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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)2115号 判決 1981年2月26日

控訴人

金春吉

控訴人

砂川龍昇

右控訴人両名訴訟代理人

仲武

被控訴人

尹鳳鱗

主文

控訴人両名の本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人両名の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2の事実のうち本件不動産が卞の所有に属したこと、右不動産につき被控訴人を権利者とするその主張のような仮登記(以下本件仮登記という。)が経由されていることは当事者間に争いがなく、その余の事実は<証拠>によりこれを認めることができ、<証拠>によると、請求原因3の事実が認められるところ、右各事実を総合すると、被控訴人と卞は昭和五一年七月二七日卞が前記準消費貸借契約上の債務を遅滞したときは、被控訴人は卞に対し代物弁済予約完結の意思表示をするときにより本件不動産の処分権能を取得し、これに基づいて右不動産を適正に評価された価額で確定的に被控訴人の所有に帰せしめる帰属清算の方法で換価処分し、その評価額から自己の債権の弁済を得ることを内容とする仮登記担保契約を締結し、右契約を原因として本件仮登記が経由されたこと、昭和五四年三月一四日卞に対し到達した効力を生じた被控訴人の代物弁済予約完結の意思表示により被控訴人は本件不動産の処分権能を取得したものと認めるのが相当である。

そして、本件不動産につき控訴人金春吉のために請求原因4記載の(1)、(2)の仮登記、控訴人砂川龍昇のため同じく(3)の登記が、また本件(一)の不動産につき控訴人砂川のため同じく(4)の仮登記が、本件(二)の不動産につき同控訴人のため同じく(5)の仮登記がそれぞれ経由されていること、控訴人砂川が現に本件不動産を占有していることは当事者間に争いがなく、本件記録によると、被控訴人は本件不動産につき右処分権を取得するにさきだち、昭和五三年九月九日原審に債務者卞、控訴人両名及び本件不動産につき本件仮登記より後順位に抵当権設定仮登記、停止条件付賃借権設定登記を経由している訴外金鐘〓、本件(二)の不動産につき同じく本件仮登記より後順位に抵当権設定仮登記を経由している訴外松田忠雄を共同被告として相被告卞に対しては本件仮登記に基づく本登記手続と本件不動産の引渡を、相被告金鐘〓、同松田忠雄と控訴人両名に対しては右本登記手続をするについての承諾を、なお控訴人砂川に対しては本件不動産の明渡を求めて本訴を提起したことが認められる。

二そこで、以下控訴人両名の抗弁と被控訴人の再抗弁について検討する。

抗弁事実中(一)の事実は当事者間に争いがないので、右事実から考えると、控訴人金の申立にかかる本件不動産の任意競売申立事件(大阪地方裁判所堺支部昭和五四年(ケ)第五号事件)は、同庁昭和五三年(ケ)第一八四号事件が昭和五五年一月一四日取下げられたのに伴い、既にこれよりさきに取下げられた同庁昭和五二年(ケ)第二二〇号事件に記録添付された日である昭和五四年一月二三日に競売手続開始決定を受けた効力を生じたものと解される。他方、被控訴人が原審に債務者卞らを相被告として控訴人両名に対し本訴を提起したのは、これよりさきの昭和五三年九月九日であるが、被控訴人において前記仮登記担保契約に基づき本件不動産につき処分権を取得したのは、本訴係属中の昭和五四年三月一四日(被控訴人から卞に対する本件不動産についての代物弁済予約完結の意思表示が同人に到達した効力を生じた日)であること前項に認定したところ、そもそも代物弁済予約形式の仮登記担保契約においては、債権者から担保権設定に対する代物弁済予約完結の意思表示のあることが右担保権実行の前提要件であると解されるので、右認定の事実関係からすると、被控訴人が本件不動産につき本件仮登記担保権の実行手続に着手したのは、結局右三月一四日であると認めるのが相当である。すると、控訴人金の申立による本件不動産の競売手続開始(前記昭和五四年(ケ)第五号事件の競売開始決定)が被控訴人の本件仮登記担保権の実行手続着手に先行することとなるが、一般にこのように目的不動産につき仮登記担保権者が担保権の実行手続に着手するにさきだち、競売手続が開始されているときは、仮登記担保権者としては右競売手続への参加により債権満足を得る途があるのであるから、原則として右の方法によるべきであり、本件のような登記簿上先順位にある仮登記担保権者が本登記手続またはその承諾請求を訴求し、ひいては既存の競売手続を覆滅させ、関係者に無用の損害を被らせることは、仮登記担保権の行使として正当な法的利益を有するものということはできない。ただ、右の仮登記担保権者の被担保債権者が目的不動産の適正な評価額を上回るような場合は、目的不動産の損価代金によつて後順位担保権者に対して配当が与えられる余地がないので、後順位担保権者の配当(被担保債権の回収)をうける利益を考慮する必要がなく、また、たとえ仮登記担保権者を右競売手続に参加させたとしても、強制競売の場合に準じて、結局は右競売手続は民訴法六五六条の類推適用により剰余の見込のないものとして取り消されるべきものと解するのが相当であるので、右のような場合は仮登記担保権者が換価手続の一環として提起する本登記手続またはその承諾請求の訴も正当な法的利益を有する一場合として許されるものと解するのが相当である(最大判昭四九・一〇・二三民集二八巻七号一四七三頁参照)。

そこで本件についてこれをみるに、<証拠>を総合すると、被控訴人が再抗弁で主張するとおり、被控訴人は、本件不動産につき、本件仮登記担保権に優先する抵当権者である大阪市信用保証協会に対し昭和五五年二月二八日までに合計六七〇万円、同じく大阪府中小企業信用保証協会に対し同年一月一一日七二〇万円をそれぞれ代位弁済して各被担保債務を完済したことが認められるので、被控訴人は卞行〓に対し右弁済額六七〇万円及び七二〇万円の各求償債権を有するところ、右各求償債権は法定代位により大阪市信用保証協会、大阪府中小企業信用保証協会からそれぞれ被控訴人に移転した前記各抵当権により担保されるので、本件不動産につき設定された抵当権により担保される被控訴人の卞に対する被担保債権は前記準消費貸借による貸金一三〇〇万円に右各求償債権を加えた合計二六九〇万円を下らない。ところが<証拠>によると、本件不動産につき控訴人砂川が賃借権を有するものとした最低競売価額は七二四万五〇〇〇円であり、右賃借権がないものとした本件不動産の適正価額は二〇〇〇万円を上廻らないことが認められる。そうすると、いずれにするも、被控訴人が現在の本件競売手続に参加したとしても、右競売手続において控訴人両名には何らの配当もないことが明らかであるから、被控訴人の再抗弁は理由がある。

三以上のとおりであるから、被控訴人が本件仮登記担保権による本件不動産換価手続の一環として控訴人らに対し本件仮登記に基づく本登記手続をするについての承諾及び控訴人砂川に対し右本登記がされたときは本件不動産を明渡すことを求める本訴各請求は理由があり、これを認容した原判決は正当である。

四よつて、控訴人らの本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(朝田孝 富田善哉 岨野悌介)

別紙一、二、三<省略>

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