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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)19号 判決 1979年12月18日

控訴人 出世稲荷神社

被控訴人 国

代理人 平井義丸 友沢英樹 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(控訴人)

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人が昭和五二年一二月二三日付京財管二第一六六号によりなした原判決別紙物件目録(一)記載の土地を控訴人に売り払わないとする旨の処分を取消す。

(三)  被控訴人は控訴人に対し、右土地につき控訴人より金二、八七三、一七九円の支払いを受けるのと引き換えに時価売払を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文と同旨

二  主張及び証拠

次に付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(控訴人)

(一) 社寺処分法による国有境内地の譲与は実質的には旧所有権の返還であり、同法所定の無償または半額売払から洩れた場合でも、右境内地について使用料相当の弁償金の徴収とともにこれを当該社寺に時価売払することは国の強力な方針であるところ、被控訴人は控訴人が昭和二四年四月五日にした右売払申請を昭和二八年三月二八日付で受理し、昭和三二年九月二五日控訴人からの弁償金徴収を決定し、同時に被控訴人の定める時価による売払を応諾したのであつて、ここに控訴人への売払は確定し、売買契約としても成立したものであり、前記弁償金は右証拠金または契約金ともいうべきものである。

(二) <略>

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、そのうち処分の取消を求める部分は不適法であり、その余は理由がないものと考える。その理由は、原判決理由説示と同じであるからこれを引用する(但し、九枚目裏九行目の「継続」を「断絶」と訂正)。なお控訴人主張の弁償金は、無償貸付関係断絶後の本件土地使用に対するものであることが<証拠略>からも明らかであつて、これを控訴人のいうような証拠金または契約金と同視することはできず、被控訴人が本件土地の売払を決定ないし応諾した事実は認められない。そして弁論全趣旨によれば、被控訴人は原判決別紙物件目録(二)記載の土地については控訴人の昭和二三年四月三〇日の申請により無償譲与を認めたが、本件土地は前記弁償金徴収後調査の結果控訴人の申出と異なりその一部を訴外川口富槽が建物敷地等に独自に使用していることが判つたとして、国有財産法二〇条一項の売払も拒否するに至つたことが認められる。

よつて、本件控訴は理由がないから、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒川正昭 志水義文 林泰民)

【参考】第一審判決 (京都地裁 昭和五三年(行ウ)第七号 昭和五四年三月二三日判決)

主文

一 原告の本件訴えのうち、被告が昭和五二年一二月二三日付京財管二第一六六号によりなした別紙物件目録(一)記載の土地を原告に売り払わないとする旨の処分の取消を求める部分を却下する。

二 原告のその余の請求を棄却する。

三 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

1 被告が昭和五二年一二月二三日付京財管二第一六六号によりなした別紙物件目録(一)記載の土地を原告に売り払わないとする旨の処分を取消す。

2 被告は、原告に対し、右土地につき、原告より金二、八七三、一七九円の支払いを受けるのと引き換えに時価売払を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告は宗教法人であり、別紙物件目録(一)の土地(以下「本件土地」という。)及びこれに隣接する別紙物件目録(二)の土地(以下「隣接土地」という。)を寛文三年以来神社境内地として所有してきたところ、右各土地は明治四年社寺上地処分又は明治六年以降の地租改正処分により国有地に編入されたが、旧国有財産法(大正一〇年法律第四三号)二四条により原告に無償で貸し付けられたものとみなされていた。

2 日本国憲法の制定公布により国が特定の宗教団体に利益供与することが禁止され、旧国有財産法二四条による無償貸付も認められなくなつたので、憲法の施行に先立ち、昭和二二年四月一二日「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和二二年法律第五三号、以下「社寺処分法」という。)が制定公布され、同年五月二日から施行された。

