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大阪高等裁判所 昭和55年(う)1302号 判決 1981年2月27日

本籍

大阪市東成区玉津二丁目八二番地の四

住居

堺市大美野六五番地の一

仏壇仏具販売業

倉本斉也

昭和一一年八月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五五年三月一九日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、次のとおり判決する。

検察官 阿部敏夫 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大槻龍馬作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討すると、本件は、大阪市内等で仏壇仏具販売業を営んでいた被告人が自己の昭和四六年分及び昭和四七年分所得税を免れようと企て、いずれも架空名義で、仕入の処理及び利益金の預金をする等して、昭和四六年分については一億五、四二二万六、一四二円の所得金の全額を秘匿し、所定の所得税申告期限内に所得税確定申告をしないで、同年分の所得に対する所得税一億二六四万一、一〇〇円を逋脱し、昭和四七年分については一億九、二四八万八二九円の所得金のうち一億九、一四四万一、二〇七円を秘匿し、残額の一〇三万九、六二二円が同年分の所得金額である旨の虚偽の所得税確定申告をして、同年分の所得に対する所得税一億三、一四四万六、四〇〇円を逋脱した事案であって、右犯行の動機、態様、脱税の手口、脱税額とその所得金額に対する割合並びに被告人の経歴、脱税した本税及び関係する重加算税の納付状況等の諸事情、殊に脱税額が多額であるうえに、逋脱率が極端に高いことに徴すると、国家の財政的基礎をなすその租税請求権を直接侵害する脱税犯の罪質と相まち、犯情は悪質であるといわなければならない。所論は、被告人の前記営業における売上総額が昭和四六年分では四億二、一二一万一、八一〇円、昭和四七年分では六億二、六〇九万七四〇円、荒利益率が五〇パーセント、経費のうちセールスマンに対する歩合給が売上額の八パーセントであることを前提として、原判決が認定した被告人の前記各所得金額の上に立って被告人の前記営業における経費率を算定すると、前記セールスマンに対する歩合給分を除けば昭和四六年分では五・四パーセント、昭和四七年分では一一・三パーントという被告人の営業の実態とかけ離れた不当に低い数値となるが、かかる不合理な計算結果は、原判決が被告人の前記所得金額を認定するにあたり採用した財産増減法における各期末の受取手形、たな卸資産、預金等の財産状況の把握が不完全なことに由来するもので、被告人の所得金額が原判決の認定額を下廻ることを示すものと考えられるから、この事情を被告人に対する刑を量定するにあたり有利に斟酌すべきである、というのであるが、原判決挙示の証拠によれば、原審が財産増減法により被告人の前記両年分の各所得金額を原判示のとおり認定した点はいずれも肯認でき、これが過大認定であるという誤りを見出すことはできず、所論が原判決認定の所得金額を前提とすると生ずるという経費率の数値における不合理な計算結果については、所論が前提とする諸項目の数値のうち、荒利益率が五〇パーセント、セールスマンに対する歩合給が売上額の八パーセントであるとする点は、本件証拠上肯認しがたい(原審が取調べた本件各証拠によると、所論の荒利益率の点については、昭和四六、四七年当時仏壇仏具販売業者間における荒利益率は平均五〇パーセントであったところ、被告人のもとでは多額の営業資金を保有して大巾に現金仕入れを行い、他の同業者よりも低い原価で商品を入手していた事情が認められ、特に被告人の異母弟で被告人の営業における店内業務を一任されていた倉本興一は、原審証人として、仏壇については最低でも仕入値のほぼ二倍、高いものでは七ないし八倍、平均して二倍半から三倍、仏具については平均して仕入値の約二倍の価額で販売していた旨証言しており、また所論のセールスマンの歩合給の点については、被告人のもとでの売上分のうちセールスマンによる売上高に対し、現金売分については一〇パーセント、三割の頭金を得た割賦販売分については八パーセント、全額割賦販売分については五パーセントの各歩合金がセールスマンに支給されていたことが認められ、八パーセントという所論の数値は、右の各歩合給の率を平均したものと考えられるが、前記証拠によると、被告人のもとでの売上にはセールスマンによるもの以外にも、被告人らによるいわゆる店売分も少なくなかったことが認められ、他方、被告人のもとでの売上中に占める右店売分及び前記三段階の歩合給率に対応する各売上分のそれぞれの割合を認定できる確証は本件証拠上見出せないことよりすれば、所論の主張は、不確実な数値を前提とするものとして、採用することができないものである。)から、右主張は失当である。そうすると、被告人に対し懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処し、右懲役刑につき三年間刑の執行猶予を言い渡した原判決の量刑は、決して重過ぎるものとは認められない。論旨は、理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木直道 裁判官 井上清 裁判官 谷村允裕)

○ 昭和五五年(う)第一三〇二号

控訴趣意書

所得税法違反

被告人 倉本斉也

右被告事件につき昭和五五年三月一九日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

昭和五五年一〇月一七日

右弁護人弁護士 大槻龍馬

大阪高等裁判所第三刑事部

御中

原判決の量刑は重きに失し不当である。(刑訴法三八一条)

