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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)365号 判決 1980年5月09日

控訴人

池田敏子

外二名

右三名訴訟代理人

福島了

被控訴人

田畑實

外一名

右両名訴訟代理人

月山桂

外二名

被控訴人

右代表者法務大臣

倉石忠雄

右指定代理人

片岡安夫

外二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一<省略>

二買収令書交付の検討

買収令書の交付は買収処分の効力発生要件とされ、農地の所有者にとつて買収処分の内容を確知し、買収の取消を求める最後の機会を与える重要なものであるが、その交付がないからといつて直ちに買収処分が不存在であるということはできない。買収令書が被買収者に交付されなくても買収令書が県知事によつて発行され農業委員会に送付されるなどし、その内容が外部に表示されれば買収処分は成立するし、また、買収令書が農業委員会を経由して郵便により被買収者方に配達され、被買収者がその内容を了知しうる状態に至つた場合には、買収令書が交付されたものといわねばならない。

なるほど、<証拠>、即ち農地法関係事務処理要領(既墾地の部)その二(農林省農地局長通達昭和二七年一二月八日二七地局第三八七六号)の(一)第六四(二)(2)(ロ)によると、県外居住者の場合につき、「買収令書は、配達証明郵便によつて所有者に送付する。」旨規定している。ところが、本件買収令書は普通郵便によつて県外居住者である池田昌義に送付したことは前示原判決の引用により認定したとおりである。そうすると本件買収令書の交付手続には配達証明郵便に付すべきところを普通郵便に付した点に瑕疵がないわけではないが、前示原判決による認定のとおり、和歌山県知事は昭和三四年一月二六日本件買収令書を発行し、これを和歌山市名草農業委員会に交付したこと、同委員会は県外居住者である昌義あて右令書を普通郵便をもつて送付し、これが同人方に送達されたことが認められ、この認定に反する原、当審における控訴人池田敏子本人尋問の結果の各一部は、原判決挙示の各証拠に照らしにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。

したがつて、和歌山県知事によつて発行された本件買収令書が農業委員会に送付され、ついで同委員会から普通郵便によつて池田昌義に送達されているのであるから、本件買収処分は有効に成立しているといわなければならない。前示配達証明郵便に付すべきところを普通郵便に付した瑕疵は交付手続上の軽微な瑕疵に過ぎず、本件買収処分の無効をもたらす重大かつ明白な瑕疵に当らない。

よつて、買収令書不交付による本件買収処分の無効をいう控訴人らの主張は採用できない。

三農地法三条の県知事の許可のある農地と買収処分

公権力の行使としての性質を有する農地法による農地の買収については民法一七七条の適用がなく、農地法による買収は、真実の農地所有者について行なうべきであつて、登記簿の記載のみによつて農地所有権の所在を判定すべきではない(最判(大法廷)昭二八・二・一八民集七巻二号一五七頁)。

もつとも、真実の所有者でない登記簿上の所有名義人を相手方とする農地買収処分は、それだけでは法律上当然に無効ではなく、その所有者誤認の瑕疵が重大かつ明白な場合に限り買収処分が無効となると考える。

ところで本件においては前示引用の原判決によつて認定したとおり、(一)昭和二六年三月六日被控訴人田畑實が池田昌義からその父亡増隆名義のまま本件土地を買受け、代金を支払いその引渡を受けてそれ以後耕作していること、(二)昭和三三年五月一〇日譲渡人昌義、譲受人被控訴人田畑を当事者とする農地法三条による所有権移転の許可申請がなされ、同年七月二六日和歌山県知事から無条件許可がなされた。(三)昭和三四年三月一日被控訴人国は登記簿上の所有名義人池田昌義を相手方として農地法による本件買収処分をなしたことが認められる。

知事の許可を得ないで農地の売買契約が締結されると許可あるまでは売買契約の本来の効力は生じないが、許可があるとその時から本来の効力を生ずるから(最判昭三三・六・五民集一二巻一三五九頁、最判昭三六・五・二六民集一五巻五号一四〇四頁、最判昭三九・九・八民集七号一四〇六頁参照)、本件土地は前認定(一)の売買が(二)の知事の許可によつて昭和三三年七月二六日その効力が生じ、所有権は昌義から被控訴人田畑に移転し、以後本件土地の真実の所有者は同田畑であつたというべきである。そうすると、前認定(三)の本件買収処分は真実の所有者でない登記簿上の所有名義人池田昌義を相手方としてなされたものといわねばならず、被控訴人國ないし和歌山県知事は、本件買収処分当時本件土地につき農地法三条の許可がなされていることを知つていたと認められるけれども、その許可申請書(甲第一一号証の一)には権利を移転しようとする年月日を同年八月末日とし、許可後売買が行なわれるように記載されていることなどを照らし、被控訴人國ないし右知事が前認定(一)の売買契約の存在を確知していたとは認められないし、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。したがつて、被控訴人國の本件土地の所有者誤認の瑕疵が重大かつ明白なものであるということはできないし、他に重大かつ明白な瑕疵が存したことを認めるに足る的確な証拠がない。

よつて、農地法三条の県知事の許可を取消さないでした本件買収処分をいう控訴人らの主張は採用できない。

四証拠の摘示を欠く判決の適否

原判決はその事実摘示中に当事者の提出、援用した証拠関係の記載を全くしていないところ、当事者双方が提出、援用した証拠方法と認否は、証拠裁判の原則に照らし(民訴法一八五条)、判決の基礎となる重要な事実であつて、民訴法一九一条により判決書に記載すべき事実に該当するのであつて、この記載を欠くことは違法であるといわねばならないが(最判昭五二・一〇・二五判時八七二号七九頁、最判昭五四・一二・二〇判時九五五号五七頁参照)、民訴法三八七条の「第一審ノ判決ノ手続カ法律ニ違背シタルトキ」即ち、判決の成立過程の瑕疵に当るとまではいえず、控訴審においてその判決書に証拠摘示をすることによつて右手続の瑕疵は治癒されるから、証拠の摘示を欠くとの一事によつて原判決を取消す必要はない。

五結論

以上のとおりであるから、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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