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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)275号 判決 1980年11月21日

控訴人

宇野かな

被控訴人

関西電力株式会社

右代表者

小林庄一郎

右訴訟代理人

田中章二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審で拡張した請求を棄却する。

当審費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人は控訴人に対し、金三億五四五八万二五五八円及びうち金五七六九万六五六五円に対する昭和三八年四月一日から、うち金二億七九七四万一七六九円に対する昭和四四年四月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え(当審で一部拡張)。

(三)  被控訴人の本訴請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(五)  第二項について仮執行の宣言。

2  被控訴人

主文第一、第三項と同旨。<以下、事実省略>

理由

一控訴人が昭和二六年一二月二七日本件鉱業権(採掘権)を取得し、昭和四五年二月二四日訴外佐郷屋嘉昭に譲渡した旨移転登録をしたこと、被控訴人が原判決添付図面<省略>表示の位置に送電線用鉄塔一号及び二号を設置し、昭和四三年夏頃和知ダムにたん水を始めたこと、控訴人が被控訴人に対し、被控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求債権として三億五四五八万二五五八円の債権を有すると主張していることは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、本件鉱業権の鉱区は昭和三三年七月一七日減区された結果右図面の番号1234567891を順次直線で結んだ範囲であり、その北西部分を由良川が流れていること、被控訴人が建設した和知ダムは鉱区の由良川下流約六〇〇〇メートルに位置し、ダムにたん水をした場合の平水時背水終点TD5916.8メートルは本件鉱区の由良川沿い約二〇〇メートルの地点で、その範囲の河床がたん水区域になること(洪水時背水終点はTD四九二一メートルで本件鉱区より下流になる)、被控訴人が設置した一、二号鉄塔は被控訴人が京都府営の大野発電所から買受けた電力送電のために設けたもので、昭和三五年頃から建設を始め昭和三六年一月完成したこと、本件鉱区内にある一号鉄塔の敷地は昭和三五年当時国有地、その後和知町の所有地となつたが、被控訴人は当初国から、次いで和知町からそれぞれ占用許可を受けて土地使用権を取得し、二号鉄塔の敷地は昭和三四年当時訴外板谷春男の所有であり、被控訴人は同年九月二三日右訴外人からこれを賃借し、次いで昭和四五年二月一八日これを買受け、同年同月二四日所有権移転登記を経由したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

二控訴人は被控訴人の右施設等により第一ないし第四鉱床の掘採が制限され、そのために生じた損害(鉱業権譲渡登録時までの分)を主張する。

1  そこで主張する鉱床の存否並びに被控訴人の施設等との位置関係について検討する。

<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一)  控訴人主張の第一鉱床についてその指示する場所は由良川右岸二〇番フックより南方一〇ないし一二メートルの地点であるが、そこにはマンガン鉱の露頭や採鉱跡は認められず、また和知ダムたん水の平水時背水終点付近にあたるためたん水による影響は考えられない。

(二)  控訴人主張の第二鉱床は由良川左岸急斜面の谷壁中腹で大野ダム堰堤より南へ約二〇〇ないし二五〇メートルの地点で被控訴人の一号鉄塔から北側約三〇ないし四〇メートルの地点に二個の坑口が存在し、チャート層がみられ右坑口以下に炭酸マンガン鉱が残されていると推測される。その埋蔵場所は和知ダム平水時背水終点よりも上流でかつ水面よりも相当高いから和知ダムたん水による影響は全くないが、一号鉄塔から五〇メートルの半球円内に含まれる。

(三)  控訴人主張の第三鉱床は原判決添付図面第三鉱床と表示された付近の由良川右岸に大野発電所専用道路をはさんで坑口が五個存在し、由良川水面に最も近い第一坑口から和知ダム満水時の最高水面を示す標識までの距離は少くとも一〇メートル以上あり、また二号鉄塔から三号鉄塔に至る送電線から水平距離にして五〇メートル以上離れて位置する。従つて現在存在する坑道が被控訴人の施設によつて影響されるところはない。なお付近の由良川川床には川に沿つて断層があり、その一部が第二坑道内にも認められ、更に由良川左岸は粘板岩層であるから、第三鉄床のマンガン鉱脈が対岸まで続いていることはありえない。

(四)  控訴人主張の第四鉱床についてその指示する位置は由良川右岸で、二号鉄塔から三号鉄塔間の送電線直下の地点であるが、その付近にはマンガン鉱の露頭も探鉱跡も認められない。

