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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1782号 判決 1982年5月27日

控訴人 山本勝利

右訴訟代理人弁護士 中田順二

被控訴人 西川太郎右衛門

右訴訟代理人弁護士 井関和彦

同 藤原猛爾

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、原判決添付目録(一)記載の建物を収去して同目録(二)記載の土地の明渡をなし、かつ昭和五六年七月一六日から右収去明渡済まで一か月一万五〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決は、被控訴人勝訴の部分に限り、被控訴人において五〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(一)  当事者の申立

(1)  控訴人

「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求める。

(2)  被控訴人

「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求める。

(二)  当事者の主張

(1)  被控訴人の請求原因事実

(イ)  被控訴人は控訴人に対し、予てより、その所有に係る原判決添付目録(二)記載の土地(以下、本件土地という)を建設資材置場及び作業場として一時使用の目的で賃料一か月一万五〇〇〇円・毎月末日限り翌月分持参払、賃料の支払を二か月分以上怠ったときは、賃貸借契約を解除することができる、控訴人は被控訴人の承諾なくして本件土地及び本件土地上の仮設建物を第三者に譲渡または転貸することができない旨の約定で賃貸し来っていたのであり、控訴人は昭和五一年一〇月頃から本件土地上に原判決添付目録(一)記載の建物(以下、本件建物という)を建築所有している。

(ロ)  ところで、控訴人は、被控訴人に対し本件土地の昭和五五年四月一日以降の賃料の支払をしなかったのみならず、同年同月二二日頃被控訴人に無断で本件建物を北岡武男(以下、単に北岡という)に賃貸し、爾来、同人に本件土地を建設資材置場として使用させた。

(ハ)  そこで、被控訴人は控訴人に対し、本訴における昭和五五年六月二八日附準備書面を以て、右賃料不払、本件建物及び本件土地の無断転貸を理由として、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたところ、右準備書面は民訴法一七八条ないし一八〇条所定の公示送達の方法により同年七月一日控訴人に送達された。仮に右送達によっては本件土地賃貸借契約を解除する効果が生じなかったとしても、被控訴人は同年八月六日頃被控訴人方において控訴人に対し、「訴訟中であるから、延滞賃料は受領できない。本件土地の明渡をされたい」旨を告げて、本件土地賃貸借契約につき解除の意思表示をした。

なお、もともと、本件土地上には仮設建物を建築し得るに過ぎない約定であったところ、控訴人は、賃借後間もなくして、右約定に反し、堅固な建物である本件建物を建築して、本件土地の用法に違反した。そして、その後、控訴人は本件土地の昭和五五年四月一日から同年七月三一日までの賃料の支払を延滞したが、その当時、控訴人は多額の債務を負担し、銀行取引停止処分を受けて、事実上倒産していたのであり、その所在を不明ならしめて、被控訴人に対する連絡も全くなかったのであって、本件土地賃貸借契約関係を誠実に継続履行し得る状態ではなかった。また、控訴人は、被控訴人に無断で本件建物と本件土地とを北岡に転貸して以来、本件土地の管理を放棄しており、現在のところ、本件建物及び本件土地は、控訴人の債権者である北岡らが当該債権を回収するため、本件建物の一部を食堂に改造したり、宿泊所にしたりして、恣に使用し利用しているに過ぎないというべく、異常な事態になっている。本件における控訴人の行状は、本件土地賃貸借契約を継続し難い背信行為であるといわなければならない。そこで、被控訴人は、前記各契約解除の意思表示によっても本件土地賃貸借契約を解除させる効果が生じないことを慮り、予備的に昭和五六年七月一五日の本件口頭弁論期日において控訴人代理人中田順二に対し、前記各債務不履行と右賃貸借関係を継続し難い信頼関係の破壊とを理由として、本件土地賃貸借契約につき解除の意思表示をした。

(ニ)  よって、本件土地賃貸借契約は解除になったから、被控訴人は控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地の明渡をすべきことを求めるとともに、昭和五五年四月一日から右収去明渡済まで一か月一万五〇〇〇円の割合による本件土地の賃料ないし賃料相当の損害金の支払を求める。

(2)  控訴人の答弁(抗弁を含む)