3 原告は本件土地及び隣接土地について昭和二三年四月三〇日社寺処分法一条による無償譲与申請をし、さらに昭和二四年四月五日には同法二条に基づく半額売払申請をしたところ、昭和二五年三月三一日前記無償譲与申請が許可されたが、被告は本件土地につき所有権移転登記手続をなさず、さらに、右半額売払申請についても昭和四五年八月三一日その申請書を返戻してきた。

そこで原告は被告を相手方として本件土地につき無償譲与又は半額売払を原因とする所有権移転登記手続等を求める訴訟を提起した(京都地裁昭和四五年(ワ)第一六四三号)が、無償譲与については原告は申請していないという理由で、半額売払については申請期限を徒過したという理由により請求棄却となり、控訴審(大阪高裁昭和五〇年(ネ)第一五六三号)、上告審(最高裁昭和五二年(オ)第四二七号)も一審判決を支持した。

4 しかしながら、本件土地については以下にみる理由により被告は原告に対して時価売払をなす義務がある。

(一) 本件土地は社寺上地処分又は地租改正処分がなければ、民法の施行に伴い民法施行法三六条により原告の所有となるべきものであり、本件土地に対する原告の権利は、本来所有権の効力を有するに至る実質を有するものであり、このような権利について社寺処分法一条、二条に定める譲与または売払申請期間の徒過という形式的な要件の欠缺のみを理由として被告がこれを保有することは財産権を保障し、信教の自由を保障した日本国憲法の精神に反するところであり、本件土地に対する原告の権利の性質、社寺処分法制定の経緯、同法の趣旨からして、被告としては原告の売払申請に対して本件土地を時価で売却すべき義務があるというべきであり、これは単なる国有財産の任意売却とは異り、被告に裁量の余地はないところである。

(二) 右の点は、被告において、各種通達(昭和二三年六月一日大蔵省国有財産部長蔵国第一六二五号各財務局長あて、昭和二五年七月二二日大蔵省管財局長蔵管第二六九三号各財務局長あて、昭和四二年七月二四日蔵国有第一一九六号大蔵省国有財産局長から財務局長宛)により、旧国有財産法二四条による社寺等が無償貸付を受けていたとみなされる財産については、無償譲与又は半額売払の申請をしなかつたものについても、現に使用している社寺等に対して時価売払を命じておりその例外を認めていないことからも明らかである。

5 ところで原告は前記3にみるように昭和二四年四月五日付で本件土地についての売払申請をなしたうえ、昭和二五年二月一〇日付で境内官有地境界査定申請書を提出したところ、被告は、昭和二八年三月二八日付で右売払申請書を受付け、昭和三二年九月二五日、本件土地の価格を二一、三〇八円と査定し、無償貸付関係が断絶した昭和二二年五月二日から昭和三二年三月三一日までの使用に対する弁償金額を二二、七七五円として原告から徴収すると決定し、原告はこれを支払つた。

6 昭和三二年一一月八日に出世稲荷神社境内実測兼地積図が、同年一二月二〇日土地調査表がそれぞれ作成され、本件土地も原告神社境内地と認められ、昭和三五年七月八日大蔵省名義で保存登記手続がなされ、この時点において本件土地の原告に対する売却が被告の内部においては決定していた。

7 しかるに、被告は原告に対して時価売払の決定をしないので、原告は昭和五二年一二月五日到達の書面により本件土地についての国有境内地時価売払申請書を提出したところ、近畿財務局京都財務部長大賀豊久は、同月二三日付京財管二第一六六号により「宗教法人出世稲荷神社に本件土地を売払いすることなく判決の趣旨に従い処理しますから、標記申請書を返戻します。」との通知をしてきた。

8 右の通知は、原告の時価売払申請に対する却下処分というべきであり、被告は前記のように原告に対して本件土地を時価売払をする義務があり、右処分は違法であるから、原告は被告に対し右却下処分の取消及び本件土地をその時価相当額である二、八七三、一七九円で原告に対し時価売払をなすことを求めるものである。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1、2は認める。

