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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)743号 判決 1983年2月23日

控訴人 河合貞雄

被控訴人 近畿水道建設株式会社

主文

原判決を取消す。

控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の昭和五〇年四月八日開催の株主総会における控訴人を取締役から解任する旨の決議は存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者の主張及び証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  昭和五〇年三月二〇日開催の取締役会の招集通知は同月一三日付で代表取締役中野昭郎(以下単に中野という)がなし、右取締役会には取締役総数五名中四名が出席して控訴人の代表権を剥奪する等の決議をしたが、中野は当時被控訴会社高砂出張所駐在の代表取締役であり、同所における所轄業務に関する限りの代表権を有し、取締役会の招集権限は有しなかつた。従つて、右取締役会の決議は無効である。中野は同月二五日付で臨時株主総会の招集通知をし、同年四月八日右総会が開催されたが、同総会は、有効な取締役会の決議に基づかないで招集権限のない中野が招集したものであるから、同総会の決議は法律上存在しない。

二  本件株主総会は「控訴人の病気療養のため退任」を議題として招集されており、議事録にも初め辞任として記載されていたから、右総会は退任の決議だけをし、解任の決議は勿論、解任のための総会も無かつた。原判決は「招集通知の議案は会社の内紛を外部に知られない便法としてなされた」旨認定するが、既に内紛は業界及び株主には周知の事実であつて、隠す理由はなかつた。株主中には「病気療養で退任」という議題には反対せずとも、解任なら反対しようとする者もいたのであり、退任の総会が解任の総会を包含すると解しえない。

三  仮に右総会で解任の決議がされたとしても、解任の議題は招集通知に記載がなく、緊急動議として提案されたものでもなく、単に一部の株主が集合して決議しただけであり、株主総会における決議といえない。

四  本件株主総会は株主総数三七名中六名が出席して開催され、他に一五名の委任状による出席者がいるが、それらの者は前記招集通知の「病気療養のため退任」という言葉を信じこれを認めていたから、右六名の者が解任の決議をしても、一部の者が他の株主を欺罔して同意をえた無効なものである。

五  委任状を送付した株主は単に会社に委任状を送付しただけで、受任者を定めず、代理人が誰かわからないから、これらの者が決議に参加したとはいえない。右出席株主六名の株式数は一万七六〇〇株であるから、会社の発行済株式総数四万株の過半数に達せず、決議が存在するといえない。

(被控訴人の主張)

被控訴会社の定款一九条但し書の規定は代表取締役二名の業務執行の対外的、地域的範囲を定めたものである。即ち、高砂出張所における対外的な業務とそれ以外のところで行う業務を分けるだけの意味であり、右業務執行に関する制限は法的には全く意味のない規定である。従つて、中野にも取締役会及び株主総会を招集する権限がある。

(証拠関係) 省略

理由

一  控訴人の本訴は被控訴会社の昭和五〇年四月八日開催の株主総会における控訴人を取締役から解任する旨の決議の不存在の確認である。成立に争いがない甲第一号証、乙第七号証及び記録編綴の被控訴会社の登記簿謄本によれば、被控訴会社は、定款で取締役の員数を三名以上、その任期を二年と定め、昭和四八年八月三一日控訴人、中野、河合英雄、河合亮三、河合進の五名が取締役に就任し、同会社の取締役は右五名であつたが、右五名は昭和五〇年八月三〇日任期が満了し、控訴人を除く取締役四名が同月三一日取締役に重任され、その旨登記されていることを認めうる。