(イ)  被控訴人主張の右事実は、その内、(イ)の事実、及び(ロ)の事実中、控訴人が本件建物を北岡に賃貸していることは認めるが、その余は争う。

本件土地賃貸借契約に関する解除の意思表示は、控訴人の所在が不明であれば、民法九七条の二所定の手続でなすべきであって、民訴法所定の公示送達の方法によってなされた本件土地賃貸借契約解除の意思表示は無効である。また、控訴人は昭和五五年八月六日頃被控訴人方において被控訴人から、「本件については弁護士に委任している」旨を告げられたのみであって、本件土地賃貸借契約に関する解除の意思表示は受けていない。

(ロ)  ところで、本件土地はもともと山林であったが、控訴人は賃借後、本件土地に橋を架け、建物を建築し得るように造成して、本件建物を建築したのであり、そのことは被控訴人においてもその頃直ちに知ったのである。そして、控訴人は、本件滞納までは本件土地の賃料の支払を怠ったことがなく、昭和五四年三月になされた「本件土地の賃料を同年四月一日以降一か月一万五〇〇〇円に増額する」旨の被控訴人の賃料増額請求に対しても素直に応じたのみならず、被控訴人から正式には未だ本件土地の明渡請求を受けていなかった昭和五五年八月六日頃、本件土地の同年四月一日から同年八月三一日までの賃料合計七万五〇〇〇円の支払をなすべく、該金員を被控訴人方へ持参したところ、被控訴人から受領を拒絶されたので、同年同月七日右金員を弁済供託したのであり(なお、支払が遅滞していた昭和五五年一〇月分と昭和五六年一月分の賃料も、昭和五六年一二月二二日に弁済供託した)、また、北岡に対しても、単に本件建物を賃料一か月一万五〇〇〇円の約定で賃貸しているに過ぎず、本件土地を転貸しているわけではない。なお、「賃料の支払を二か月分以上怠ったときは、本件土地賃貸借契約を解除し得る」旨の本件特約は、その支払遅滞が控訴人と被控訴人との間の信頼関係を破壊する態様の場合に限り適用される趣旨のものであるところ、本件における事態は、未だ控訴人と被控訴人との間の信頼関係を破壊するには至っていない。本件における控訴人の所為は、本件諸事情の下においては、未だ控訴人と被控訴人との間の本件土地賃貸借関係を継続し難いほどの背信行為には該らないというべく、被控訴人がなした本件土地賃貸借契約解除の意思表示はいずれも無効であり、然らずとしても、本訴請求は権利の濫用である。

(3)  右抗弁に対する被控訴人の答弁

控訴人主張の右(ロ)の事実中、控訴人が昭和五五年四月一日から同年八月三一日までの本件土地の賃料合計七万五〇〇〇円を同年八月七日に弁済供託したことは認めるが、その余は争う。

(三)  当事者の立証《省略》

理由

(一)  被控訴人主張の請求原因事実の内、(イ)の事実と、控訴人が北岡に対し本件建物を賃貸していること、並びに控訴人が昭和五五年八月七日に被控訴人を相手方として同年四月一日から同年八月三一日までの本件土地の賃料合計七万五〇〇〇円を弁済供託したことは、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、

(1)  被控訴人は建築業者であった控訴人(商号を大勝工務店または大勝産業という)に対し、予てより、本件土地を建設資材置場及び作業場として(但し、本件土地の一部に仮設建物を建築することは認める)一時使用の目的で、「賃貸借期間一年、賃料一か月一万五〇〇〇円・毎月末日限り翌月分持参払、控訴人が賃料の支払を二か月分以上怠ったときは、被控訴人において賃貸借契約を解除し、控訴人に対し直ちに本件土地の明渡を求めることができる、控訴人は被控訴人の承諾なくして本件土地及び本件土地上の仮設建物を第三者に譲渡または転貸することができない、被控訴人の解約申入は賃貸借期間の満了前二か月ないし三か月以内になすものとし、被控訴人が右期間内に更新拒絶または賃貸借条件変更の通知をしないときは、賃貸借期間満了の際、被控訴人において控訴人に対し、従前の賃貸借条件を以て本件土地を更に賃貸したものとする、賃貸借期間中においても、被控訴人は解約しようとする日の九〇日ないし一〇〇日以内に解約申入をすることができる、賃貸借終了の場合は、控訴人は被控訴人に対し、本件土地上の建物を収去して、本件土地を返還する」旨の約定で賃貸し来ったこと

