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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)74号 判決 1984年11月28日

控訴人(原告) 共栄建設株式会社

被控訴人(被告) 国 滋賀県

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴人の当審における慰藉料請求を棄却する。

三、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「原判決を取消す。被控訴人らは各自、控訴人に対し、金四一〇九万円及び内金一五〇〇万円に対する被控訴人国においては昭和四四年二月二四日から、被控訴人滋賀県においては同月二二日から右支払ずみまで、内金二六〇九万円に対する同四六年三月二日から各支払ずみまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。控訴人の被控訴人国に対する、滋賀県知事野崎欣一郎が控訴人に対して昭和四三年三月二三日付滋賀県達河第四七三号により支払を命じた行政代執行費用金六一七万二四七〇円の支払債務が存在しないことを確認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び右金員給付を求める部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人らは主文同旨の判決及び仮執行の宣言が付される場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり附加・補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1、原判決一二枚目裏八行目の「の直上」を「から上流」と改める。

2、同一七枚目裏一行目の「第四四」を「第四四号証の一」と改める。

(控訴人の主張)

(一)、本件原状回復命令及び本件行政代執行の違法事由について、原審での主張につき次のとおり補足する。

(1)、本件原状回復命令(乙第一号証の一)に添付の平面図(以下「本件平面図」という。)に表示の本件砂利による埋戻しを命じた場所(黄色を塗つた部分)には誤謬があつて控訴人の埋戻しの責任外の部分が附加されている。すなわち、本件平面図に表示のNo.70+120地点附近からNo.73地点附近にいたる水流を示す赤線より右岸の部分及びNo.68地点附近からNo.69地点附近間の「野洲川」と記入した一帯の部分は訴外共進建設、同月城組が盗掘した部分にあたり、これに要した埋戻しの右砂利量は二〇〇〇立方メートル以上となつている。

特に、本件平面図に表示のNo.71+50地点附近からNo.73+30地点附近にいたる左岸堤防附近で本件砂利による埋戻しを命じた部分(黄色を塗つた部分)は、訴外中西土建が被控訴人県から昭和四二年六月二四日請負つて同年六月二五日から昭和四三年二月一九日まで施工した左岸堤防附近の護岸工事現場であり、控訴人が本件砂利を採取した場所でないにもかかわらず、本件原状回復命令は誤つてこれを控訴人の本件砂利による埋戻し責任のある範囲に含ませており、これに要した右砂利の埋戻し量は二六二七・三七立方メートルにも達している。

また、本件行政代執行は、本件原状回復命令で本件砂利による埋戻しを命じた部分以外の場所である本件平面図表示のNo.73地点附近の高い河川敷部分に本件砂利をまき散らしている。

(2)、本件原状回復命令に添付した本件平面図、同添付の横断面図(以下「本件横断面図」という。)自体に、また、右図面と同添付の縦断面図(以下「本件縦断面図」という。)との間に矛盾点が存するが、なかでも重大な矛盾点は、本件横断面図(No.4図)表示のNo.71地点では水流面の高さを読みとると一〇三・九メートルとなるが、その前後の地点、特にその下流のNo.70+150地点の高さが一〇四・九メートルとなつており、右表示によれば水流が低きより高きに流れるという不合理な結果となつている。しかし、右No.71地点の水流面の高さを一メートル高くして一〇四・九メートルとするとNo.71地点の水流面の幅が約八倍に拡大し、本件原状回復命令当時の現状であつた本件平面図のNo.71地点の水流面の幅と合致しなくなる。かくして、本件原状回復命令においては、作為的にNo.71地点の水流面の高さを一メートル下げるとともに地盤高をも作為的に一メートル低くして、同地点の本件砂利による埋戻し幅及び深さを増大せしめたものであつて、同地点附近での右埋戻し量はもともと九六八・五立方メートルにすぎないのに、これを八〇五四立方メートルに水増ししたものである。このことは、本件縦断面図(No.2図)から読みとると、No.71地点での護岸ブロツク天端の表高は一一〇・〇五メートル、根固工天端の表高は一〇五・九七メートルであつて、護岸ブロツクの高さは四・〇八メートルとなつているが、本件横断面図(No.4図)から読みとると、護岸ブロツクの天端の表高は一〇九・八九メートル、護岸ブロツクの現認できる最下部の表高は一〇五・四〇メートルであるから、護岸ブロツクの高さは四・四九メートルとなり、右護岸ブロツクの高さは、本件縦断面図によつたものより本件横断面図によつた方が四一センチメートル高くなつてしまい、しかも、本件横断面図によれば右護岸ブロツクはさらに地下に埋没している部分が存するのであるから、前記の差は右四一センチメートルよりさらに長いものになるのであり、このように本件横断面図において右護岸ブロツクの高さが間延びしているのは、前記のように水流面を作為的に一メートル低く下げたが故に、地盤の高さも故意に一メートル低く下げたことに起因するものである。

