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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)804号 判決 1980年12月02日

控訴人

株式会社佳北

右代表者

藤井陽

右訴訟代理人

新谷勝

彦惣弘

被控訴人

林光昭

右訴訟代理人

橋本長平

主文

原判決を取消す。

控訴人の被控訴人に対する別紙目録記載の約束手形による手形金債務が存在しないことを確認する。

被控訴人の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも本訴、反訴を通じ被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、二<省略>

三  一記載の証拠により、控訴人は、統一約束手形用紙の受取人欄の印刷不動文字の「殿」の前に「星山」と、「殿」の直後に「限り」と手書きで追加記載して、本件手形を振出した(「殿」と「限」とは大体同じ大きさであり、「限り」と明白に読みとれる。控訴人は印刷された指図文句を抹消しなかつた。振出後に「星山」と「殿」との間に「起碩」と記載された。)ことを認めうる。

本件のように、統一約束手形用紙の受取人欄に「星山殿限り」と記載された場合、指図禁止と同一の意義を有する文言の記載があると解するのが相当である。その理由。手形取引において通常要求される理解力があれば、右手形全体の記載から、「星山殿に限り支払う」旨の文言の記載がある、したがつて指図禁止と同一の意義を有する文言の記載がある、と理解しうるからである。

なお、本件のように、「手形の振出人が、手形用紙に印刷された指図文句を抹消することなく、指図禁止文句を記載したため、手形面上指図文句と指図禁止文句が併記されている場合には、他に特段の事情のない限り、指図禁止文句の効力が優先し、右手形は裏書禁止手形にあたると解するのが相当である。」(最高裁昭和五三年四月二四日判決、判例時報八九三号八六頁)

よつて本件手形は指図禁止手形である。

四指図禁止手形も裏書と交付により譲渡の効力を生ずる。右裏書は固有の裏書としての人的抗弁切断、担保、資格授与の各効力を認めえないが、譲渡の意思表示としての効力を認めうる。

五本件のように、甲が乙に対し指図禁止約束手形を振出し、乙が丙に対し記名式裏書をして右手形を交付譲渡し、丙が右手形を支払場所に呈示した場合、丙の右呈示は、乙丙間の右譲渡につき、乙の甲に対する対抗要件としての通知の効力があると解するのが相当である。その理由。(イ) 指図禁止手形も、権利の移転、行使のために証券の交付、所持を必要とする有価証券であり、乙が記名式裏書をした右手形の右呈示により、甲は右譲渡の事実を確実に知りうるから、右手形の右呈示は、右通知の方法として適切妥当であると評価しうる。右のように解しても、指図禁止手形振出目的の達成を阻害しない。右手形の右呈示がなされた場合、更に別の方法による通知を要求することは無意味である。(ロ) 民法四六七条は右通知の方法を限定していない。指図禁止手形の譲渡の場合、(イ)の有価証券性から債務者以外の第三者に対する対抗要件は必要でなく、民法四六七条は修正を受けている。

六丙の甲に対する指図禁止約束手形の手形金請求訴訟において、丙が、「甲は乙に対し約束手形を振出し、乙は丙に対し記名式裏書をして右手形を交付譲渡し、丙は右手形を支払場所に呈示した。」と主張した場合、乙丙間の右譲渡につき、乙の甲に対する対抗要件としての通知の主張もしていると解するのが相当である。右のように解しても、甲に不意打を与えるおそれはない。

七控訴人が本件手形譲渡につき異議を留めない承諾をした旨の被控訴人主張事実を認めうる証拠はない。<以下、省略>

(小西勝 潮久郎 藤井一男)

目録<省略>

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