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大阪高等裁判所 昭和54年(ラ)154号 決定 1979年7月06日

抗告人 高田靖男

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は、別紙のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告人は、同人において、高田誠(本件被相続人)から、誠の生前、抗告人の現住家屋(原審判添付遺産目録別紙(1)第一不動産3記載。)を賃借していた、抗告人において本件相続家屋、特に同人の現住する右家屋に対して、修理・改造費を出捐した旨主張する。

しかしながら、一件記録によるも、抗告人主張の右各事実の肯認し得ぬこと、原審判認定説示(同審判一一枚目表一二行目「相手方靖男代理人」から同一二枚目表七行目「・・・・・・採用できない。」まで。および同一三枚目裏二行目「本件にあらわれた」から同一二行目「られない。」まで。)のとおりであるから、これを引用する。(ただし、同審判一一枚目表末行「裏付ける」と「資料」との間に「に足りる」を挿入のうえ、右「資料」を「証拠」と訂正し、同行「一切」から同一一枚目裏一行目「存しない。」までを「抗告人の原審における陳述、同人作成の昭和五一年八月二四日付陳述書以外になく、右各証拠は、後記認定説示に照らし、直ちに信用することはできない。」と訂正。更に、同審判一一枚目裏一〇行目「かえつて、」と「相手方加藤」との間に「申立人山本洋子、相手方加藤順子、の原審における各陳述および」を挿入。)

右認定説示に反する、抗告人の、この点に関する主張は、理由がなく採用できない。

又、抗告人は、原審判は本件遺産の全不動産を過大評価している旨主張する。

一件記録によれば、原審判は、右不動産中豊中市所在分については鑑定人○○○○の、岡山市所在分については鑑定人○○○○○の、各鑑定結果を採用し、右不動産の評価をしたことが認められるところ、右鑑定結果には、その鑑定方法、それによつて導出された対象不動産の評価につき、特段の非難すべき点はみあたらないし、右鑑定結果が当該不動産を過大評価しているとの点も、これを肯認するに足る証拠がない。

よつて、右認定説示に反する、抗告人の、この点に関する主張も、全て理由がなく採用の限りでない。

2  抗告人は、原審判が相続分譲渡人として本件分割当事者から除外した高田光には、未た本件不動産の相続登記に協力する義務があるから、原審判の右措置では、未だ本件遺産分割手続は名実ともに結了していない、遺産分割が必要的共同訴訟の形態をとることとの関連からも、右光の相続人をして本件遺産分割手続の受継をさせるべきである旨主張する。

(一)  本件被相続人亡高田誠の相続人は、同誠の妻光(本件遺産分割調停申立当時の申立人)ならびに長男靖男(本件相手方=抗告人)、長女洋子(本件申立人)および次女順子(本件相手方)であること、抗告人と光との間に、昭和四七年五月一九日、光の本件持分権(相続分)につき、光を譲渡人抗告人を譲受人とする譲渡契約が締結されたこと、右契約の内容、光が昭和四七年六月三〇日原裁判所調停委員に対し本件調停申立を取下げる旨の意思表示をしたこと、光が昭和五一年一二月二五日死亡したこと、は原審判認定(同審判八枚目裏八行目「相続人は」から同九行目「であり、」まで。同一二行目「誠の死後」から同九枚目表六行目「認められる。」まで。同八行目「(本件において」から同一〇行目「明らかである。)」まで。同九枚目裏六行目「(光は」から同七行目「をしているが、」まで。同九行目「光は」から同行「死亡し、」まで。)のとおりである。

しかして、一件記録によれば、光の、右認定にかかる本件調停申立取下げの意思表示に対し、他の相続人(抗告人を含む。)において特段の異議を述べなかつたこと、本件相続分譲受人たる抗告人が終始爾後の本件手続に関与していたこと、が認められる。

右認定事実に基づけば、原審判が、共同相続人間で相続分の譲渡が行われた場合、相続分譲渡人は右譲渡により遺産分割手続の当事者適格を失うとの見解の下に光を本件分割当事者より除外したのは正当というべきである。

(二)  確に、遺産分割に関する審判は、所謂固有必要的共同訴訟に類似する性格を有するから、共同相続人全員につき合一的に確定することが要請される。

しかしながら、一方、相続分の譲渡は、これによつて共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移転され、同時に譲受人は遺産分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならぬ地位を取得するのであるから、遺産分割に関する審判前に、相続分の譲渡が行われた場合、相続分譲受人がその地位に基づき爾後の遺産分割手続に関与していれば、それで、共同相続人全員につき合一確定の要請は充足される、というべきである。

これを本件についてみるに、本件相続分譲渡が共同相続人たる光と抗告人間で行われたこと、相続分譲受人たる抗告人が終始本件遺産分割手続に関与していたこと、は前叙認定のとおりであるから、原審判が本件相続分譲渡人光を前叙見解の下にその分割当事者から除外していても、右審判が合一的確定に関する前叙要請に違反しているということはないというべきである。

(三)  そして、抗告人は、本件相続分を譲渡しても、光に、未だ、本件不動産の相続登記に協力する義務が残つている旨主張する。

しかしながら、抗告人の右主張は、その根拠が明らかでないのみならず、かえつて、相続分譲渡の法的効果に関する前叙説示に照らすと、本件相続分譲渡人たる光に抗告人主張の如き登記上の義務の残留を認める合理的根拠がない。

(四)  抗告人のその余の主張は、結局、光に右登記上の議務が残留することを前提とするところ、右義務の残留の認め難いこと、右説示のとおりであるから、抗告人の右主張は、その当否を判断するまでもなく、既にその前提とする点で失当というほかない。

3  その他一件記録を精査しても、抗告人の本件抗告を認容すべき事由の存在を認定することができない。

しからば、原審判は、正当というべきであり、抗告人の本件抗告は、全て理由がない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 岩川清 鳥飼英助)

抗告理由書<省略>

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