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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)5号 判決 1979年5月29日

大阪府枚方市招提元町二丁目五番二七号

控訴人

柿木ひで

右同所

控訴人

柿木大治

右同所

控訴人

柿木茂

大阪府寝屋川市寿町四六番四号

控訴人

堀口京子

右控訴人四名訴訟代理人弁護士

長山亨

長山淳一

大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号

被控訴人

枚方税務署長

岡山亮次

右指定代理人検事

岡崎真喜次

同訟務専門官

山中忠男

同主任国税訟務官

平井武文

同総括主査

生駒助

同国税実査官

新田陽一郎

右当事者間の所得税決定処分等取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「(一)、原判決を取消す。(二)、被控訴人が控訴人柿木ひでの昭和四八年分所得税につき同四九年一一月三〇日付でなした決定及び無申告加算税賦課決定、並びに控訴人柿木大治、同柿木茂、同堀口京子の昭和四八年分所得税につき同五一年二月二三日付でなした再更正及び無申告加算税賦課決定をいずれも取消す。(三)、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、左のとおり付加・訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

本件交換契約は、譲渡所得税が課税されないことをもって重要な契約内容としていたものであるところ、これについて非課税の特例の適用が認められず、譲渡所得税が課税されるものとすれば、法律行為の要素に錯誤があったことになり、契約そのものが無効となるから、結局固定資産の譲渡がなかったことになるものといわなければならず、本件決定及び更正はその点からも適法というべきである。

(訂正)

1  原判決五枚目裏一一行目の「交換」を「課税の繰延べ」に改める。

2  同六枚目表三行目の「原告らは、」から四行目の「交換された。」までを「所得税法が固定資産の交換の場合について課税の繰延べを認めた趣旨は、交換の場合には固定資産が等価的に相互に譲渡されるため、増加益の実現がない点にあるものというべきところ、本件の場合、原告らは、本件譲渡土地を自己所有のまま残地として残しておいてもよかったのに、東邦建設の勝手な都合で交換させられてしまうような結果になったものであって、もともと経済的利益を目的としてはおらず、また、なんらの増加益の実現もなかったものであるから、課税の繰延べの特例を認めたからといって、法の趣旨に反することにはならない。」と改める。

3  同六枚目表七行目の「すぎない。」の次に「したがって、取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合(所得税法五八条一項)と実質的には少しも異なるところがない。」を加える。

4  同六枚目表一二行目の「東邦建設は」を「東邦建設が」に改め、同行目の「交換の」の次に「場合における課税の繰延べの」を加える。

5  同六枚目裏六行目の「原告らは、」から同七枚目表三行目の「差別である。」までを「所得税法五八条はその第一項において、固定資産と固定資産との交換の場合につき、一定の要件の下に、譲渡資産の譲渡がなかったものとみなす旨規定するとともに、第三項において、第一項の規定はその適用を受ける旨等を記載した確定申告書を提出した場合に限り適用される旨を規定しているので、同じように租税回避を目的とせず、また、増加益の実現をみない交換が行われた場合でも、たまたまその目的物がたな卸資産(事業所得を生ずべき事業に係る資産)であったり、税法をよく知らないために右のごとき確定申告書を提出しなかったりするときには、第一項の適用を受けられない結果となる。すなわち、所得税法五八条は、資産の交換の場合につき、偶然の事情や単なる手続上の過誤という合理性に乏しい理由によって、あるいは譲渡所得税を課し、あるいはこれを課さないという差別的な取扱いをなすことを認める規定であるから、法の下の平等を定めた憲法一四条に反して無効というべきである。憲法一四条の精神からすれば、被告としては、右のごとき偶然の事情や手続上の過誤は無視して、所得税法五八条本来の趣旨に従い、本件の場合にも特例の適用を認めて非課税扱いとすべきであったのに、それをしないで本件決定及び更正に及んだのは違憲であってとうてい許されないといわざるをえない。」と改める。当事者双方の証拠の提出、援用、認否は次のとおりである。

(控訴人ら)

1  甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四号証、第五号証の一ないし六、第六号証の一の一、二、同号証の二の一、二、同号証の三ないし五、同号証の六の一、二、同号証の七の一、二、同号証の八、同号証の九の一ないし四、同号証の一〇、同号証の一一の一、二、同号証の一二、一三、同号証の一四の一ないし七、第七号証の一、同号証の二ないし七の各一、二、第八号証の一、二、第九号証の一、二の各一、二、同号証の三、四

2  原審での控訴人柿木ひで本人尋問の結果。

3  乙号各証の成立を認める。

(被控訴人)

1 乙第一ないし第三号証。

2 甲第六号証の八、同号証の九の一ないし四、同号証の一〇、同号証の一一の一、二、同号証の一二、一三、同号証の一四の一ないし七、第七号証の一、同号証の四の一、二、同号証の五の二の成立は不知、同第六号証の一の一、二の官署作成部分の成立は認めるがその余の部分は不知、その余の甲号各証の成立は認める(甲第八号証の一、二、第九号証の一、二の各一、二、同号証の三、四は原本の存在も)。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由の詳細は、左のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由中の説示・判断と同一であるから、これを引用する。

(付加)

控訴人らは、本件交換契約は要素の錯誤によって無効であると主張するので検討するに、成立に争いない甲第一号証、第五号証の三、原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証の一の一、二、同号証の二の一、二、同号証の四、右甲第九号証の一の二より真成に成立したものと認められる甲第六号証の一三、原審での控訴人柿木ひで本人尋問の結果によれば、次のような事実が認められる。