本件のように、定款で取締役の員数を三名以上、その任期を二年と定めたY会社において、昭和四八年八月三一日XABCDの五名が取締役に就任し、同五〇年四月八日取締役Xを解任する株主総会決議(第一決議)がなされ、同年八月三一日Xを除くABCD四名の取締役を重任する株主総会決議(第二決議)がなされた場合、第二決議が無効又は不存在でないとき、Xの提起する第一決議の無効又は不存在確認の訴は訴の利益を欠くと解するのが相当である。その理由。(1) 取締役解任決議の無効又は不存在確認の訴(商法二五二条)は、法律関係の画一的処理をはかるため、過去の法律行為である株主総会決議の無効又は不存在につき特別に認められた確認の訴であるから、解任決議が無効又は不存在であつても、現在Xが取締役の権利義務を喪失しているときは訴の利益を否定すべきである。(2) 現在Xが取締役の権利義務を喪失しているとき、XはYに対し解任決議の無効又は不存在を主張して解任決議後取締役の権利義務喪失までの取締役の報酬請求訴訟を提起しうるから、(1) のように解してもXの利益保護に欠けるところはない。(3) 第一決議が無効又は不存在であつても、右取締役五名の任期満了後、定款所定の「三名以上」の右四名の取締役を重任する第二決議により、Xは取締役の権利義務を喪失した。

よつて、右第二決議の効力について判断する。

(1)  中野の取締役会の招集権限の有無。取締役会の招集権者は原則として各取締役である(商法二五九条本文)が、前記乙第七号証、当審証人中野昭郎の証言及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴会社は、定款で、代表取締役は二名、取締役会の招集権者は代表取締役、高砂出張所駐在の代表取締役は同所における所管業務に関するかぎりの代表権を有すると定めていること、中野は昭和五〇年三月当時被控訴会社高砂出張所駐在の代表取締役であつたことを認めうる。しかし、取締役会の招集は取締役会内部の行為であつて、代表権を有する者がする必要はなく、また、右定款は、取締役会の招集権者を代表取締役と定め、二名の代表取締役のうち高砂出張所駐在の代表取締役を除外していないから、右定款は右出張所駐在の代表取締役にも取締役会の招集権限を認める趣旨であると解するのが相当である。

(2) 原審証人中野昭郎の証言により真正に成立したと認めうる乙第一、二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認めうる乙第五号証及び同証言によれば、中野は昭和五〇年三月二〇日開催の取締役会を招集し、その通知は控訴人に対してはその子の河合貞久に招集通知書をことづけてなし、その他の三名に対しては直接同通知書を手渡してなし、右取締役会には取締役五名中控訴人を除く四名が出席し、出席者全員一致で控訴人を代表取締役から解任する決議をしたこと、中野は同年四月八日控訴人を除く取締役三名を招集して取締役会を開催し、出席者四名全員一致で控訴人の後任に河合英雄を代表取締役に選任したことが認められ、右認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果は前記証拠に対比して措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。ところで、同年四月八日開催の株主総会における控訴人を取締役から解任する決議が無効又は不存在であれば、控訴人に対しても同日開催の取締役会の招集通知をすべきであるが、同取締役会の議題は代表取締役を解任された控訴人の後任の選任だけであり、代表取締役を既に解任されている控訴人一名に対してだけ右取締役解任決議も有効と考えて右通知をしなかつたことなどからみて、右通知欠缺のかしは重大とはいえず、また、控訴人が右取締役会に出席、討議しても、控訴人は前記のように全員一致で代表取締役を解任済みであり、右取締役会においても全員一致で河合英雄が代表取締役に選任された経緯からみて、右取締役会の決議の結果に影響を及ぼさなかつたことを認めうる。従つて、右かしがあつても、右取締役会の決議は有効である。(最高裁昭和四四年一二月二日判決、民集二三巻一二号二三九六頁参照。)  (3)  前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年八月三一日開催の前記株主総会は右代表取締役河合英雄によつて招集され、同総会において前記取締役四名を重任したことが認められ、右重任決議が無効又は不存在であることを窺わせる証拠はない。

二  よつて、控訴人の本訴は確認の利益を欠くから却下すべきであり、これと異なる原判決を取消し、訴訟費用につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝 青木敏行 吉岡浩)

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