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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)612号 判決 1980年9月17日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取消す、

2  被控訴人らは控訴人に対し原判決添付物件目録記載の各土地(以下本件土地という。)につき本判決添付登記目録記載の仮登記(以下本件仮登記という。)の抹消登記手続をせよ。

3  被控訴人らは控訴人に対し本件土地を引渡しかつ昭和四八年八月六日から引渡済まで一か月五〇万円の割合による金員を支払え。

4  被控訴人らの控訴人に対する請求を棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨の判決。

第二  主張、証拠

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし原判決三枚目表二行目「中川清一」を「川中清一」と、一八枚目表一二行目「尾上倍賢」を「尾上倍堅」と改める。)

一  当審における控訴人の主張

本件仮登記の実質は、被控訴人らが大井に対して有する元利金一五〇〇万円の貸金担保のためになされたものであるから、本件土地の第三取得者たる控訴人は、仮登記担保権者たる被控訴人らから次の額の清算金の支払を受けるのと引換えでなければ、被控訴人らが本件仮登記に基づく本登記を経由するにつき、承諾をすることができない。本件土地及び大井が本件土地と共に被控訴人らに担保として提供していた別件の土地の評価額は三・三平方メートル三〇万円、合計一億八三九〇円であり、右清算金は、右評価額から被控訴人らの債権額三九三四万円を控除した残額一億四四五六万円である。

二  当審における被控訴人の主張

本件仮登記が農地法五条の許可を条件とする売買契約上の買主の地位を保全するためのものであることは従前主張したとおりであり、何ら担保的性質を有するものではない。それは、被控訴人らが大井に一三〇〇万円を貸与した際には利息及び弁済期を定めていたが、本件売買契約では買戻期間、買戻代金について全く定めがなかつたことからも明らかである。担保のためであれば従前同様抵当権を設定すれば足りたのであり、本件土地は昭和四五年一〇月頃時価三九〇〇万円以下の価値しかなく、被控訴人らがこれを担保に当時既に信用に不安があつた大井に融資をするはずもなかつたのである。被控訴人らが後に農地法五条の許可を受け、淀川左岸土地改良区への決済金を納付したことは、被控訴人らが真実本件土地の所有権を取得しようとした証拠である。

三  当審における証拠関係

1  控訴人

(一) 甲第三二号証及び検甲第一号証を提出。検甲第一号証は、昭和四九年一二月一二日控訴人代理人事務所において乙第七号証について控訴人代理人と大井耕夫が交した会話を録音した録音テープであり、甲第三二号証は、その反訳文である。

2  被控訴人

(一) 当審における被控訴人奥田己之助本人尋問の結果を援用。

(二) 甲第三二号証の成立は知らない。検甲第一号証が控訴人主張の録音テープであることは知らない。

理由

一  当裁判所は、控訴人の所有権移転請求権仮登記抹消登記請求は理由がなくこれを棄却すべきであり、被控訴人らの所有権移転登記承諾請求は理由がありこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次に付加訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目表一〇行目、同二二枚目裏六行目、同二三枚目裏一一行目の各「尾上倍賢」を「尾上倍堅」と改め、同二〇枚目裏六行目「危惧の念」の次に「を」を挿入し、同二〇枚目裏九行目「本件土地を」の次に「後記三のような条件で」を挿入し、同二一枚目表八行目「被告ら」を「大井」と改め、同二一枚目表一〇行目「被告ら」の前に「原告と大井との間に」を挿入し、同二三枚目裏一行目「五六四坪」を「五六二坪」と改め、同二五枚目表二行目「なされるのか」を「なされるのか」と改め、同二六枚目表一二行目「甲第一六号証の一ないし五」の次に「及び前掲各証拠」を挿入する。同二七枚目表一一行目「又右のとおり、」を「又前掲証拠に弁論の全趣旨及びこれによつて成立を認める甲第三〇号証によれば、右のとおり、」と改め、同二七枚目裏一行目「とは解し難い」を「ではないことがうかがえる」と改める。同二七枚目裏末行目から二八枚目表五行目から六行目にかけての「解したからといつて、」までを削除し、同二八枚目表六行目「何ら」の前に「また仮登記権利者が仮登記に基づく本登記とは別個に本登記を経由したからといつて、」を挿入する。同二九枚目表一二行目「事件」を「事実」と改める。

2  控訴人は、本件仮登記は被控訴人らが大井に対する貸金の担保のためになされた旨主張するが、引用にかかる原判決認定の事実、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、原審における控訴人(第二回)、原審及び当審における被控訴人奥田己之助の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は昭和四四年九月頃から不動産業者である大井に度々融資し、同人の土地の転売あるいは宅地造成事業を援助し、自らもその利益の分配を受けていたが、控訴人及び大井は昭和四五年八月頃資金繰りに窮し、当時大井が宅地造成中であつた控訴人名義の土地二筆につき被控訴人らから抵当権実行の通知を受けたこと、右抵当権の被担保債権は大井に対する貸金であつたが、大井は、右貸金を直ちに返済する資力はなく、控訴人の援助を受けて本件土地及びこれに続く約五〇〇〇坪の土地を買収する計画であつたがこれも資金の目途がつかず、ことに現に宅地造成中の前記二筆の土地を競売から免れさせることが焦眉の問題であつたこと、そこで大井は、右土地買収を一旦あきらめ、被控訴人らに対する貸金返済のため本件土地の買主の地位を被控訴人らに肩替りしてもらい、既に売主に支払つてある一五〇〇万円の代金内金をもつて貸金の元利金にあてることを申入れ、被控訴人らはこれを承諾し本件土地の売買に至つたこと、大井は、本件土地を手放すについて資金繰りが良好となつたときには然るべき価額で買戻す意向を有しその旨被控訴人らに申入れ、被控訴人らは、将来条件がととのえば敢えてこれを拒絶する意思はなかつたが、当初の貸金(弁済期同年三月末日)さえ約定どうり返済を受けられず大井に全く信用をおいていなかつたので、旧債務に加えて新たな貸付をする意思は毛頭なく、本件土地の価値に着目してこれを買取つたこと、大井は、その後土地買収計画を続行すべく努力したが本件土地を買戻す資金を得ることができなかつたことが認められ、右事実によれば、本件仮登記がされた昭和四五年一〇月当時被控訴人らが大井に本件土地を担保に融資をするような情況になく、本件土地は被控訴人らがこれを買取つたものであることが明らかである。そうすると、本件仮登記は貸金担保の目的でされたものとは認められず、この点の控訴人の主張は理由がなく、したがつて控訴人の同時履行の主張(抗弁)は採用することができない。

二  以上によれば、原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

登記目録

所有権移転請求権仮登記

大阪法務局守口出張所

昭和四五年一〇月一五日受付第二四二五六号

原因 昭和四五年一〇月八日売買予約

権利者

持分二分の一 田中和三郎

持分二分の一 奥田己之助

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