大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)28号 判決 1980年11月26日
神戸市生田区元町通一丁目七三番地
(旧名 胡鶴庭)
控訴人
泉浩
右訴訟代理人弁護士
河瀬長一
神戸市生田区中山手通三丁目二一
被控訴人
神戸税務署長
田中晴夫
右指定代理人
高須要子
同
仲村清一
同
中村武雄
同
細川健一
同
本落孝志
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人に対し、昭和四四年七月一五日付でした昭和四三年度の所得税の事業所得金額を金五八一万五四〇〇円とする更正処分のうち金三一七万九三六三円を超える分を取消し、かつ、同時にした昭和四三年度分の過少申告加算税金五万八六〇〇円とする賦課決定処分を取消す。
被控訴人が控訴人に対し、昭和四四年七月一五日付でした昭和四二年度分の所得税の事業所得金額を金三三四万一九〇〇円とする更正処分のうち金二七一万一八四五円を超える分を取消し、かつ、同時にした昭和四二年度分の過少申告加算税一万四〇〇〇円とする賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨の判決。
第二主張、証拠
当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一1 原判決五枚目表五行目から六行目にかけての「(売上金額より売上原価に対する算出所得金額」を削除する。
2 同六枚目表八行目「生活に必要な飲食料品」の次に「(日用品、雑貨等の飲食料品以外の商品は含まない。)」を挿入し、同八行目から九行目へかけての「(「船食業」を含む)」を「(いわゆる船食業)」と改め、同一二行目「差益金額、一般経費及び算出所得金額」を「算出所得金額、原価及び所得率」と改め、同裏五行目から六行目へかけての「所得金額の表参照)」を「所得金額の表の算出所得金額を売上金額で割つたもの)」と改める。
3 同七枚目裏四行目「一、八九一、〇四〇」を「一、八九三、七四六」と改め、同五行目「七、四七五、三三〇」を「七、四七二、六二四」と改め、同一二行目「五、〇二五、四二〇」を「五、〇二二、七一四」と改め、同一四行目「五、三〇四、五四五」を「五、三〇一、八三九」と改める。
4 同八枚目表九行目(二か所)、同一二行目、同九枚目表一三行目、同裏九行目(二か所)、同一二行目、同一一枚目表九行目、同一二枚目表一二行目の各「(二の」をそれぞれ「(三の」と訂正する。
5 同九枚目裏二行目「一、八九一、〇四〇円」を「一、八九三、七四六円」と改め、同一三行目「102,218,432円×1.85%=1,891,040円」を「102,364,700円×1.85%=1,893,746円」と改める。
6 同一三枚目表五行目から六行目へかけての「項目」の次に「(ただし、昭和四二年分の一般経費は除く。)」を挿入する。
7 同一三枚目裏九行日「二四八万九、四五四円」を「二四九万〇、四五四円」と改め、同一三行目「六六万五、七〇〇円」を「六六万五七二〇円」と改める。
8 同一四枚目表七行目から八行目にかけての「被告所得率」を「被告は所得率」と改め、同裏三行目「乱脈不安」を「乱脈不安定」と改める。
9 原判決添付別表(一)、付表、別表(二)、別表(四)、別表(五)の各左上一行目の「東神貿易行」をそれぞれ「東新貿易行」と訂正する。
二 控訴人の主張
1 原判決添付別表(一)、付表、別表(二)の記載(科目、金額)は争う。
2 控訴人の申告にかかる所得金額は、控訴人が各仕入先から確認した実際の仕入金額を基礎とし、これから品目別に計算した差益率の平均値六・五五パーセントによつて算出したものであり、事実に基づくものである。特別経費のうち雇人費、支払家賃、支払利息は実際に支払つた金額であり、減価償却費は倉庫の償却費であつて、いずれも事実に基づく金額である。したがつて、右所得金額が推計による被控訴人主張の所得金額より正しいものであることは言うまでもない。
3 控訴人の昭和四五年分から昭和四八年分までの差益率及び所得率は別表(一)記載のとおりであり、被控訴人の主張する差益率九パーセント、所得率八・〇三パーセントは明らかに過大である。
4 東新貿易の昭和四二年度分の確定申告によると、営業外雑収入は零である。ところが、昭和四三年度分の確定申告では、営業外雑収入として六〇万四九〇五円を計上しているが、後に更正決定を受けて六〇万円を差引かれたため右雑収入は四九〇五円となつた。このような帳簿上の間違いは常識では考えられないことであり、東新貿易の帳簿がいかに信用できないものであるかを示している。右のような乱脈な帳簿処理をしている東新貿易の所得金額を控訴人の所得金額推計の基礎とすべきではない。
