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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1685号 判決 1982年9月30日

控訴人(原告) 中江充

被控訴人(被告) 株式会社高田製鋼所

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人が被控訴人の従業員たる地位を有することを確認する。

三  被控訴人は、控訴人に対し金一五〇四万三七三二円及びこれに対する昭和五七年五月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員並びに同年六月以降毎月二五日限り金一九万八六三五円宛の金員を支払え。

四  控訴人の金員請求のうち昇給及び一時金に関する主位的請求並びにその余の予備的請求を棄却する。

五  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

六  この判決の第三項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の従業員たる地位を有することを確認する。

3  被控訴人は、控訴人に対し金一五二九万三三三七円及びこれに対する昭和五七年五月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員並びに同年六月以降毎月二五日限り金一九万九四六九円宛の金員を支払え。(主位的、予備的請求に共通)

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  この判決の第三項は、仮に執行することができる。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正もしくは付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  1 原判決三枚目表八行目と九行目との間に次のとおり加える。

「(9) 昭和五六年一月分の賃金から毎月一人平均金一五〇〇円の定期昇給。

(10) 同年一〇月分の賃金から毎月一人平均金九五〇〇円の臨時昇給。

(11) 昭和五七年一月分の賃金から毎月一人平均金一五〇〇円の定期昇給。

(12) 同年五月分の賃金から毎月一人平均金一一八〇〇円の臨時昇給。」

2 同三枚目裏五行目と六行目との間に次のとおり加える。

「(9) 昭和五五年夏 同金二八万円

(10) 同年冬    同金三六万円

(11) 昭和五六年夏 同金三六万円

(12) 同年冬    同金三九万五〇〇〇円」

3 同四枚目表四行目「五五年四月」を「五七年五月」に、五行目「金九三五万〇八一二円」を「金一五二九万三三三七円」に、六行目「五五年四月」を「五七年五月」に、八行目「五五年五月」を「五七年六月」に、九行目「金一七万五一六九円」を「金一九万九四六九円」に各改め、一〇行目末尾に次のとおり加える。

「右金員請求のうち、昭和五一年五月分から昭和五七年五月分まで月額一四万四八一九円の割合による合計一〇五七万一七八七円及びこれに対する昭和五七年五月二六日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五七年六月以降毎月二五日限り月額一四万四八一九円宛の金員の支払いを求める部分は、本件解雇時の月額一四万四八一九円の割合による賃金請求である。これを超える部分である昇給及び一時金の合計四七二万一五五〇円及びこれに対する昭和五七年五月二六日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五七年六月以降毎月二五日限り月額五万四六五〇円宛の金員については、主位的に賃金請求権を、予備的に違法解雇による不法行為に基づく損害賠償請求権を原因として支払いを求めるものである。」

同裏三行目末尾に次のとおり加える。

「右は平均額であるところ、各人の本給、勤続年数に差異があるので控訴人の場合につき昇給及び一時金の額を算出すると、右平均額と異る部分は、次のとおりである。

(二)(1)七七九一円、同(3)五六二五円

(三)(1)二三万九五一九円、同(2)二一万三八八八円、同(3)二〇万三八一六円、同(4)一七万二一四九円、同(5)一五万七二七九円、同(6)一五万七三九八円、同(7)一九万〇三五六円、同(8)二二万四五二七円、同(9)二六万一六〇六円、同(10)三四万三〇六一円、同(11)三四万二一九二円、同(12)三七万三九八五円」

4 同八枚目裏一一行目「それ以外の」の次に「右の点において劣る」を加える。

5 同一四枚目裏七行目の末尾に「さらに、本件整理解雇時において命休(一時帰休)を実施していない。」を加える。

6 原判決添付別紙(一)(別紙省略部分)末尾「計金七六七万二八一二円」を削り、同所に次のとおり加える。

「四九 五月      金一七万五一六九円(同月より金九〇〇〇円臨時昇給)

五〇 六月      同右

五一 七月      同右

五二 八月      同右

五三 九月      同右

五四 一〇月     同右

五五 一一月     同右

五六 一二月     同右

五七 昭和五六年一月 金一七万六六六九円(同月より金一五〇〇円定期昇給)

五八 二月      同右

五九 三月      同右

六〇 四月      同右

六一 五月      金一八万六一六九円(同月より金九五〇〇円臨時昇給)

六二 六月      同右

六三 七月      同右

六四 八月      同右

六五 九月      同右

六六 一〇月     同右

六七 一一月     同右

六八 一二月     同右

六九 昭和五七年一月 金一八万七六六九円(同月より金一五〇〇円定期昇給)

七〇 二月      同右

七一 三月      同右

七二 四月      同右

七三 五月      金一九万九四六九円(同月より金一万一八〇〇円臨時昇給)

計金一二二二万〇三三七円」

7 同(二)末尾「計金一六七万八〇〇〇円」を削り、同所に次のとおり加える。

「九  昭和五五年夏 金二八万円

一〇 同年冬    金三六万円

一一 昭和五六年夏 金三六万円

一二 同年冬    金三九万五〇〇〇円

計金三〇七万三〇〇〇円」

二 控訴人の主張

1 被控訴人は、「現場関係」についてだけ「昭和四三年以降に入社した者で、満三六才以下の者」という整理基準を定めた。右は事務系との従業員を故なく不当に差別するものであつて、合理性を有しないし、若年層、入社歴の浅い者を不当に差別するものであつて、公正ではなく合理性もない。憲法一四条、民法九〇条、労働基準法三条の基本理念に反し、無効である。

