大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1575号 判決 1980年10月31日
控訴人
西田常子
右訴訟代理人
吉田訓康
外二名
被控訴人
船戸大蔵
主文
一、原判決を取消す。
(一)被控訴人の本件和解無効確認の請求を棄却する。
(二)被控訴人の請求異議の訴を却下する。
二、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一当事者間に争いのない事実
原告を控訴人とし、被告を嶋野博章、生駒正の両名とする大阪地方裁判所昭和五一年(ワ)第五五四〇号事件の昭和五三年一二月二六日の和解期日(以下、本件和解期日と略す)において訴訟上の和解が成立し、その和解調書中に被控訴人が利害関係人として和解条項所定の右被告らの債務について保証する旨の記載があることは、当事者間に争いがない。
二和解条項の効力の検討
<証拠>を総合すると、被控訴人は知人の生駒正と共に本件和解期日に大阪地方裁判所に出頭し、利害関係人として本件和解調書(甲第一号証)第五項のとおり、同じく利害関係人である稲葉章典と共に、同事件の被告嶋野博章、同生駒正の本和解条項所定の債務につき保証する旨の和解が成立したことが認められ<る。>
したがつて、本件和解は有効に成立しているものであつて、その不成立ないし無効をいう被控訴人の主張は採用できない。
三請求異議の訴の検討
被控訴人は前示和解条項(五項)につき執行力の排除を求めて本件請求異議の訴を提起しているところ、請求異議の訴は債務名義の執行力を排除するために提起できるものであつて形式的執行力をもつ債務名義の存在を前提とするものであるから、右和解条項が形式的執行力をもつ債務名義に当たるか否かにつき検討する。
前示甲第一号証によると、本件和解調書第五項には「利害関係人船戸大蔵(被控訴人)、利害関係人稲葉章典は、被告嶋野博章、被告生駒正の本件和解条項所定の債務につき保証する。」旨定められている。
そして、債務名義とは一定の私法上の給付請求権の存在および範囲を表示し、強制執行によつてその内容を実現できる執行力を法律によつて認められた公正の文書をいうのであるから、それには強制執行によつて実現される私法上の給付請求権を直接的具体的に特定表示する必要がある。
ところで、およそ和解条項において主債務を保証する旨の保証の合意と、保証債務に基づく債務を履行する旨の執行力を付与する合意とは区別すべきであると解すべきところ、前示和解条項は、単に「債務につき保証する」旨を定めるのみで保証人である利害関係人自身の具体的な金銭支払条項ないし履行条項を欠き、給付義務を定めているものとは認められないのであつて、執行力を有する債務名義とはいえないものである。
既述のとおり民訴法五四五条のいわゆる請求異議の訴は債務名義の存在を前提とし、その執行力の排除を目的とする訴であるから、債務名義の存在しない被控訴人の本件請求異議の訴は不適法として却下すべきものである(最判昭四〇・七・八民集一九巻五号一一七〇頁参照)。
(なお、たとえ右和解条項が「保証をし、その履行の責に任ずる」とされている場合に準じ同第一項の主債務者支払条項と相俟つて救済的意味で債務名義に当たると解しうるとした場合でも、前示二のとおり右和解は有効に成立しているものであるから、その無効による請求異議をいう本訴請求はその理由がない。)<以下、省略>
(村上博巳 吉川義春 藤井一男)