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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)6号 判決 1979年11月14日

奈良市三碓町一四四〇番地の四

控訴人

松井清志

同所

控訴人

松井千恵子

右両名訴訟代理人弁護士

井上善雄

東畠敏明

松井千恵子訴訟代理人弁護士

松井清志

大阪府池田市城南町二丁目一番八号

被控訴人

豊能税務署長

近藤弘

右指定代理人

細川俊彦

小林修爾

平井武文

生駒禎助

光森章雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは「1原判決を取消す。2被控訴人が昭和五二年九月二六日付で控訴人らに対してした昭和五一年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。3訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は主文と同旨の判決をそれぞれ求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

(控訴人らの主張の補足)

1  原判決四枚目裏二行目の次に「右改正の趣旨は、従来の措置法の運用において、個人が居住の用に供していた家屋を空屋とした日から一年以内にその家屋を譲渡した場合に限らず、一年を超えてから譲渡した場合にも同法三五条の適用があるとされていたこと、譲渡所得に対する重課を居住用不動産について軽減するためには右の一年の期間では短かすぎること等にある。」を挿入する。

2  同五枚目表一一行目の次に「措置法三五条が居住用家屋についてもうけた同法三一条又は三二条の適用に関する特例を当該家屋が空屋となって後いつまでの譲渡について認めるべきかについて同法に明文の規定はないから、あらゆる要素を総合的に考慮して社会的実情に即してその期間を決定すべきである。災害によって居住用家屋が滅失した場合は通常直ちに再建築されるか、その敷地が売却されるのであって、敷地が空地のまま長期間放置されることはなく、この場合と単に譲渡のため空屋とされる場合とは事情が異なるから、同法三五条が居住用家屋が災害により滅失した場合はその後の一年以内になされた譲渡について同条の適用があるとしていることのみをもって、居住用家屋が譲渡のため空屋とされた場合にもその後の一年以内になされた譲渡についてだけ同条の適用があると解するのは誤りである。」と挿入する。

3  同五枚目裏二行目の次に次のとおり挿入し、同三行目の「八」を「九」と改める。

「八従来の税務行政においては、個人が居住用家屋を譲渡のために空家とした日から一年を超えた後にこれを譲渡した場合でも、特別の事情があるときは措置法三五条の適用を認めた多数の先例があるのであって、この先例は既に確定したものとなっている。

すなわち、被控訴人は措置法三五条にいう「譲渡」とは申告案件では家屋の「売買契約の成立」をいうとしているところ、一般に不動産の売買契約においては、契約後数か月経過して「所有権移転登記」及び「引渡」が行なわれるのが通常であるから、個人が居住用家屋を空屋としてから当該家屋につき「所有権移転登記」及び「引渡」がなされるまでに一年を超えることがあることは明らかである。

また、館林税務署長は、川野政平(以下、川野という。)が従前居住の用に供していた別紙物件目録記載の土地及び家屋について、昭和四九年七月一九日にこれを空家とし、その約二年一〇か月後の昭和五二年五月一九日に他に譲渡した案件について措置法三五条の適用を認めているが、これは川野が右家屋を空屋として群馬県太田市へ転居したことがやむをえない特別な事情によるものであると判断され措置法三五条の適用が認められたものである。

本件においては、控訴人らが居住の用に供していた本件物件については日本住宅公団によって譲渡制限が課せられ、右制限期間内に控訴人らがこれを他に譲渡することは事実上不可能であったという特別の事情があったにかかわらず、被控訴人が措置法三五条の適用を認めなかったことは確定した行政先例に反し、行政の公平かつ平等原則に反するもので違法である。」

(被控訴人の主張の補足)

1  原判決五枚目裏末行の次に以下のとおり挿入する。

「そもそも措置法三五条は譲渡所得の特別控除額の特例を定めたものであるから、その解釈適用に当っては同案の定める負担軽減のための要件をみだりに拡張解釈することは許されず、同条一項、同法施行令二三条一項の各規定からすると、同法三五条が適用されるのは、国民が生活の本拠として現に居住の用に供している家屋を譲渡した場合及び譲渡時に近接する時期までこれを居住の用に供し、譲渡に至るまでの期間及びその間の使用状態などからみて居住の用に供していると同視しうる場合に限られるというべきところ、税務執行上は、国民がその居住の用に供している家屋を譲渡するため、その家屋を空屋とした場合においてその後その家屋を貸付その他業務の用に供することなくその空屋とした日から一年以内に譲渡したときには、なお居住の用に供していると同視しうる場合として同法三五条を適用することとしている(措置法通達三五-一の六)が、この基準は、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法(三五条)当時からの沿革及び措置法三五条一項が災害により滅失した居住用家屋の敷地の譲渡の場合に一年間の期間制限をもうけていることにかんがみ合理的なものというべきである。

ところで、控訴人らは、昭和四九年三月末頃本件物件を空家とし、その約二年六か月後の昭和五一年九月二八日にこれを譲渡(引渡)したものであり、右譲渡時においては控訴人らが本件物件を居住の用に供していたと同視しうる場合には当らないから、本件物件の譲渡については措置法三五条の適用はないというべきである。

また、昭和五三年法律第一一号による措置法三五条の改正は、従来給与所得者が転勤に伴う転居をした後相当時日を経過してから、やむなく居住の用に供していた家屋を他に譲渡したのに、同法三五条の特別控除の適用を受けられない例が多数あったため、給与所得者のこのような不利益を取り除くためになされたものであり、空家とした日から譲渡までの期間を三年としたのは、(一)居住の用に供さなくなってから長期間経過すると居住用財産と同視しえなくなること、(二)三年の期間を置けば給与所得者の転勤に伴う問題はほとんど解消すること、(三)税務当局が居住用財産であったかどうかを過去に遡って確認するためには三年が限度であること等の理由によるものである。」

