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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1751号 判決 1981年9月30日

控訴人

京都市

右代表者市長

今川正彦

右訴訟代理人

納富義光

被控訴人

達城愛子こと

尹敬愛

右訴訟代理人

和田政純

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一事故の発生

京都市右京区梅ケ畑清水町国道一六二号線東側の山腹に落石崩土を防止するため構築されていた本件擁壁は、昭和五一年一月当時、築造から約五〇年以上も経過し亀裂が生じ危険な状態にあつたので、控訴人は、災害防除を目的として右擁壁を補強する本件工事を施行することとし、これを植田工務店に請負わせ、同工務店は被告会社にこれを下請させたこと、そこで被告会社は、同月二一日本件工事に着手し、同月二三日その従業員五、六名が、本件擁壁に沿つて国道路肩部分に補強壁の基礎を打ち込むため幅約1.5メートル、深さ約七〇センチメートル、長さ約九〇メートルにわたる床掘り作業をしていたところ、同日午前一一時五〇分ころ、本件擁壁を含む山肌が突然崩壊して本件事故が発生したこと及び亡元次は被告会社に重機運搬車の運転手として勤務していたが、右事故により土砂及び擁壁の下敷となり、骨盤骨折、内臓破裂の傷害を負い即死したことは当事者間に争いがない。

二事故の態様とその原因

1  <証拠>を総合すると、

(一)  控訴人は、京都市から福井県に至る一般国道一六二号線のうち、本件事故現場付近を含む山間部分(指定区間外)の管理に当たつていたところ、昭和四六年ころ本件事故現場の北方で土砂崩れが発生したこともあつて、建設省の指示により点検調査した結果、右京区梅ケ畑地内から北区中川地内までの間に八か所の危険箇所を認めたが、本件事故現場付近もその一つに挙げられ、先の調査により同所付近の山の土質は風化が著しく多量の水を含めば軟弱化する不安定な性状であることが判明しており、また本件擁壁の工事内容を記録したものはなかつたが、築造から約五〇年以上も経過し、亀裂が生じていたほか、一面にこけが生え、水が浸潤している箇所もあるなど、外観上、老朽化が著しく崩壊の危険もあつたため、通行車両及び付近住民の災害を未然に防ぐべく、その防除工事の必要に迫られていたこと。

(二)  そこで、控訴人は、国の補助金も得たうえ、昭和五〇年度の予算で本件擁壁の補強と落石防止柵の設置工事を施行することとし、担当の建設局道路建設課第二係技術吏員中野薫は、準備作業として、昭和五〇年三月ころ、本件擁壁の基礎部分に一、二か所ほど根入れをしてそれがアスファルト舗装面から七、八〇センチメートルくらい下方に及んでいることを確認したが、その内部構造に立ち入つて調査することまではせず、擁壁の上部(天端)が幅二五ないし三〇センチメートルあるところから、擁壁全体がコンクリート製であると速断し、その前提で工事設計書を作成したこと。

(三)  しかし、本件擁壁の内部構造は、コンクリート製ではなく、直径三〇センチメートル前後の不定型、不等大の岩石を厚さ約一メートル、高さ約2.7メートルないし約3.6メートル(国道舗装面からの高さは約1.9メートルないし約2.8メートル)に積み上げ、その前面に厚さ約二〇センチメートル(岩石の先端からの厚さは約一ないし4.5センチメートル)のモルタルを塗り込めた石積みの擁壁にすぎず、岩石間の接触部分も空洞化したり遊離したりして不安定な状態になつており、その勾配がかなり急傾斜(1対0.2)なうえ、基礎部分には特別の土台がなく、擁壁の裾部分に沿つて築造されているコンクリート製側溝が実質的に支えの役割を果たし、衝撃、振動に対してはぜい弱な構造であつたこと。

