大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1080号 判決 1981年6月25日
控訴人 更生会社日興観光株式会社更生管財人 井上隆晴
右訴訟代理人弁護士 中本勝
被控訴人 田中俊一
<ほか三名>
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 笹山利雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は「原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決二枚目表七行目の「ゴルフ倶楽部」を「カントリー倶楽部」と訂正する)であるから、これを引用する。
(控訴人の新たな主張)
更生債権確定の訴は、会社更生法第一五〇条により更生債権者表に記載した事項についてのみ許されている。これは、右訴において債権者表に記載した事項と異なる権利、内容、数額、議決権等の主張ができるものとすると、その事項について他の更生債権者等から異議を述べる機会を奪うことになるからである。
ところで、被控訴人らが届出た更生債権は、いずれも二五〇万円のゴルフ会員債権であり、更生債権者表にもその旨記載されている。しかるに被控訴人らの予備的請求にかかる二五〇万円の預託金返還請求権は、ゴルフ会員としての種々の権利義務を捨象した単なる預け金の返還請求権にすぎず、右権利と届出債権たるゴルフ会員債権とはその経済的、社会的利益を異にし、全然別個のものである。したがって、かような予備的請求は会社更生法の前記法条に反し不適法というべきである。
(右主張に対する被控訴人らの反論)
会社更生法第一五〇条は控訴人が主張するほど厳格、狭義に解すべきものではない。更生債権確定の訴は、主張にかかる権利が更生債権者表に記載したものと異る原因によるものであっても、これと請求の基礎を同じくする限り、許容されるべきである。けだし、更生債権届出の段階では事実関係、法律関係がいまだ不明確で、調査期日において異議が述べられた時点で、又は更生債権確定の訴訟の過程でこれが明らかになることが多く、このような場合に当初の債権者表記載の事項と異なる原因による主張を全く許さないとすることは、あまりにも債権者に酷というべきであり、また、これを許しても他の債権者等の異議権を不当に奪うものではないからである。
被控訴人らがそれぞれ届出た更生債権は、「更生会社のゴルフ施設利用権、預託金返還請求権その他サンイーストカントリー倶楽部規約にもとづく更生会社に対する会員としての一切の権利」を内容とするものであって、本件予備的請求にかかる預託金返還請求権はこれに包含されるか、そうでないとしても右届出債権と請求の基礎を同じくすることは明らかである。よって、いずれにしろ控訴人の主張は理由がない。
(新たな証拠)《省略》
理由
一 当裁判所も被控訴人らの主位的請求はこれを棄却し、予備的請求を認容すべきものと判断するのであって、その理由は、次に付加訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)
1 原判決九枚目裏九行目の「証人餅野の証言」の次に「当審証人梅本昌男の証言」を挿入し、同一〇枚目表三行目の「会長」を削り、同所に「実力者」を加え、同五行目の「業務を」の次に「も」を加える。
2 同一〇枚目表末行の「総務部長と称し」の次に「被控訴人田中進に訴外会社総務部長の肩書のある名刺を交付し」を加え、同裏八行目の「ゴルフ会員権」の次に「(預り証)」を加える。
(当審における控訴人の主張について)
成立に争いのない甲第二号証(更生債権届出書控)によると、被控訴人らは、それぞれ「更生会社のゴルフ施設利用権、預託金返還請求権その他サンイーストカントリー倶楽部規約にもとづく更生会社に対する会員としての一切の権利」を更生債権(預託金額二五〇万円)として届出ていることが認められ、したがって右届出に基づく更生債権者表にはこれと同旨の記載があるものと認められる。
本訴において被控訴人らは、主位的請求としてサンイーストカントリー倶楽部の会員権各一口を有することの確定を求め、予備的請求としてそれぞれ預託金二五〇万円の返還請求権(ここにいう「預託金の返還」は被控訴人らの用語にしたがったまでで、ゴルフクラブ会員が預託金据置期間満了後にその返還を求める意味での預託金返還とは異なり、会員権取得前に被控訴人らが訴外日興観光株式会社に支払った入会保証金ないし入会金の返還を求める意味である)を有することの確定を求めているのであるが、右認定によれば主位的請求は、まさに更生債権者表に記載した事項、原因による更生債権確定の訴ということができる。しかし右主位的請求は、引用にかかる原判決理由説示のとおり、被控訴人らについていまだ会員登録がなされていないから失当として棄却を免れない。そこで予備的請求に進むべきところ、控訴人は、被控訴人らの予備的請求は会社更生法第一五〇条に反し、更生債権確定の訴として不適法であると主張するので、以下この点につき判断する。
会社更生法第一五〇条は、更生債権者は更生債権者表に記載した事項についてのみ権利確定の訴を提起することができる旨を定めているが、同条は更生債権者表に記載した事項と異なる原因によっても、右事項と権利の実質関係を同じくし、且つ給付内容、数額を等しくする限り、訴の提起を許容する趣旨と解するのが相当である。このように解しても他の更生債権者らの異議権を不当に奪うものとは考えられない。
これを本件についてみるに、被控訴人らが訴外日興観光株式会社に(正しくはその表見代理人餅野法善に)それぞれ二五〇万円を支払って右会社の預り証を受領したのは、帰するところ右会社の経営するサンイーストカントリー倶楽部の会員権を取得するためであって、会員登録が認められれば会員債権の確定を求め、認められなければ右金員の返還請求権の確定を求めうる一連の関係にあり、両者は権利の実質関係を同じくするものであって給付内容、数額も異ならない。そうだとすると、被控訴人らの予備的請求は更生債権者表記載の事項とは異なる原因によるものではあるが、会社更生法第一五〇条に反するものではなく、更生債権確定の訴として許されるというべきである。
よって、控訴人の右主張は採用することができない。
二 してみると原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 藤野岩雄 坂詰幸次郎)