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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)273号 判決 1980年11月28日

控訴人

海老要

海老孝

海老徹

海老洋

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

森島忠三

右訴訟復代理人弁護士

岡恵一郎

被控訴人

光照寺

右代表者代表役員

鷲尾禮子

被控訴人

浦野二郎

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

竹内勤

主文

原判決を取り消す。

被控訴人光照寺は大阪府知事の許可を条件として、別紙目録記載の土地につき、控訴人海老要に対しては三分の一を、同海老孝、同海老徹、同海老洋に対しては各九分の二を共有持分とする、昭和四二年七月一〇日付売買を原因とする、所有権移転請求権仮登記(大阪法務局枚方出張所同年同月一三日受付第三一一四四号)に基づく所有権移転登記手続をせよ。

被控訴人浦野二郎は右登記手続につき承諾せよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

理由

一  別紙目録記載の土地(本件土地という)が被控訴人光照寺の所有であつたところ、右土地につき、訴外海老鼎のために、大阪法務局枚方出張所昭和四二年七月一三日受付第三一一四四号をもつて、同月一〇日付売買予約を原因とする所有権移転請求権の仮登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に《証拠》を総合すれば、海老鼎は昭和四二年七月一〇日被控訴人光照寺との間で、農地法五条の許可を条件として本件土地を金一〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結して同被控訴人に代金一〇万円を交付し、同被控訴人代表者から、その押印のある農地法五条の許可申請に必要な書類の交付を受けたことが認められる。

被控訴人らは、本件土地は被控訴人光照寺の代表者鷲尾禮子が個人として海老鼎から借り受けた金一〇万円の担保として提供されたものである旨主張するところ、原審における被控訴人光照寺代表者本人尋問の結果中には右主張に副う部分があるが、右供述は前掲各証拠および次の点に照らして措信し難い。すなわち、《証拠》によれば、海老鼎は同被控訴人代表者である鷲尾禮子個人に対し、右売買以前から数次にわたつて金員を貸与し、右売買後の昭和四二年八月二四日、鷲尾禮子から、同人において、それまでの貸金五二一万一二〇〇円の支払義務のあることを確認し、これに利息を付して支払う旨の記載のある念書を差し入れさせたが、これらの貸付については一切担保の提供を受けていないことが認められる。また、《証拠》によれば、控訴人らは、鼎の死亡後、鷲尾禮子に対し、右貸金につき返還請求の訴を提起し、同五二年二月一六日双方の代理人間において裁判上の和解が成立したことが認められるところ、もし、被控訴人らの主張するように右売買代金一〇万円が、鷲尾禮子において海老鼎から借り受けたものであり、本件土地はその担保として提供されたものであるとすれば、右の金一〇万円も当然右和解の対象に含まれている筈であり、和解による支払いが完了することによりその担保権も消滅するに至るから、本件土地につきなされた前記仮登記の抹消についても和解調書において手当がなされて然るべきであると考えられるのに、和解調書にその旨の記載はないから、この点からしても本件土地が鷲尾禮子個人の債務の担保に供されたものとみることは困難であるといわなければならない。

もっとも、《証拠》によれば、海老鼎は、右売買契約締結と同時に、被控訴人光照寺から、本件土地につき、右売買代金一〇万円の返還請求権(甲第一二号証前文記載の不動産売買契約による売買代金債務というのは右の趣旨であると解せられる。)を被担保債権とする抵当権の設定を受け、その旨の登記が経由されていることが認められるが、右の抵当権は、将来、農地法所定の許可が得られず、本件土地の所有権移転の効力が生じないこととなることを慮つて、右売買代金の返還請求権を確保するために設定されたものであるとも考えられるから、右抵当権設定の事実から直ちに右売買が鷲尾禮子の債務の担保のためになされたものであると認めることはできない(なお、右抵当権設定登記の受付は前記仮登記より先になされているが、右は登記申請受理順序の差に過ぎず、このことに特別な意味があるとは考えられない)。

また、海老鼎は前記仮登記当時被控訴人から農地法五条申請に必要な書類を受取つていることは前に認定したとおりであるのに、本件全証拠によつても現在に至るまでその申請がなされた形跡は認められないが、当審における控訴人海老孝本人尋問の結果によると、鼎は右手続をするため三村司法書士方に何回も相談に行つていることが認められるので、鼎としても右手続を放置していたわけでもないことが窺われるから、右申請遅延の事実も被控訴人の右主張を裏付けるものではないといわねばならない。

以上の各事情を総合考察すると、前記甲三ないし一〇号証による契約は鼎と被控訴人代表者個人間の契約ではなく、同書面記載のとおり鼎と被控訴人光照寺との間の契約であり、その内容も貸金の担保提供契約でなく、農地法五条の許可を条件とする停止条件付売買契約であつたと認めるの外はない。

二  そこで抗弁について判断する。

まず、被控訴人らは、本件土地の売買は、被控訴人光照寺寺則所定の手続を経ないでなされたものであるから宗教法人法に照らして無効である旨主張する。しかしながら、宗教法人法によれば、宗教法人が不動産を処分し、又は担保に供するときは規則に定めるところによるほか信者その他の利害関係人に対して広告しなければならず(同法二三条)、右に違反してなされた行為のうち境内地である不動産に関するものは無効とされている(同法二四条)が、同条はその趣旨からみだりに拡張解釈すべきではなく、境外地不動産については同法二三条違反の処分行為も無効とはならないと解せられうるところ、弁論の全趣旨によれば、本件土地は境外地であることが認められるから本件土地の売買については同法二四条が適用される余地はない。そして、ほかに、これを無効とすべき理由はないから、被控訴人らの右主張は採用することはできない。

次に、被控訴人らは、本件土地の売買は前記主張のとおりのものであるところ、控訴人らと鷲尾禮子との間において、同人の借入金について和解が成立し、右当事者間に、ほかに債権債務がないものとされ、同人において右和解に基づく支払いを終えたから、右金一〇万円の返還債務は消滅し、その担保としてなされた本件土地の売買も失効した旨主張するが、右売買が鷲尾禮子個人の借入金の担保のためになされたものであると認めることができないことは前記のとおりであるから、被控訴人らの右主張はその前提を欠き失当である。

三  本件土地につき、被控訴人浦野二郎のために大阪法務局枚方出張所昭和四四年四月二三日受付第一九七二一号をもつて所有権移転請求権の仮登記が経由されていることは当事者間に争いがない。

四  《証拠》によれば、海老鼎は昭和五一年二月一一日死亡し、その妻である控訴人海老要、子であるその余の控訴人らが右鼎の遺産を相続したことが認められる。

五  以上によれば、控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求は正当として認容すべきであり、本件控訴は理由がある。

よつて、これと認定判断を異にする原判決を取り消したうえ控訴人らの請求を認容

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 坂詰幸次郎 野村利夫)

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