(2)  控訴人は、被控訴人に対し仮設建物を建築する旨を通告して、本件土地上に本件建物を建築したが、本件建物は仮設建物とはいい得ない本格的建築による建物であること

(3)  控訴人は、業績不振のため、一億円に垂んとする債務を負担して、昭和五五年三月下旬頃倒産し、同年四月中にその住居から逃亡して、居所を不明ならしめ、被控訴人との連絡も断ったが、それに伴い、本件土地の同年四月一日以降の賃料の支払を怠ったこと

(4)  控訴人は、不動産業及び土木業を営む北岡に対し約三〇〇〇万円の債務を負担していたところ、右逃亡の頃、北岡に対し本件建物を賃貸し、爾来、北岡は本件建物の一部を改造し、一部を従業員宿舎に使用して、本件建物において食堂を経営したこと

(5)  被控訴人は、突如として起きた一方的な右事情の変更に驚き、控訴人に対する信頼感を失って、同年五月一四日、控訴人と北岡とを相手方として、「同人らの本件建物に関する占有を解いて、執行官の占有に移転する」旨の仮処分の執行を得た上、同年同月二四日、同人らに対し、「控訴人の昭和五五年四月一日以降の本件土地の賃料の不払と、北岡に対する本件建物及び本件土地の無断転貸・無断使用許諾」を理由として、本件建物収去ないし退去・本件土地明渡請求に関する本件訴訟を提起したこと

(6)  本件訴訟の第一審における控訴人に対する口頭弁論期日の呼出及び判決正本を除く各書類の送達は、すべて民訴法所定の公示送達の方法によってなされ、「被控訴人は控訴人に対し、右各債務不履行により本件土地賃貸借契約を解除する」旨が記載された本件訴訟における被控訴人作成の昭和五五年六月二八日附準備書面も、右公示送達の方法により、同年七月一日控訴人に送達されたこと

(7)  ところが、控訴人は同年八月六日突然被控訴人方を訪れて、被控訴人の妻の西川アイ子に対し、その居所を明らかにすることなく、唯、「本件土地の昭和五五年四月一日から同年八月三一日までの賃料合計七万五〇〇〇円を持参したから、受領されたい」旨のみを申し向けて、右金員を交付しようとしたが、右アイ子において、「本件土地につき係争中であるから、右金員を受領するわけにはいかない。本件土地の明渡をされたい」旨を述べて、その受領を拒んだため、控訴人は翌七日被控訴人を相手方として、右金員を弁済供託したこと

(8)  本件訴訟の第一審においては、昭和五五年九月二五日に口頭弁論が終結されたのであり、控訴人は同年一〇月一日第一審裁判所に対し、弁護士中田順二(同人は北岡の訴訟代理人でもあった)を訴訟代理人に選任する旨の委任状を提出するとともに、その頃、右代理人により、前記口頭弁論の再開の申立をしたが、第一審裁判所は右口頭弁論を再開することなく、同年一〇月九日に控訴人敗訴の判決の言渡をしたため、控訴人は右代理人により同年同月二五日本件控訴の申立をしたこと

(9)  本件建物は本件土地の殆ど全面にわたって建築されているが、現在のところ、本件建物は前記北岡が従業員らを住込ませて、食堂経営に使用しており、控訴人は三重県下に在住して、鮮魚販売業に従事していること

(10)  右北岡の本件建物の使用は、同人の控訴人に対する前記債権の回収方法の一環としてなされているのであり、北岡においては、本件建物の約定賃料が本件土地の賃料と同一額である一か月一万五〇〇〇円であると称し、右金員を本件土地の賃料に充当することにして、控訴人に代わり、被控訴人を相手方とする本件土地の賃料に関する弁済供託を継続的に行い、かつ、控訴人と被控訴人との間における本件土地の紛争についての控訴人の訴訟代理人の選任に関しても、控訴人に代わって奔走し、控訴人をして前記弁護士に委任させたのであり、控訴人としては、現在のところ、本件土地の管理を自らにおいてなすことが事実上不能の状態になっていること

