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大阪高等裁判所 昭和54年(ラ)575号 決定 1979年12月24日

抗告人 石原開発株式会社

右代表者代表取締役 石原則之

抗告人 石原則之

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

(抗告の趣旨)

原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。

(抗告の理由)

原裁判所は本件競売の目的たる別紙目録記載の不動産を札場平司の賃借権が存在するものとして入札に付したが、右賃借権は、札場逸八郎及び札場平司の両名が抗告人石原則之及びその長男閧一を恐喝して抗告人石原開発株式会社の代表者印を取り上げこれを冒用して偽造した賃貸借契約書に基づくもので、真実は存在しないものであり、したがって入札期日の公告に記載された借賃、敷金等は支払われた事実が全くない。

このように存在しない賃貸借を存在するものとして入札に付されたため、入札価額が下落して所有者である抗告人石原則之及び債務者である抗告人石原開発株式会社は損害を被った。

よって、抗告の趣旨のとおりの裁判を求める。

(当裁判所の判断)

1  一件記録によると次の事実を認めることができる。

(一)  本件競売手続は、債権者株式会社第一勧業銀行の抵当権に基づく申立により抗告人石原則之所有の別紙目録記載の不動産について開始されたものであり、右抵当権は昭和四八年一一月一二日設定登記されている。

(二)  右不動産については賃借権の設定登記は一切ないが、昭和五〇年五月一六日賃貸人を所有者抗告人石原則之、賃借人を札場平司とし、存続期間昭和六〇年五月一六日までの一〇年間、賃料月額五〇〇〇円、敷金三〇〇〇万円とする賃貸借契約が締結され、札場平司が右契約の当日より右不動産を占有している。

(三)  原裁判所は、本件入札期日の公告に賃貸借関係として、「賃貸借範囲 土地建物全部、賃借人 札場平司、期限 五〇年五月一六日から六〇年五月一六日まで、借賃 一か月五〇〇〇円、借賃前払額 なし、敷金差入額 五〇〇〇万円」と記載した(右敷金差入額は三〇〇〇万円の誤記と認められる。)。しかし、右賃貸借が競落人に対抗しえないものである旨の記載も、これに先立つ抵当権設定登記の経由された日時の記載もない。

以上の事実を認めることができる。

2  被告人らは、札場平司の賃借権は、同人ほか一名が抗告人石原則之らより喝取した印鑑に基づき偽造した賃貸借契約書によるもので真実は存在しない旨主張するが、これを認めるに足りる資料はないから、右主張は採用することができない。

3  ところで、競売(入札)期日の公告に賃貸借関係の記載をする目的は、当該不動産の価格を推知させる資料とするとともに、競落人に対し承継すべき賃貸借を知らせ、それによって競売の信用を維持することにあるものと解すべきであるから、競落人に対抗することのできないことが明らかな賃貸借を対抗できないことを明示しないで公告に記載することは違法であると解すべきである。抵当権者したがって競落人に対抗しえない賃貸借は公告に記載することを要しないことは大審院の確定した判例であり、単に賃貸借ありと公告に記載するときは競買(入札)希望者は対抗力のある賃貸借があるものと誤認し、記録を調査するまでもなく競買(入札)申出を断念するおそれがあることは、経験則上明らかである。対抗力の有無は記録の調査によって明白となるから誤認を生ぜしめるおそれはなくしたがって対抗力のない賃貸借を公告に記載しても違法ではないとの考え方は、当裁判所の採らないところである。

前記認定事実によれば、前記公告に記載されている抗告人と札場平司との賃貸借は、本件競売の基本となった抵当権設定登記の日より遅れており、また、いわゆる短期賃貸借にも該当しないから、競落人に対抗することができないことが明らかであるところ、本件公告はその旨を明示しないで右賃貸借の記載をし、しかも敷金の差入額三〇〇〇万円を五〇〇〇万円と誤記しているのであるから、違法であるといわなければならない。原裁判所は、適式な公告をしたうえで、再度入札に付すべきである。

よって、民事訴訟法六八二条三項、六七四条、六七二条四号、六五八条三号により原決定を取消し、本件競落を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 吉田秀文 中川敏男)

<以下省略>

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