(四)  ところで、中野がした前記設計の概要は、別紙図面第一、第二図のとおり、既存の擁壁を存置したまま、前記側溝及び国道路肩のアスファルト舗装部分を、長さ約九〇メートル、擁壁の裾部分から幅約1.5メートル、深さ約六〇センチメートル(右第二図で深さ七〇センチメートルとなつているのは、後記のとおり、後に設計変更されたことによる。)にわたつて切断、床掘りし、擁壁上部の土砂を幅約一メートルにわたつて切り取るとともに、既存擁壁を厚さ五〇センチメートルほどの新コンクリート擁壁で包み込んで添打ち補強し、別紙第三図記載のようなコンクリート擁壁とし、その上部に鉄柱フェンスを取り付けた落石防止柵を設置するというものであり、コンクリート製側溝及び国道アスファルト舗装部分の切断、取壊し作業にはブレーカー、カッターなどの機械類の使用を予定していたが、床掘り及び切取り作業は本件擁壁の安定状態を乱さないよう手掘りですることとし、工事設計書中の工事費内訳表の摘要欄には控訴人発行の工事標準代価表記載の符号により、その旨(「床掘」摘要欄の「〔2〕-1-13」及び「切取」摘要欄の「〔2〕-1-3」の「1」はいずれも人力施工(手掘り)を意味している。)表示したこと。

(五)  控訴人は、昭和五〇年一一月、右設計に基づいて本件工事の発注を決定し、同年一二月二五日落札者である植田工務店との間で工事請負契約を締結し、同工務店に前記工事設計書を交付したが、同工務店は右工事を被告会社に下請させて、結局被告会社が本件工事を施行することとなり、被告会社は右工事設計書の交付を受け、その作業員梶島健二を現場責任者として本件工事の指揮監督に当たらせることとしたこと。

(六)  しかし、梶島は、工事設計書中の前記符号の意味内容を理解していなかつたところ、同月二六日本件工事現場で開かれた控訴人職員中野らによる工事説明会に出席し、その席上、中野らから、工事中は道路交通の安全を確保し、地元民とのトラブルを起こさないように留意するとともに、本件擁壁は老朽化しているので衝撃を与えないで施行すべき旨の一般的な注意はなされたものの、中野は、床掘り及び切取り作業を手掘りで行うことについては、前記工事設計書中の表示で業者も理解しているものと考え、改めてその旨指示徹底することはせず、また本件擁壁の内部構造が前記のとおり石積みモルタル塗であることを説明して、その倒壊等の事故がないよう、ばた角(一〇センチメートル角ぐらいの角材)などで土留めをするなど工事方法に留意すべき旨の具体的な注意は格別しなかつたこと。

(七)  昭和五一年一月一〇日控訴人職員と工事従事者による地元民へのあいさつ回りがなされ、同月一二日本件工事現場において、中野から梶島に対し、国道アスファルト舗装面のカッターを入れる位置が指示されたのち、同月二一日被告会社は本件工事を開始し、翌二二日にかけて、カッターで右舗装面を切断するとともに、コンクリート製側溝及び右舗装部分をブレーカーで取り壊し、擁壁上部の雑木を伐採する作業が行われたが、同月二一日中野は梶島に対し、新設側溝を溝ぶた付きの構造のものとするため、床掘りの深さを当初設計の約六〇センチメートルより約一〇センチメートル深く掘り下げるよう指示し、また前記同様の一般的な注意を与えたこと。

(八)  梶島は、その判断で、床掘り及び切取り作業を掘削機で施行することとし、アロー工業の重機運転手である鈴木春逸にその持込み作業を依頼するとともに、ダンプカーによる残土運搬を広川組に依頼したうえ、同月二三日午前九時ころ、亡元次ら被告会社の従業員四名のほか、鈴木と広川組の運転手らを指揮監督して作業を開始し、鈴木が掘削機(容量0.4立方メートル、口幅0.85メートルのバケットを下方に入れて手前にかき上げ掘削する構造のユタニ・ポクレン製の四本爪バックホウ)を運転して、擁壁に対し後ろ向きの形で三、四〇度の角度に向け、バケットの作動により、雑木の根やつた等が繁茂している擁壁上部の土砂を切り取り、側溝部分及び国道路肩部分を幅約1.5メートル、深さ約七〇センチメートルにわたつて一挙に床掘りする布掘りを行うとともに、土砂をダンプカーに積み込む作業を行い、南から北に進み、亡元次ら被告会社の従業員がその後を追うようにして二名ずつ交替で整地と擁壁面のこけ落しの作業をスコップでしていたが、右の作業中、本件擁壁の基礎部分が掘削底面より一〇センチメートルほど浮き上がつている箇所があり、水の浸潤する部分もみられ、また掘削機を作動した際、擁壁上部をバケットの爪で引つかいたり、その擁壁面にバケットをこすり当てて衝撃を与えたりしたこと。