2 被控訴人は、前記基準該当者のうち一〇名を「会社の経営に必要」という抽象的・恣意的な基準によつて残留させて、その余の者に対し退職勧告及び指名解雇の予告をしているのであるが、仮に、被控訴人において入社歴・年令を合理的基準と考えるのであれば、右一〇名を残留させるに当つても、恣意的に残留させる方法をとらずに、入社歴・年令を基準にすべきである。

3 ところで、本件解雇直前の従業員・年令及び入社歴は別表記載のとおりであるところ、前記基準の「昭和四三年以降」を「昭和四四年以降」に一年ずらしたならば、現に退職勧告及び指名解雇の予告をうけた者すなわち控訴人を含む九名が退職や解雇を免れ得たのであり、また、「満三六才以下」という年令を順次繰り下げるならば、現に退職勧告及び指名解雇の予告をうけた者すなわち控訴人を含む三六才から三四才までの者一〇名が退職や解雇を免れ得たのである。

三 被控訴人の主張

右控訴人の主張は争う。

四 証拠関係<省略>

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件解雇の適否について考察する。

1  被控訴人の就業規則には、従業員の解雇事由につき、その四五条二号に「やむを得ない業務上の都合によるとき」との規定があること、被控訴人は、昭和五一年三月一五日組合に対して三〇名の人員整理案を発表し、同年四月五日から同月一〇日まで希望退職者を募集したこと、右一〇日までに人員整理基準該当者二名及び同基準外の者九名から希望退職の申出があり、さらに同月一二日までに右基準外の者一名から希望退職の申出があつたこと、右人員整理基準は、昭和四三年以降入社の者で満三六歳以下の者であるが、同月一二日に退職勧告、解雇予告をうけた右基準該当者一三名のうち控訴人を除く一二名は、同月一五日までに右勧告に応じて退職したこと及び被控訴人は、不況対策として人員整理の必要があるとの理由で同月一六日右就業規則四五条二号により控訴人に対し本件解雇をしたものであることは、当事者間に争いがない。

右によれば、本件解雇は、不況による経営の苦況を克服するための人員整理であり、いわゆる整理解雇であることが明らかである。

2  ところで、成立に争いのない乙第二号証によると、労働協約において解雇を労使の協議事項と定めていることが認められ、就業規則では解雇を「やむを得ない」ときに限定していること等に照らして考えると、いわゆる整理解雇は、労働者に帰責事由のある懲戒解雇と異り、専ら会社の運営上の理由で労働者を解雇するのであるから、その解雇が有効であるためには、会社において可能な限りの解雇回避措置をとつたにも拘らず、なお解雇の必要性がある場合で、しかも整理解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)が合理的であつて、労働組合との協議がつくされていることを要件とし、右要件を欠く整理解雇は信義に反し、解雇権の濫用となると解するのが相当である。

三  まず、本件解雇の必要性について判断する。

1  成立に争いのない甲第六ないし第八号証、第一四、一五号証、第四二号証の一ないし一一、第四三号証の一ないし四、第五二号証、第五四、五五号証、第五六号証の一、二、第六六号証の一ないし二一、第七一ないし第七九号証、乙第六一号証の一、二、原審証人大堀季雄の証言によつて成立を認めうる乙第一号証、第三号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし一四、第八号証の一、二、第九ないし第一一号証、第一二号証、第一四号証、第二五ないし第二九号証、第三二ないし第三九号証、第四一号証、第四二号証の一、二、第四三号証、第四六ないし第五二号証の各一ないし五、第五三、五四号証、第五五ないし第五七号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第六三号証、第六五ないし第六八号証、当審での控訴人本人尋問の結果によつて成立を認めうる甲第八五、八六号証、原審及び当審での証人大堀季雄、原審証人井尻正俊の各証言、原審及び当審での控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  被控訴人は、昭和二六年四月鋳銅機械部品の専門メーカーとして発足し、その業務の特色は、多品種少量の受注生産であり、受注品の材質、形状、品質、重量等が非画一的であるため人手を要する割合に生産効率が低く、発注内容に左右されて自主生産、計画生産が困難であつて、すべての受注を自社のみで生産しようとすると固定費の増大を招くので、適宜外注に出していたが、景気の好不況の売上高への影響が他産業に比して半年ないし一年遅れて波及する業態である。そして本件解雇当時の資本金は一億円、従業員二八八名(昭和四八年末三四三名、同四九年末三三〇名)であつた。

昭和四八年暮のいわゆる石油シヨツク以来我国産業界を襲つた不況に伴う需要沈滞の影響を受けて、被控訴人は、昭和四九年暮頃から売上げの大部分を占める原子力及び火力発電並びに船舶関係からの総受注量及び高単価品の受注の激減期を迎えた。

(1) 本件解雇までの被控訴人の受注及び生産実績並びに外注実績は、次のとおりである。

受注量は、昭和四八年度一か月平均六〇二トンに対し、同四九年度一か月平均四八五トン、同五〇年度一か月平均二八五トンと落込んでいる。そして、昭和五一年一月を最低にして、同年二月は三五九トン、同年三月は四一八トンとかなり回復している。

生産量は、昭和四八年度一か月平均五三六トンに対し、同四九年度一か月平均四九五トン、同五〇年度一か月平均三三二トンと落込んでいる。そして、昭和五一年一月及び二月は三〇〇トンを割り、三月は三二八トンとやや回復しているが、売上金額はさえない。

