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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)578号 判決 1980年11月05日

控訴人

ユニバース自動車工業株式会社

右代表者

大田徳太郎

右訴訟代理人

玉城辰夫

被控訴人

八島輝夫

右訴訟代理人

森川清一

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ全部被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<省略>

二前記争いのない事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1 控訴会社は、肩書地において自動車修理工場を営み、当初設立の中心となつた山田光樹及び設立資金を融資した臼井良一が代表取締役に就任し、前記一のとおり八名の株主がいたが、そのうち臼井良一は昭和四七年五月二〇日、また石川登、竹内敬蔵、山下哲男の三名は昭和四八年一〇月一〇日それぞれの持株を山田に譲渡し控訴会社の経営から手を引いていつた。控訴会社は、設立後も株券を発行せず、株主名簿も備えていなかつたので、株主の地位を証明するものは株金払込領収証しかなく、しかも右払込金は山田が他の株主に代つて一時全額立替払いをしていたこともあつて、山田が株主全員の払込領収書を保管していた。したがつて、前記株式譲渡手続は各株主から山田に株式を譲渡する旨の株式譲渡証書が作成されただけであつた。

2  控訴会社が工場及び事務所として使用していた土地建物は臼井良一の所有名義となつていたが、訴外仲徳商事株式会社は、この土地建物を昭和四七年五月一一日臼井から買受けたと主張し、控訴会社に対し京都地方裁判所昭和四七年(ワ)第一三四三号事件をもつて家屋明渡訴訟を提起した。控訴会社は、右上地建物は会社設立に際し山田光樹が買受け所有権を取得したものであり、臼井良一から設就資金六〇〇万円の融資を受けるにあたりその担保のために臼井名義に登記をしていたところ、同人がこれを奇貨としてほしいままに仲徳商事に所有権移転登記をしたのであつて、所有権はなお山田にあると主張して争つたが、この訴訟は昭和五〇年に至つても結論が出ず、加えて同年七月頃控訴会社は資金繰りにも窮し、同月一五日に決済すべき借入金の資金調達ができず、その解決に苦慮していた。

3  山田光樹は、昭和五〇年七月中旬頃長年の知人である不破勝に偶々会い、前記のような控訴会社の苦境を訴えて援助を申入れたところ、不破は、緊急に必要な融資には直ちに応ずることを約束し、前記決済期限の七月一五日に二〇〇万円を控訴会社に融資した。そして仲徳商事との紛争については、事情により不破自身が直接これに介入することはできないが、不破の知人である被控訴人が適役であるとして被控訴人を山田に紹介し、七月一八日被控訴人の事務所において山田、不破、被控訴人の三者が会合し、右資金の担保、弁済方法及び仲徳商事との紛争解決策を協議した。控訴会社は、不破に対し、同人に対する借受金債務の担保として金額二〇〇万円、支払期日、振出日白地、受取人第一裏書人山田嘉津子、第一被裏書人第二裏書人山田光樹、控訴会社振出の約束手形一通を差入れ、さらに株主全員の承諾を得て控訴会社の発行済株式二〇〇株(額而合計二〇〇万円)を担保に差入れることを申入れた。不破及び被控訴人は、被控訴人が仲徳商事との交渉にあたるためには控訴会社の役員である肩書が必要であると主張し、山田は、被控訴人とは殆んど面識がなかつたが、不破の指示に従い予め他の株主及び取締役の委任を受け被控訴人を控訴会社の取締役及び山田との共同代表取締役に選任することを承諾した。これに基づき必要書類が作成され、被控訴人はその頃控訴会社代表者として登記された。控訴会社は、不破に担保として差入れることになつた二〇〇株の控訴会社の株式は被控訴人の名義にしておいた方が仲徳商事との交渉のうえで何かと好都合であるとの不破の指示に基づき、各株主から被控訴人に株式を譲渡する旨記載した株式譲渡証書を作成したが、この書類は前記払込領収証とともに不破が預り保管した。そして、不破の控訴会社に対する貸金は仲徳商事との紛争が解決し経営内容が好転したときに元利金(ただし、具体的な利息の約定はなかつた。)を返済すれば足りること(したがつて、確定した返済期限は定められなかつた。)、右株式譲渡証書、払込金領収証は右貸金返済のときにこれと引換えに返還すること、被控訴人は仲徳商事との紛争が解決されるまでの間に限つて共同代表取締役に就任することが、各当事者間で了解された。

