判断の応酬がなされるのは通例の形態であって、これは工業所有権に関することに止まらず、一般民事紛争においてもよく行われることである。そして、工業所有権関係においては、製造者だけでなく二、三の取引先に対しても、権利者側の見解を通知することはよくあることである。これは価値判断の応酬であって、虚偽の事実に関することではない。

控訴人の本件警告書の送付も、その一例に過ぎない。

(ⅱ)前叙法条一項六号所定の「流布」とは、不特定多数人に知らせることであるところ、本件において、控訴人は本件警告書を僅かに訴外月虎金属株式会社と森岡株式会社の二会社に送付したにすぎないから、右送付をもって右「流布」に該当するということはできない。

(3)控訴人は個人であって建築用資材の製造販売を業としていないことは、明白である。したがって、控訴人は、被控訴人と、前叙法条一項六号所定の「競争関係」に立つものでない。

控訴人は、訴外株式会社山路産業の代表者であるが、代表者、株主等の個人的行為を会社の行為とみなすには、その旨定めた特別の規定を必要とし、それ故、商法特別法上に、その趣旨の特別規定が存在する。

しかるに、前叙法条一項六号所定の「競争関係」に関しては、会社代表者の個人的行為を会社の行為とみなす旨の特別規定が存在しない。右特別規定が存在しない以上、控訴人の個人的行為に過ぎない本件において、控訴人と被控訴人間に右「競争関係」が存在するということはできない。

(4)仮に、控訴人の本件警告書の送付が違法であるとしても、控訴人には、右送付につき、故意は勿論過失もないから、控訴人が右送付について不法行為責任を負うこともない。

不法行為責任に関する過失の有無は、具体的事例における一般通常人の注意能力を標準として決せられる。本件において、イ号物件が控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三に類似するか否かについての結論は、浮動的で、所謂やや複雑な法律状態にあり、一般通常人の注意能力を標準とする以上、控訴人に、この点につきより注意を尽すべく要求することはできない。

仮に、控訴人の本件警告書の送付につき、同人の過失が一応推定されるとしても、同人には、右過失を否定すべき相当の理由がある。蓋し、イ号物件が控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三に類似するか否かについての結論は、前叙のとおり、所謂やや複雑な法律状態であり、かつ、控訴人の本件警告書の送付には、同人に右法律状態の錯誤があった、というべきところ、やや複雑な法律状態の錯誤の場合には、当該行為者につき、その過失を否定するのが相当だからである。就中、本件の如く、当該行為者が自己の意匠権の存在に関し弁理士の意見にしたがって当該行為に出た場合には、右行為者に過失を否定する相当の理由があるというべきである(大審院昭和一三年五月七日判決民集一七巻一〇号八六七頁参照)。

2.証拠関係<省略>

理由

一、当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、原判決主文掲記の範囲内で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。(ただし、同判決一〇枚目表五行目「なく、」を「ない。」に改め、同行「右除いた」から同一二枚目裏一二行目「る。」まで、同一三枚目裏八行目「一 被告の」から同一四枚目表一二行目「義務がある。」まで、同一五枚目裏一〇行目「他には」から同一一行目「ず、」まで、を除く。)

1.そこで、被控訴人意匠が控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三に類似するか否かについて判断する。

(一)成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、当審証人宮地正一の証言、原審における控訴人、被控訴会社代表者の各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1)控訴人の本意匠は、枠体(金具)と右枠体に接着した踏み面とから成り、右枠体は、前側辺(前部に垂直に垂れている部分)、前部留め縁(前側辺の上部先端部分)、横腕(前部留め縁の先端から少し下った個所より水平に伸びる部分)、後部留め縁(横腕の後端部分)、から成り、前部留め縁と後部留め縁間が薄凹状の凹部を形成し、右凹部を形成する右両留め縁面は、横腕に対し鋭角状をなしている。しかして、右横腕の下面部には、適当な間隔を置いた凹形の複数個の溝が設けられているが、その上面部は平坦な直線状である。踏み面は、右枠体の上部薄凹状の凹部に接着しているところ、その前後側部および下面部は、右枠体前後部留め縁と横腕とが形成する形状(鋭角状および直線状)をもって右枠体と接着している。右踏み面の上面部には、適当な間隔を置いて凹形の溝が複数個穿たれているが、その上面そのものは平坦(断面一直線)である。

控訴人の類似意匠一ないし三も、枠体と踏み面から成り、右両者の形状および相互の関係は、右本意匠と同じく、そして、右枠体および踏み面の全体的外観は、右本意匠に類似する。