また、本件断面図に基づきこれを本件平面図上に移記してみると、本件平面図に表示された本件砂利により埋戻しを命じた部分(黄色を塗つた部分)が二か所において広くなつており、本件縦断面図に表示のNo.69地点の最深部の表示が一四二・一〇メートルとなつているのは、その他の地点が大体において一〇二・一〇メートルとなつているのに比し、不自然であつて実情に合致していないし、さらに、本件横断面図(No.4図)に表示のNo.70+150地点における断面積(BA)は、三三・一二平方メートルと表示されているが、一九・一五平方メートルと表示するのが正しく、これに反する前記表示は誤謬というほかない。

(3)、控訴人が滋賀県栗田郡栗東町大字辻字古谷一〇八番の一及び同所一〇八番の二並びに同所地先に堆積していた砂利等(以下「本件堆積砂利」という。)について、本件原状回復命令に添付の本件横断面図(No.7図――甲第二二号証の一はその写、昭和四二年一二月一六日から同月二一日までの間に測量)と本件行政代執行の際の横断面図(甲第二二号証の二、昭和四三年二月一七日から同月一八日までの間に測量)が存するが、右両図面によれば、本件堆積砂利の各横断面の形状、面積に差があつて食い違いを生じており、甲第二二号証の二の横断面の高さが甲第二二号証の一の横断面の高さより五メートルも高い部分が三か所もあり、本件堆積砂利量も、甲第二二号証の二は四万八〇〇〇立方メートル、甲第二二号証の一は三万六〇〇〇立方メートルであつて、両図面間に一万八〇〇〇立方メートルの差を生ずる結果となる。これを回避するため、甲第二二号証の二においては作為的に推定地盤線を底上げし、右図面の堆積砂利量を甲二二号証の一の堆積砂利量にほぼ一致させてその辻褄を合わせたもので、右のように本件堆積砂利量の測量は切捨て的測量をしたものである。

(4)、以上のとおりであつて、本件原状回復命令及び本件行政代執行は、前記のような誤謬や矛盾点を有し、その内容が不明確であつてその履行が不可能であり、延いては、控訴人の本件砂利の所有権を侵害するほか、いわゆる比例原則に反する過剰執行たるを免れないものであつて、違法というべきである。

(二)、当審で新たに慰藉料額一〇〇万円を追加する。すなわち、被控訴人らは、当審の弁論において、控訴人の正当な主張及び立証に対してきわめて詭弁的、詐術的な不当な応訴・反論を繰返し、控訴人に甚大な精神的苦痛を与えた。右精神的苦痛を慰藉するには金一〇〇万円が相当であるので、これを原審で請求の慰藉料額二〇〇万円に併せて慰藉料として金三〇〇万円を請求する。そして、本件損害賠償額合計四二〇九万円の内金として請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

(三)、被控訴人らの後記(一)の主張事実は争う。

控訴人の前記(一)の(1)ないし(3)の主張は、本件原状回復命令及び本件行政代執行についてその内容の不明確なること、延いては、控訴人の本件砂利の所有権を侵害すること、いわゆる比例原則に反する過剰執行となることを具体的に明らかにしたにすぎず、本件準備手続で主張しなかつた事実に属するものではない。

(被控訴人らの主張)

