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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)93号 判決 1980年2月21日

控訴人 辻房雄

右訴訟代理人弁護士 松川雄次

同 井上博隆

同 野上精一

控訴人 水沼計恵

控訴人 並木一夫

控訴人 藤川政治こと 藤川武久

控訴人 大江卓弥

控訴人 大木正夫

控訴人 稲葉慶雄

右控訴人六名訴訟代理人弁護士 辺見陽一

被控訴人 更生会社日興観光株式会社管財人 井上隆晴

右訴訟代理人弁護士 中本勝

主文

一、控訴人辻房雄、同並木一夫に対する原判決を次のとおり変更する。

1. 控訴人辻房雄、同並木一夫は被控訴人に対し、更生会社日興観光株式会社サンイーストカントリー倶楽部のゴルフ会員権債権として各金二八〇万円の更生債権を有することを確定する。

2. 被控訴人は、右控訴人らに対し、右倶楽部の会員としてその名義変更手続をせよ。

3. 右控訴人らのその余の請求はいずれも棄却する。

4. 訴訟費用は第一、二審を通じ、右控訴人らと被控訴人との間に生じた部分はこれを五分し、その一を右控訴人ら、その余を被控訴人の負担とする。

二、1. 控訴人水沼計恵、同藤川武久、同大江卓弥、同大木正夫、同稲葉慶雄の本件各控訴を棄却する。

2. 右控訴人らが当審で拡張したその余の請求を棄却する。

3. 控訴費用中、右控訴人らと被控訴人との間に生じた部分は右控訴人らの負担とする。

事実

第一、申立

一、控訴人辻房雄

1. 原判決を取消す。

2. 控訴人辻は被控訴人に対し、更生会社日興観光株式会社(以下、更生会社という)サンイーストカントリー倶楽部のゴルフ会員権債権として金三五〇万円の更生債権を有することを確定する。

3. 被控訴人は控訴人辻に対し、右倶楽部の会員としてその名義変更手続をせよ。

4. 訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

二、控訴人辻を除く控訴人ら六名

(主位的請求)

1. 原判決を取消す。

2. 被控訴人は、控訴人水沼に対し原判決別紙目録(二)、同並木に対し同目録(三)、(四)(イ)、同藤川に対し同目録(四)(ロ)、同大木に対し同目録(四)(ハ)、同大江に対し同目録(五)(イ)、同稲葉に対し同目録(五)(ロ)各記載のゴルフ会員権の登録手続をせよ。(当審において拡張した請求)

3. 控訴人水沼は右目録(二)、同並木は右目録(三)、(四)(イ)、同藤川は右目録(四)(ロ)、同大木は右目録(四)(ハ)、同大江は右目録(五)(イ)、同稲葉は右目録(五)(ロ)各記載のゴルフ会員権につき更生会社のゴルフ場施設を優先的継続的に利用する施設利用権及び右各目録記載の各預託金返還請求権を有することを確定する。

4. 訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

(控訴人水沼を除く右控訴人五名の予備的請求)

1. 原判決を取消す。

2. 更生会社に対し、控訴人藤川は金四六〇五万円、同並木は金六〇〇万円、同大木は金一六〇〇万円、同大江は金八〇〇万円、同稲葉は金二〇〇万円の各更生債権を有することを確定する。

3. 訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

三、被控訴人

1. 本件各控訴を棄却する。

2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二、主張及び証拠関係

左のとおり付加、訂正、削除をするほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、1. 原判決三枚目裏六行目及び五枚目裏九行目に「更生管財人」とあるのを「管財人」と訂正し、同三枚目裏一〇行目の「右会員権を譲り受けた者より」とあるのを削除する。

2. 被控訴人は「本件につき保全管理人が選任された旨の登記は昭和五〇年七月二三日になされた」と主張し、控訴人らは、右事実は認めると述べ、控訴人藤川は「同年八、九月ごろは右保全管理人が選任されていたことを知らなかった。」と述べた。