4  控訴会社は、その後も同年九月三〇日不破からさらに一〇〇万円を、金額一〇〇万円、支払期日昭和五二年五月九日、受取人兼第一裏書人山田光樹、振出人控訴会社、振出日昭和五二年九月三〇日の約束手形一通を振出交付して借受けた。以上二口計三〇〇万円以外に不破が控訴会社に融資をしたことはない。

5  控訴会社と仲徳商事との前記訴訟には、控訴会社の訴訟代理人として二名の弁護士が選任されていたが、山田は、このような法廷での紛争解決と併行して、仲徳商事あるいは臼井に対抗できる実力を持つた人物として被控訴人を別途代理人にたて当事者間で直接話し合いをすすめることによつて、場合によつては早期に紛争が解決されることを期待したものであるので、被控訴人の共同代表取締役就任は、あくまでもこの仲徳商事との紛争解決、交渉のためのものであつた。したがつて控訴会社の営業、経理等現実の経営は従前どおり山田が代表者としてこれを行い被控訴人が関与したことはなく、被控訴人はその代表取締役在任中一度も控訴会社に出社したことはなかつた。ただ昭和五〇年一二月頃控訴会社は年末資金の融資を金融機関から受けたが、その際信用保証協会から会社代表者個人の保証を求められ、共同代表取締役の一人である被控訴人は已むを得ず控訴会社の保証人となつたが、被控訴人がそのため実質的負担を強いられることのないように、山田の姉山田嘉津子所有名義の不動産に被控訴人の求償権を担保するために、極度額六〇〇万円の根抵当権が設定された。

6  控訴会社と仲徳商事との前記訴訟は、昭和五一年三月三一日控訴会社敗訴の第一審判決があり、被控訴人は、自分が懇意にしている弁護士を新たに訴訟代理人に選任して右判決に対し控訴し、他方仲徳商事の関係者らと和解条件等について交渉したが、解決は遅々として進まなかつた。そのうち控訴会社の資金繰りは増々悪化し、資金援助を求められた控訴会社の監査役東良ミツは、昭和五一年秋頃から控訴会社に資金援助をして経営を立て直すため従前の債務の返済につき不破及び被控訴人と折衝した。そして、その際控訴会社は、不破及び被控訴人に対し、東良の資金援助によつて不破に対する三〇〇万円の債務の元利金を支払うので既に差入れてある株式譲渡証書等を引換えに返還すべきこと、実質的に経営の責任者でない者が代表取締役の地位にいると融資を受ける際など障害が多いので被控訴人に共同代表取締役の地位を辞任してもらうことを申入れたが、不破は、三〇〇万円の元利金の返済だけでは不満であるという理由でこれを拒否し、被控訴人も右申入れを拒否した。なお、控訴会社、被控訴人、東良の三者間で、被控訴人が仲徳商事との訴訟のため控訴会社の株主及び代表取締役の地位にあることを前提とし、これを円満解決しようとする内容の合意書が試案として作成されたことがあるが、いずれの当事者もその内容に不満であつたので合意が成立するには至らなかつた。

7  控訴会社は、昭和五一年一一月三〇日全従業員の決議で被控訴人に共同代表取締役を辞任してもらうことを決め、被控訴人に対し、一二月一日その旨通告するとともに、同月三日に取締役会を開催することを電話で連絡した。当時の取締役は山田光樹、被控訴人、大田徳太郎の三名であつたが、一二月三日に開催された取締役会には山田と大田の二名が出席し被控訴人は欠席した。同取締役会において、山田は共同代表取締役を辞任し、欠席した被控訴人は共同代表取締役を解任され、かつ、共同代表取締役制が廃止され、新たに大田徳太郎が代表取締役に選任された。続いて控訴会社は同年一二月五日取締役会を開催し、そこで新株六〇〇株を一株一万円、払込期日昭和五二年一月一四日、縁故募集の方法によるとの条件で発行することを決議し、東良ミツが右新株六〇〇株全部を引受け、払込期日までに新株引受金六〇〇万円を指定の場所に払込んだ。右新株発行を決議した取締役会には、三名の取締役のうち山田と大田の両名が出席し、被控訴人は前回同様欠席したが、今回は被控訴人には取締役会開催の通知も事前にされなかつた。

以上の事実が認められ<る>。被控訴人は、不破が控訴会社に融資した三〇〇万円のほかに被控訴人も二〇〇万円を出捐し、これを本件二〇〇株の株式の譲渡代金にあてた旨主張し、これにそう被控訴人の供述部分が存する。しかし、前記事実に照らすと、被控訴人が本件において二〇〇万円を出捐したとは到底認めることができず、本件二〇〇株の株式は、不破が控訴会社に最初二〇〇万円を融資した際、山田をはじめとする控訴会社の株主らがその借入金の担保に提供したものであり、被控訴人の右主張及び証拠は到底採用することができない。