以上の認定に反する原審及び当審での証人文萬伍の証言及び同人作成の乙第一六号証は前掲各証拠と対比して採用できず、右証言により成立を認めうる乙第九号証、第二五号証は本件鉱区が減区される前の範囲について調査し、添付されている図面も概念図の域をでないものであつてその図示する鉱床の位置を正確に確知することができず、同様に成立を認めうる乙第一八号証には図面が全く添付されていないためその指摘する鉱床の位置を明確にしえないから、これらの証拠はいずれも控訴人主張の鉱床の存在を認めさせるに足るものではない。

2  右事実によれば、控訴人主張の第二鉱床は、その五〇メートルの範囲内に建設、設置された被控訴人の送電線用一号鉄塔(電気事業法二条七項の電気工作物にあたり、これは間接に公共の用に供されるものとして鉱業法六四条の施設に含まれる)により鉱業法六四条に基づき、鉱物の掘採につき一定の制限を受ける結果となつたものといわねばならない。

<証拠>によれば、右第二鉱床は控訴人が昭和二六年一二月本件鉱業権の移転登録を受けて間もなく掘採に着手し手掘りで採鉱していたものであるが、第一、第二坑と掘さくしたが鉱脈に当らなかつたため同所での掘さくを中止し、一号鉄塔設置場所から北へ約三〇ないし四〇メートル下つた地点に第三坑を約二二メートル掘さくしてその平面でのマンガン鉱を採取し終り、更に一〇メートル下つた場所に探鉱のため第四坑を九メートル掘さくしたこと、なお同所から約一〇メートル下つた場所に前主が掘さくしたとみられる坑道約一八メートルが存在するが、これも鉱脈に行き当らなかつたため中止されたものと窺われること、昭和三三年になつて近畿地方建設局が大野ダムの建設を始めたが、控訴人は同年三月頃から本件鉱区での掘採を中止したこと、第二鉱床の残存埋蔵鉱量は約四七九トン(乾量)、平均品位マンガン三六パーセントと推定され、その程度の規模の鉱床の掘探には月産四〇トン程度の出鉱が合理的であるから約一年で掘採し終えるが、残存鉱物掘採のためにはその鉱脈の走り具合からみて既設坑道の下方に新に三五メートルの通洞坑の掘さくを必要とすること、以上の事実が認められる。

前掲乙第九号証、第一六号証、第一八号証、第二五号証及び文萬伍の証言中右認定に反する部分は前掲甲第二九号証及び日下部吉彦の証言と対比して信用することができない。

三控訴人は、被控訴人が一号鉄塔を設置したことにより控訴人の本件鉱業権に基ずく第二鉱床の掘採が不能になつたので、昭和三六年以降昭和四四年三月末日までの掘採不能による損害の賠償を求める旨主張するのに対し、被控訴人は、一号鉄塔の設置については違法性がない旨主張するので判断する。

鉱業権者は鉱区内に存する鉱物を掘採、取得する権利を有する者であるが、その掘採のため他人所有の土地を当然に使用しうる権利はなく、他人所有の土地において地中の鉱物を適法に掘採するためには土地所有権と協定を結ぶなど土地使用権を取得することが必要であり、また掘採事業に着手するためには事前に施業案を定め通産局長の認可を受けなければならないところ、<証拠>によれば、控訴人は第二鉱床でマンガン鉱の掘採をはじめてから現在に至るまで、当該土地の所有者と協定を結ぶなど土地使用権を取得した形跡がなく、また通産局長から施業案の認可も受けていないことが認められ、右認定に反する証人文萬伍の証言の一部は措信することができない。

他方、被控訴人は前認定のとおり一号鉄塔の敷地について昭和三五年頃その所有者であつた国、次いで和知町からそれぞれ適法に占用許可を受け、その土地使用権原に基いて一号鉄塔を設置し、大野発電所からの送電の目的に使用していることが明らかである。

そうすると、被控訴人の一号鉄塔の設置の目的、方法は正当なものであつて適法な権利の行使であるのに対し、控訴人の主張する損害なるものは、無権原土地使用および無認可事業の違法な掘採方法による逸失利益であつて法律上保護に価しないものであり、そのうえ控訴人が一号鉄塔の建設の二年以上前から掘採を中止していること、前認定の第二鉱床の掘採状況、残存鉱物の量等諸般の事情を総合すると、被控訴人が一号鉄塔の設置により違法に控訴人の権利を侵害したものとは到底認めることができない。

四そうすると、控訴人は被控訴人が右施設を設けたことにより本件鉱業権を違法に侵害されたとしてその主張する損害の賠償を請求することができないから、その余の点について検討するまでもなく、被控訴人の債務不存在確認の本訴請求は正当として認容すべきものであり、控訴人の反訴請求は当審で拡張した分を含め失当として棄却を免れない。

よつて本件控訴及び控訴人が当審で拡張した請求は理由がないからこれを棄却し、当審費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(奥村正策 志水義文 森野俊彦)

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