二、証拠<省略>

理由

一、請求原因(一)(五)の各事実は当事者間に争いがない。

二、成立に争いない甲第六、第九ないし第一一号証、乙第三号証、更生会社又はその代表者名下の印影が右会社又はその代表者の印章により顕出されたものであることは被控訴人の認めるところであって他に反証はないので真正に成立したものと推定すべき甲第三号証の一、同第七、第八号証、甲第一、第二号証の一、二、原審における証人梅本昌男、同仲晋の各証言、控訴人藤川武久本人尋問の結果、当審における証人吉井宏の証言に弁論の全趣旨を合わせ考えると、以下の事実が認められる。

1. 更生会社はサンイーストカントリー倶楽部というゴルフ場を経営する会社で、更生手続開始決定がなされた以前においては、同倶楽部入会の手続は、更生会社に入会申込書を提出し、同倶楽部理事会の承認を得たのち、同会社に所定の入会金を預託することによって会員の資格(以下、会員権という)を取得し、会員権を有する者は、前示ゴルフ場施設を継続的に利用する債権及び三年の据置期間後の右預託金返還請求権を有することとなり、同理事会の承認を得て右会員権を他に譲渡してその名義を変更することができるものとされていたが、同理事会が設置されていなかったので、更生会社が理事会のなすべき右事務を行っていた。そして更生会社は入会した会員に対し預託金(入会金)預り証、会員券(会員証書)を交付していた。

2. 訴外梅本昌男は、昭和五〇年二月更生会社の代表取締役に就任したものであるが、これよりさき昭和四七年一二月同会社の発行済株式の七割を取得し、以後同会社の経営に実質上参画していた。そして訴外梅本は、昭和四九年一月中旬ごろ、更生会社に融資をした代償として、同会社より、同会社に代って原判決別紙目録(一)(三)記載の前示倶楽部会員券を発行してみずから各二八〇万円の預託金を受領して同会員を募集することを許され、所定の各用紙の交付を受けたので、そのころ、同倶楽部に入会を申し込んだ控訴人大木に右(一)、控訴人藤川に右(三)の会員券を発行して、両名から各二八〇万円の預託金を受領し、それぞれ両名に会員券及び預託金預り証を交付した。さらに、昭和四九年夏ごろ、控訴人大木は右(一)に関する会員権を控訴人辻に譲渡し、控訴人藤川は右(三)に関する会員権を控訴人並木に譲渡したが、いずれも同倶楽部の会員名義変更手続をしない間に同会社につき更生手続開始決定がなされた。なお、訴外梅本は、控訴人大木、同藤川が前示(一)(三)の会員申込をなすにあたり、同人らと、右(一)(三)の会員権の譲渡に伴う名義変更については、少くとも第一回目の譲受人の名義変更につき、無料でかつ特段の承認手続を経ることなくこれに応ずる旨約定し、更生会社も、右約定を承認していた。

以上の認定によれば、控訴人辻、同並木は、いずれも更生会社に対し各金二八〇万円の前示倶楽部のゴルフ会員権に基づく更生債権を有するものというべく、被控訴人は、右控訴人両名に対し同倶楽部の会員名義の変更手続に応ずる義務があると解すべきである。なお控訴人並木の申立第一、二2の趣旨は右名義変更を求めるものと解され、同3の趣旨のうち施設利用権を有することの確定を求める部分は、右更生債権を確定し名義変更をすることによって付帯的に生ずる債権であるからこれを付加して求める必要(利益)はないというべきである。

