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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)65号 判決 1980年6月27日

控訴人

株式会社東洋精米機製作所

右代表者

雑賀和男

右訴訟代理人

沢田脩

藤田正隆

被控訴人

和歌山税務署長

坂口一郎

右指定代理人

小林敬

外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める判決

1  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人が、控訴人の昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度の法人税確定申告について、昭和五一年五月二二日付で控訴人に対してした申告期限延長申請却下の処分を取消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

<以下、事実省略>

理由

一請求原因1ないし3事実は当事者間に争いがない。

二本件処分に至る経過についての当裁判所の認定は、次に付加、訂正するほか、原判決八枚目裏一〇行目より一二枚目表五行目までのとおりであるからこれを引用する。

<中略>

三控訴人の昭和五〇年度分の決算のための資料について、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ<る。>

1  控訴人は法人税ほ脱の疑いで、昭和四七年八月三日大阪国税局より、昭和四八年四月一二日及び同月二五日和歌山地方検察庁より多数の帳簿書類を差押えられたが、大阪国税局差押分の中には無題ノートも含まれていた。

2  無題ノートは和歌山地方検察庁において保管中に所在が分らなくなつた。同検察庁は控訴人に対し、昭和四八年七月ころ、その全部かどうかはともかくとして、それまでに作成してあつた右のノートの写真コピーを交付し、同年九月ころには無題ノートの原本は所在不明であるがなお捜索中であると通告し、その後も同様趣旨のことを伝えて来ている。控訴人は前記差押以降は無題ノート原本を閲覧していない。

3  控訴人が右差押を受け本件処分当時未だ還付、閲覧を受けていない帳簿、書類のうち、少くとも無題ノート以外は昭和五〇年度分の損益の計算に必要なものでなかつた。

4  右無題ノートに控訴人主張のような財団法人雑賀技術研究所及び雑賀慶二との継続的な特許料支払等に関する取決めが記載されていたか否かはともかくとして、それ以外には前記ノートの記載中昭和四九年度分の損益の計算に必要なものはなかつた。なお2掲記の写真コピーには叙上取決めを記載した部分はない。

5  控訴人代表者と雑賀慶二は兄弟であり、控訴人は右1の差押の後も営業を継続し、その過程で必要な伝票、帳簿、書類を作成し保管して来ている。

四以上の認定事実によれば、控訴人について、やむをえない事由により昭和五〇年度分の決算が確定しないものと認めることはできない。すなわち、控訴人は既に昭和四七、四八年度分については決算を済ませているのであるから、昭和五〇年度分の決算のため従前の資産状況等を必要とする場合は右昭和四七、四八年度分の決算を基礎とすることができるし、昭和五〇年度における営業にあたつては帳簿等が作成されていてこれにより同年度における損益を明らかにできる筈である。更には昭和四八年度分については支払特許料も含め詳細に個々の項目と額をあげて決算をしているのであるから、これよりも資料が乏しいと思われない昭和五〇年度分についても同様に決算ができる筈である。

五のみならず<証拠>によれば、無題ノートに記載されていたとする販売協力金とは昭和四七年度に支払うべきもので、昭和四八年以降の収支に関係がないものと認められる。また特許料支払に関する継続的な契約については、それが仮に無題ノートに記載されていたとしても、その支払債務は控訴人の昭和五〇年度の損害の一部でしかない筈であるし、そのうえ無題ノートは本件処分の日より三年九月も前に差押えられたものであつて、その約一年後には検察庁がこれが行方不明であることを控訴人に伝えていたのである。そしてこのように経理に関する帳簿書類の一部が差押えされていても、その事由が発生してから相当期間を過ぎた後は、納税者としては残余の資料で出来るかぎりの決算をすべきものであつて、いつまでも「やむをえない理由により決算が確定しない」とすることはできない。すなわち経理関係の書類や帳簿の一部の利用不能のために、いつまでも決算が確定しないとすれば、会社の株主や債権者な会社の営業や資産状況を知つたり配当を受けることができなくなるし、国も資料の不明確な部分に対応するものを除いた最少限度の税を徴収することもできなくなつて他の納税者との間の均衡を失することになる。そしてこの場合利用できる限りの資料にもとづく決算と申告を要求することとしても、真の所得額が申告額を上回ることの立証責任は税務署長側にあるし、申告が判明した限りの資料と取引の実体にもとづき誠実にされたものであれば、結果として申告額が実際の所得額より低かつたとしても過少申告加算税や重加算税を課されることはない筈であり(国税通則法六六条一項ただし書、六八条一、二項)、また、仮に申告額が真実の所得額よりも過大であることが判明した場合には、その更正の請求をすることができる、特に本件のように書類の押収があつたときは更正の請求期間について特別の定めがされている(同法二三条一項、二項三号、同法施行令六条一項三号)のであるから、納税者にとつて右の解釈が著しく不利になるとすることはできない。

以上のとおり、無題ノートに控訴人主張のような協力金や特許料等支払に関する契約条項が記載されていたとしても、これをもつて本件処分の時点において、「やむを得ない事由により決算が確定しない」ものと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠は存しない。

六そうすると、被控訴人の本件処分は適法であり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(黒川正昭 志木義文 井関正裕)

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