外注量は、受注量の増減と歩を一にしているが、昭和五一年一月から激減している。

(2) 昭和五〇、五一年度の損益は、需要減退に基づく過当競争による製品価格の下落及びインフレーシヨンに起因する材料費、人件費等の上昇による製造原価の高謄によるのであるが、被控訴人は、昭和五〇年度以降製造原価が売上額を上回る赤字生産となつている。すなわち、昭和五〇年度経常損失一億四三〇〇万円(一か月平均約一二〇〇万円)に達し、同五一年一月同損失二二六八万一九六八円、同年二月同損失二五九九万九四八〇円、同年三月同損失二二二五万四九三九円となつた。

そして、被控訴人の昭和五〇年度の資産合計一六億七三四四万七一二一円、負債合計一四億七四九六万九九七一円、同五一年度の資産合計一七億一二七五万六二九九円、負債合計一八億一二五三万六七三九円であるところ、借入金は、昭和四九年一二月末の八億三五四七万円が、同五〇年一二月末で一〇億二五二五万円、同五一年一二月末一二億六二六三万円となつた。

もつとも、本件解雇当時の被控訴人所有の現金は九七万〇八八一円、流動性預金(当座、普通、通知預金)は七九三六万六五八八円、固定預金(定期預金)は六億八四三八万〇八一九円であり、ほかに有価証券六八四万〇一三〇円、株式一億二四五九万八三八五円があつた。右預金には従業員より預りの社内預金四三三一万三九八九円が含まれており、被控訴人には四億円余の割引手形の残債務はあつたが、被控訴人は昭和四九年度に高田粉末冶金株式会社に対し二九〇万円を貸与し、同社が南都銀行から一億円の融資をうけるに際しては自社の所有地と有価証券を担保に供し、同五〇年度にはさらに二一〇万円を貸与し、本社工場敷地のほか左記(ア)ないし(オ)の遊休不動産もあり、昭和五一年三月一五日現在赤字生産とはいつても債務超過というには至らなかつた。

(ア) 大和高田市大字奥田字五ノ坪二七一番三

田 一、八一七m2

(イ) 同所大字西坊城字平三郎三二一番二

宅地 二一二・一六m2

(ウ) 同所字柿ノ木三三二番

宅地 一、九七一・九六m2

(エ) 同所字梨子原三三七番一

宅地 六八・一九m2

(オ) 同所大字西坊城

木造瓦葺平家建、居宅(従業員寮)

計三棟(a) 床面積 四七・二六坪

(b) 同   四七・二六坪

(c) 同   六六・七三坪

(3) 被控訴人の損益計算書による過去五年間の比較損益状況及び貸借対照表による過去五年間の安全性の経常指標は、次のとおりである。

(ア) 過去5ケ年間の比較損益状況

単位百万円

27期

28期

29期

30期

31期

47/1~12

48/1~12

49/1~12

50/1~12

51/1~12

売上高

1270

1000.0

1792

100.0

2513

100.0

1751

100.0

1459

100.0

売上原価

1163

91.5

1559

87.0

2015

80.2

1649

94.1

1637

112.2

売上総利益

107

8.5

233

13.0

498

19.8

102

5.9

△178

△12.2

販売費及び一般管理費

102

8.1

121

6.8

189

7.5

161

9.2

159

10.9

営業利益

5

0.4

112

6.3

309

12.3

△58

△3.3

△337

△23.1

金利

42

3.3

65

3.6

82

3.2

72

4.1

30

2.1

雑損失

17

35

55

34

28

雑収入

14

31

31

21

77

経常利益

△40

△3.2

43

2.4

203

8.1

△143

△8.2

△318

△21.8

ニクソンシヨツク

第一次オイルシヨツク

希望退職者の退職金を含む

(イ) 過去5ケ年間の安全性の経常指標

修正自己資本比率

((引当金+自己資本)/総資本)

自己資本比率

(自己資本/総資本)

流動比率

(流動資産/流動負債)

20.5

14.3

109.3%

47/12

27期

20.5

13.7

119.1%

48/12

28期

24.4

16.1

129.0%

49/12

29期

19.5

11.8

128.3%

50/12

30期

1.1

△5.8

113.9%

51/12

31期

右経常指標では、本件解雇が行われる直前の昭和五〇年度においては流動比率はいわゆるニクソンシヨツクによる不況時の昭和四七年度より良好の比率を示し、自己資本比率はマイナスに転落していない。同五一年度においては自己資本比率はマイナスに転落しているが、修正自己資本比率はマイナスになつていない。

(二)  前記不況対策として被控訴人がとつた昭和四九年度及び同五〇年度の措置は、次のとおりである。

(1) 昭和四九年一〇月一二日工場協議会において受注の減退状況を説明した。

(2) 同月一四日部署間の繁閑調整のための応援態勢をとつた。

(3) 同月一八日残業を規制した。

(4) 同年一一月管理職の給料(役員一〇パーセント、部課長三パーセント)をカツトした。

(5) 昭和五〇年一月管理職の定期昇給を停止した。

(6) 同年二月七日経費節減の具体的目標を示した。

(7) 同月一五日高令者雇用を止めた(守衛二名)

(8) 同年三月七日営業部を増強した。

(9) 同月三一日臨時作業員七名の雇用更新を止めた。

(10) 同年四月一日雇用調整法に基づく不況業種の認定をうけ、同年五月管理職の臨時昇給を中止し、同年六月一六日から七月一五日までの間に命休一一日を、八月一六日から九月一五日までの間に命休一〇日を実施した。