1  本件譲渡土地を含む枚方市大字招提二八〇番及び二八一番の土地計一七七七平方メートルは従前より農地であったところ、東邦建設において、これを買収して宅地に造成し、建売住宅を建築した上他に転売することを計画し、不動産取引仲介業者の訴外赤井孝治を通じて控訴人らにその売却方を申入れるようになったが、控訴人らにおいても、当初はあまり乗り気ではなかったものの、右赤井らの熱心な斡旋などにより結局これに応ずることになり、三・三平方メートル当り八万五〇〇〇円で売渡すことを承知するにいたった。

2  ところで控訴人ひでは、かねてより二男の控訴人茂のために家を一軒建ててやりたいと考えていたが、適当な敷地がなかったためにそのままになっていたところ、たまたま右二筆の農地を東邦建設に売却することになったから、そのうちの約一五〇坪(四九五平方メートル)程度を売り残し、他の土地と一緒に東邦建設の手で宅地に造成してもらった上、そこに控訴人茂のために家を建ててやろうと思い、その旨東邦建設側に伝え、一七七七平方メートルから四九五平方メートルを除いた一二八二平方メートルのみを売渡すとの意向を示したので、東邦建設側でも控訴人ひでの意向を汲んでこれに応ずることとした。

3  ところが、東邦建設では、控訴人らから買受ける右二筆の農地(長方形)の中央に道路を通し、その両側に三〇坪程度の土地を区画して建売住宅を建てる計画であったので、一五〇坪ものまとまった土地を適当な場所に売主側に留保しておくことは困難であり、一五〇坪分の宅地をどうしても確保しようと思えば、間口ばかり広くて奥行の短い横長の長方形の土地とするより方法はなく、いずれにせよ控訴人茂のために建てる家の敷地としては適当でないことが分ってきた。

4  そこで控訴人らの方では、売買の話にも難色を示すようになったが、それをみた東邦建設側が、訴外和田正から買受ける約束のできているすぐ近くの農地(枚方市大字招提二七四番)八三六平方メートルのうち約一五〇坪と右売り残し予定地約一五〇坪とを交換し、これを宅地に造成して家を建てることにしてはどうかと持ちかけてきたので、控訴人らの側でもその気になり、これに応ずる意向を固めた。

5  しかし、土地を交換すれば、不動産取得税のほかに譲渡所得税を納付しなければならないことになるのではないかとの疑問が生ずることになり、控訴人ひでもそのことを心配して、東邦建設の専務取締役で右売買の交渉に当っていた加藤仙次や仲介業者の赤井孝治らにその旨洩らしていたが、同人らが、農地と農地との交換であるから譲渡所得税は納付しなくてもよいのではないかと答えたりしたので、これを信じて安心し、特に所轄の税務署等についてその点を確かめるようなことはしなかった。

6  かくて昭和四七年七月五日、前記二筆の農地計一七七七平方メートルのうち一二八二平方メートルを坪単価八万五〇〇〇円で東邦建設に売渡す旨の売買契約が成立するとともに、その特約の形で、右一七七七平方メートルから一二八二平方メートルを控除した四九五平方メートル(一五〇坪)を残地として残すこと、残地一五〇坪は東邦建設において前記和田より買収する枚方市大字招提二七四番の土地の一部一五〇坪と交換することを当事者間で合意し、その旨売買契約証書(甲第一号証)にも記載したが、右交換による税の負担等については、契約証書にも特に記載するようなことはなかった。

以上認定の事実関係からすれば、控訴人らが、本件交換契約を締結しても譲渡所得ありとして所得税を課されるようなことにはならないものと思い込み、かつ、そのことが本件契約を締結するにいたった一つの動機となったことが窺われないではないけれども、それが右契約の重要な内容をなしていたものとはとうてい認められず、したがって、控訴人らが右のように思い込んだ点に錯誤があったからといって、そのために契約が無効になるものではないといわなければならないから、控訴人らの前記主張は採用することができない。

(訂正)

1  原判決八枚目表四行目の「京子について」の次に「同五一年二月二三日付で」を加える。

2  同九枚目裏一〇行目の「造成販買」を「造成販売」に改める。

3  同一二枚目表五行目の「証拠はない。」の次に「また、控訴人らが、所得税法五八条一項の適用を受ける旨、取得資産及び譲渡資産の価額その他所定の事項の記載のある確定申告書を提出したことを認めるに足りる証拠もない。」を加える。

4  同一二枚裏三行目の「そして、」から五行目の「できない。」までを「原告らは、所得税法五八条は法の下の平等を定めた憲法一四条に違反して無効であると主張するけれども、原告ら主張の理由のみによってこれを違憲・無効の法律と認めることはとうていできないばかりでなく、そもそも本件決定及び更正においては、右法条ははじめから適用されていないのであるから、その違憲・無効をいう原告らの主張は的外れの論といわざるをえず、さらに、みずから違憲・無効と主張する法条が自己に対して適用されなかったことをもって違憲・違法というにいたっては論外というよりほかはないから、本件決定及び更正を違憲とする原告らの主張は採用の限りではない。」と改める。

5  同一二枚目裏一三行目の「不知で」から同一三枚目表一行目の「事情が」までを「不知に帰するが、法を知らなかったというだけでは」に、同二行目の「できない。」を「できず、しかも他に、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があったものと認むべき事情はなんら見当らない。」にそれぞれ改める。

二  以上の次第で、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条一項によりいずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 唐松寛 裁判官 藤原弘道 裁判官 平手勇治)

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