2  同六枚目表三行目の次に以下のとおり挿入する。

「五 同八のうち、被控訴人が、所得税の申告案件においては居住用家屋の「売買契約の成立」をもって措置法三五条にいう「譲渡」とする取扱いをしていること、川野が昭和二七年以来大阪市浪速区日本橋東所在の家屋を居住の用に供してきていたが、昭和五二年五月にこれを他に譲渡したこと、館林税務署長が川野の家屋の譲渡について措置法三五条の適用を認めたことは認めるが、その余は争う。

川野は昭和五二年五月に家屋を売渡すまでに一年以上これを空屋にしたことはない。

また、そもそも行政先例という以上、同種事案について多数の同一の取扱いがなされているものでなければならないところ、控訴人らは川野の一例のみをもって行政先例としているのであり、主張自体失当というべきである。」

(証拠)

1 控訴人らは、原審で提出した甲第一号証(日本住宅公団特別分譲住宅譲渡契約公正証書)を撤回し、その謄本を甲第一号証として提出し、さらに甲第六号証の一、二、第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二を提出し、当審証人岩崎善四郎の証言を援用し、乙第二号証の成立を認めると述べた。

2 被控訴人は、乙第二号証を提出し、前記甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

一  当裁判所も控訴人らの本訴請求は理由がなく失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであり、その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決七枚表目初行の「解すべき」の次に「である。しかして、同法三五条は、個人が居住の用に供している家屋を譲渡した場合にこの譲渡による所得に対する税負担を軽減することによって居住用家屋の譲渡者が代替の居住用家屋を取得するのを容易ならしめる趣旨に出たものと解すべくこのような制度の趣旨と同法施行令二三条一項の規定にかんがみると、同法三五条にいう個人が「その居住の用に供している家屋」とは個人が主たる生活の本拠として相当期間継続する意思で使用している家屋をいうものと解すべき」を、同裏四行目の「なされているが、」の次に「右のような改正がなされたことだけをもって改正前の措置法三五条の規定について控訴人らが主張するような解釈をなすべき根拠とはなしえず、また」を、それぞれ挿入する。

2  同八枚目表五行目の次に「成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、措置法三五条の運用に関し、個人が「その居住の用に供している家屋(措置法施行令二三条一項に規定する家屋に限る。)を譲渡するため、その家屋を空屋とした場合において、その後その空家を貸付その他業務の用に供することなく、その空家とした日から一年以内に譲渡したときは、当該譲渡は、その譲渡の時においてその者が、他に居住の用に供している家屋を有している場合であっても、措置法三五条一項に規定する「その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡」に該当するものとして取扱う。」旨の措置法通達三五-一の六があって、税務執行上は右通達に従った取扱がなされてきていて、この取扱は確定したものとなっていることが認められる。」を挿入し、同一〇行目の「比較衡量し」から同一一行目の「明らかである。」までを「比較衡量等して相当と判断されたことによるものと考えられ、右通達及びこれに従った税務執行上の前記取扱はそれなりの合理性があるというべきである。」と改める。

3  同八枚目裏七行目の次に以下のとおり挿入する。

「(4) 本件各課税処分は確定した行政先例に反し、行政の公平かつ平等原則に反するとの主張について。

被控訴人が措置法三五条の適用について所得税申告案件においては申告者の居住用家屋の「売買契約の成立」をもって同条の「譲渡」とする取扱をしていることは被控訴人が自認するところであるが、本件では前叙の如く控訴人らは昭和四九年三月末頃本件物件を空家とし、その約二年三か月後の昭和五一年七月一日にこれを他に売渡す旨の契約を結んでいるのであるから、被控訴人が前記のような確定した取扱をしているからといって、これを理由に本件について措置法三五条の適用があるというべきいわれはない。

また、個人が居住の用に供していた家屋を譲渡のため空家とした後一年を超えてから右家屋を譲渡した場合でも特別の事情があれば措置法三五条の適用があるとの税務行政上確定した先例(取扱)があると認めるに足りる証拠はない(なお、控訴人らが主張する川野が所有していた別紙物件目録記載の土地及び家屋の譲渡の例においても、成立に争いのない甲第七号証、第一〇号証の一、二、乙第二号証及び当審証人岩崎善四郎の証言(一部)によれば、川野は、昭和四八年一〇月二四日東京滞在中急に脳溢血で倒れ、やむなく治療のため、後記太田市の次男・川野正文方で世話になることとなり、医療保険の関係上、昭和四九年七月一九日に住民基本台帳法上住所を右家屋所在地から群馬県太田市大字東別所五一五番一一(川野正文方)へ変更したが、その後においても依然として右家屋に一切の家財道具を置き、妻が度々帰宅して掃除のほか近所付合いもし、嫁いだ娘も出入するなどして同家屋を居住の用に供していたことが認められる。)。控訴人らの前記主張は採用しえない。」

二  以上の次第で、前記判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 高山晨 裁判官 大出晃之)

物件目録

大阪市浪速区日本橋東四丁目一七番一五

一 宅地      五七・四五平方メートル

右地上

家屋番号一七番一五

一 木造瓦葺二階建店舗兼居宅

床面積  一階 四六・一八平方メートル

二階 二九・五八平方メートル

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