(一)、本件訴訟は昭和四六年二月一日の原審第一五回口頭弁論期日において準備手続にふされ、同四七年一月二九日の第六回準備手続期日において控訴人、被控訴人ら双方は準備手続の結果の要約原案に異議がないと陳述したうえ、同年三月二七日の第七回準備手続期日において、右当事者双方は、準備手続の結果の要約原案に反する主張は効力がないことを確認し、右要約原案のほかに主張及び立証の申出は行わない旨合意し、かつ、裁判官による準備手続の結果の要約(右要約原案と同じ。)に対し、そのとおり相違ない旨の陳述を行つたのである。しかるに、控訴人の前記(一)の(1)ないし(3)の各主張は、本件準備手続の結果の要約に含まれていない新たな事実の主張であり、前記準備手続期日における当事者双方の右訴訟上の合意に反する訴訟行為であつて許されない。

また、前記のような訴訟経過からみて、控訴人の新たな主張は、控訴人の故意または重大な過失により時機に後れて提出された攻撃または防禦方法であつて、訴訟の完結を遅延せしめるものであるから、却下せられるべきである。

(二)、(1)、控訴人の前記(一)の(1)の主張事実のうち、訴外中西土建が昭和四二年六月二四日被控訴人県から護岸工事を請負い、同年同月二五日から同四三年二月一九日まで本件平面図に表示のNo.71+50地点附近からNo.73+30地点附近までの間の左岸提防附近の護岸工事をしたことは認めるが、その余の主張事実は争う。

中西土建の右工事は、災害復旧工事として施行されたものであり、河川の改修工事として施行されたものではないから、災害前の状態に復旧することを目的として施工されるものであつて、控訴人の不法な砂利採取によつて深掘りされて低下した前記附近の河床高の復旧はその工事対象でなく、その低下した河床高の状態のままで前記災害復旧工事が施行されたため、控訴人の右深掘りの箇所については依然として原状回復を必要としたので、滋賀県知事は控訴人に対してその埋戻しを命じたものである。

(2)、同(一)の(2)の主張事実のうち、本件横断面図(No.4図)表示のNo.71地点の水流面の高さがその前後の地点の水流面より低く表示されていることは認めるが、これは水流面の高さの表示の誤記によるものである。その余の主張事実は争う。もともと水流面の高さの表示はいわば事情として表示されているにすぎず、本件砂利による埋戻し量は、右横断面図における横断線形のうち、黄色で着色された部分にのみ関係するものであり、これを換言すれば、本件横断面図(No.3ないしNo.6図)上に表示されている各測点における埋戻し計画高(計画最低河床高)は、いずれも各測点の地盤高及びDL等を基準にして決められるものであつて、水流面の高さの表示は右測量に本質的なものではないから、水流面の高さの表示に誤記があつても、それが前記埋戻し場所の特定や埋戻し量の増減に結びつくものではないのである。さらに、本件横断面図(No.4図)と本件縦断面図(No.2図)を対比して図示すると、No.71地点の護岸高等について控訴人主張のような不一致が生ずることは争わないが(ただし、右各図面にスケールを当てて計測する場合、用紙自体の折り目や伸縮等もあつて小数点以下二位までの正確な数値は得られない。)、このような図形上の不一致が生ずるのは、右横断面図の連接ブロツクの図形に製図上の誤謬があつて正確な護岸高を表示していないことによるものである。したがつて、このような誤つた連接ブロツクの図形にスケールを当てて護岸高を計測することは相当でなく、正確な右護岸高は、あくまで同図面上に算用数字で明記された数値であり、これが水準測量の基礎となるべき護岸高である。それ故、右横断面図の連接ブロツクの図形をスケールで計測した数値が右算用数字で表記した数値と相違し、これが控訴人主張のような図形上の不一致をもたらす原因となつているとしても、このような製図上の単純な誤謬をもつて右横断面図の各実測地点の測量の正確性が左右されることはないのである。

以上のとおりであつて、本件原状回復命令の内容に不明確な点はなく、その履行は可能であつたものであり、同命令の添付図面に誤記や何らかの問題点が存するとしても、それは軽微なものであつて、右命令内容の明確性が阻害されたり、その履行に支障を生ぜしめるものではなく、右命令の適法性を左右するには足りないのである。

(3)、同(一)の(3)の主張事実のうち、本件堆積砂利につき、本件原状回復命令に添付の横断面図(No.7図――甲第二二号証の一はその写)と本件行政代執行の際の横断面図(甲第二二号証の二)との間には、控訴人の主張するような横断面の形状等の差が生じていることは認めるが、その余の主張事実は争う。