なお、右類似意匠一ないし三においても、踏み面の上面部には適当な間隔を置いて凹形の溝が複数個穿たれていて、その上面そのものは平坦(断面一直線)であり、右形状は、右本意匠に共通である。

(2)被控訴人意匠も、枠体(金具)と右枠体に接着した踏み面から成り、右枠体は、前側辺、前部留め縁、横腕、後部留め縁、から成り、前部留め縁と後部留め縁間が薄凹状の凹部を形成し、右凹部を形成する右両留め縁面は、横腕に対して直角状をなしている。しかして、右横腕の下面部は平坦な直線状をなしているが、その上面部には前後留め縁寄り部分に各一個(合計二個)の突起部が設けられている。踏み面は、右枠体の上部薄凹状に接着しているところ、その前後側部および下面部は、右枠体前後留め縁と横腕とが形成する形状(直角状および右突起部の形状に相応する二個所の凹形)をもって右枠体と接着している。右踏み面の上面部には、その中央に、一個の凹形の溝が太く穿たれ、右溝の前後は隆起した突状(断面二つの山形)を形成し、その前側(前部留め縁側)突状部には四個所の、その後側(後部留め縁側)突状部には三個所の、各頂点が鋭角をなす山形の突状部が、更に形成されている。したがって、右中央の溝を境として形成される両突状部分の断面は、その上部において鋸の刃状をなし、右鋸の刃に相応する部分の数は、右再突出部の数に等しい。

(二)右認定に基づけば、控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三において、その踏み面の上面部の形状のみが右各意匠を構成する唯一の要部ということはできないが、右部分は、少くとも、各意匠の要部をなすものと解するのが相当である。

そこで、右認定にかかる、控訴人の右各意匠と被控訴人意匠とを比較し、更に、控訴人の右各意匠の右要部と被控訴人意匠のそれに相当する部分を比較検討すると、右両者間には右認定の如き差異が存在するところ、右差異は一見して顕著というのが相当である。

しかして、意匠の類否を決する場合、意匠としての要部に顕著な差異が存在するときは、全体として観察して別異の意匠とするに妨げない、と解するのが相当であるから、本件においても、控訴人の右各意匠の要部と被控訴人意匠のそれに相当する部分に、右の如き顕著な差異が存在する以上、全体として観察して、控訴人の各意匠と被控訴人意匠とは、類似しない、と結論するのが相当である。

したがって、被控訴人意匠は控訴人の本件各意匠権を侵害するものでない、というべきである。

右説示に反する、控訴人の、この点に関する主張は、当裁判所の採るところでない。

2.(一)(1)控訴人が昭和五二年七月二六日付その頃到達の内容証明郵便(以下本件警告書という。)で訴外月虎金属株式会社(東大阪市所在)および森岡株式会社(東京都所在)に対し被控訴人の製造販売するイ号物件にかかる被控訴人意匠は控訴人の本意匠および類似意匠の二、三に類似し控訴人の意匠権を侵害すると称し被控訴人からイ号物件を仕入れこれを販売することを中止するよう要求したこと、は前叙のとおり当事者間に争いがなく、被控訴人意匠が控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三と類似せず、したがって、右被控訴人意匠は何等控訴人の各意匠権を侵害するものでないこと、は前叙認定のとおりである。

(2)成立に争いのない甲第三、第四号証、原審証人渋谷光夫、当審証人宮地正一の各証言、原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ⅰ)本件警告書の関係部分には、『貴社が製造元被控訴会社より購入し販売している「階段用辷り止A38N」は、控訴人の所有する意匠登録第四二四四六四号、および同号類似第二ないし第三号「階段用辷り止材」の意匠と僅かに相違せる部分があるが、全体的にみて両者は全く類似しており、貴社の右販売行為は控訴人の意匠権を侵害しているので意匠法第三七条および第六九条の規定に該当し、損害賠償の責任を負うのほか刑罰に処せられることになる。』と記載されている。

(ⅱ)被控訴会社の昭和五二年七月当時におけるイ号物件(階段辷り止め)の販売金額割合は、同会社の全販売金額の約四〇ないし五〇パーセントを占め、月虎金属株式会社ならびに森岡株式会社に対する分が、その内の約六〇ないし七〇パーセント(ただし、右両会社の合計額)におよんでいた。

