大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和54年(ラ)242号 決定 1979年7月31日

抗告人

梅鉢鋼業株式会社

右代表者

嶋田外喜男

右代理人

浅岡建三

田中英一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  一件記録によれば、抗告人は、東鋼産業株式会社(以下「東鋼産業」という。)に対し継続的に鉄鋼製溝蓋等の商品を売渡し、昭和五四年三月八日現在金五〇〇〇万円を超える売掛代金債権を有するに至つたこと、東鋼産業は原決定添付別紙第三債務者目録記載の第三債務者らに対し抗告人から買受けた右商品の一部を転売し、合計金一二一四万八六五一円の転売代金債権を取得したこと、その後の昭和五四年三月一九日東鋼産業は大阪地方裁判所において破産宣告の決定を受けたことを認めることができる。

2  抗告人は、東鋼産業の破産後でも動産売買についての先取特権の物上代位権により同会社の第三債務者らに対する転売代金債権を差押えて別除権を行使することができる旨主張するが、右主張は以下の理由により採用することができない。

(一)  民法三〇四条一項但書において先取特権者が物上代位権を行使するには金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をすることを要するものとしている趣旨は、物上代位権の対象となる債権を特定するためだけではなく、あわせて物上代位権の存在を公示し取引の安全を保護するにあるものと解するのが相当である。よつて、先取特権者が物上代位権を行使するためには先取特権者自身による差押を優先権保全の要件とするのであり、先取特権者は、自ら差押をしてその物上代位権の存在を公示することにより、はじめて第三者にその優先権をもつて対抗することができるものといわなければならない。

(二)  ところで、破産者が破産宣告の時において有する一切の財産は破産財団に属することになり、破産宣告後に破産財団に関する財産に関して権利を取得し又は対抗要件を具備しても、破産財団ひいてはその代表機関である破産管財人に対抗することはできないのであるから(破産法五四条、五五条)、先取特権者は破産者(債務者)の第三債務者に対する売掛代金債権を破産宣告前に差押えないかぎり、破産財団ひいては破産管財人に対し右売掛代金債権について物上代位権による別除権の行使を主張することができないものというべきである。

(三)  本件において、前記認定事実によれば、東鋼産業の第三債務者らに対する前記転売代金債権は、同会社の破産宣告により破産財団に属することになつたものであるところ、抗告人は破産宣告前に右転売代金債権を自ら差押えたことを主張立証しないから、その先取特権に基づく物上代位権を破産財団ないし破産管財人に対抗することができず、従つて、その物上代位権の行使として破産管財人を相手方として右転売代金債権の差押を求めることはできないものといわなければならない。

3  よつて、原決定は結論において相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(川添萬夫 吉田秀文 中川敏男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例