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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)663号 判決 1980年12月23日

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人は控訴人ら各自に対し五〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目表二行目の「前記普通貨物自動車」の後に「(以下、本件事故車ともいう。)」を付加する。)。

1  控訴人らの主張

(一)  「運行」について

「運行」の概念は本来場所的移動を意味するものであるが、現在ではこのように狭く解する考え方は皆無である。これは、自賠法が自動車交通被害者の保護を目的として制定された法律であり、その法解釈はすべて被害者保護の立場から解釈されているからである。

本件事故車は、古電柱を積載して事故現場に至り、ここで荷卸し後、再び古電柱を運ぶために他の古電柱の置場まで走行して行く予定であつた。たまたま昼食のため約一時間駐車していたものであつて、この状態はいわゆる「格納」状態ではない(仙台高裁昭和五四年九月七日判決交民集一二巻五号一一八四頁参照)。

(二)  本件被害者山岡は自賠法二条四項の「運転の補助に従事する者」ではなく、同法三条の「他人」に該当する。

「運転の補助に従事する者」とは、運転行為に関与する補助者の意味で、運転助手、車掌のようにまさに運転者の運転行為を手助けする地位と職責を有する者に限定されるべきである。道路交通法七二条の「その他の乗務員」が運転者以外の者で車両等に乗り、運転者を補助しその運転に関与する者と解釈されているのと同旨である。

本件事故当時、山岡は控訴人大興電設の宿泊所(飯場)に寝泊まりし、日雇人夫として同控訴人の電話架設工事の人夫仕事をしていたところ、たまたま古電柱の集荷業務を下請した控訴人太田から、古電柱をトラツクに積卸しする作業人夫として、按田とともに雇われ、二日間程その作業に従事していたものである。同人らの仕事は、古電柱をトラツクの近くまで運ぶこと、運んだ古電柱を荷台に載せること、トラツクから古電柱を卸すこと、卸した古電柱を定められた一定の場所に運び積上げることであり、同人らは自動車運転の知識経験もなく、運転行為の手助けなどできないし、また、現にしておらず、運転に関与するものでないから、「運転補助者」ではない(横浜地裁昭和五三年七月一八日判決交民集一一巻四号一〇一七頁及び前出仙台高裁判決参照)。

(三)  控訴人宮川電通は山岡の遺族に対し六〇〇万円を出捐し支払つたが、これはその余の控訴人らに代つて事実上支払つたもので、内部的には本件訴訟の終了をまつて精算を行うものである。

(四)  控訴人大興電設は本件事故の前に事実上倒産したが、現在も清算中の会社として存在している。

2  被控訴人の主張

(一)  控訴人大興電設は昭和四九年一二月三日商法四〇六条の三第一項の規定により解散し、同日付解散登記をし、既に消滅しており、当事者適格を有しない。

(二)  本件事故は自賠法三条の「運行」によつて生じたものではない。原判決は材料置場内での事故であること及び車両が停車してから一時間余り経過した後の事故であることの二点から、「運行」の範囲内であると認定しているが不当である。

(1) 材料置場内での事故

仮に「運行」概念について「車庫出入説」によつたとしても、同説は、往来で停止状態にある自動車が他の走行中の車両や通行人等との関係において危険性を有する点に着目しての立論であつて、本件事故現場が往来(道路)と同視しうる場所であるとは認定できないはずである。本件事故現場は、一般通行(運行)の場ではないし、交通状態の場ではなく、一般通行人が容易に出入りする所ではない通常の材料置場である。右現場がたとえ道路に面し障壁で囲まれていなかつたとしても、その機能は倉庫と変りなく、倉庫との差異は、屋根と障壁があるかないかだけであり、むしろ、本件材料置場は倉庫に近いものである。

「車庫出入説」によつたとしても、自動車は、運転者がこれを交通の用のための一般交通の場(道路)に置き、それによつて作り出される危険な状態が存続する限り、引続いて「運行状態」にあるものというべく、道路から引揚げられて車庫ないし一般交通の場以外の場所に置かれたとき「運行」は遮断される。

本件材料置場は、原判決の立論の前提部分である「通行人等を死傷させたり、積載物の車体からはみ出た部分に他の車両等が衝突して事故が発生したりする危険性」を有しない場所であり、したがつて、「自動車の走行と密接に関連」していないし、「運行」概念が自動車交通の場における概念であることからすると、本件材料置場は、「貨物自動車に固有の危険性が払拭された」場所であるはずである。

