大阪高等裁判所 昭和55年(く)14号 決定 1980年3月28日
少年 S・D(昭四〇・三・五生)
主文
原決定を取り消す。
本件を奈良家庭裁判所葛城支部に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、附添人○○○○作成の抗告申立書(編略)記載のとおりであるから、これを引用する。
論旨は、要するに、少年を初等少年院に送致した原決定は、処分が著しく不当であるから、その取り消しを求めるというのである。
そこで、所論にかんがみ少年調査記録を含む一件記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して検討するのに、本件非行は、道路交通法違反事件五件(原動機付自転車の無免許運転二件ほか)、義務上過失傷害、窃盗五件(単車を利用したひつたくり)、恐喝三件(中学生から合計二、二〇〇円喝取)であるが、右各非行の事案、内容に加えて、少年の実母には保護能力が全くないこと等の諸事情に徴すると、原決定の処分もあながち首肯できないわけではない。
しかしながら、少年は一五才に達したばかりであつて、一件記録に徴してもいまだ非行性が固定したものとは考えられないこと、原決定当時は、適切な保護資源は見い出し難かつたけれども、その後実母の妹にあたるA子夫婦が少年を引き取つて面倒をみたい旨申し出るとともに、夫婦ともども少年の指導監督を誓つていること、少年も右A子夫婦に引き取られることを望んでおり、この機会に少年に適した職業につくことができるならば、少年の更生にも役立つと考えられること、更に少年はいまだ試験観察や保護観察の経験がないこと等の諸事情を考慮すると、少年をこれらの中間的措置や在宅保護処分に付して、叔母夫婦の協力のもとに、その自力更生のための機会を与えることが少年の健全な保護育成を図るうえで相当と認められるのであつて、少年を初等少年院に収容することは、現段階においては時期尚早の感を免れず、結局原決定はその処分が著しく不当であるといわざるをえない。
よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 原田修 裁判官 丹宗朝子 近江清勝)
〔参考〕少年調査票<省略>
〔編注〕受差戻審決定(奈良家葛城支昭五四(少)二二五、五〇五、一二四九号、昭五五(少)三一五号昭五五・六・一八保護観察決定)