(ⅲ)(イ)月虎金属株式会社は、昭和五二年七月当時から現在まで、階段辷り止めの販売に関し、北海道を除く都府県に得意先を有し、日本国内におけるその市場占有率は、約三〇パーセントである。

右会社は、昭和二三年頃から、被控訴会社と取引を始めたところ、昭和五二年四月頃から、被控訴会社よりイ号物件を仕入れ、これを得意先に販売していた。

月虎金属株式会社専務取締役渋谷光夫は、控訴人から本件警告書を受け取り、同会社の営業担当社員等に対し、右警告書受領の事実を告げ、迷惑がかかったらいけないので、暫時イ号物件について得意先から注文を受けるのを差控えるべく指示し、合せて、右会社の担当者に命じ、被控訴会社に対し、イ号物件の販売につき暫時様子をみる旨の連絡をさせた。

(ロ)森岡株式会社は、建築金物問屋であり、全国的に支店を有するところ、被控訴会社は、昭和五二年四月頃より、右会社にイ号物件を販売していた。

被控訴会社代表者は、同年七月下旬頃、森岡株式会社の福島専務取締役から、右会社本店へ来るべく求められ、その頃、同所において、同人から本件警告書を示され、同時に、森岡株式会社としては右の如き警告の来る商品を購入できない、右会社の得意先である大手会社も右商品を購入しない、それ故、右警告書の内容の真偽を明確にせよ、そして、それに伴う具体的対策を採るべし、なる旨の厳重な申入れを受けた。

そして、森岡株式会社は、以後、被控訴会社に対するイ号物件購入の注文を停止した。

(二)右認定に基づけば、控訴人は、被控訴人の重要な得意先である前叙両会社に本件警告書を送付したものというべく、控訴人の右行為は、不正競争防止法一条一項六号所定の、他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述流布する行為に該当し、しかも、被控訴人には、右行為によって、その営業上の利益が害される虞がある、というのが相当である。

(三)控訴人の右説示に関する主張につき、付言する。

(1)主観的見解、批評、抽象的推論の如き価値判断は不正競争防止法一条一項六号所定の「事実」に該当しない、と解するのが相当であり、控訴人の主張は、この点に限り正当といい得る。

しかしながら、控訴人の、本件警告書における関係部分の記載は価値判断をその内容とする旨の主張は、これを是認することができない。蓋し、前叙認定にかかる、本件警告書の関係部分の記載内容中で、控訴人は、イ号物件と控訴人の本意匠および類似意匠二および三の間における相違部分の存在にも言及しているからである。即ち、右認定から、本件警告書の関係部分の記載内容は、事実関係と控訴人の価値判断を含むものであり、控訴人主張の如く価値判断のみをその内容とするものでない、というべきだからである。

そして、右認定の如く、本件警告書における関係部分の記載内容に事実部分の存在が肯認される以上、本件警告書の送付は右法条一項六号所定の虚偽の「事実」の陳述流布に該当する、というべく、しかも、右結論は、何等、右に示した、右法条一項六号所定の「事実」に関する見解に牴触するものでない。

なお、控訴人は、工業所有権法関係の紛争において、訴訟前、権利者の見解を、製造者のみならずその取引先に対して通知することはよくあることで、それは価値判断の応酬であって、虚偽の事実に関することではない本件警告書もその一例に過ぎない旨主張するが、右主張は、それ自体から明らかなとおり、本件警告書の記載内容が価値判断のみであることを前提としている。しかしながら、右警告書の記載内容にはなお事実の部分をも含むこと、前叙認定説示のとおりであるから、控訴人の右主張は、その前提とする点で、既に失当というほかない。

(2)控訴人の本件警告書の第三者に対する送付先が訴外月虎金属株式会社と森岡株式会社の二会社であることは、前叙認定のとおりである。

右認定によれば、控訴人の右警告書の送付は、特定少数人に対するもの、と解されるところ、控訴人は、この点に基づき、不正競争防止法一条一項六号にいう「流布」とは不特定多数人に知らせることであるから、僅か二会社に警告書を送付したに過ぎない本件事案は、右法条一項六号所定の「流布」に該当しない旨主張する。

しかしながら、誹謗者が、特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合においても、他人の口を藉りて順次右事実が不特定多数人に伝播されることを認識してこれをなせば、なお、右法条一項六号所定の、虚偽の事実の「流布」に該当する、と解するのが相当である。