(11) 同年九月一〇日臨時作業員五名の雇用更新を止めた。

(12) 同年一〇月一五日高令者二名の雇用延長を止めた。

(13) 同年一〇月一六日社用車を廃止し、守衛業務を警備保障会社に委託し、秋季リクレーシヨンを取止めた。

(14) 同年一二月二日定年後一年間の再雇用を向う一年間中止した。

(15) 同月命休七日を実施し、非常勤重役二名が退任した。

(三)  昭和五一年三月一〇日組合は、被控訴人に対し春斗として三万五〇〇〇円の賃上げ、定年六〇才までの延長及び週休二日の実施を要求して交渉を開始した。これに対し被控訴人は、右組合に不況対策としての合理化案のあることを申入れ、以後工場協議会において本件人員整理に関する説明をなし、説得を試みた。その間の経過は、次のとおりである。

(1) 昭和五一年三月一五日(第一回工場協議会)被控訴人は、昭和五〇年一月から一二月までの受注量が一か月平均二八〇トンであり、今後の見通しも期待できないと説明したうえ、組合に対し三〇名の減員と残留者に対する二〇パーセントの賃金カツトを中心とする人員削減案を提示した。

被控訴人は、その設備からみた生産能力は一か月五〇〇トン、稼働率からみると一か月四〇〇トン(右生産能力の八割)、必須生産量一か月三五〇トン(右の七割)と見込み、したがつて、受注目標量を一か月三五〇トンとし、従業員一人当りの一か月平均生産能力を少くとも約一・五トン(昭和五〇年度の一人当りの生産量)とした場合に、右受注量に見合う人員は二三三名と算定した。

350トン÷1.5トン=233(人)

そして、昭和五一年三月の全従業員は二八八名(現場二四三名、事務系四五名)であつたので、五五名の過剰人員が生ずる計算となる。

そこで、被控訴人は、企業努力及び残留者の賃金引下げ策を併用してもなお三〇名(現場二五名事務系五名)の過剰人員の整理が必要であるとして、右人員の整理を計画したのであつた。

(2) 同年三月一八日(第二回工場協議会)組合は、被控訴人に対し右案は事が重大なので書類にして出して欲しいと申入れ、被控訴人は、次回に書類を準備する旨約した。そして被控訴人は、前記三〇名の減員と二〇パーセントの賃金カツトでは赤字の半分しか吸収できないこと及び残余の赤字については会社の責任と工夫で解消したい旨を強調した。

(3) 同年三月一九日(第三回工場協議会)被控訴人は組合に対し左記内容の不況対策案を盛つた書類を交付した。

(ア) 当分の間夜間作業を中止する。

(イ) 機械加工売上げが二五〇万円ないし三〇〇万円位しか見込まれないため機械工場要員四〇パーセントの人員を減少する。この場合多種の機械操作ができる人を残留させる。

(ウ) 受注量の減少のため検査要員三分の一を減少する。

(エ) 生産量の減少のため社内運搬要員約二〇パーセントを減少する。

(オ) 全従業員のうち三〇名を減員する。まず希望退職者の募集を行い、退職条件は、退職金規定二条三号、同付則一を適用する。

(カ) 残留者に対しては、当分の間二〇パーセントの賃金カツトを行う。但し、残留者一人当りの月間売上げが五五万円に達したときは、これを解除する。

(キ) 生産目標一か月三五〇トン、将来は約四二〇トン、月間売上げ一億四一三五万円(一人五五万円)。

(ク) その他災害ゼロ運動等

(4) 同年三月二三日組合は、前記春斗要求に対して被控訴人から人員整理案が出たことに反発してスト権投票を行つた結果賛成二〇〇名余、反対約四〇名でストライキを行うことになつた。

(5) 同年三月二七日(第四回工場協議会)被控訴人は、第二回工場協議会で強調したことを再度強調し、組合は、三〇名の減員と二〇パーセントの賃金カツト案に反対して、春斗要求につき同月二九日までに回答するように求めた。

(6) 同年三月三一日(第五回工場協議会)被控訴人は、同年四月度の生産計画を発表した。

(7) 春斗要求に対する回答がなかつたこと及び人員整理案に反対して同年四月二日組合は、第一回ストライキを実施した。

(8) 同年四月三日(第六回工場協議会)被控訴人は、組合に対し同日から同月一〇日まで希望退職者を募集することを申入れた。そして、希望退職者が片寄りすぎたときは、部署の再編成を行い、技能・技術者が片寄つたときは、組合と相談のうえ選考し、希望退職者不足のときは、解雇となることを明らかにした。

(9) 同年四月五日(第七回工場協議会)双方が能率向上について話合つた。その後、被控訴人の職制部課長において希望退職者の募集とその期間は四月一〇日までの五日間であることを従業員に伝達した。

(10) 同年四月七日(第八回工場協議会)組合は、被控訴人に対し希望退職者の募集はやむをえない旨を述べると同時にその退職条件の引上げを申入れた。

(11) 同年四月九日(第九回工場協議会)組合は、同月八日第二回ストライキを実施したが、同月一二、一三日実施予定の第三回ストライキの中止を申入れ、被控訴人に対し余剰財産のあることを指摘し、指名解雇に反対を申入れた。被控訴人は、二〇パーセントの賃金カツトについては労働時間の延長の代案も考えられることを示唆した。

(12) 同年四月一〇日(第一〇回工場協議会)被控訴人は、三〇名の削減を求め、組合は指名解雇に反対した。

(13) 同年四月一二日(第一一回工場協議会)組合は、被控訴人に対し第三回ストライキの取止めを明示すると同時に、組合も希望退職の呼びかけをするからとの理由で、希望退職募集期間の五日間の延長を申入れた。被控訴人は、右期間の延長の申入れを拒否し、退職条件の引上げについては、予告手当相当分の支給のほかに餞別金二万円を追加支給することを明らかにすると同時に、左記基準で退職勧告を行い、四月一五日までは希望退職として認め、右四月一五日の経過により指名解雇し、指名解雇者には餞別金を支給しない旨を明らかにした。ところで、第一一回工場協議会で初めて提示された退職勧告及び指名解雇の基準は次のとおりである。

