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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)851号 判決 1980年4月07日

控訴人

三伸開発株式会社

右代表者

河岸武士

右訴訟代理人

松枝述良

高木清

被控訴人

東谷農業協同組合

右代表者理事

山下善三郎

右訴訟代理人

中村吉輝

手取屋三千夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>によれば、被控訴人に対し、昭和五一年八月一三日金額一、二〇〇万円、期間六カ月、利率年5.85パーセントとする約定の無記名定期預金(以下本件定期預金という)が預入れられたこと、そして右一、二〇〇万円は、同年八月六日付で控訴人が振出した支払人京都信用金庫修学院支店とする金額一、二〇〇万円の小切手が支払われることによつて預入れられたものであることが認められる。

そこで本件定期預金の預金者について検討する。<証拠>によれば、次の事実が認められる。

昭和五一年八月当時、被控訴人の理事でかつ組合長(非常勤)であつた訴外武林重明は、そのころ訴外松枝茂夫らの手引きで、福井県内において公園墓地の造成販売事業を計画していたところ、松枝の介在により、右事業の資金需要に充てるため、控訴人代表者の河岸武士から融資を受ける話合いが進んだ。そして武林は、同年八月五日福井県芦原温泉の旅館で河岸や訴外大塚拓男と会合し、河岸から武林に五、〇〇〇万円の融資が話題に上り、結局とりあえず一、二〇〇万円を融資することに話しがまとまつたのであるが、その際武林は、河岸が出捐する一、二〇〇万円を自らが組合長をしている被控訴人に定期預金として預入れて貰う方が被控訴人にとつても利益になるから、そうして欲しいと希望するとともに、河岸に対し、右融資額に対して月三分の割合による利息金を支払う旨約束した。そこで翌六日午後、河岸は、武林や大塚と共に被控訴人事務所を訪れ、同所で振出人控訴人、支払人京都信用金庫修学院支店、振出日昭和五一年八月六日、金額一、二〇〇万円の小切手を作成し、居合わせた被控訴人の参事で業務を総括担当している訴外表富夫に対し、右小切手を定期預金に預入れると申出た。表は、従前武林から福井で公園墓地の造成事業を行うことになり融資先も見つかつた、融資を受けたなら右融資金を被控訴人に定期預金として預入れるから、この預金を担保に資金を貸付けて貰いたい旨依頼されていたので、これがかねて武林から言われていた預金の申出と察知したが、被控訴人としては、もともと組合員以外から預金を受入れることは特別の場合を除いてしていなかつたし、河岸とは未知の間柄であるので、河岸に対し、同人の定期預金としては受入れられないが、武林の定期預金であるならば受入れることができる旨答えた。河岸もこれを了承し、右小切手が決済された際にはこれを武林の定期預金とする趣旨で、武林から表に右小切手が手渡されたが、河岸から表に預金証書の交付を求めてきたので、表は、右小切手が円滑に決済されるものかどうか未定であるうえに、預入れられる定期預金の預金者は武林であつて控訴人ではないのであるからと預金証書の交付を拒んだ。すると河岸から預入れた小切手そのものの預り証の発行を表に要求したので、表は「武林が持参した前記の小切手を預つたにつき、定期預金証書と本書を引替えとするので大切に保管下さい」旨の文面で控訴人宛の預り証を作成し、河岸に交付した。他方武林は、前記一、二〇〇万円の融資額に対する約定利息金の先払として、振出日同月九日、金額二八八万円の小切手を河岸に振出し交付し、右小切手は同月一二日に決済されている。そして被控訴人に預けられた前記小切手は同月一〇日支払人に呈示されて決済されたが(右小切手決済の事実は当事者間に争いがない)、右金額は同月一三日被控訴人に設けられた武林の当座貯金口座に振込み入金され、即日引出されて金額一、二〇〇万円の本件定期預金に預入れられた。本件定期預金のの預主印鑑として武林の印鑑が届出られ、無記名の定期貯金通帳が発行されて武林に交付された。そして直ちに武林は右預金を担保として被控訴人から一、二〇〇万円の貸付を受けた。表は、武林に右定期貯金通帳を発行した際、先に河岸に交付しておいた前記預り証の返還を武林を通じて河岸に要求したが、返還されないままに終つた。本件定期預金は、その後同年九月二〇日武林の申出により解約され、右預金をもつて被控訴人の武林に対する右貸付金が相殺決済されるにいたつた。

以上の事実が認められ<る。>

右認定の事実関係によれば、本件定期預金は、実質的には控訴人振出の同金額の小切手により支払われた金員をもつて預入れられているものの、右小切手は控訴人代表者の河岸武士から武林重明に対する融資として交付され、右融資金を被控訴人に武林が自らの定期預金として預入れることを河岸においても了解し、被控訴人これを武林の預金として受入れ処理をし、その預金証書と届出印鑑を所持していた者は武林であるから、本件定期預金の預金者は控訴人ではなく武林というべきである。

してみると、控訴人は、本件定期預金の預金者として、被控訴人に対し預金の払戻しを請求する権利はないものというべく、従つて被控訴人が控訴人の右請求を拒否することも当然で正当な理由があるわけであるから、これが不法行為となることはない。控訴人が本訴追行のため本件訴訟代理人に支払を約束した弁護士費用をもつて、被控訴人の不法行為により控訴人の被る損害と目しえないことは明らかであつて、被控訴人にこれが賠償の責任はない。従つて控訴人の主位的請求は理由がない。

二次に控訴人主張の予備的請求について考えるに、前記認定のように、控訴人振出の小切手金をもつて武林が被控訴人に定期預金として預入れることは控訴人の了解するところであるから、武林が控訴人から右小切手を騙取又は横領したということはできない。従つて武林の不法行為によつて控訴人が損害を被つたことはないので、これを前提とする予備的請求は理由がない。<以下、省略>

(石井玄 坂詰幸次郎 豊永格)

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