2 同3は本件土地について原告主張の譲与申請及びその許可があつたことは否認するがその余は認める。

3 同4は原告主張の通達の存在は認めるが、その余は争う。

4 同5は認める。

5 同6のうち、本件土地が原告神社境内地と認められたこと及び本件土地を原告に売却すると決定したとの事実は否認し、その余は認める。

6 同7は認める。

7 同8は争う。

三 本案前の答弁理由

1 本件土地を原告に売払うとすれば、それは国有財産法二〇条一項に基づく私法上の契約によるのであり、原告の本件売払申請は買受けの申し込みで、原告が却下処分と主張するものは、右申し込みに対する被告の拒絶の意思表示にすぎず、行政庁の公権力の行使でないこと明らかであるから、その取消請求は不適法である。

2 仮に右意思表示を行政処分とみても、行政事件訴訟法一一条一項は処分の取消請求の被告適格を処分行政庁に限定しており、国はその適格を有しない。

四 被告の主張

1 原告は本件土地につき社寺処分法による期限内に無償譲与申請ないし半額売払申請のいずれもなさなかつたので、国有地として存置され、昭和二二年五月二日より無償貸付関係は断絶した。

2 原告は被告に対し昭和二四年四月五日本件土地の売払申請をなしたが、社寺処分法二条所定の申請期限を徒過していたため、これを随意契約による売払申請とみて一旦受付けた。

3 原告は、被告に対し、本件土地を訴外川口富槽に転貸しているから、無償貸付関係断絶後の本件土地の使用に対する弁償金を支払う旨申し出たので、昭和二二年五月二日より昭和三二年三月三一日までの弁償金を徴収した。

4 被告の前記2の売払申請の審理過程において、川口富槽が本件土地をその所有建物の敷地として占有しており、本件土地について原告と右川口との間に転貸関係のないことが判明したため、被告は昭和三三年四月一日川口との間で本件土地の賃貸借契約を締結するとともに、原告に対し、昭和四五年八月三一日、前記売払申請書を返戻した。

5 また、京都地裁昭和四五年(ワ)第一六四三号事件の判決により原告が本件土地の所有権、賃借権のいずれも有しないことが確定している。

6 さらに、原告代表者山内大有が昭和五二年一一月一一日及び同月二九日に京都財務部に対し本件土地の売払を申し入れたが京都財務部はこれを拒否したところ、原告は同年一二月五日到達の書面で本件土地の売払申請をなしたため、請求原因7記載の通知をしたものである。

7 以上のとおり、原告は本件土地につき適法な無償譲与又は半額売払の各申請をなしておらず、原告の随意契約による売払の申込みに対し被告が承諾したことがないから、本件土地の所有権移転登記手続を求める原告の請求はその前提を欠いている。

五 被告の主張に対する認否及び反論

1 被告の主張1は否認する。

2 同2のうち被告主張の売払申請をなしたことは認めるが、その余は否認する。

3 同3のうち弁償金徴収の事実のみ認め、その余は否認する。

4 同4は否認する。川口は本件土地の不法占拠者である。被告は原告から弁償金を徴収しており、本件土地につき原告との賃貸借契約が成立し、さらに本来原告の所有に帰すべきにもかかわらず、被告は本件土地を川口に賃貸したものである。

5 同5、6は認める。

6 同7は争う。

第三証拠<略>

理由

一 請求原因1(原告と本件土地の関係)、同2(社寺処分法の成立の経緯)、同7(本件土地についての原告の売払い申し込みと被告の拒否通知)の各事実は当事者間に争いがない。