(ア) 事務、技術社員は、全社員の中から

(イ) 技能社員(現場関係)については、昭和四三年以降入社の者で、満三六才以下の者及び災害多発者

なお、右基準外からの希望退職者数だけ基準該当者の中から作業に必要な者を残つてもらうというものであつた。

(四)  本件人員整理後の状況は、次のとおりである。

(1) 昭和五一年四月以降の受注及び生産実績並びに外注実績は、次のとおりである。

受注量は、昭和五〇年度一か月平均二八五トンを上回つている。

生産量は、昭和五〇年度一か月平均三三二トンを上回つているが、売上金額は伸び悩んでいる。

外注量は、受注量の増減と歩を一にし、昭和五一年七ないし一〇月及び同五二年一月において昭和五〇年度の一か月平均を超えているが、その余は減少している。

(2) 昭和五一年度の経常損失は、三億一八〇〇万円に達し、昭和五二年度には経常損失二億七七〇〇万円、流動比率一二一・五パーセント、修正自己資本比率マイナス(一八パーセント)であるところ、被控訴人は昭和五二年中に南都銀行との間に約二億円の預金と借入金との相殺をなし銀行金利の負担減をはかり、同五三年には四銘柄の株式の処分を終了し、大和、三井、中京相互の各銀行との間で右同様の金利負担の軽減をはかり、同五四年には三菱、広島の各銀行との間で右同様金利負担の軽減をはかつた。

また、昭和五二年四月に坊城の土地約六八〇坪及び奥田の土地約五五〇坪を担保に六〇〇〇万円及び五〇〇〇万円の融資をえ、同五五年にこれを売却したが、昭和五一年度に総額二四三一万五〇〇〇円の投資(もつとも、従業員退職金に備える新規企業年金及び共済年金等の保険料が主である。)をなし、同五二年度に総額九二六万三〇〇〇円の投資をなし、同五三年度には五〇〇〇万円を超える大型砂落し機(コアノツク)を購入設備した。これらは、損失対策というよりも若干の好転による投資であることが窺える。

(3) 本件人員整理案の一つであつた残留従業員に対する二〇パーセントの賃金カツトは、その後実施されなかつた。かえつて、請求原因2(二)及び(三)記載のとおり昇給及び一時金の支給がなされたことは当事者間に争いがない。

また、その後全従業員数はさらに減少しているが、本件人員整理後の所定労働時間及び定年の延長がなされたこと並びに本件人員整理前後における従業員の時間外労働時間と公休日出勤労働時間の合計(以下時間外等労働時間という)は、次のとおりである。

(ア) 期間

所定労働時間延長時間

自昭和五一年四月二七日

四〇分

至同年一〇月二六日

自昭和五二年五月一六日

三〇分

至同年一二月末日

自昭和五三年七月一六日

三〇分

至同年一二月末日

自昭和五四年五月一日

五〇分

至同年一二月末日

(イ) 昭和五三年九月三〇日 定年満五六歳を満五七歳に延長

同五四年八月一日   満五七歳の定年者であつても、その後一年単位で再雇用する旨組合と協定を締結した。

(ウ) 期間

自昭和五一年一月

八四二時間

至同年三月

自昭和五一年四月

一七一三時間

至同年一二月

昭和五二年の一年間

二〇〇九時間

同五三年の一年間

二八九四時間

同五四年の一年間

二〇七三時間

2  さて、整理解雇における人員整理の必要性については、人員整理を行なわなければ企業の存続が危胎に瀕する程度にさし迫つた必要性ということを判断することは著しく困難であり、かつ、会社経営上時既に遅しとの危険を包含するから、本件整理人員三〇名の当否は暫く措くとしても人員整理が企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものであることを要し、それをもつて足りるというべきである。

そして、右企業の合理的運営上やむをえない必要に基づく人員整理であるといいうるためには、まず従業員に対する一時金の減額または中止、昇給の凍結、労働時間の延長、賃金の切下げ、投資有価証券または遊休不動産の売却処分、希望退職者の募集等可能な限りの解雇回避措置をとるべきである。

本件人員整理に際し、右可能な限りの解雇回避措置がとられて、なお人員整理の必要があつたと速断することは困難である。けだし、前記認定の事実関係によれば、昭和五〇年度の経常損失一か月平均一二〇〇万円に達したうえ、同五一年一月二二六八万円余、同年二月二五九八万円余となり赤字生産に転落していることが明らかであり、その後の昭和五一年度末には負債合計が資産合計を上廻つているので、本件解雇当時他の措置と併せて人員整理についても考慮せざるをえない事態にあつたことは否定できない。しかしながら、解雇回避策として昭和五〇年末までにとつた措置は、前記三1(二)のとおり管理職、高令者及び臨時作業員を対象とするものが主であり、事務系及び現場関係の一般従業員を対象としては命休があるのみといつて過言でないところ、その余の一時金の減額または中止、昇給の凍結等には及ばず、昭和五一年度にはいつてからは賃金カツト等何らの措置もとらずに本件人員整理に及び、その間に不十分な希望退職者の募集はしたものの、直ちに本件解雇に至つているからである。しかも、被控訴人は本件人員整理当時の受注量の見通しに誤りがあつたのであり、本件人員整理前の昭和五一年二月から受注量の回復の兆しが見え、同年三月には優に四〇〇トンを超え、本件人員整理以後は昭和五〇年度の水準を超えていること及び本件人員整理直後から二〇パーセントの賃金カツトはせず、昇給、時間外等労働時間の延長を行つていること等からすれば、売上高に伸び悩みはあつたものの、人員整理が性急にすぎたともいえるのである。

