大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1686号 判決
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【判旨】
一、被控訴人主張の本件調停調書の調停条項における賃貸借期間一〇年の合意は、控訴人主張のような一時使用を目的とする賃貸借ではなくて、残存賃貸借期間を確認的に合意する趣旨でなされたものであり、かつ、本件調停条項第二項(賃借期間終了と同時に本件建物を収去して本件土地を明渡す旨の条項)は無効であるとともに、控訴人主張の原審における賃貸借契約解除の主張も理由がないものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか原判決の理由説示と同じ(ただし、原判決一〇枚目表一二行目及び同一一枚目裏末行にそれぞれ「和解条項」とあるのを「調停条項」と各訂正する)であるから、これをここに引用する。当審証人吉松一江の証言によるも、右認定を左右するに足りない。前示引用の原判決挙示の証拠によれば、被控訴人が風呂場や台所等を改修したことが認められるが、本件土地調停前の賃貸借契約においては地上建物の増改築禁止の特約がなく、また右のような建物改修工事だけでは本件土地の賃貸借契約の解除原因となしがたく、そのほかに本件調停成立当時において本件賃貸借契約の解除原因事実を認めるに足る的確な証拠がない。
二、ところで、控訴人は本件調停における賃貸借は期限付合意解除である旨主張するので判断する。およそ調停は私法上の合意たる面を併有するのであるが、調停上の合意において賃貸借の残存期間満了時に建物を収去して土地を貸主に明渡す旨借地権者をして合意させたような場合は、右合意は実質的に借地権者の契約更新請求権を否定し、借地法四条・六条を潜脱することになるから、特段の事情のない限り原則として右合意は借地法一一条により無効であるが、ただ右合意に際し、借地人が真実解約の意思を有していると認めるに足りる合理的客観的理由があること、および他に右合意を不当とする事情が認められないことの特段の事情である二要件を具備する場合に限り、例外的に期限付合意解約として有効であり借地法一一条に該当しないと解すべきである(最高裁判所昭和三三年一月二三日判決・民集一二巻一号七二頁、同昭和四四年五月二〇日判決・民集二三巻六号九七四頁)。これを本件についてみるに、前示引用の原判決挙示の証拠、とくに<証拠>を綜合すると、①前示原判決引用の認定事実のほか、②被控訴人は本件調停の成立前に、被控訴人の先代嘉市(調停申立人の相手方)の代理人雑古弁護士に調停条項のメモ用の原稿を見せてもらつたところ「明渡し」の条項が入つていたので不本意に思い尋ねたところ、同弁護士より明渡しが書いてあつてもなくても言葉のあやで問題ないと言われたこと、③控訴人は右調停成立同日自宅に帰り先代嘉市に調停成立の経過を話したところ、右嘉市が右収去明渡条項について不満の意を述べたこと、④被控訴人は右調停条項中の収去明渡文言に疑問をいだき、調停成立後約二週間を経た昭和四二年七月一九日ごろ西宮簡易裁判所に行き調停委員久賀田義治に本件調停条項について質問したところ、同条項の「一〇年」は法定の残存期間を確認的に合意する趣旨である旨の説明をうけたが、「収去明渡し」の条項については調停条項以外には明確な説明を得られなかつたことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠がない。そして、そのほかに本件調停において控訴人主張のような期限付合意解約を認めるに足る的確な証拠がない。
以上の事実関係によれば、本件調停条項第二項は、賃借期間(本件調停成立の日から一〇年)終了と同時に本件建物を収去して本件土地を明渡す旨合意し、調停が成立したものであるが、右条項はもちろんその他本件調停は期限付合意解約ではなく、かつ、賃貸人の有する賃貸借の契約更新請求権を否定するものであるところ、本件調停には借地法一一条の適用を排除すべき特段の事情がないから、本件調停条項第二項は右借地法一一条により無効であるといわねばならない。従つて、控訴人の右主張は失当であつて採用できない。
(下出義明 村上博巳 吉川義春)