ところで、原審の控訴人藤川本人尋問の結果によると、同人は、以上のほか、昭和四九年春ごろ訴外梅本昌男に対し前示倶楽部入会金として二八〇万円を預託し、昭和四八年一〇月二〇日付更生会社代表取締役社長吉井宏発行名義の宛名欄空白で会員券番号A―四八六号とした預り証(甲第二号証)の交付を受けていたところ、同四九年夏ごろ右預託金返還請求権を控訴人水沼に譲渡したことが認められる。しかし、前示甲第九ないし第一一号証、当審証人吉井宏の証言によると、昭和四八年一〇月ごろ更生会社の代表者であった同証人がそのころ及びそれ以後自己名義の入会金預り証を発行したことはなく、特に同年八月に訴外西沢袈裟人が共同代表取締役に就任して以後は、前示倶楽部の入会申込書、会員証書、入会金預り証の各用紙はすべて更生会社の会長広瀬某が保管していたものであること、右吉井証言、原審証人仲晋の証言、前示乙第三号証を総合すると、更生会社が訴外梅本昌男に対し、その融資の代償として前示倶楽部会員の募集を許諾したうえ同人に交付した会員証書、入会金預り証用紙は西沢社長発行名義のものに限られていたこと、がそれぞれ認められる。そして、以上の事実に、控訴人藤川が訴外梅本に前示入会金を預託したさい、預り証(甲第二号証)のみ交付を受け会員証書の交付も受けていない点に照らすと、右入会金の授受は、更生会社の承諾がなく行われたものと推認せざるを得ないのであって、控訴人藤川ないし同水沼が更生会社に対しその主張のごとき前示倶楽部会員権を取得した旨の原審証人梅本昌男、控訴人藤川本人の各供述は措信できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

三、前示乙第三号証、成立に争いない乙第一号証によると、訴外太平工業株式会社が昭和五〇年六月大阪地裁に対し更生会社につき更生手続開始の申立を行い、同庁は同年七月二一日更生会社につき保全管理人による管理を命ずる保全処分(以下、管理命令という)をなし保全管理人に弁護士井上隆晴を選任したことが認められ、同保全管理人の就任(管理命令)登記が同年七月二三日に経由されたことは当事者間に争いがない。

以上認定の事実、前示乙第三号証、原審における証人仲晋、同梅本昌男の各証言、控訴人藤川本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせ考えると、更生会社の代表取締役梅本昌男は、昭和五〇年四・五月ごろ更生会社振出名義の約束手形五通額面合計金四六〇五万円につき控訴人藤川に割引をして貰っていたところ、前示保全管理人の就任登記を経由したのちの同年八・九月ごろ、同保全管理人に無断で、同控訴人に対し右割引金債務の代物弁済として、原判決別紙目録(四)(イ)(ロ)(ハ)(五)(イ)(ロ)記載のとおり前示倶楽部会員券番号を記入してある更生会社代表取締役発行名義の一口二〇〇万円の同倶楽部入会金預り証二三通を交付したこと、その後右預り証に基づく債権は、控訴人藤川から、右(四)(イ)は控訴人並木、同(四)(ハ)は同大木、同(五)(イ)は同大江、同(ロ)は同稲葉にそれぞれ譲渡されたこと、が認められる。

ところで、更生手続開始の申立があった会社に対し、裁判所が会社更生法三九条一項後段により保全管理人による管理命令をしたときは、同法四〇条により会社の事業の経営ならびに財産の管理及び処分をする権利は保全管理人に専属し、従来の取締役その他の会社の役員は会社の事業の経営、財産の管理処分の権能を失うこととなり、裁判所は、管理命令をした旨を商業登記簿に登記の嘱託(同法一八条の二)をするほか公告(同法三九条五項)をしなければならないこととされている。したがって、保全管理人ないし管財人は、商法一二条に基づき、管理命令の登記、公告がなされたときはこれをもって善意の第三者にも対抗できるのであって、第三者は同条所定の正当事由のない限りこれを否定することはできない(最高裁第二小法廷昭和四九年三月二二日判決、民集二八巻二号三六八頁参照)。