右両図面の各測量当時、その現場は非常に凹凸が多くて見通しも悪く、各測量にあたつて見通し線が多少乱れて、これを低くとつたり高くとつたりしたため、右のような差が生じたものであり、また、各測量の際に測量関係者らが砂利の山の上に登つたり歩いたりすると、砂利の形が変化することもあり、さらに、各測量時の間に二か月余を経過していることから、その間の風雨による変動もありうるし、加えて、各測量時の測量者による横断方向の変化点の選定の仕方やポイントの設置、測量機器の読み取りの違い等もあつて、このような両図面間の形状等の相違が生じたものである。しかしながら、両図面間に右のような相違が存在しても、本件原状回復命令の実行には何らの支障が生ずるものではない。すなわち、本件原状回復命令の内容である本件砂利の取除き作業については、いわゆる「丁張り」を打つてこれを目安として本件砂利を推定地盤高まで取除く作業を行うのであるが、甲第二二号証の一には推定地盤高が各測点ごとに標高で表示されているのであるから、本件砂利の堆積形状の如何にかかわらず、「丁張り」を打つて右砂利の取除き作業を進めることができるのであり、堆積砂利の横断面の形状によつて右作業が不可能となるものではない。さらに、本件堆積砂利量が四万八〇〇〇立方メートルであつたとしても(控訴人主張の右数量自体何らの根拠のないものである。)、それは控訴人の不法採取の砂利量六万九〇〇〇立方メートルにははるかに満たないものであるから、当然本件堆積砂利量は、本件不法採掘区域への埋戻しに使用されるべきものであつて、被控訴人県側においてわざわざその一部分の切捨て測量をしなければならない理由は全くないのである。

(4)、同(一)の(4)の主張事実は争う。

(三)、同(二)の主張事実は争う。

(当審での証拠関係) 省略

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり附加・補正するほか、原判決の理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1、原判決一八枚目表一三行目、同一九枚目表一三行目の各「証人」の前にいずれも「原審」を、同二〇枚目裏一〇行目の「証人」の前に「原審における」を、同二一枚目表七行目の「原告」の前に「前示」を、同表八行目の「証人」の前に「原審」を、それぞれ加える。

2、同二一枚目裏一一行目の「同四〇年」を「昭和四〇年」と改め、同二二枚目裏三行目、同裏一〇行目の各「証人」、同裏五行目の「原告」の前にいずれも「前示」を、同裏五行目、同裏七行目、同裏一一行目の各「証人」の前にいずれも「原審」を、同二四枚目裏九行目の「証人」、同二五枚目裏四行目の「原告」の前にいずれも「前示」を、同裏一〇行目の「証人」の前に「原審」を、同二六枚目表一三行目の「原告」、同枚目裏三行目の「証人」、同二七枚目表二行目、同表七行目の各「原告」、同表六行目、同枚目裏三行目の各「証人」の前にいずれも「前示」を、それぞれ加える。

3、同二八枚目裏一二行目の「証人」、同二九枚目表八行目の「原告」の前にいずれも「前示」を加え、同二八枚目裏一三行目の「同小林清秀」を「原審証人小林清秀」と改める。

4、同二九枚目裏一行目、同裏七行目、同裏一三行目、同三〇枚目裏三行目の各「証人」、同二九枚目裏二行目、同三〇枚目表五行目、同枚目裏二行目の各「原告」の前にいずれも「前示」を、同三〇枚目表五行目の「代表者は、」の次に「原審において」を、それぞれ加え、同枚目表一〇行目の「それぞれ」から同表一一行目の「検甲号証には」までを「前示証人林暎子の証言により原告会社主張のような各写真であると認められる検甲第二七ないし第二九号証には」と改める。

二、先ず、被控訴人らは、控訴人の当審での前記(一)の(1)ないし(3)の各主張は、本件準備手続の結果の要約に含まれていない新たな事実の主張であり、本件準備手続期日において当事者双方がした、右準備手続の結果の要約以外には主張及び立証を行わない旨の訴訟上の合意に反する訴訟行為であつて許されない旨主張する。