(11)  控訴人から被控訴人に対してなされた本件土地の賃料に関する弁済供託は、別紙供託一覧表記載のとおりであること

をそれぞれ認めることができる。《証拠判断省略》

(三)  ところで、被控訴人は、「被控訴人は控訴人に対し、前記昭和五五年六月二八日附準備書面の送達により、本件土地賃貸借契約につき解除の意思表示をして、該契約を解除した」旨を主張するので、その点について考えてみる。右準備書面は民訴法所定の公示送達の方法により控訴人に送達されたのであるが、所在不明の相手方に対する意思表示は、民法九七条の二所定の方法によってなすべきであって、民訴法所定の公示送達の方法による訴訟書類の送達によってなすことはできないと解するのが相当である。蓋し、相手方に対する意思表示を訴状・準備書面等に記載した場合、相手方が当該書類を現実に受領したならば、その受領時において、当該意思表示も相手方に到達したことになり、当該意思表示は有効になされたことになるけれども、民訴法所定の公示送達の方法による訴訟書類の送達は、所在不明等の理由により、受送達者に対し当該書類の送達を現実になし得ない場合において採り得る方法であり、その方法を採ることにより、それらの書類が現実には受送達者に受領されないにも拘らず、受送達者に到達したと擬制するに過ぎないところ、その擬制は、単に当該書類が受送達者に送達されたとの点のみに限られるのであって、当該書類に記載された意思表示が受送達者に対してなされたことまでには及ばないというべく、所在不明の相手方に対する意思表示を有効になすためには、その点に関する特別規定である民法九七条の二所定の方法を別個にとる必要があるというべきであり、そのことは、民訴法所定の公示送達の方法による書類の送達と、民法所定の公示による意思表示の到達とは、ともに公示送達という方法を採る点において共通した面があるとしても、両者は、それぞれその本質を異にし、法規上においても、その性質の差異に応じ、要件・手続・効果等の点につき、少なからざる相違点を規定していることに照らしても、首肯し得るところであるからである。そうすると、被控訴人が前記準備書面の送達により控訴人に対してなした本件土地賃貸借契約解除の意思表示は、無効といわなければならない。

(四)  次に、被控訴人は、「被控訴人は昭和五五年八月六日頃被控訴人方において控訴人に対し、本件土地賃貸借契約につき解除の意思表示をした」旨主張する。しかしながら、昭和五五年八月六日に被控訴人方を訪れた控訴人に対し、被控訴人の妻の西川アイ子が述べた言辞は、前記認定のとおりであって、それが本件土地賃貸借契約に関する解除の意思表示であったとは、未だたやすく解し難く、他に右主張事実を認めるに足る資料はないから、被控訴人の右主張は認め得ない。

(五)  更に、被控訴人は、「被控訴人は昭和五六年七月一五日の本件口頭弁論期日において控訴人に対し、被控訴人が従前主張し来っていた控訴人の本件土地の賃料の不払、北岡に対する本件土地及び本件建物の無断転貸・無断使用許諾、並びに本件土地賃貸借契約を継続し難い背信行為を理由にして、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした」旨主張するところ、被控訴人代理人弁護士藤原猛爾が右口頭弁論期日に控訴人代理人弁護士中田順二に対し右事由により本件土地賃貸借契約につき解除の意思表示をしたことは、当裁判所に明らかである。よって、右契約解除の意思表示の効力の点について考えてみる。