(九)  同日午前一一時五〇分ころ、前記の床掘り及び切取り作業は長さ約三四メートルの範囲まで進ちよくし、亡元次は整地等の作業をしていたが、梶島の合図で昼食のため全員が作業を中断することとし、鈴木が掘削機を二メートルくらい北に移動させたところ、前記のとおり掘削を終えた箇所のうち、ほぼ中央辺から北に向かい幅約一四メートルにわたつて本件擁壁が前方に折れ曲がるようにして突然崩壊し、右擁壁を含む後方の山肌が崩落して本件事故が発生したこと。

以上の事実が認められる。

控訴人は、中野は、梶島に対し、工事設計書による指示以外に、現場説明等の際、側溝及び国道路肩部分の床掘りと擁壁上部の切取り作業を手掘りで行うとともに、ばた角などで土留めをするよう指示した旨主張し、前掲の<証拠>中には、右主張に沿う記載及び供述部分があるが、(1)手掘りの指示については、梶島ら工事関係者のほか、右中野も原審証言中ではその事実を否定していること、(2)前掲の<証拠>によれば、本件工事の設計書中には、工事は控訴人の定めた土木工事標準仕様書に基づいて施行すべき旨表示されており、右仕様書中には、土留め工を必要とする床掘りを行う場合においては、土留材料等の準備が整つた後でなければ施工してはならない旨定められていることが認められるところ、本件工事において右のような施工手順が現実に履践されたことを認めるに足りる証拠はないこと、その他前掲の各証拠と比照してたやすく措信し難い。

<反証排斥略>

2  そして、以上の認定事実によれば、本件事故の発生原因は、直接的には、本件擁壁の構造が、その外観とは異なり、既存のコンクリート製側溝が実質的にその支えの役割を果たしているぜい弱な石積みモルタル塗であつたにもかかわらず、本件工事の施行な当たり、右側溝及び国道路肩のアスファルト舗装部分を擁壁の基礎が露出するほどの深さまで床掘りし、かつ、これを幅約1.5メートル、長さ約三四メートルにわたつて一挙に施行する布掘り工法によつて、右区間における擁壁の支えを同時にほとんど失わせたことにあり、それに、掘削機のバケットによる本件擁壁の上部及び壁面に対する衝撃、掘削機及びブレーカー等の使用に伴う振動、擁壁の上部を押さえていた雑木、土砂等の切取り除去などの諸要因が加わつて本件擁壁の崩壊を誘起し、土圧等によつて崩落するに至つたものと認めるのが相当である。

3  そこで次に、控訴人の責任原因について検討する。

判旨(一) 前記認定のとおり、本件工事の内容は、築後約五〇年以上も経た急勾配の既存擁壁を存置したまま、これを新コンクリート擁壁で包み込んで添打ち補強し、その上端部に落石防止柵を設置するというものであるが、既存の本件擁壁は、亀裂が生じ、一面にこけが生え、水が浸潤している箇所もあるなど外観上も老朽化が著しく、崩壊の危険すらみられたばかりでなく、その工事記録も存在しないうえ、同所付近の山の土質が不安定な性状にあることは過去の調査で判明しており、また本件工事の作業工程上、本件擁壁の基礎部に当たるコンクリー卜製側溝及び国道路肩アスファルト舗装部分の切断、取壊し作業にはブレーカー、カッターなど機械類の使用も予定されていたところ、右作業のみならず床掘り及び切取り作業の工法のいかんによつては本件擁壁の存立自体に危険を及ぼす可能性も容易に予知できたものと認められるから、本件擁壁の内部構造が果たしてコンクリート製であるかどうかの確認は、床掘り及び切取り作業の工法を決定し、かつ、これを安全に遂行するうえで必要不可欠であつたものというべきである。そうだとすれば、注文者である控訴人の職員中野としては、事前に本件擁壁の内部構造を調査したうえ、本件工事の施行方法を決定し、かつ、その後の施工を監視、指導するに当たつては、右内部構造と前記の工事目的に適合した掘削工法を採用するとともに、土留めなどの安全対策を講じ、事故防止措置を取るよう指示すべき注意義務があつたものというべく、後記のように施工業者自身にもこの点に関して施工上の注意義務が課されているからといつて、そのゆえに控訴人主張のように注文又は指図をする注文者の右のような注意義務が軽減免除される筋合のものではないといわなければならない。