三前項の事実によると、本件控訴会社の二〇〇株の株式は、不破の控訴会社に対する貸金の担保に不破に譲渡されたことが明らかである。もつとも本件株式の譲渡は株券が発行されていないままなされたものであるので、商法二〇四条二項の規定によれば当事者間では有効であるが会社との間では原則として効力を主張できないことになつているが、右商法の規定の趣旨に照らすと、本件のように会社が設立後長期にわたつて株券を発行せず、他方控訴会社自身が本件株券のない株式の譲渡を承認していると認められる事情のもとでは、株券の交付のない株式の譲渡を会社との間でも有効と解するのが相当である。ところで<証拠>(株式譲渡証)、<証拠>(差入書)によれば、株式の譲受人は被控訴人となつている。このことは、債権者不破が担保権の設定を受ける代りに、第三者である被控訴人が不破の前記貸金が弁済されることを解除条件として各株主から株式の無償譲渡を受け、不破の意を受けて控訴会社の経営に実質的に参画し、業績をあげて貸金の返済を容易にするという趣旨に解されないわけではない。しかし被控訴人が実質的に控訴会社の経営に参加しなかつたことは、被控訴人が共同代表取締役に就任しても一度も控訴会社に出社したことがないこと、控訴会社が融資を受けるため代表者個人の保証を求められた際、被控訴人は負担を免れるため担保を得ていること、被控訴人の代表取締役就任は仲徳商事との交渉にあたるため肩書を得ることが目的であつたこと、その他前記認定の事実及び諸般の事情に照らし明らかである。そうすると、本件において二〇〇株の株式は債権者である不破に対し譲渡担保として譲渡されたものとするのが相当であり、被控訴人を株式の譲受人と記載してある<証拠>は、被控訴人が仲徳商事と民事紛争について交渉するためただ代表取締役という地位にあるだけでなく、恰も全株式を所有する代表者であるとみせかけるために作成された書面にすぎないというべきである。よつて被控訴人は本件二〇〇株の株主ではなく、被控訴人の本訴請求中右株主の地位の確認を求める部分は理由がない。

四被控訴人は、本件新株発行は商法二八〇条ノ三ノ二所定の新株発行事項の公告または株主である被控訴人に対する通知がないので無効である旨主張する。なるほど、本件新株がその発行について右の公告または株主に対する通知を要しないと定められた同法二八〇条ノ三ノ三所定の株式でないことは前記事実により認められるところ、本件新株発行につき右の公告または通知がなかつたことは控訴人もこれを争わないが、前記のとおり被控訴人は控訴会社の株主ではないので被控訴人に通知のなかつたことをもつて本件新株発行の無効原因とすることはできない。もつとも、本件新株発行につき譲渡担保権者である不破に対し右の通知のなかつたことは弁論の全趣旨に徴し明らかである。しかしながら、既に認定した事実から明らかなように不破の譲渡担保権については担保権設定当事者間で株主名簿を不破名義に書換える旨の合意がなかつた以上、たとえ控訴会社において不破の右譲渡担保を承認していた(このことは前記事実からこれを認めることができる。)としても、不破は商法二八〇条ノ三ノ二にいう株主に該当しないものと解されるので、同人に対し本件新株発行につき同条所定の通知がなかつたからといつて本件新株発行が無効となるものではない。またかりに不破が右にいう株事にあたるとしても、そもそも商法二八〇条ノ三ノ二の規定の趣旨は、同法二八〇条の一〇の規定により法令もしくは定款に違反しまたは著しく不公正な方法による新株発行により株主が不利益を受けるおそれがある場合に株主に認められた新株発行差止請求権の行使を実質的に担保するために事前にその判断資料を株主に知らしめるというものであるところ、前記事実によれば、本件新株発行は資金繰りが悪化した控訴会社の経営を抜本的に建て直すため東良ミツが大幅な出資をするためにとられた措置であり、しかも本件新株の発行価額を額面額としたことは株主に何ら不利益を与えるものではないと認められるので、本件新株発行において株主に差止請求を肯認すべき事由を見出すことはできない。そうすると、不破に対し商法二八〇条ノ三ノ二所定の通知がなかつたことまたは公告がなかつたこと、から直ちに本件新株発行が無効となるものではないと解するのが相当である。<以下、省略>

(朝田孝 岨野悌介 大石一宣)

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