5 東新貿易は船食の販売以外にリベート収入もあつたので、その所得率は控訴人には適用できないものである。また、東新貿易の経費率(経費の総額から役員の給料を控除した金額の売上金額に対する割合)は昭和四二年度が八・四一パーセント昭和四三年度が九・六五パーセントであるが、控訴人の経費率は昭和四二年が四・〇八パーセント、昭和四三年が三・八一パーセントである。被控訴人がこのような両者の経費率の相違を無視して利益率のみを適用して控訴人の係争各年分の所得額を算出したのは、片手落であり、不当である。
6 被控訴人は当初控訴人の申告した利益率はそのまま認めその売上金額を倍増し経費を微増することによつて、控訴人の所得金額を約二倍とする本件各更正決定をした。ところが、国税不服審判所の調査により右のような方法で控訴人の売上金額を増やすことが不可能であることが判明するや、被控訴人は東新貿易の利益率を根拠にして控訴人の利益率を上げることによつて本件各更正決定の正当性を主張するようになつた。このような被控訴人の御都合主義的な主張は信用できない。
三 証拠
1 控訴人
甲第三八ないし第四六号証を提出。
当審証人掛橋昇の証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用。
2 被控訴人
甲第三八ないし第四四号証の成立は知らない。同第四五、四六号証は、いずれも官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。
理由
一 当裁判所は、控訴人の本訴請求は失当であつて棄却を免れないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決一六枚目裏八行目「主張する」の次に「昭和四二年分及び昭和四三年分の控訴人の」を挿入し、同九行目「争のあるのは」の次に「右」を挿入し、同一一行目「項目」の次に「(ただし、昭和四二年分の一般経費は除く。)」を挿入する。
2 同一七枚目裏五行目から六行目へかけての「甲第一ないし第四号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三、」及び同七行目から九行目へかけての「第一八ないし第二二号証、証人黒川昇の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証」を削除し、同九行目「同鮑日明、」の次に「同黒川昇、」を挿入し、同一〇行目「但し」の前に「第一回、」を挿入する。
3 同一八枚目表一二行目「二、三パーセント」を「二、三名」と訂正する。
4 同一九枚目裏一二行目「別表(一)」から同二〇枚目表一行目「自白したものとみなす。」までを「原審証人黒川昇の証言により成立を認める乙第二、三号証、同証人及び原審証人候作玄の証言によれば、東新貿易の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(昭和四二年分)に対する確定申告書添付の損益計算書に記載された科目及び金額は原判決添付別表(一)記載のとおりであり、東新貿易の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度(昭和四三年分)に対する確定申告書添付の損益計算書に記載された科目及び金額は原判決添付の付表記載のとおりであること、右各損益計算書の記載内容はいずれも東新貿易の帳簿、証憑書類に基づいて記載されたものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。」と改める。
5 同二〇枚目表一〇行目「これによるときは、」の次に「算出所得率は九・七七パーセントであり、」を挿入し、同一一行目冒頭の「ことは」の次に「計数上」を挿入し、同裏三行目「証拠はなく」の次に「(控訴人は東新貿易が昭和四二年分において合計一二六万五七二〇円の不正除外所得ありとして更正決定を受けた旨主張するが、同年分の更正による増差額(増額された差額)が原判決添付の別表(二)記載のとおりであることは前記認定のとおりである。)」を挿入し、同一一行目「昭和四二年分の所得率八・六〇パーセント」を「昭和四二年分の算出所得率及び所得率」と改める。
6 同二一枚目表二行目「あることは」の次に「計数上」を挿入し、同六行目冒頭の「六」を「五」と改め、同一一行目「同表各欄記載の通り」の次に「(ただし、同表一枚目裏四行目から一二行目までの所得率の数字を別表(二)記載のとおり訂正する。)」を挿入し、同裏一〇行目「不当であると主張するも、」の次に「前記乙第四ないし第九号証、第一二ないし第一五号証によれば、原判決添付の別表(三)記載の各業者はいずれもいわゆる船食業者で、その取扱品目は艦船乗組員の船上日常生活に必要な飲食料品にかぎり、日用雑貨は含まれていないことが認められるのであつて、しかも、」を挿入する。
7 同二二枚目裏五行目「二、三三九、九三〇」を「二、三三九、九三三」と改める。