本件記録によれば、本件訴えについては昭和四六年二月一日の原審第一五回口頭弁論期日において準備手続にふされたこと、その後、同年一一月四日の第四回準備手続期日において、当事者双方は裁判官から要約調書の原案を示されたが、控訴人が本件原状回復命令、本件行政代執行の違法事由として主張する要旨は、<1>、本件原状回復命令はその内容が不明確でありその履行が不能であること、<2>、本件行政代執行にあたつては戒告書が控訴人に送達されておらず、代執行令書が控訴人に送達されたのは、代執行が開始された日の前日であつて、代執行までの間に僅か一日しか余裕がなく、また、控訴人は本件原状回復命令を履行する旨を被控訴人県に通知したにもかかわらず、県知事はこれを無視して本件行政代執行を強行したこと、<3>、本件原状回復命令、本件行政代執行は控訴人の本件砂利に対する所有権を侵害するものであること、<4>、本件原状回復命令、本件行政代執行はいわゆる比例の原則に反すること(本件においては、本件行政代執行により費される費用、本件砂利の時価と右代執行の緊急の必要性がないことに照らせば、河川自らの自然調整作用による原状回復の方法によるべきである。)、以上のとおりであつたこと、そして、同年一二月二二日の第五回準備手続期日において、控訴人はその申立及び主張が前記要約調書原案のとおりであると陳述し、昭和四七年一月二九日の第六回準備手続期日において、控訴人、被控訴人ら双方は準備手続の結果の要約原案には異議がないと陳述したうえ、同年三月二七日の第七回準備手続期日において、右当事者双方は、準備手続の結果の要約原案のほかに主張及び立証の申出は行わない旨を合意し、裁判所による準備手続の結果の要約(要約原案と同旨)に対し、双方の申立及び主張はそのとおり相違ない旨の陳述をしたこと、以上の事実が認められる。

ところで、準備手続において当事者の協議に基づいて主張及び証拠の提出制限の合意が成立して、これが準備手続調書に記載されている場合(民事訴訟規則二四条二号、二〇条)、当事者の主張及び証拠については自由な処分を許す弁論主義を採用している以上、右のような訴訟上の合意は一般的に有効であり、当事者はこれに拘束され、右合意に反して新たな攻撃または防禦方法を提出することは、民訴法二五五条によればこれを提出しうる場合(ただし、職権調査事項の場合は除く。)においても、許されないものと解すべきである。

これを控訴人の当審での前記(一)の(1)ないし(3)の各主張事実について検討してみるに、右(1)の主張は、主として、本件原状回復命令に添付の本件平面図の表示には、本件砂利による控訴人の埋戻しの責任の範囲外の部分をその責任範囲内に含ませている旨右命令の誤謬を主張し、右(2)の主張は、主として、本件原状回復命令に添付の本件横断面図(No.4図)の水流面の高さについて他の地点より一メートル低い地点があることについて、その矛盾点を指摘するとともに右埋戻し砂利量の増大につながる所以を主張し、右(3)の主張は、本件堆積砂利について、本件原状回復命令と本件行政代執行にそれぞれ用いられた各横断面図について、その矛盾点を指摘するとともに本件堆積砂利量の切捨て的測量をしたことを主張するものであることは、右各主張自体に徴して明らかであるから、右(1)ないし(3)の各主張事実は、本件準備手続において控訴人が本件原状回復命令、本件行政代執行の違法事由として主張した、本件原状回復命令はその内容が不明確でその履行が不能であることについて、すでに原審準備手続前に提出された証拠に基づいてこれを具体的にその根拠を示して明確に主張したにすぎず、延いては、控訴人が同様に右違法事由として主張した、本件原状回復命令、本件行政代執行は控訴人の本件砂利に対する所有権を侵害するにいたること、本件原状回復命令、本件行政代執行がいわゆる比例の原則に反することについて、いずれも前同様その根拠を示して具体的に主張したにほかならないものというべきであるから、控訴人の当審での前記主張は、前示訴訟上の合意に拘束されるものではないと解すべきである。しかも、控訴人が前示主張をしたからといつて、右は前示のとおり原審準備手続前に提出された証拠資料の評価に基づく主張であつて、このことの故に著しく訴訟を遅滞させるものともいえないのである。したがつて、被控訴人らの前記主張はいずれにしても採用することができない。

また、被控訴人らは、控訴人の右(1)ないし(3)の各主張は、時機に後れて提出した攻撃または防禦方法であつて却下せらるべきである旨主張するが、右(1)ないし(3)の各主張については、前説示のとおりであるところ、以上説示の点をふくむ本件訴訟の経過に徴すれば、これが必ずしも時機に後れて提出されたものとはいえないから、被控訴人らの右主張も採用するによしないものである。

