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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1489号 判決 1980年6月17日

控訴人 姜升大

右訴訟代理人弁護士 中村吉郎

同 中村愈

被控訴人 鈴村昭雄

右訴訟代理人弁護士 佐古田英郎

同 祝前俊宏

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し別紙物件目録記載の建物についてなした別紙登記目録記載の根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出・援用・認否は左に記載するほか、原判決事実摘示のとおりである。

(被控訴人の主張)

本件根抵当権設定契約は、控訴人と訴外友恵商事株式会社(訴外会社)代表取締役被控訴人との間でなされ、根抵当権者、被担保債権の範囲、極度額は訴外会社代表取締役被控訴人の裁量で決め得る黙示の約定が存した。

理由

一、控訴人所有の別紙物件目録記載の建物(本件建物)につき、別紙登記目録記載の根抵当権設定登記(本件登記)が存在することは、当事者間に争いがない。

二、原判決理由一枚目裏三行目から五枚目裏三行目までを引用する。

右認定事実によると、昭和四七年五月二六日、訴外会社(代表取締役・被控訴人)と控訴人との間に、訴外会社を売主とし、控訴人を買主とする鹿茸の継続的売買取引契約及び控訴人所有の本件建物につき右継続的売買取引契約による売主の債権を被担保債権とする根抵当権設定契約が締結されたものであり、被控訴人と控訴人との間に、右両契約は黙示的にも締結されていないと認めるのが相当である。控訴人が右鹿茸の売買代金内金の支払のため振出した原判決別紙約束手形目録記載の約束手形二通を、被控訴人が取得したとしても、被控訴人は、根抵当権者である訴外会社より、根抵当権の個々の被担保債権である右手形債権を、譲受けたものにすぎない。

三、被控訴人は、「被控訴人は訴外会社の代表取締役であり、全くの第三者ではなく、また、控訴人が売買代金債務と手形債務につき現実に二重払いをする必要はないから、本件登記における債権者の違いは控訴人にとっては何らの不利益もなく、控訴人の委任の趣旨には反しない。本件登記は、根抵当権者を被控訴人とする登記として、有効である。」と主張する(抗弁5(二)、原判決採用)。

しかし、二において確定したとおり、被控訴人と控訴人との間に前記両契約は締結されていないのであるから、被控訴人の右主張は、被控訴人独自の見解であり、採用できない。

四、被控訴人は、「訴外会社は、自己を表示するため被控訴人の名称を用いて、本件登記をしたものであり、本件登記の根抵当権者としての被控訴人の氏名は、訴外会社を表示するものであり、本件登記は、根抵当権者を訴外会社とする登記として、有効である。」と主張する(抗弁五(一))。

しかし、本件のように根抵当権設定登記の登記名義人を、「甲株式会社」とすべきところ、甲株式会社の代表取締役である「乙」と記載した場合、登記名義人として法人と自然人とが別人格であることは、明白であり、両者の間に同一性を認め得ないから、右登記は、登記名義人甲株式会社の登記として有効となり得ない。

五、よって、本件登記は無効のものであるから、本件建物の所有権に基づきその抹消を求める控訴人の本訴請求は理由があって認容すべきものであり、控訴人の請求を棄却した原判決は不当であって本件控訴は理由があるので、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 潮久郎 藤井一男)

<以下省略>

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