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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)469号 判決 1980年8月28日

控訴人

大阪高等検察庁検事長滝川幹雄

被控訴人

X

右法定代理人親権者母

B

右訴訟代理人

河本光平

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき<証拠>によると、請求の原因1ないし9の各事実及びBとAが遅くとも昭和四九年三月中から同五〇年一一月三日までの間内縁関係を結んで同棲していたが、Bは、同五一年二月一〇日被控訴人を出産したものであることが認められるところ、他に反証はないので、民法七七二条の趣旨を類推して、Bが内縁成立の日から二〇〇日後、内縁関係が止んだ日から三〇〇日以内に出生した被控訴人は、Aの子と推定される。

二ところで、本訴の提起は、昭和五四年五月二四日であることは本件記録により明らかであるから、Aの死亡した昭和五〇年一一月一日ころからすでに三年以上を経過しており、本訴は、民法七八七条但書の出訴期間を徒過していることも明らかである。

そして、同条但書で認知の訴の出訴期間を、父又は母の死亡の日から三年以内と定めているのは、父又は母の死後も長期にわたつて身分関係を不安定な状態におくことによつて身分関係に伴う法的安定性が害されることを避けようとするにあり、民法は、この制度について特段の例外を認めておらず、戦争などの災害などの場合には、昭和二四年法律第二〇六号認知の訴の特例に関する法律のごとく、特別立法によつて個別的に右制限規定の適用を排除していることに照らすと、父子関係が確実であり、父の死亡の事実を死亡の日から三年経過後に知り、かつ、父の親族において認知を希望しているような事情があるとしても、前記制限の例外を認めることは許されないと解すべきである。

本件につきこれをみると、被控訴人はAの子であると推定され、前項冒頭掲記の証拠を総合すると、被控訴人ないしその法定代理人であるBが、Aの死亡の事実を知つたのは、Aの死亡の日から三年を経過したのちの昭和五三年一二月初めころであつたこと、Aの父母、兄弟らも被控訴人がAの子であることを認め認知を希望していることが認められるが、これらの事実及び他に被控訴人主張のような事情が仮にあるとしても、前説示の理由により、本件において民法七八七条但書の規定を排除することはできないものと解すべきである。

すると、同条但書の出訴期間を経過したのち提起された本件訴は、不適法なものとしてこれを却下すべきものである。<以下、省略>

(首藤武兵 丹宗朝子 西田美昭)

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