そこで、右見解に則り、控訴人が本件警告書を右二会社へ送付するにつき右説示にかかる認識を有していたか否かにつき、検討する。

原審証人渋谷光夫、当審証人宮地正一の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、本件警告書を前叙二会社へ送付することは控訴人自らが決定したこと、控訴人が右警告書の送付先として右二会社と選択決定したのは、同人において当時右二会社がイ号物件の販売につき被控訴会社の窓口的役割を果していると判断したからであること、控訴人が代表者である訴外株式会社山路産業が前叙月虎金属株式会社と昭和三五年頃から昭和四六年頃までの間被控訴会社とならんで主として階段辷り止めの充填材につき取引(売主山路産業)していたこと、右山路産業が前叙森岡株式会社と昭和五一年頃から現在まで階段辷り止めの販売につき取引(売主山路産業)があること、が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実と前叙認定にかかる、右月虎金属株式会社ならびに森岡株式会社における商品の販売規模、その有する得意先等を合せ考えると、控訴人は、本件警告書を右二会社に送付するに際し、右二会社の有する商品販売規模や販売力量等を知悉しており、したがって、右警告書を右二会社に送付すれば関係者等を介して右警告書の記載内容が順次不特定多数人に伝播されるとの認識を持っていた、と推認するのが相当である。

右認定説示の如く、控訴人に前叙見解に則した認識の存在が肯認される以上、控訴人が本件警告書を送付したのが右二会社に過ぎなくても、右送付は、なお、前叙法条一項六号所定の「流布」に該当する、というべきである。

右説示に反する、控訴人の前叙主張は、理由がない。

3.本件警告書の送付が控訴人個人の行為として行われた点、は前叙のとおり当事者間に争いがない。

そして、控訴人個人が被控訴会社と同じ建築用資材の製造販売を業としているとの点は、本件全証拠によるも、これを認めるに至らない。

しかしながら、控訴人が昭和三五年当時から現在まで訴外株式会社山路産業の代表者であること、右山路産業がかって被控訴会社とならんで前叙月虎金属株式会社と取引を行っていたこと、右山路産業が本件警告書が送付された昭和五二年七月二六日頃当時から現在に至るまで前叙森岡株式会社と取引を行っていること、は前叙認定のとおりであり、原審証人渋谷光夫の証言、原審における控訴人、被控訴会社代表者の各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、右山路産業は被控訴会社と同じく建築金物材の製造販売を業としていること、右山路産業の経営の実権は控訴人によって掌握されていること、が認められる(右認定を覆えすに足りる証拠はない。)のであり、右認定事実と不正競争防止法の理念が競業秩序の純正維持にあるとの点を合せ考えると、控訴人も、被控訴会社と、右法条一項六号所定の「競争関係」に立ち、したがって、同人が右山路産業代表者の資格を離れ個人として本件行為におよんでもなお、同人は右法条一項六号所定の誹謗者に該当する、と解するのが相当である。

右認定説示に反する控訴人の、この点に関する主張は、理由がなく採用できない。

4.(一)そこで、控訴人が同法一条の二一項所定の故意又は過失により本件警告書を送付したか否かにつき、検討する。

(1)控訴人が故意によって本件警告書を送付したとの点は、これを認めるに足りる証拠がない。

かえって、後示のとおり、控訴人が右警告書を送付するに当り予め弁理士である訴外宮地正一の意見を求め、同人の、イ号物件は控訴人の本件各意匠に類似するとの意見にしたがって右警告書を送付したこと、が認められるのであり、右認定事実に照らしても、控訴人に右故意の存在を認めることができない。

もっとも、控訴人が、不正競争防止法一条一項六号所定の「流布」に関し、前叙認定の如き認識を持っていたと推認し得ることは、前示のとおりであるが、右認識は、本件故意とその内容において別異のものであるから、控訴人に右認識があったからといって、そのことから直ちに、控訴人に本件故意があった、と断定することはできない。

(2)そこで、控訴人の本件過失の有無につき判断する。

(ⅰ)ところで、不正競争防止法一条一項六号は、所謂営業誹謗行為を禁じた規定であるところ、右営業誹謗行為は、競争関係に立つ者が直接的に虚偽の事実をあげて営業者にとって最も重要な営業上の信用を直接的に攻撃するのであるから、これは、典型的な不正競争行為であって、典型的な違法行為である、というべきである。

右説示によれば、控訴人の本件行為も又、所謂営業誹謗行為であって、典型的な違法行為であるというほかなく、控訴人がかかる典型的な違法行為に出たことが肯認される本件においては、相当の理由がない限り、控訴人には右行為をなすにつき過失があった、と推認するのが相当である。

