大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1777号 判決
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【判旨】
二、控訴人は精神衛生鑑定医が地方公共団体である被控訴人の公務員である旨主張し、被控訴人はこれを争うので検討するに精神鑑定医は厚生大臣により指定されるものであるが、都道府県知事の監督のもとに、精神衛生法の施行に関し精神障害の有無並びに精神障害者につきその治療及び保護を行なう上において入院の要否の判定を行なうものであつて、精神鑑定医の右職務の執行に関しては公務に従事する職員とみなされる(精神衛生法一八条)。そして、都道府県知事は精神衛生鑑定医に対し前示診療に要した実費を弁償し、かつ相当の報酬を支給するものとされ(同法一九条)、本件のような同法二九条一項の措置入院を行なうのは都道府県知事であつて、同知事がその必要上精神鑑定医に患者を診察させるものである(同法二七条)。
したがつて、本件鑑定を行なう精神衛生鑑定医である医師山田東吾、同森滋郎はその職務の執行に関して地方公共団体である被控訴人の公務に従事する職員、即ち公務員であるというべきである。
三、被控訴人は本件において精神衛生鑑定医が行なつた控訴人に対する精神鑑定が国家賠償法一条所定の「公権力の行使」に当らないと主張するが、同条所定の「公権力の行使」とは国又は公共団体がその権限に基づく統治作用としての優越的意思の発動として行なう権力作用に限らず、国又は公共団体の非権力的作用をも含むものと解すべきところ、精神衛生鑑定医が精神衛生法二七条に基づき知事の依頼により行なう鑑定ないし診察は知事が精神障害者であり医療保護のため入院させなければ自傷、他害のおそれがあると認めて精神衛生法二九条所定の強制的入院措置をとるための前提となるものであるばかりか、その診察自体も本人の意思如何にかかわらず行なわれ多少とも強制を伴なうものであつて(同法二七条)、公共団体の精神障害者に対する医療、保護、その発生予防を目的とする優越的意思の発動として行なわれる権力的作用ないしこれに準ずるものというべきである。したがつて、本件において精神衛生鑑定医が行なつた精神鑑定ないし診察は国家賠償法一条所定の「公権力の行使」に当るといわねばならない。
四、そこで、精神衛生鑑定医である山田東吾、森滋郎の鑑定が違法な誤まつた鑑定であるか否かにつき検討するに、<証拠>を総合すると、(一)精神衛生鑑定医森滋郎、同山田東吾が控訴人に面接しこれを診断した昭和四九年一〇月五日当時、控訴人が妻の浮気等を邪推し被害妄想となつて数々の奇行があつたこと、(二)鑑定医山田東吾のなした鑑定の結果「パラノイアの疑いで妄想内容は体系を作り訂正不可能で、容易に被害念慮に陥り他者に被害を加えるので措置入院を要する。」と、森滋郎のなした鑑定の結果「精神分裂症(妄想型)で妄想支配下の衝動行動があるので措置入院を要する」との間には何ら矛盾はなく精神医学上「パラノイア」は精神分裂症の妄想型を指し、両鑑定はほぼ同一のものであること、(三)鑑定医山田東吾の鑑定書には要入院治療欄に○印を付してこれを抹消して訂正印が押されているが、これは同医師が記入すべき「要措置」の欄を誤まつて要入院治療欄に○印を付したもので単純な誤記であり、またその他に若干の誤記があるものの、実質的な判断の変更やこれに影響を及ぼすものではないことが認められ、これらの事実を考え併せると、前示山田、森両鑑定が控訴人を精神障害者として自傷他害のおそれがあり措置入院を要するとしたのは正当であると認められ、この認定に反する原、当審における控訴人本人尋問の結果の各一部は前掲各証拠に照らしにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。
したがって、右両鑑定が誤まつた違法な鑑定であるとの控訴人の主張は採用できない。
(村上博巳 吉川義春 藤井一男)