三、控訴人の当審での主張(一)の(1)について

訴外中西土建が昭和四二年六月二四日被控訴人県から野洲川の護岸工事を請負い、同年六月二五日から同四三年二月一九日まで本件原状回復命令に添付の本件平面図に表示のNo.71+50地点附近からNo.73+30地点附近までの間の左岸堤防附近の護岸工事をしたことは当事者間に争いがないが、前示検乙第五号証、前示証人沢井栄一、同竹中誠、同坪田永次、原審及び当審での証人小林清秀の各証言を総合すると、中西土建による右護岸工事は、昭和四〇年九月の台風二四号により護岸に欠損を生じた箇所につき災害復旧工事として施行されたこと、右災害復旧工事前の昭和四〇年三月頃前記各地点附近は控訴人によつて護岸堤の基礎部分の近くまで砂利を不法採取されて河床を掘削されていたこと、右護岸工事は河川の改修工事として行われたものではなく、災害前の状態に復旧することを目的として施行されたため、控訴人が前記のように掘削して人為的に低下した河床についてはこれを併せて工事の対象とすることなく、右のように依然として低下した河床のままの状態で護岸の復旧に関してその工事を施行したものであること、控訴人が掘削して低下した前記河床部分については、河床高がその上下流に比し低下しており、そのままの状態で放置すると、他の箇所に悪影響を及ぼし、河川管理上も危険であつたので、滋賀県知事は、砂利の不法採取という人為的な原因の責任者である控訴人に対して、右不法採取の部分についてもその原状回復を命じたものであること、以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。そうだとすると、本件原状回復命令に添付の本件平面図に表示のNo.71+50地点附近からNo.73+30地点附近にいたるまで控訴人に本件砂利による埋戻しを命じた部分は控訴人に埋戻し責任のある範囲に含まれるものであつて、これを誤謬として否定する控訴人の主張は採用することができない。

また、控訴人は、本件平面図に表示のNo.70+120地点附近からNo.73地点附近にいたる水流を示す赤線より右岸の本件砂利による埋戻しを命じた部分及びNo.68地点附近からNo.69地点附近までの間の「野洲川」と記入した同様の埋戻しを命じた部分は、訴外共進建設、同月城組が砂利を盗掘した部分にあたり、これらを控訴人の本件砂利による埋戻し責任部分に含めることは誤りである旨主張するが、右盗掘の現場が控訴人主張の各部分にあたることについては、右主張にそう前示控訴人代表者本人の供述部分は前示証人小林清秀の証言と対比して採用しがたく、右控訴人代表者本人の供述により控訴人主張のような写真であると認める検甲第三四、第三五号証によつても右主張事実を認めるに十分でなく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。その余の控訴人の(一)の(1)の主張事実についてもこれを認めるに足りる証拠はない。

結局、控訴人の前記(一)の(1)の主張は排斥を免れない。

四、同(一)の(2)の主張について

本件横断面図(No.4図)表示のNo.71地点の水流面の高さがその前後の地点の水流面の高さより低く表示されていることは当事者間に争いがなく、前示乙第一号証の一(特に添付の本件各横断面図のうちNo.4図)、当審証人小林清秀、同林康幸の各証言によれば、本件横断面図(No.4図)上、その表示のNo.71地点では水流面の高さが約一〇三・九メートルと測定されるが、その上流のNo.71+50地点、下流のNo.70+150地点ではいずれも水流面の高さが約一〇四・九メートルと測定されることが認められる。