控訴人は本件土地の昭和五五年四月一日以降の賃料の支払を怠ったのであるけれども、控訴人においては、被控訴人が控訴人に対し本件土地賃貸借契約に関する解除の意思表示を未だ有効にしていなかった同年八月六日に被控訴人方を訪れ、被控訴人に代わり控訴人から本件土地の賃料を受領し得る権限を有していたといい得る被控訴人の妻の西川アイ子に対し、同年四月一日から同年八月三一日までの本件土地の賃料合計七万五〇〇〇円を現実に提供して、その受領を求めたのであり、右アイ子において、その受領を拒絶したのであるから、爾後、被控訴人は本件土地の賃料の支払に関し受領遅滞に陥ったというべく、その後における控訴人の被控訴人に対する本件土地の賃料に関する弁済供託の状況は、別紙供託一覧表記載のとおりであるから、右昭和五六年七月一五日当時被控訴人において右受領遅滞の状態を解消させていたことを認めるに足る資料のない本件においては、右同日現在控訴人において本件土地賃貸借契約を解除させるに足る賃料支払についての遅滞があったとは、いい得ないといわなければならない。よって、賃料不払を理由とする限り、右契約解除の意思表示は無効である。

また、控訴人は北岡に対し本件建物を賃貸したに過ぎないのであり、控訴人が北岡に対し本件土地を転貸したり、本件建物を譲渡したりしたことを認めるに足る資料はない。ところで、本件土地賃貸借契約における「控訴人は被控訴人の承諾なくして本件土地及び本件土地上の仮設建物を第三者に譲渡または転貸してはならない」旨の約定は、本件土地の無断転貸及び本件土地上の仮設建物の無断譲渡を禁止するにとどまらず、本件土地上の建物を第三者に無断賃貸することをも禁止した趣旨であると解せられる。しかしながら、土地賃借人が賃借土地上に所有する建物を土地賃貸人に無断で第三者に賃貸することは、土地賃貸借なるものの性質からして、それが土地賃貸借関係における当事者間の信頼を破壊する態様でなされたものでない限り、それが当該土地賃貸借契約上の約定に反する場合であっても、その一事により、直ちに当該土地賃貸借契約を解除させ得る事由になるとすることは、土地賃借人に対する過度の拘束を是認するものであって、妥当ではなく、認め得ないというべきである。そして、本件における控訴人の北岡に対する本件建物の無断賃貸は、本件土地賃貸借契約に反するものではあるが、その一事のみでは土地賃貸人たる被控訴人との間の信頼関係を破壊するに足るものではないというべきであるから、控訴人が被控訴人に無断で北岡に本件建物を賃貸したことのみを理由としては、被控訴人において本件土地賃貸借契約を解除し得ないといわなければならない。よって、控訴人の北岡に対する本件土地及び本件建物の無断転貸・無断使用許諾を理由とする右契約解除の意思表示は、唯、単にその理由だけは無効であるといわざるを得ない。

しかしながら、前記認定の本件における控訴人の各所為、本件土地の現在における使用・管理状況、その他の諸事情からすれば、本件における控訴人の被控訴人に対する行状は、これを総合すれば優に本件土地賃貸借関係における控訴人と被控訴人間の信頼関係を破壊するに足る背信行為であるというべく、右昭和五六年七月一五日当時、控訴人は被控訴人から本件土地賃貸借契約を解除されてもやむを得ない著しい背信行為をしていたといわなければならない。そうすると、右背信行為を理由とする点において、右契約解除の意思表示は有効である。

(六)  以上により、本件土地賃貸借契約は昭和五六年七月一五日に解除になったから、控訴人は被控訴人に対し本件建物を収去して本件土地を明渡すべき義務があるが、本件土地の賃料については、控訴人において被控訴人を相手方として、昭和五五年四月一日から右契約解除日までの分を弁済供託しており、その弁済供託は有効であるというべきであるから、右期間の賃料は支払が済されているというべく、控訴人においては被控訴人に対し昭和五六年七月一六日から本件建物収去本件土地明渡済まで一か月一万五〇〇〇円の割合による本件土地の賃料相当の損害金の支払をすべき義務があるということになる。

(七)  よって、被控訴人の本訴請求は、その内、控訴人に対し右各義務の履行を求める限度において理由があるから、これを認容すべきであるが(なお、被控訴人の本訴請求が権利の濫用でないことは、叙上の説示に照らして、明らかである)、その余は失当であるから、棄却すべきところ、原判決は右と趣旨を一部異にするから、右趣旨に従って原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条・八九条・九二条但書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上弘 裁判官 吉岡浩 裁判官大須賀欣一は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 坂上弘)

<以下省略>

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