一、原判決は罪となるべき事実として

被告人は、大阪市東成区玉津二丁目五番八号及び堺市草尾四六〇番地の一等において「倉本実践堂」の名称で仏壇仏具販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一 昭和四六年分の所得金額が一五四、二二六、一四二円でこれに対する所得税額が一〇二、六四一、一〇〇円であったのに、架空名義で仏壇仏具を仕入れ、その売上げによって得た資金を架空名義の預金にするなどの行為により右所得を秘匿したうえ、右所得税申告期限である昭和四七年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄東成税務署長に提出せず、もって、不正の行為により同年分の所得税一〇二、六四一、一〇〇円を免れ、

第二 昭和四七年分の所得金額が一九二、四八〇、八二九円でこれに対する所得税額が一三一、四七八、二〇〇円であったのに、前同様の行為により右所得の一部を秘匿したうえ、昭和四八年三月一三日大阪市東成区東小橋二丁日一番地の七所在の東成税務署において、同署長に対し、同年分の所得金額が一、〇三九、六二二円で、これに対する所得税額が三一、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の所得税一三一、四四六、四〇〇円を免れ

たものである。

なる事実を認定したうえ被告人に対し懲役一年六月(三年間執行猶予)及び罰金四〇〇〇万円に処したが、右量刑は以下述べる理由により不当に重い。

二、原判決は被告人の所得金額につき

昭和四六年分 一五四、二二六、一四二円

昭和四七年分 一九二、四八〇、八二九円

と認定している。

原判決は、所得額の計算につき財産増減法を採用しているので直接売上総額に関する認定はしていないが、本件記録によれば、

昭和四六年分 四二一、二一一、八一〇円

昭和四七年分 六二六、〇九〇、七四〇円

であって、この点については争いがない。

そうだとすると各年の純利益率は

昭和四六年分 〇・三六六

昭和四七年分 〇・三〇七

となるのである。

三、ところで被告人及び原審証人江本広治、中瀬雅光、倉本興一らの供述によると、被告人が当時取扱っていた仏壇仏具の販売価額は、仕入価額の概ね二倍であることが認められるから、荒利益率五〇パーセントということになるのであるが、これから前記純利益率を差引いたいわゆる経費率は

昭和四六年分 〇・一三四

昭和四七年分 〇・一九四

となるのである。

而して、被告人のセールスマンに対する歩合給は

現金の場合 〇・一〇

頭金三〇パーセント以上、残金一年以内で回収の場合 〇・〇八

その他 〇・〇五

平均 〇・〇八

であるから、これを前記経費率から差引くと

昭和四六年分 〇・〇五四

昭和四七年分 〇・一一三

となるのである。

そうだとすると、被告人は右のような低率の経費によって、紹介者に対する謝礼、各寺院に対する御供養、セールスマン以外の従業員の人件費、交際費、販売促進費、宣伝費、車輛償却、交通費、電話通信料等を賄い得たという極めて不合理な計算関係となるのである。

右の不合理は結局本件における所得額の計算が財産増減法を採用しているが、各期末における受取手形、たな卸及び預金等の把握が不完全な結果によるものである。

特に受取手形の取立状況に関する照会回答が不備であることは期末における受取手形の総金額を確実に把握できないことに結びつくことは極めて明白である。

四、原審においては、これらの事実に関する主張が正当であることを確信しながらも被告人の窮状からあえて主張せず、情状として主張したものであって、実質所得額は被告人が業界における通常の純利益率として述べている最高二割を適用するのが経験則に合致するものであり、これによると

各年の所得は

昭和四六年分 八四、二四二、三六二円

昭和四七年分 一二三、二一八、一四八円

となり、その所得税額を原判決認定にかかる所得税額と比較すると次のとおり大差が生ずる。

昭和四六年分

原判決認定額 一〇二、六四一、一〇〇円

純利益率二割の場合 約 五〇、九九四、〇〇〇円

昭和四七年分

原判決認定額 一三一、四七八、二〇〇円

純利益率二割の場合 約 八〇、一二九、〇〇〇円

(註) 弁護人算出の右両年度分の所得税額は、いずれも前記二割適用の所得金額(課税所得金額ではない)につき右両年分の所得税の速算表により算出した。

右のような大差が生ずるのは所得税法が累進課税方式を採用しているところから必然のことであって、原判決がその点を情状として考慮することなく、前記のように被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処したのは著しく重いものといわなければならない。

その他被告人の経歴、本人犯行の動機、犯行後の状況等を加味して考察すれば右の原判決の量刑は不当であってこれを破棄さるべきものと考える。

五、前期のように、原審においては、事実に関する主張は十二分に正当性のあるものと確信したが、被告人の意思によりあえて情状に関するものとして主張したため、本控訴趣意においても原判決における事実誤認は極めて明らかであるが、その主張はしないこととする。

以上の理由により原判決を破棄し、さらに相当の御裁判を仰ぎたく本件控訴に及んだ次第である。

以上

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