控訴人は、本件工事は従来の本件擁壁を新たな擁壁で包み込む補強工事であるから、事前に旧擁壁の内部構造まで調査する義務はない旨主張し、原、当審証人中野薫は、長年にわたつて擁壁が安定を保つてきたことを根拠として右主張のような供述をしているが、その根拠とするところが理由のないことは前記説示から明らかであり、また<証拠>によれば、控訴人は、本訴係属中、本件工事内容を前提とした場合における擁壁の内部調査の要否に関し、関西の他のいくつかの地方公共団体に照会したところ、回答八例中、一例は内部調査をすべきであるとし、残り七例は一般的には内部調査はしないとしながら、その内の二例は旧擁壁に亀裂等の異常が認められるような場合は内部調査をすべきであるとしていることが認められるけれども、いずれにしても、右照会、回答例は、右照会の際の所与の条件が正確であるとはいえないし、回答者側には実際に施工した経験のないものもあることが認められ、中には右認定のように内部調査をすべきだとするものもあることも考えれば、これをもつて前説示を覆して控訴人の主張を裏付けるに足りるものとは到底言い難く、控訴人の右主張は失当というほかはない。

(二) 控訴人の職員中野は、以上説示のごとき注意義務があつたのに、本件工事の設計に当たり本件擁壁の基礎部分に一、二か所ほどごく簡単な根入れをしてみただけで、その内部構造、殊にコンクリート製側溝が実質的に擁壁の支えの役割をしているぜい弱なモルタル塗の石積み擁壁にすぎないことについてはなんらの調査もすることなく、その外観のみから本件擁壁全体がコンクリート製であると速断し、その前提で作成した工事設計書に基づいて請負業者に施工させたうえ、床掘り作業開始の当日に至つて床掘りの深さを当初の設計より更に一〇センチメートル深くするように指示し、また工事請負人らに対する現場説明等に際しても、本件擁壁の前記構造を告知して倒壊の危険性について説明し、手掘り工法や土留め工事の指示徹底、その他前示のごとき安全対策について注意を喚起するなどの事故防止のための適切な指示を怠つたことは前記認定のとおりであるから、右中野は以上の点において過失があつたものというべきである。

もつとも、中野が本件工事の床掘り及び切取り作業は手掘りですることにして工事設計書中の工事費内訳表にその旨符号で表示したこと、右設計書は請負人の植田工務店及び下請人の被告会社にも交付されていたことは前認定のとおりであり、前掲の<証拠>によると、本件の工事設計書には工事費内訳表として「費目、工種、種別、細別、単位、数量、単価、金額、摘要」の九項目を設け、その摘要欄には工事細別の工事方法を符号で表示しており、このような工事設計書の記載態様と一般に工事方法が人力によるか機械によるかによつて工事費用に大きな差異を生ずることを考えると、右工事費用内訳表は単に工事費用算定の資料、文書であるにとどまらず、工事方法をも併せ指定した文書であり、植田工務店は右工事設計書と工事標準代価表に基づいて工事費用を積算、入札してこれを落札し、本件工事を請負つたものであることが認められるから、同工務店は本件工事の床掘り及び切取り作業はいずれも手掘りで施工すべき義務を有していたものといわなければならない。