控訴人は、本件原状回復命令においては、作為的に右No.71地点の水流面の高さをその上下流の各地点の水流面の高さより一メートル下げるとともに、No.71地点の地盤高を作為的に一メートル低くして、同地点の本件砂利による埋戻し幅及び深さを増大せしめたものである旨主張する。しかしながら、前示乙第一号証の一(添付の各図面)、前示証人小林清秀の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、本件各横断面図(No.3ないしNo.6図)は、もともと本件砂利の不法採掘場所への同砂利の埋戻し量を算出して埋戻し計画を定めるために実施した測量の結果に基づいて作成されたもので、各測点における埋戻し計画高(計画最低河床高)は、各測点の地盤高及びDL等を基準にして決められるものであつて、水流面の高さを基準とするものではないこと、前記測量は、水流面の高さを測ることを目的としていなかつたので、各測点について水流面の高さを測つて表示したものの、上下流の関係で各測点の水位を同時に測定するいわゆる水際測量はしなかつたものであり、本件横断面図(No.4図)のNo.71地点の水流面の高さの表示は、同図面の右地点において正しく表示すべき水流面(同地点に存する横断面の各溝状部の肩縁の高さあたり)より約一メートル低く誤記したもので、水流面の高さの表示に右誤記があつても、本件砂利による埋戻し量の増減には影響しないものであることが認められるから、本件横断面図(No.4図)に表示のNo.71地点の水流面の高さが約一メートル低く表示されているからといつて、それを根拠に控訴人主張のように作為的に右地点の水流面の高さとともに地盤高がいずれも約一メートル低く表示されたものと認めることはできない。以上に関してさらに、控訴人は、本件原状回復命令に添付の本件縦断面図のNo.71地点の護岸連接ブロツクの高さに比し、本件横断面図(No.4図)の同地点の護岸連接ブロツクの高さが四一センチメートル高く表示されていることをもつて、作為的に右地点の水流面の高さとともに地盤高がいずれも約一メートル低く表示されたことの根拠として主張する。本件縦断面図と本件横断面図を対比すると、No.71地点の護岸連接ブロツクの高さ(護岸高)について控訴人主張のような不一致が生ずることは当事者間に争いがないが、前示乙第一号証の一(添付の本件縦断面図、本件各横断面図のうちNo.4図)、前示証人林康幸の証言と同証言により成立を認める甲第二三号証、控訴人主張のような図面であることは争いがない検甲第五一号証の一・二によれば、本件縦断面図(No.2図)から読みとると、No.71地点での右岸連接ブロツク天端の高さは約一〇九・九五メートル、右岸根固工天端の高さは約一〇五・八七メートルとなり、右護岸高は約四・〇八メートルとなること、本件横断面図(No.4図)によると、右No.71地点での右岸連接ブロツク天端の高さは一〇九・八九メートルと表示され、同図面から読みとると、右岸連接ブロツクの現認できる最下部の高さは約一〇五・四〇メートルとなり、右護岸高は約四・四九メートルとなること、したがつて、右護岸高は、本件縦断面によつたものより本件横断面図によつた方が四一センチメートル長くなることが認められるが、右にいう横断面図の護岸高は、同図面に表示された右岸連接ブロツクの図形にスケールを当てて計測した数値をいうものであることは前示甲第二三号証、検甲第五一号証の一・二の記載から明らかであるところ、正確な右護岸高は、横断測量の性質上、その実測量の結果として右岸連接ブロツクの高さと右岸根固工天端の高さがいずれも算用数字で示されている場合、右各高さの差によるべきものであり(本件各横断面図のうちNo.4図のNo.71+50地点の右護岸高の表示参照、なお、No.71地点においては右岸根固工天端が地中にあるため、それについては算用数字で高さの表示がなく、右岸連接ブロツク天端の高さのみ算用数字で表示してあることが同図面によつて認められる。)、その形状の表示に必ずしも正確性を保しがたい右図面上の右岸連接ブロツクの図形にスケールを当ててその長さを計測するという方法によることは相当でないものというべきであるから、右のような方法によるときは、算出された本件横断面図のNo.71地点の右護岸高と本件縦断面図の同地点の右護岸高に相違が生ずることはありうべきことであり、同地点につき、本件横断面図の右護岸高が本件縦断面図の右護岸高より四一センチメートル高くなつたことについて、これが控訴人主張のように作為的に同地点の水流面の高さとともに地盤の高さをいずれも一メートル低くしたことに起因するものと断ずることはできないものというべきであり、他にそのように断ずべき証拠もない。以上の認定・判断に反する前示甲第二三号証、検甲第五一号証の一・二の各記載部分、前示証人林康幸の供述部分はいずれも採用することができない。