右の点につき被控訴人は有価証券の売却については得意先との関係から、坊城・奥田の土地については調整区域である関係から、昇給の凍結等については組合の反対が強い関係から何れもできない旨を主張するが、右有価証券及び土地についてはその後処分されているのに当時積極的にこれが解決に当つた形跡は認められないし、昇給の凍結等については組合に対し提案したことすら認めるに足りる証拠がないから、右主張はにわかに採用できない。

また、二〇パーセントの賃金カツトの不実施及び昇給の実施は、労働時間の延長との振りかえであると主張するが、労働時間の延長を必要とする程の仕事量があるならば、人員整理をしたことが早計であつたことが窺えるから、右主張も採用できない。

四  次に、本件人員整理の基準及びその適用の合理性の有無について判断する。

1  本件人員整理の入社歴と年令という基準は、会社の経営改善に必要な実質的要素として通常考えられる労働者の勤務態度、将来の企業への貢献度等とは直接関連性を有しない基準であるから、整理解雇の基準としては合理性の低い、いわば次善の策としての基準ではある。しかし、原審及び当審での証人大堀季雄の証言によると、前記実質的要素を基準とするときは労使間の紛議を免れないし、これを避けるべく入社歴の浅い年令の若いという形式的基準を設けたものであること換言すれば企業への過去の貢献度の低さ及び再就職の可能性の大きさを優先的に考慮した括一的基準に外ならないことが認められる。のみならず、一般に入社歴・年令という整理基準に基づいて選定するというのは、アメリカの先任権制度(勤務年数という単一の明確な基準に基づいて一時帰休の順位を決めるものであり、労働協約によつて制度化され、一種の社会慣行として定着している。)に類似しており、このような整理基準は形式的であるが故に適用過程において使用者側の恣意が入る余地が少ないという長所があるから、その基準が、当該企業の従業員の年令及び入社歴の構成上合理的に定められるならば、整理解雇の基準として一概に不合理なものと断ずることはできない。

2  前掲乙第五五号証、原審及び当審証人大堀季雄の証言、原審及び当審での控訴人本人尋問の結果によると、本件人員整理当時における満三七歳以下の従業員の年令及び入社歴の構成は、別紙「本件解雇直前の従業員年令と入社歴」に記載のとおりであること及び控訴人は昭和四三年入社で三四歳であつたことが認められる。

さて、入社歴と年令という組合せは幾通りにも編成することが可能であり、例へば、入社歴を一、二年繰り下げて年令を一、二年引上げる場合及びその逆に年令を一、二年引下げて入社歴を一、二年繰り上げる場合である。

ところで、原審及び当審証人大堀季雄の証言によると、本件における昭和四三年以降入社の者で、かつ三六歳以下の者という組合せは、被控訴人が選択した組合せの一つにすぎないことが認められるところ、右組合せを選択したことの合理的な根拠を見出すことは困難であり、これを認めるに足りる証拠はない。してみると、入社歴と年令との組合せ如何により、控訴人が本件人員整理による解雇を免れ得たことを否定することはできない。

3  次に、前掲乙第二五号証及び原審並びに当審での証人大堀季雄の証言によると、被控訴人は希望退職者を募集しても応募者はないものとの誤つた判断のうえに立つて、昭和五一年三月に前記昭和四三年以降入社の者で三六歳以下の者という人員整理基準を設け、遅くとも同年四月五日までには現場関係の従業員で右基準に該当する者二五名の氏名を確定していたこと及びその後に希望退職者を募集して一二名の応募者があつたことが認められる。

右によれば、希望退職者ゼロとしてたてられた前記整理基準は、変更されるべきものである。もともと、整理解雇の基準は、希望退職者を募集した後にたてるのが相当であり、本件においては整理予定人員二五名から希望退職者一二名を差引いた一三名に適合するように定立されるべきものである。してみると、解雇回避策としての希望退職者の募集なしに定立された前記基準は、真の解雇基準とはいえないとみるのが相当である。

4  さらに、前掲乙第一四号証及び原審並びに当審証人大堀季雄の証言によると、被控訴人は昭和五一年四月一二日までに合計一〇名の基準外希望退職者が現われた段階で、基準内から残留者一〇名を選出して残留させているのであるが、その選出に際しては「会社の今後の経営にとつて必要な技術の進歩の見込みのある者」という基準によりながらも、その適用に当つては協調性ある者或は技術面においてより優れた者、その職場で実際的に必要な者という要素に重点をおいて選出したこと及び被控訴人が右残留基準に適合する者として選出した一〇名についての理由は次のとおりであることが認められる。

(一)  野口正美 三〇歳 経験八年

一般品・MM品の溶接作業において速さと確実さでは他に遅れをとらず、小廻りも利き、その技能は昭和五〇年の原子力弁の溶接作業でその力を充分に発揮した。その性格も積極的で協調性に富み、将来性が誠に大きい。

(二)  常岡男  三一歳 経験八年

作業に対する研究心が旺盛で、ここ二、三年その進歩に著しいものがあり、確実な作業と速さは同職種で一番である。又考え方も安定しており、社外作業にも安心して一人で出張させられる。将来性大きく、溶接作業の中心となるだろう。