また、<証拠略>によれば、原告が国を相手方として本件土地に対する所有権確認、所有権移転登記等を請求した別訴(京都地方裁判所昭和四五年(ワ)第一六四三号事件)において、国有財産である本件土地につき社寺処分法一条による無償譲与についてはその申請がなく、同法二条による半額売払については申請期限を徒過したという理由で所有権確認、所有権移転登記手続請求が棄却され、旧国有財産法二四条による無償貸付関係も継続し、原告と国との間に賃貸借契約が設定されたと認むべき証拠はないという理由で本件土地についての賃借権存在確認の予備的請求についても棄却され、右判決は確定していることが認められる。この事実と弁論の全趣旨から、原告は本訴においては本件土地の時価売払を前提とした請求をなしていることは明らかである。

二 ところで、日本国憲法施行前に旧国有財産法二四条により社寺等に無償で貸付けられたものとされていた国有財産の処分については、従前右財産が社寺等の所有であつたものを無償で国有地に編入していた経緯及び日本国憲法による政教分離の趣旨から、特に社寺処分法が制定されて、同法において無償譲与及び半額売払の申請手続が規定されている(同法一条、二条一項参照)が、右法律は社寺等に対する処分事由を右の二つの場合に限定しているところであるから、それ以外の国有財産の社寺等に対する処分に関しては国有財産法二〇条一項によるものと解される。

右の国有財産法二〇条一項所定の各処分は、行政主体である国が私人と対等の関係において私的な経済活動と同一性質の行政作用としてなすものであり、行政庁がその優越的な地位に基づき権力的な意思活動としてなす公権力の行使とは認められないから、これをもつて行政事件訴訟法三条にいう抗告訴訟の対象となるべき処分と解することは相当でない。本訴のうち原告が取消しを求める部分は、右の公権力の行使とは認められない国有財産法二〇条一項による売払申込に対する被告の拒絶の意思表示を取消の対象としているものであるから、不適法といわざるをえない。

三 次に、原告は、社寺処分法所定の要件を欠く場合であつても社寺等に無償貸付のなされていた国有財産については、従前社寺等の所有であつたものを国有財産に編入した経緯に照らし、国有財産法二〇条一項による一般的売払の場合にも国に応諾義務がある旨主張するが、社寺処分法は、旧国有財産法二四条一項により社寺等に無償貸付されていた国有財産について、これが従前社寺等の所有であつたのに国有財産とされた経緯に鑑み、「その社寺等の宗教活動を行うのに必要なもの」に限り、かつ法定期限内に申請のあつた場合に限り、特に無償譲与ないし時価の半額による売払によりその返還を求めたものにすぎず、右の要件を欠く場合にまで国に売払義務があると定めたものと解するのは相当でない。他に原告主張のような国の売払応諾義務を認めるべき法令上の根拠は無く(原告主張の各通達の存在について被告もこれを争わないが、右通達自体が売払応諾義務の根拠となりうるものでなく、通達の内容も時価売払を要請するにとどまり積極的に売払義務まで認めたものでないことは明らかである。)、原告の右主張はそれ自体失当といわざるをえない。なお、右の結果は、日本国憲法制定時には本件土地が国有財産であつたことが明らかであるから、憲法二九条の財産権保障の規定に反するものでないことはいうまでもない。

四 原告は、被告において、原告の本件土地売払申請に対して原告に売払うことを内部的に決定していたとも主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。仮に被告の内部決定が存したとしても、被告が原告に対してその旨の意思表示をなし、原、被告間に本件土地売買の合意が成立しなければ売買の効力の生じる余地のないことは言うまでもないところであるが、そのような合意の成立を認めるべき証拠も無い(請求原因5、6に記載の弁償金、保存登記についても、原告代表者は売払の前提手続であつた旨供述するにすぎない)のみでなく、本訴請求そのものが、右のような合意の不存在を前提としている(仮に売買の合意が存するならば、それを主張すれば足るのに、原告はこの点について明確な主張をしない)と認められる。原告の右主張も本訴請求を理由づける根拠とはなし難い。

五 以上によれば、本件訴えのうち、本件処分の取消しを求める部分は不適法として却下されるべきであり、その余は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 野崎薫子 岡原剛)

別紙物件目録 <略>

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