しかし、本件工事を施行した被告会社は植田工務店の下請であり、前記1の(六)、(七)の認定事実によれば、控訴人は右下請施工を容認していたものと推認されるところ、被告会社の現場責任者梶島が前記符号の意味内容を理解していなかつたことは前認定のとおりであり、前掲の<証拠>によると、被告会社は控訴人の指定業者ではなく、本件工事当時、前記の工事標準代価表を持ち合わせていなかつたことが認められ、右事実からすれば、梶島を一方的にとがめることは酷に失するのみならず、注文者の下請業者に対する工事方法の指定の仕方としては、適切さを欠き、不十分であつたといわざるをえない。

(三) ところで、控訴人は、本件工事の発注と本件事故の発生との間には、被告会社の被用者及び植田工務店の控訴人主張のごとき故意に近い重過失が介在するから、中野の過失と本件事故の発生との間には相当因果関係はない旨主張するので、更に検討するに、被告会社の被用者が控訴人の工事設計書中の工事費内訳表の手掘りの指示記載に反して床掘り及び切取り作業を掘削機によつて行い、かつ、その際、擁壁に衝撃、振動を与えたことが本件事故発生の一因となつたことは前認定のとおりであり、被告会社の現場責任者梶島は、本件擁壁がかなり古いものであることは認識していたし、中野からも、右擁壁は老朽化しているので衝撃を与えないようにとの注意を受けていたこともまた前認定のとおりであるから、前記作業を行うに当たつては、みずからの判断で、若しくは控訴人側と協議のうえ、手掘り工法を採用するなり、あるいは機械掘りを行うとしても、部分的に順次施工するつぼ掘り工法を採用するなりし、布掘り工法によるならば、仮枠を設け、ばた角で土留めをするなど工法に留意するとともに、施工中も擁壁に無用の衝撃、振動を与えないよう配慮し、危険を認めた場合には作業を中止するなど臨機の措置を講ずべき注意義務があつたものといわなければならないから、被告会社の被用者にも本件事故の発生について過失があつたことは明らかといわざるをえない。

しかし、先の判示からも明らかなように、本件工事は、災害防除という公共目的のために控訴人がみずから計画し、専門的知識経験を有する担当者において工法等を決定して発注したものであり、その工事の施行も業者に一任していたわけではなく、注文工事自体又は工法等から事故発生の虞も容易に予見しえたものであることは前記のとおりであるから、本件事故が専ら右に認定した施工業者の過失のみに起因しているものと認めることは困難であつて、元請人の植田工務店に控訴人主張のような過失を肯認するとしても、結局、本件事故は、工事発注者である控訴人の職員中野の注文又は指図の過失と、工事関係者の過失とが客観的に関連し競合した結果発生したものと認めるのが相当であるから、中野の前記過失と本件事故との間には相当因果関係があるものというべく、控訴人の右主張はこれを容れることができない。

(四) 更に、控訴人は、仮に本件事故発生の責任を免れないとしても、中野の過失は極めて軽微であるのに、被告会社の被用者の過失は故意に近い重過失であるから、控訴人が被告会社と同額の損害賠償責任を負うべきいわれはない旨主張するので考えてみるに、過失の軽重、その度合に応じて賠償責任を負担すべきである旨の控訴人の気持は分らぬではなし、またそのような考え方もないではないが、前記のとおり、本件事故による被告会社の従業員亡元次の生命侵害については、控訴人と被告会社の共同不法行為が成立するものというべく、このような場合には、共同不法行為者の過失の軽重、その度合にかかわりなく、各自が、違法な加害行為と相当因果関係にある全損害についてその賠償の責に任ずべきで、その結果生ずる共同不法行為者間の不公平の問題は、共同不法行為者間における求償の問題として解決すべきであると解するのが相当であるから、控訴人の右主張も採用の限りでない。

(五) してみると、担当職員中野の使用者である控訴人は、本件工事の注文者として民法七一六条但書に基づき本件事故により被控訴人に生じた損害の賠償責任を負うものといわなければならない。<以下、省略>

(島﨑三郎 高田政彦 篠原勝美)

第一図、第二図、第三図<省略>

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