(三)  梶原義則 三五歳 経験七年

バルブ仕上工として経験を積み、性格が落ち着きと粘りに富み、小物バルブの仕上げ要員として欠かせない人物である。

(四)  西崎朝義 三五歳 経験七年

砂落工の特に大物要員に欠員を生じたため、経験工である本人を必要とする。又流し工の予備要員としても応用のきく必要な者である。

(五)  水谷清  三五歳 経験七年

溶接工として技能の向上が著しく、特にピース、バルブ及び加工品・返却品の手直し要員として欠くことができない。向上心と温和で積極的な性格は、将来性が大である。

(六)  坂井弘司 三〇歳 経験六年

大物・中物の流し工としての技能が優れ、将来は流し工の中心となる者である。積極的で協調性に痛み将来性多大。

(七)  中山勝美 三三歳 経験一三年

放射線撮影工として社内で唯一人の熟練者で、 線関係の班長であり、欠かせない中心人物である。

(八)  田中博文 三三歳 経験六年

X線写真の判定に優れた技能を有し、判定ミスが少く、欠くことのできない者である。

(九)  梅本義昭 三三歳 経験一五年

造型工として経験に富み、技能優秀である。

(十)  三宅洋一 三五歳 経験六年

造型要員として必要である。

ところで、前記人員整理基準と残留基準とを通して考えてみると、括一的な形式的基準にこれと異質の実質的基準を混入させており、換言すると「昭和四三年以降入社、満三六歳以下の者のうち、会社の今後の経営にとつて必要な技術を有するといえないか、又はそのような技術の進歩の見込みがあるといえない者」というのが真の解雇基準であるということになる。そして、形式的な基準によつて被解雇者の範囲を限定したうえで、実際には実質的な基準で具体的人選を行つているのである。

しかしながら、「会社の今後の経営にとつて必要な技術を有するか、有しないか」とか「そのような技術の進歩の見込みがある者か、ない者か」とかの基準はその資格等の限定もなく、抽象的で曖昧であり、具体的適用において使用者の恣意が混入しないことを保障しうるものではないから整理解雇基準として合理的なものとはいえない。

そして、控訴人が右基準該当の事由すなわち、控訴人が会社の今後の経営にとつて必要な技術を有しないか又はそのような技術の進歩の見込みのない者に該当することを認めるに足りる証拠はない。

もつとも、成立に争いのない乙第五八号証の一、二、原審及び当審での控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は昭和五〇年二月二級電気溶接の更新のための検定試験(専門級)に不合格となつたことが認められる。しかしながら、右本人尋問の結果及び原審証人大堀季雄の証言によると、溶接作業の腕をかわれた残留者のなかに溶接資格のない者があり、退職勧告をうけた者のなかにγ線関係の免許を有する者もあり、控訴人の右不合格はその仕事、技能に支障となるものでないことが認められるから、右不合格を該当事由とすることはできない。かえつて、前掲証拠によると、控訴人は溶接と切断のテストをうけて被控訴会社に昭和四三年一二月二五日に入社以来、バルブ溶接を主に原子力部品及び一般部品の溶接の若干、さらに切断、グラインダー、砂落し、製缶、玉かけ、流し等各職種に経験豊富であること及び勤務態度(欠勤や作業内容)に悪い点はないことが認められるのである。してみると、前記選出された一〇名との間に優劣をつけ難いとみるのが相当である。

5  以上2ないし4に述べたとおりであるから、本件人員整理の基準はそれ自体合理性を欠くといわねばならない。

五  次に、組合との協議について判断する。

1  労働協約において従業員の解雇を労使間の協議事項と定めていることは、既に述べたとおりであり、成立に争いのない乙第二号証によると、右協議は工場協議会においてなされることが認められるところ、本件人員整理に関して開催された昭和五一年三月一五日から同年四月一二日までの一一回の工場協議会の経過は三1(三)に認定したとおりである。

2  右の事実関係によれば、被控訴人は本件人員整理に関し組合と約一か月間にわたり一一回の協議を重ねたといえる。

ところで、整理解雇に際し労使間において協議すべき事項は、人員整理の必要性についてのみならず、整理方針、その手続(希望退職の募集の経由、募集の期間)、規模(人数、範囲)、人員整理ないし整理解雇の基準とその適用(具体的人選)、解雇条件(経済的処遇)等広範囲にわたるべきところ、右一一回の協議においては、人員整理の必要性について主に協議がなされただけであり、整理解雇の基準及びその適用等について協議がなされたとはいい難い。すなわち、組合が人員整理に反対しながらも被控訴人に対し、昭和五一年四月七日には希望退職者の募集はやむをえない旨及び退職条件の引上げを申入れ、同月九日には同月一二日と翌一三日とに予定していた第三回ストライキの取止めを申入れ、同月一二日には希望退職の呼びかけをするからとの理由で希望退職募集期間の五日間の延長を申入れたこと等から、協議をつくすべき環境が整い、人員整理を円滑に前進させる労使間の基盤が生れてきたのに拘らず、これを無視し被控訴人は組合に対し僅かばかりの退職条件の引上げを回答しただけで、その余の申入れを拒否し、同月一二日退職勧告兼指名解雇の基準及び残留者選出の基準を発表し、右基準については何ら協議することなく、同日直ちに残留者を除く基準該当者一三名に対し退職勧告及び指名解雇の予告を行つたことが明らかである。

そして、右基準について協議をつくしたならば合意に達しえたという保障はないが、右解雇ないし残留者選出基準自体が前記のように合理性を欠くのであるから、組合にも意見があることは十分予想しうるのであり、協議をつくすことにこそ意義があるといわねばならないところ、被控訴人は単に右基準の提示が遅れたとか、協議の進め方がやや強引であつたとかという程度ではなく、全く一方的な通告に終つているのである。