8 同二三枚目裏二行目「90.85」の次に「%」を付加し、同八行目から九行目へかけての「一、八九一、〇四〇円(当事者間に争がない。)」を「一、八九三、七四六円(この金額は、原判決九枚目裏八行目から一三行目までの算式のとおり、控訴人の昭和四三年分の経費率一・八五パーセントによつて推計される。)」と改め、同一〇行目「七、四七五、三三〇円」を「七、四七二、六二四円」と改め、同一二行目から一三行目へかけての「五、〇二五、四二〇円」を「五、〇二二、七一四円」と改める。
9 同二四枚目裏六行目「価格を差引いた」を「売上価格から仕入価格を差引いた」と改め、同一一行目冒頭の「号証の八」を「号証の五ないし九」と訂正し、同一二行目「原告は」から同二五枚目表七行目「認められるので」までを「控訴人は本件各更正処分に対して異議申立をするにあたり、税理士掛橋昇に各異議申立書及びその添付書類の作成を委任したが、損益計算書を作成するにあたり売上金額、売上原価を算定するための帳簿、証憑書類等がなかつたので、右掛橋はまず昭和四三年分につき売上金額を控訴人の推定に従つて外販一か月九五〇万円、店売一か月一五万円、年間合計一億一五八〇万円とし、平均粗利益率六・五五パーセント(これも控訴人の推定に従つて外販を六・五パーセント、店売を一〇パーセントとし、その平均値を六・五五パーセントとした。)を用いて前記売上原価及び事業所得金額を順次算出し、次いで昭和四二年分につき貸借対照表上の利益金額より昭和四三年分の売上利益率四・五八パーセントを適用して売上金額一億九八四万一〇〇〇円を算出し、前記平均粗利益率を適用して前記売上原価及び事業所得金額を順次算出したものであることが認められるので」と改める。
二 控訴人は、控訴人の申告にかかる所得金額は事実に基づくものである旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
三 控訴人は、控訴人の昭和四五年分から昭和四八年分までの差益率及び所得率等に照らすと被控訴人は本件各係争年分の控訴人の所得金額を過大に推計したものである旨主張するが、被控訴人がした本件各係争年分についての控訴人の所得金額の推計が合理性を有するものであることは前記のとおりであつて、控訴人の右主張は採用することができない。
四 控訴人は、東新貿易は昭和四三年度分の確定申告では営業外雑収入として六〇万四九〇五円を計上したがその後更正決定を受けて六〇万円を差引かれるなど常識では考えられない乱脈な帳簿処理をしており、同会社の所得金額を推計の基礎とすべきでない旨主張するが、東新貿易が昭和四三年分(同年四月一日から昭和四四年三月三一日までの分)において更正処分を受けなかつたことは原審証人黒川昇の証言により真正に成立したものと認める乙第一一号証及び同証人の証言によつて明らかであり、控訴人の右主張は採用することができない。なお、右証拠によれば、東新貿易は昭和四一年分(昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの分)及び昭和四二年分の所得金額について売上の計上漏れからそれぞれ六〇万円と六五万三七九六円の更正を受けていることが認められるが、このことから直ちに帳簿処理が乱脈で信用できないということはできない。
五 控訴人は、東新貿易は船食の販売以外にリベート収入もあつたのでその所得率は船食販売だけの控訴人には適用できない旨主張するが、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)中東新貿易にリベート収入があつた旨の供述部分はにわかに信用できないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用することができない。また、控訴人は、被控訴人が控訴人の本件各係争年分の所得を推計するに際して、東新貿易との間の経費率の相違を考慮しないのは片手落であり不当である旨主張するが、被控訴人が控訴人の所得金額を算定するために採用した推計方法が合理性を有するものであることは前記のとおりであつて、右主張は採用することができない。
六 控訴人は、被控訴人は当初控訴人の申告した利益率はそのまま認めて売上金額を倍増し、経費を微増することによつて本件各更正決定をしたが、その後これを改めて東新貿易の利益率を根拠にして本件各更正決定の正当性を主張するに至つたものであり、このような被控訴人の御都合主義的な主張は信用できない旨主張するが、青色申告以外の所得に関する更正処分の取消訴訟において課税庁が処分の際の理由と異なる理由を訴訟において主張することは許されるのであり、仮に本訴において被控訴人の主張する処分の適法性を基礎づける理由が本件各更正処分の際の理由と異るものであるとしても違法ではなく、右事実から直ちに被控訴人の主張が信用できないものと結論することはできない。
七 よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 大須賀欣一 裁判官 庵前重和)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>