次に、前示乙第一号証の一(添付の本件縦断面図、本件各横断面図のうちNo.4図)によれば、本件縦断面図のNo.69地点の河床高最深部が一四二・一〇メートルと表示されていて他の点に比し深いこと、本件横断面図(No.4図)のNo.70+150地点における断面積(BA)は三一・二二平方メートルと表示されていることが認められるが、右各表示が誤りであることについてはこれを認める証拠が十分でないし、その余の控訴人主張の事実もこれを認めるに足りる証拠がない。

よつて、控訴人の(一)の(2)の主張も採用することができない。

五、同(一)の(3)の主張について

本件堆積砂利につき、本件原状回復命令に添付の本件横断面図(No.7図面――甲第二二号証の一はその写、昭和四二年一二月一六日から同月二一日まで測量)と本件行政代執行の際の横断面図(甲第二二号証の二、昭和四三年二月一七日から同月一八日まで測量)との間には、控訴人の主張するような横断面の形状等の差が生じていることは当事者間に争いがない。前記各測量図に右のような本件堆積砂利の横断面の形状の差が出た原因についてみるに、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二三号証の一・二、当審証人小林清秀の証言に弁論の全趣旨を合わせると、右各測量当時、本件堆積砂利の現場は凹凸が多くて見通しの悪いところであり、各測量にあたつて各測量者が横断方向の地点の選定について同じ場所で見通し線がとれず、見通し線を高くとつたり低くとつたりするため、各見通し線が違つてくること、本件堆積砂利の測量に際しては、見通しの利く砂利の山の頂上にポイントをとり、測量用の箱尺を立てて順次これを移動し、測量関係者が砂利の山を歩くため、それにつれて砂利の山が崩れて不整形となつたりすること、したがつて、右各測量時、本件堆積砂利の横断面の形状に差が生じたものであることが認められ、以上の事実のほか、右各測量時の間には約二か月が経過していることからすると、本件堆積砂利の横断面の形状についてはその間の風雨等の自然的条件による変化のほか、歩行者その他の人工的作用による変化があることなども推認することができるから、前記各測量図において、本件堆積砂利の横断面につき前記のような形状の差が生じたことはありうべきことというべく、右のような形状の差が存するからといつて、控訴人主張のように、本件堆積砂利の測量について作為が存するとか、右砂利量の切捨て的測量がなされたものとは断ずることはできないし、控訴人主張のような各図面であることは争いがない検甲第四八、第四九号証、第五〇号証の一・二、前示証人林康幸の証言のうち控訴人の右主張にそう各部分は前示各証拠と対比して採用することができないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、前示採用の各証拠によれば、本件原状回復命令の内容である本件砂利の取除き作業においては、いわゆる「丁張り」を打つて、これを目安として同砂利を推定地盤高まで取除く作業を行うのであるが、前示甲第二二号証の一には推定地盤高が各測点ごとに標高で表示されているので、本件堆積砂利の堆積形状の如何にかかわらず、「丁張り」を打つて同砂利の取除き作業を進めうるものであることが認められるから、本件堆積砂利の横断面の形状の相違が生じたことによつて右取除き作業が不可能となることはないものというべきである。

したがつて、控訴人の(一)の(3)の主張も採用することができない。

六、前記三ないし五で判断したところからすれば、本件原状回復命令及び本件行政代執行は、その内容が不明確であつてその履行が不可能なものではなく(ちなみに、当時控訴人としても、本件原状回復命令の内容がその主張のように不明確であるとし、そのためにその履行ができなかつたものであると認めるべき証拠もないのである。)、延いては控訴人の本件砂利の所有権を侵害するにいたるものでもなく、またはいわゆる比例原則に反する過剰執行たるものでもないから、結局、本件原状回復命令及び本件行政代執行の適法性は左右されることはないものというべきである。

七、控訴人の当審における慰藉料請求について

控訴人は、被控訴人らの当審における詭弁的、詐術的な不当な応訴、反論によつて精神的苦痛を被つたとして、その慰藉料一〇〇万円の支払を求めるが、被控訴人らが控訴人主張のような不当な応訴、反論をしたとの主張についてはこれを認めるに足りる資料はなく、むしろ、被控訴人らの応訴、反論に控訴人主張のような不当な事由の存しないことは、前叙で各判断したところから明らかであるから、控訴人の右請求も失当たるを免れない。

八、よつて、控訴人の本件控訴及び当審における慰藉料請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 唐松寛 奥輝雄 野田殷稔)

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