本件につきこれをみるに、更生会社に対する管理命令により代表者梅本が会社財産の管理処分の権能を喪失し、同命令の登記がなされたのち、控訴人藤川は右梅本から前示預り証を代物弁済により取得したものであるが、そのさい同控訴人は管理命令がなされたことにつき善意であったと主張するのみで同命令の登記を知らなかったことにつき商法一二条所定の正当事由があったことの主張立証はない。そうすると、仮に梅本が右預り証の交付のみにより前示倶楽部会員権を控訴人藤川に譲渡する趣旨であったとしても、前説示により、梅本には右会員権を譲渡する権能がなかったのであるから、控訴人藤川、同並木、同大木、同大江、同稲葉においてその主張の会員権を取得するに由なきものというべく、右会員権の取得を被控訴人に対し主張することが許されないことも明らかである。

四、つぎに、控訴人藤川、同並木、同大江、同大木、同稲葉らの不当利得に基づく更生債権の確定を求める予備的請求につき検討する。

更生債権者又は更生担保権者(以下、更生債権者等という)が、その届出債権につき債権調査期日において管財人から異議を述べられたとき、その異議を排除するため提起する更生債権又は更生担保権確定の訴は、会社更生法一五〇条により、更生債権者表又は更生担保権者表(以下、単に債権者表という)に記載した事項についてのみ許されている。これは、債権者表に記載した事項と異なる権利、給付の内容、数額、優先権、議決権等の主張ができるものとすると、その事項については、他の更生債権者等から異議を述べる機会を奪うこととなるのであって、同法一四三条等により債権調査期日において、管財人、更生債権者等及び関係人に、等しく届出更生債権等に異議を述べる機会を与え、権利の確定をこれらの者の意思にかからしめている同法の趣旨に反するからである。しかしながら、更生債権又は更生担保権確定の訴においては、後記理由により、債権者表に記載した事項と異る原因であっても、それが前者とその権利の実質的関係が同一である限りこれを許すべきである。すなわち、更生手続に参加しようとする更生債権者等は、その権利の内容及び原因等を裁判所に届け出で、これが債権者表に記載される。ところが、事実関係が不明確であること等により、当初の届出段階では的確な権利を選択して届け出ることを期待し難い事案もありうるのであって、かかる場合に、債権者がその後に、より適切な権利に変更しようとすれば、債権届出期間内であればその旨届け出ればよいが、同期間経過後においては、追完の要件がきびしく更生計画案審理のための関係人集会が終ったのちは、もはや追完も許されていない(同法一二七条等)ので、債権者表の記載事項の変更を求める余地がない。したがって、右のような事案で、更生債権又は更生担保権確定の訴において、債権者表に記載した事項と異る原因を主張することを全く許さないとするのはその債権者に難きを強いる結果となるし、他方では、これを許すと他の更生債権者等や関係人の異議権を損なうこととはなるが、これらの者には、すでに債権者表の記載事項について異議権を行使する機会が与えられていた点を考慮すれば、これと異る原因であっても、それが権利の実質的関係において同一である限り、あらためて異議権を行使する機会を与えないでも不当にその利益を害するものとはいえないからである。そして、以上説示の限度を超え債権者表に記載した事項と異る原因を主張することは不適法というべきである。

本件につきこれをみるに、弁論の全趣旨によれば、前示控訴人らは、それぞれ主位的請求原因で主張するゴルフ会員権に基づく更生債権を裁判所に届け出で、その旨更生債権者表に記載されていることがうかがわれるところ、控訴人藤川の予備的請求の金額は更生債権者表に記載された債権額を超えているほか、右控訴人らの主張にかかる不当利得に基づく債権は、いずれも更生債権者表に記載した事項とは、その経済的、社会的利益が別個のもので権利の実質的関係を異にするものであることは明らかであるから、右控訴人らの請求は前説示の理由により不適法というべきである。

五、以上のとおりであるから、控訴人辻、同並木の被控訴人に対する請求は主文一項1、2の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべく、右と結論を異にする原判決を主文一項のとおり変更し、その余の控訴人らの被控訴人に対する請求(当審で拡張した請求を含む)はいずれも失当で本件各控訴は理由がないのでこれを棄却し、民訴法九六条、九二条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 丹宗朝子 西田美昭)

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