大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)27号 判決 1979年12月24日
大阪市都島区中野町五丁目九番二二号(控訴人ら共通)
控訴人
和田守
同
和田澄枝
右両名訴訟代理人弁護士
佐藤欣哉
同市浪速区船出町一丁目三五番地
被控訴人
浪速税務署長
室賀正補
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号
被控訴人
国税不服審判署長
岡田辰雄
右両名指定代理人
平井義丸
同
村中理祐
右浪速税務署長指定代理人
岸本輝雄
同
加幡修
右国税不服審判所長指定代理人
西村浩
同
安岡喜三
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人浪速税務署長が昭和四六年九月九日付でした控訴人らの昭和四四年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課処分をいずれも取消す。被控訴人国税不服審判署長が昭和四七年八月二四日付でした控訴人らの審査請求に対する裁決をいずれも取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
一 控訴人ら
(一) 本件につき特訴法三一条一項二号の適用を認めることは、租税法律主義にもとる(原判決理由第一の二(一)(5)参照)ものではない。右原則は、租税が国民の財貨を自由意思にもとづかず強制的に無償で徴収する制度であるから、そのためには法律が必要だというものであり、本件のように一旦定められた強制徴収制度を緩和する場合においては、単純に国民の財貨を徴収する場合と異なるので右原則が適用されるものではない。
(二) 本件土地は大林組に買収され、その後本件土地の大部分は南都銀行に譲渡されたが、本件土地のうち一・八平方メートルの部分は大林組から近鉄に譲渡され、地下鉄通風塔用地に提供されているのであるから、右土地部分に限れば特措法三一条一項二号の実体的要件を充足しているというべきである。また大林組は本件土地を通風塔建設工事の基地として便宜利用したにとどまるものではない。本件土地は通風塔工事の基地として必要であったわけであるから、この点からしても右実体的要件を充足していると考えなければならない。
(三) 特措法三三条の二第三項の手続的要件については、控訴人ら提出の修正申告書の計算そのものは特例の適用あることを前提として計算されていることは一見明白であり、かつ税務担当官に口頭でその旨説明し、加えて嘆願書でその意思を補充しているのであるから、控訴人らの特例適用を受ける意思は明白に担当官に伝えられているので、明記されているというべきであり、添付書類にも不足はなかった。仮に、申告書の記載や添付書類に不備があるというのであれば、担当官が法に無知な控訴人らに対し、右不備を補うよう行政指導をすれば、容易に解決できる事柄である。しかるに担当官は、予断と偏見にもとづき、事実上これを拒否し、本訴にいたって、被控訴人らにおいてこれを指摘するのは信義則に反する。
二 被控訴人ら
(一) 控訴人らの右(二)の主張につき、本件土地の一部が最終的に近鉄に譲渡されたとの主張事実は争うが、かりに右事実が認められるとしても、控訴人らから本件資産を買取った者が大林組であることは明らかであって、特措法三一条一項二号にいう任意買収をする者とは、起業者のみであり、施工業者まで含むと解釈することはできないから、当該規定の適用はない。
(二) 控訴人ら右(三)の主張につき、特措法三三条の二第三項の「明記及び書類添付」の要件は、行政指導の有無をもって違法性の治癒される性質のものではなく、まして口頭で告げただけでは右要件を充足しないことは当然である。控訴人らにおいて手続的要件をも欠いていたことは明らかである。
理由
一、当裁判所も、控訴人らの本訴請求は失当として棄却すべきものと考えるが、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。
(一) 原判決一四枚目裏一行目の「甲第九号証の一ないし三」の次に「乙第五号証の一、二、」を加える。