(ⅱ)控訴人の本件過失の存在を否定する相当の理由の有無について、判断する。

(イ)(a)前掲甲第三、第四号証、当審証人宮地正一の証言、原審における控訴人本人尋問の結果を総合すると、控訴人は昭和五二年五月頃イ号物件が市販されている事実を知ったこと、そこで控訴人は同年七月中旬頃弁理士訴外宮地正一に対しイ号物件が控訴人の本意匠および類似意匠一ないし三に類似するか否かにつき意見を求めたこと、宮地はそれまで長年にわたり控訴人ならびに前叙山路産業の特許関係につき同人(右会社代表者)から相談を受け右関係についての面倒をみて来たものであるところ控訴人から右の如き意見を求められイ号物件を検討の結果控訴人に対し右物件は控訴人の右各意匠に類似するとの見解を示したこと、控訴人は宮地と相談のうえ被控訴会社ならびに関係第三者に対し警告書を出すこととし、右文書の内容についても宮地と相談したこと、そして、控訴人自らが右警告書の第三者に対する送付先を前叙月虎金属株式会社ならびに森岡株式会社に選択決定したこと、宮地が控訴人の依頼により同人が控訴人の代理人として本件警告書を作成しこれを右二会社宛送付したこと、が認められる。

(b)右認定事実に基づけば、控訴人の本件警告書の記載内容、その送付(ただし、その第三者に対する送付先の決定を除く。以下同じ)は弁理士訴外宮地正一の意見にその基礎を置く、といい得る。

しかしながら、右認定にかかる、弁理士宮地正一と控訴人の関係に基づくと、宮地が本件紛争において占める立場は、あくまで控訴人側にあるというほかなく、控訴人の本件行為が弁理士である宮地の意見に基礎を置いても、それは、中立的立場に立つ弁理士に当該意見を求めその意見を基礎とする場合とは事情を全く異にする、というべきである。

しからば、本件において、前叙のとおり控訴人の本件警告書の記載内容その送付が弁理士宮地正一の意見に基礎を置くとの事実が認められても、右事実は、未だ、控訴人の本件過失の存在を否定する相当の理由となり得ない、というのが相当である。

又、右認定事実に基づけば、本件警告書は代理人弁理士宮地正一の名において送付されているのであるが、右認定にかかる、本件警告書送付までの経緯、就中前叙月虎金属株式会社ならびに森岡株式会社に対する送付は控訴人自身によって選択決定された点に徴すれば、本件警告書が代理人弁理士宮地正一の名において送付されていても、右事実は、未だ、控訴人の本件過失の存在を否定する相当の理由とはなり得ない、というべきである。

(ロ)なお、控訴人は、同人の本件過失はやや複雑な法律状態について錯誤がある場合であるから、右過失は否定される旨主張する。

仮に、本件において、控訴人の主張する、やや複雑な法律状態があり、同人の本件過失が右法律状態について錯誤がある場合であるとしても、右法律状態についての錯誤は、控訴人の本件過失の存在を否定する相当の理由とするに足りない。

蓋し、本件において、法律状態がやや複雑であるということは、控訴人の過失を否定し、被控訴人に本件損失の受忍を強いる理由としては決して充分ではなく、むしろ、法律状態がやや複雑であるにもかかわらず、前叙認定説示のとおり典型的違法行為である本件行為に出た控訴人(同人が最終的に前叙二会社へ本件警告書を送付すべく決定したことは、前叙認定のとおりである。)に、それに伴う危険をも負担させ、同人に対し、本件損害の賠償を命ずることの方が、公平の理念に適合する、と解するのが相当だからである。

(ハ)その他控訴人の本件過失の存在を否定する相当な理由は、これを認めるに至らない。

なお、控訴人がその主張中に引用する判例(大審院昭和一三年五月七日判決民集一七巻一〇号八六七頁、なおこれに関連する大審院昭和一六年三月二九日判決判決全集八輯一三号一八頁)は、不正競争防止法一条の二一項に関する本件とはその事案を異にし、直接本件には妥当しない、と解するのが相当である。

(二)叙上の認定説示を総合すると、控訴人は、被控訴人に対し、不正競争防止法一条の二一項に基づき、本件損害を賠償する責任がある、というべきである。

二、以上の次第で、原判決は正当であり、本件控訴は全て理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 鳥飼英助 裁判官岩川清は、差支えのため署名捺印することができない。裁判長裁判官 大野千里)

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