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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)76号 判決 1980年10月15日

神戸市灘区日尾町二丁目二番二〇号

控訴人

志水三二

右訴訟代理人弁護士

川上忠徳

川上博子

神戸市灘区泉通二丁目一番地

被控訴人

灘税務署長

中村貞雄

右指定代理人検事

片岡安夫

同法務事務官

河本正

同国税実査官

尾形一弥

同国税訟務官

井口勝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和四八年三月一二日でした昭和四四年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨の判決。

第二主張、証拠関係

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  当審における控訴人の主張

1  控訴人は 本件課税処分につき、芦屋市奥山所在の本件土地の賃料収入が控訴人の不動産所得に属するとした点を争うもので、その余の所得金額の認定について争うものではない。

2  本件各土地を国鉄及び間組に賃貸するにつき、賃貸借契約は長谷ビルと右賃借人らとの間で直接締結されたものであり、賃料を直接受領していたのも長谷ビルである。控訴人は、長谷ビルが何時いくらの賃料を受領していたか知らなかったし、長谷ビルに対する借入金の利息に充当されていたというけれども、長谷ビルから右賃料の処理、精算等について何らの報告も受けていなかった。昭和四五年七月二七日控訴人と長谷ビルとの間で作成された契約書(甲第三号証の四)の第四項末尾には「本件土地建物の国鉄、間組に対する賃料は昭和四五年一〇月三一日までの分は甲(長谷ビル)の所得とする。」と明記され、このことは、右契約書が作成されるまでは本件土地の賃料が利息に充当されていなかったことを明らかにするものである。このような契約が存すること、控訴人は賃料を全く受領していないことなどからも、本件土地の賃料は長谷ビルの収入とみるべきであって、長谷ビルが本件賃料を後日帳簿上どう処理したかということは同会社の内部的な事情にすぎず、これによって本件賃料を控訴人の収入とみるのは不当である。

3  本件土地のうち奥山一四番の土地は志水芳恵所有のものであるから、仮に本件土地の賃料収入が長谷ビルの不動産収入ではなく本件各土地の真の所有者に帰属すべきものとしても、一四番の土地に関する賃料は志水芳恵に帰属するものである。本件土地に関する仮処分申請書(乙第九号証)には一四番の土地も控訴人の所有である旨記載されているが、一般に仮処分申請は急を要する場合が多く、そのため場合によっては記載事実に齟齬をきたすこともあり、右仮処分申請においても、長谷ビルが控訴人に無断で本件土地を処分しようとしたため急きょ売買等の処分を禁ずるためなされたものであるが、控訴人と申請人代理人の打合せが十分でなかったためそのような誤りが生じたのである。なお、右仮処分申請事件は当事者間で和解が成立し、一四番の土地以外の土地は執行解放されたのであるが、一四番の土地は控訴人の所有でなく志水芳恵の所有であったため、仮処分登記は抹消されずに現在も残っているのである。また控訴人が一四番の土地が芳恵の所有であると主張したのは昭和四九年六月二五日の本訴提起後昭和五〇年一〇月三日の口頭弁論期日が初めてであるが、控訴人は、それまで本件土地の賃料収入が長谷ビルの収入であるとの主張を確信していたところ、その頃本件と同事案である別訴で右主張が否定されたため、予備的に新な主張を追加したものであり、本訴の第一審の最終口頭弁論期日が昭和五四年一〇月一七日であることに照らすと、決して遅すぎた攻撃防禦とはいえない。

二  当審における被控訴人の主張

本件土地が長谷ビルの名義になっているのは乙第三号証(甲第三号証の一と同一)(不動産の売却処分に関する契約証書)第一条によれば、控訴人が本件土地を第三者に売却するための便宜上のものであることが明らかであり、同号証の第三条によれば、本件土地を国鉄及び間組に賃貸し、当該賃料を控訴人の長谷ビルからの借入金六五〇〇万円の利息に充当するため長谷ビルが取得することは、長谷ビルと控訴人との間で確認されていることが明らかであり、さらに右事実は控訴人自身も乙第九号証の不動産仮処分命令申請書の理由中で自認していることである。その後右甲第三号証の一第二条所定の売却についての協議がされていないのは、甲第三号証の四(契約証書)、同号証の八(変更契約証書)の各契約が後日締結され、長谷ビルが昭和四六年六月三〇日付で本件土地の所有権を取得したからである。右甲第三号証の四第四項末尾の記載は、前示利息充当の結果を前提としてその後に新たに合意された契約であって、これによって既成事実を左右するものではない。一四番の土地についてなお仮処分の登記が抹消されないでいるのは、和解をした控訴人と訴外佐伯建設株式会社との間で、一四番の土地は宗教法人天理教津城分教会へ寄付されることになっていたところ、未だ同教会への所有権移転が履行されないためであり、一四番の土地が芳恵の所有であるからではない。

三  当審における証拠関係

1  控訴人

(一) 甲第一〇ないし第一三号証を提出。

(二) 当審における控訴人本人尋問の結果を援用。

(三) 乙第一〇、第一一号証の原本の存在及び成立を認める。

2  被控訴人

(一) 乙第一一、第一二号証(いずれも写)を提出。

(二) 前記甲号各証の成立を認める。

理由

一  当裁判所は、当審における控訴人の主張立証を斟酌しても控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表一一行目「約した。」の次に、「本件各土地を国鉄及び間組に賃貸する交渉は従前控訴人との間ですすめられていたが、本件土地の所有名義が長谷ビルに移転すると、国鉄及び間組は長谷ビルを相手として交渉を続け、控訴人もその引継ぎを長谷ビルに依頼していたものである。」を加える。

2  同九枚目表二、三行目「同号証の作成日付に照らすと、」を、「前掲証拠によると、前示のとおり、控訴人と長谷ビルとの間に、本件各土地を六五〇〇万円の貸金担保のため長谷ビルに所有名義を移転し、その返済はこれを他に処分しその売却代金をもってあてることとし、さらに純益は控訴人と長谷ビルとで折半するという契約が存していたところ、控訴人がその後本件各土地の返還を希望したので他に売却することを前提とした従前の契約を変更し、新たに控訴人が長谷ビルに一億四〇〇万円を支払って本件各土地の所有名義の返還を受けることとし、その間第一回分割金の支払期日まで長谷ビルは従前どおり賃料を取得できることを約定し(甲第三号証の四)、後日控訴人の申入れによって一部右契約内容を変更した(甲第三号証の八)ものであり、右甲第三号証の四、八の各契約書の賃料の取得に関する部分は、新たな契約後代金支払までの間の賃料の帰属を明記しただけであると認められるのであって、右甲第三号証の四、八によって控訴人と長谷ビルが、賃料をもって貸金の利息に充当するという当初の契約内容を覆す趣旨を合意したものとは認められず、甲第三号証の四、八の」と改める。

3  同一一枚目表二行目「ならない。」の次に、「なお控訴人が主張するように本件各土地が長谷ビルへの所有権移転登記をもって完全にその所有権を移転したのであれば、当然控訴人の昭和四二年度の不動産譲渡所得の中にその譲渡による所得が課税対象として計上されるべきであるが、成立に争いのない乙第八号証(控訴人が昭和四二年度の課税処分を争った別訴における第一審判決)、第一〇号証(同第二審判決)その他本件各証拠を検討してもそのような事実を認めることはできない。」を加える。

二  そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝田孝 裁判官 岨野悌介 裁判官 大石一宣)

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