(二) 原判決一五枚目表一行目の「地は、」の次に「その所有者花井勝子から」を加え、同行目の「昭和四三年一一月」を「昭和四二年三月二三日」と改め、同二行目の「れた。」の次に「続いて大林組は、原告らと本件土地上の原告らの資産の買取交渉を進め、昭和四四年二月にいたり、これを買い取った。」を加え、同三行目の「近鉄はこのことを知り、」を「近鉄は本件土地がすでに大林組によって買い取られていることを知り、大林組に本件土地の譲渡を申し出で、」と改め、同六行目の「本件土地を」の次に「自ら買い取るなり或いは」を加え、原判決一五枚目裏六行目から一一行目までを次のとおり改める。
「以上認定の事実からすると、大林組は本件土地及び本件土地上の原告らの資産を南都銀行大阪支店建設用地として同銀行のために買い取ったものであって、そこで近鉄は新線建設工事のためにする本件土地の買収或いは収用を断念し、通風塔建設の設計変更までしたのであるから、近鉄が原告らの資産を任意買収或いは収用手続による買収をする必要もなかったというべく、大林組の原告ら資産の買い取りが近鉄の買収を代行したものとはいい難い。」
(三) 原判決一七枚目表一〇行目の「原告ら」の前に次のとおり付加する。
「右譲渡所得について特例の規定の適用がない場合における原告らの各譲渡所得金額は、別表2記載のとおりとなること、並びに昭和四四年分所得として右譲渡所得以外に原告和田守に事業所得六六万〇、〇〇〇円、同和田澄枝に不動産所得三万一、三八三円があったことは、いずれも当事者間に争いないところであるから、」
(四) 控訴人らは、本件のように特措法の適用が問題となる場合は、租税法律主義の原則が適用されないと主張するが、右原則の趣旨をどのように解するにせよ、本件課税に特措法による特例の適用があるかどうかを判断する基準に右原則を逸脱した恣意的な解釈が許されるわけはないから控訴人らの右主張は独自の見解であって採ることができない。
(五) 控訴人らは、本件土地の大部分は大林組から南都銀行に譲渡されたが、本件土地のうち一・八平方メートルの部分に限り大林組から近鉄に譲渡され、地下鉄通風塔用地に提供されているので、右土地に限り特例適用の実体的要件を具備している。また本件土地は通風塔工事の基地として必要であったから、この場合は特例が適用されるべきであると主張する。成立に争いのない甲第一四号証の一ないし三によれば、本件土地(大阪市南区難波新地四番町九番の一宅地八坪一合-二六・七七平方メートルー)は、昭和四三年一一月一二日、同番の五宅地七坪六合八勺(二五・三八平方メートル)と同番の四の土地を合筆し、(合筆の九番の一の土地の地積は、一三四・八〇平方メートル)、次いで同日右九番の一の土地から九番の六の土地(その地積は二五・三九平方メートル)が分筆され、この九番の六の土地につき同月二二日付で大林組から近鉄に所有権移転登記がなされていることが認められるものの、近鉄が大林組から取得した右土地のうちに本件土地の一部が含まれていることを認めるに足る証拠はないから、本件土地の一部の売渡の相手方が大林組を経て近鉄であることを前提とした控訴人らの主張は理由がない。また控訴人らが主張するように、たとえ本件土地が通風塔工事の基地として必要であったとしても、所詮右工事のための本件土地の必要性は、請負施工者の大林組にとっての必要性にすぎず、起業者である近鉄には無関係な事柄であって、特例を適用する事由とはならないから該主張も理由がない。
(六) 控訴人らは、確定(又は修正)申告書に特例の適用を受けようとする旨の明記が特例適用の手続的要件であるならば、税務担当官が法に無知な控訴人らに明記するよう行政指導をすれば事足るのに、それをしないで本訴で明記のないことを指摘するのは信義則に反すると主張するが、原審証人高岡正の証言によれば、本件確定申告書及び修正申告書を被控訴人署長に提出し、担当官と応接した控訴人和田守において特措法の適用等に関しまったく無知であったとは窺えないし、もともと確定申告書又は修正申告書に特措法の規定の適用を受けようとする旨を記載するのは、右申告する者自らの責任においてその意思を明確化する表われであるから、行政指導に頼ることで済まされる事柄ではない。行政指導の有無によって右要件の充足は左右されないというべく、控訴人らの主張は理由がない。
二、そうすると、原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 坂詰幸次郎 裁判官 豊水格)