もつとも、組合が右四月一二日の退職勧告及び指名解雇の予告に対し抗議声明を出しながら、同月一七日には指名解雇された控訴人に対し支援しない旨を決議していることは、成立に争いのない甲第一五号証、第一八号証、原審及び当審での証人大堀季雄の証言、同証言によつて成立を認めうる乙第二二号証によつて認められるが、右事実だけから直ちに解雇について労使の協議がつくされていたとか、解雇について労働組合は異議がなかつたとかということはできない。

してみると、被控訴人は、本件人員整理の根幹ともいうべき退職勧告兼指名解雇基準及び残留者選出基準については労働組合と全く協議の場すらもたなかつたといわねばならない。

3  よつて、本件解雇は、組合との協議をつくすべき要件を欠くというべきである。

六  前記三ないし五の判断の結果によると、控訴人のその余の主張についてみるまでもなく、被控訴人が控訴人に対してなした本件解雇は違法であり、その効力を生じないというべきである。したがつて、控訴人は現在なお被控訴人の従業員であり、昭和五一年四月一六日以降の賃金請求権を有するものといわねばならない。

1  成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によると、控訴人の昭和五一年四月一六日の本件解雇当時の賃金は、月額一四万四八一九円であることが認められる。乙第一六号証は三〇日分の賃金を算出したにすぎないものであるから、右認定を左右するものではない。

そして、右月額による昭和五一年五月分から同五七年五月分までの合計額は一〇五七万一七八七円となる。

2  請求原因2(二)及び(三)は、当事者間に争いがない。

右は一人平均の金額であるところ、弁論の全趣旨によると、控訴人が昇給及び一時金をうけた場合の額は、少くとも次のとおりと認められる。

(一)  昇給額               月額

(1) 昭和五一年五月分から 七七九一円昇給 一五万二六一〇円

(2) 同五二年一月分から   六〇〇円〃  一五万三二一〇円

(3) 同年五月分から    五六二五円〃  一五万八八三五円

(4) 同五三年五月分から  一五〇〇円〃  一六万〇三三五円

(5) 同五四年四月分から  一五〇〇円〃  一六万一八三五円

(6) 同年五月分から    二〇〇〇円〃  一六万三八三五円

(7) 同五五年一月分から  一五〇〇円〃  一六万五三三五円

(8) 同年五月分から    九〇〇〇円〃  一七万四三三五円

(9) 同五六年一月から   一五〇〇円〃  一七万五八三五円

(10) 同年五月から     九五〇〇円〃  一八万五三三五円

(11) 同五七年一月から   一五〇〇円〃  一八万六八三五円

(12) 同年五月から   一万一八〇〇円〃  一九万八六三五円

(二)  一時金

(1) 昭和五一年夏  二三万九五一九円

(2) 同年冬     二一万三八八八円

(3) 同五二年夏   二〇万三八一六円

(4) 同年冬     一七万二一四九円

(5) 同五三年夏   一五万七二七九円

(6) 同年冬     一五万七三九八円

(7) 同五四年夏   一九万〇三五六円

(8) 同年冬     二二万四五二七円

(9) 同五五年夏   二六万一六〇六円

(10) 同年冬     三四万三〇六一円

(11) 同五六年夏   三四万二一九二円

(12) 同年冬     三七万三九八六円

3  ところで、控訴人は、本件解雇後の昇給及び一時金を含めた賃金を請求するが、被控訴人の右昇給及び一時金支給の意思表示なしに当然に昇給し又は一時金の支給をうけたものとはいえないし、他に当然昇給を肯認できる主張立証はないから、右昇給及び一時金(合計四七二万一五五〇円)についての主位的賃金請求は理由がない。

4  そこで、予備的請求についてみるに、本件解雇は違法であるところ、前記三ないし五に認定の事実関係によれば、被控訴人において、受注量の回復及びその見通しを誤認し、希望退職者はないものとの判断のうえに立つて人員整理計画を樹立したこと等に基づき、解雇の必要性に関する回避策及び解雇基準の合理性の欠如並びに組合との協議義務に違反して、本件解雇をした点につき少くとも過失があつたというべきである。

被控訴人は、右により控訴人が被つた損害を賠償すべきところ、その損害額は、本件解雇がなかつたならば控訴人が昇給したであろう金額すなわち、前記2(一)及び(二)に認定の昇給及び一時金相当の合計四四七万一九四五円と認めるのが相当である。

よつて、予備的請求は右の限度において理由がある。

5  してみると、控訴人の本訴請求は、控訴人が、被控訴人の従業員たる地位の確認、被控訴人に対し賃金合計一〇五七万一七八七円と損害金計四四七万一九四五円との合計一五〇四万三七三二円及びこれに対する弁済期及び不法行為の日の後である昭和五七年五月二六日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに同年六月以降毎月二五日限り一九万八六三五円宛の金員の支払いを求める限度で理由があり(地位確認及び将来の給付を求める部分については、被控訴人が解雇の有効性を主張し、賃金の支払いもしなかつた経緯に鑑み、その必要性がある。)昇給、及び一時金に関する主位的請求並びにその余の予備的請求は理由がないといわねばならない。

七  以上の次第で、原判決は相当でないからこれを取り消し、控訴人の本訴請求を右限度において認容し、昇給及び一時金に関する主位的請求並びにその余の予備的請求を棄却することとし、民事訴訟法九六条、八九条、九二条但書、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林定人 惣脇春雄 小林茂雄)

別表<省略>

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