大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1185号 判決 1980年12月24日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し金一五九万四七二六円及びこれに対する昭和五五年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文の同旨。
第二 当事者の主張及び証拠
次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目表六行目の「ところ」の次に「換地処分の公告がなされた昭和五四年二月二八日当時」を加える。)。
(控訴人の主張)
1 本件清算金債権は転付命令により有効に控訴人に移転している以上、根抵当権者又は上島養親男を被供託者としてした被控訴人の供託は無効である。
2 換地清算金について物上代位権者がある場合、所有者は施行者に対し、清算金の支払を請求する権利はなく、供託金の還付請求権を有するにすぎないとすると、施行者が清算金を供託しない場合所有者は清算金を受領する方法がないことになり不合理である。
3 土地区画整理法一一一条二項は、施行者の所有者に対する金銭債権と補償金との相殺を認めている。補償金との相殺が有効である限り、これに対する転付命令も有効である。
4 土地区画整理法一一二条一項は、物上代位権者を保護する目的で施行者に対して行政法上補償金の供託義務を課したに過ぎないのであつて、補償金債権の内容まで変更したものではない。
理由
一 上島養親男は被控訴人に対し土地区画整理法一〇四条による上島養親男所有の本件宅地の換地の清算金債権一五九万四七二六円を有していたところ、控訴人は債権者として昭和五四年一〇月一日右清算金債権の差押転付命令を受け、この命令はこのころ被控訴人に送達されたことは当事者間に争いがなく、右命令が上島養親男に送達されたことは右事実から推認することができる。
成立に争いのない乙二号証、三号証の一、二によれば、本件宅地の換地処分の公告があつた昭和五四年二月二八日当時、本件宅地につき、(1) 根抵当権者不動信用金庫、極度額五〇〇万円、債務者城東鋼工株式会社と、(2) 根抵当権者大阪府中小企業信用保証協会、極度額三四六〇万円、債務者右同会社とする各根抵当権が設定され、その登記もされていたこと、各根抵当権者より右清算金を供託しなくてもよいとの申出はなかつたこと、右土地区画整理事業の施行者の大阪市長は昭和五四年一二月一四日土地区画整理法一一二条により前記清算金一五九万四七二六円を、被供託者を土地所有者上島養親男、又は根抵当権者大阪府中小企業信用保証協会、又は根抵当権者不動信用金庫として、大阪法務局に供託したことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
二 以上の事実関係の下で控訴人が転付債権者として被控訴人に対して本件清算金の支払を求めることができるかについて判断する。
土地区画整理法一一〇条一項は、施行者は一〇三条四項の公告があつた場合においては、一〇四条七項の規定により確定した清算金を交付しなければならないとしているが、同法一一二条一項は、施行者は施行地区内の宅地について清算金を交付する場合において、当該宅地について抵当権があるときは、その清算金を供託しなければならないとしている。
右一一二条一項の立法趣旨は、清算金が直接に土地所有者に払渡されてしまうと担保権者が事実上物上代位権を行使できなくなるので、担保権者が物上代位権を行使できるようにするため、これを土地所有者に支払わずに、供託させることにしたものであると解される。したがつて、その宅地に抵当権があるときは、抵当権者が供託しなくともよい旨の申出をしない限り、土地所有者は施行者に対して直接清算金の支払を求めることができず、その反面、土地所有者は施行者に対し清算金の供託を求めることができ、供託がされたときは、抵当権者との間で争いを解決のうえ供託金の還付を受けることができるものというべきである。
控訴人は、右法条は、行政法上、施行者に供託義務を課したものにすぎないと主張するが、施行者が一の清算金について、一方で供託義務を負い、同時に所有者に対しその支払義務をも負うとするのでは、担保権者の物上代位権を保護しようとする法の目的を達することができないうえ、この両者の義務の関係が不明確となるものであるから、控訴人の右主張は採用することができない。
控訴人は、所有者が清算金支払を求められないとすると、施行者が供託をしない場合、所有者は清算金を受領する方法がないことになり不合理であると主張する。しかし、所有者は、仮に施行者が供託を怠つたときは、施行者に対して供託を求め、あるいは損害賠償請求をすることができ、これによつて供託を促がすことができるから、主張のような不合理が生ずるものではない。
控訴人は土地区画整理法一一一条二項を援用するが、同項は、同一宅地についての支払うべき減価補償金と徴収すべき清算金との相殺を認めたにすぎないものであつて、一般的に相殺を認めたものではないから、右規定は前記のとおり解することの妨げとなるものではない。
以上のとおり、本件宅地については根抵当権が設定されていた以上、土地所有者である上島養親男は直接被控訴人に対し清算金の支払を求めることはできなかつたものである。
ところで、転付債権者は、差押転付命令が有効な場合、執行債務者が第三債務者に対して有していた債権をそのまま承継して取得するものであるから、上島養親男が被控訴人に対し直接に本件清算金の支払を求めることができない以上、控訴人も転付債権者として被控訴人に対し直接この支払を求めることはできないものであり、従つて本件転付命令や供託の効力について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する本件支払請求は理由がない。
三 そうすると控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。