(2) 車両が停止してから一時間余り経過した後の事故原判決は「本件事故は、荷台に古電柱を積載して走行してきた貨物自動車から、これを所定の場所に荷降しするという自動車の走行と連続した関係にある作業中に(中略)おいて発生した」と認定している。

しかしながら、本件は、集荷してきた古電柱を材料置場に運搬し終え、当該車両による古電柱回収という「運行」に関する一連の行為は完了してから一時間余り経て惹起された事故であり、通常の材料置場内での車両からの荷卸しと移動等の作業を行つているにすぎず、「運行」とはなんら関係のない作業中の事故である。

したがつて、本件事故は、原判決のいう「自動車の走行と連続した関係にある」事故とはとても言えないし、従来の判例においても「自動車の走行と連続した関係」ないし「自動車の走行と密接に関連して生じた事故」と言われているのは、積載後又は積卸し後すぐに発車することが予想される状況にある場合であつて、本件は右場合と態様を異にする。

仮に、本件のごとく走行完了後相当経過した事故も「運行」概念に含まれるとすれば、車両に荷物を積載した後そのまま放置し、数か月経過してから荷卸し作業をした場合の事故もすべて「運行」中の事故となり、「車庫出入説」ないし「格納時説」を採つても、そこまで「運行」概念を拡張する説はない。原判決は「貨物自動車に荷物を積載して運搬してきたからにはいずれ荷降し作業はしなければならない」として、荷物が卸される時点の終了まではすべて「運行」に該当するかのごとく立論するが、右は暴論である。

右のとおり、本件事故は、「運行」概念が予想するところの本来の交通の場ではない材料置場において、しかも運行を終えた後、長時間経過した時点における作業中の事故であつて、これらを総合すれば、自賠法三条にいう「運行」に当らないことは明らかであり、交通の場における車両の危険性による事故というよりも、車両に積載された荷物自体の危険性による事故であつて、その土台が単に車両であるにすぎない。本件は純然たる労災事故であり、労災保険等が適用される分野である。

(三)  本件事故と「運行」との間に相当因果関係がないから、被控訴人に保険金支払義務はない。

原判決は「本件事故においては、車両の運行と事故との因果関係は、単に、貨物自動車の荷台上から積載物が落下したために事故が発生したという外形的事実によつて肯定される」と言うが、右立論は、本件事故が果たして「運行」に起因して生じたものであるか又はそれ以外の原因により生じたものであるかという因果関係についてはなんら答えておらず、むしろ、自賠法三条にいう「運行によつて」という概念を「運行に際して」と解釈しているにすぎない。

(四)  被害者山岡は自賠法三条にいう「他人」に該当しない。

仮に、本件事故が自賠法三条にいう「運行」に該当するとすれば、被害者山岡が同条にいう「他人」に該当しないことは、原判決認定どおりである。「運転補助者」とは何も職業的な「運転助手」や「車掌」等に限定されるべきいわれはない。同条との関係でみれば、当該車両を原因とする危険により生命又は身体を害した者のうちで、運行供用者、運転者自体及び運転者に準ずる運転補助者については、自賠法の本質が第三者に対する損害を賠償することにあるから、これらの者に対しては損害賠償の対象としていないのである。本件事故は、山岡自身が関与した車両荷台への古電柱積載、くくりつけ、荷ほどき及び荷卸し作業による危険が原因となつて惹起された事故であるから、山岡は当該車両を原因とする危険を形成した者として、右危険の発生につきまさに運転者の運転(運行)行為を手助けする地位と職責を有する者であり、車両等に乗り運転者を補助しその運転(運行)に関与する者に該当し、原判決が認定したように「運行」概念を拡大すれば、論理必然的に山岡が運転補助者になることは明らかである。

(五)  控訴人宮川電通が本件事故車を控訴人大興電設から借受けて保有していた事実はなく、本件事故車の運行供用者ではない。控訴人宮川電通は山岡の遺族に対し六〇〇万円を出損し支払つたが、これは、本件事故が労災事故であり、同控訴人は元請人の責任として、右損害賠償をなしたものである。

控訴人大興電設及び控訴人太田は加害者として支払をしていないから、自賠法に基づく保険金請求権を有していない。

3  証拠関係〔略〕

理由

一  控訴人大興電設に当事者適格がないとの被控訴人の当審における主張について判断する。

成立に争いない乙第四号証によれば、控訴人大興電設は昭和四九年一二月三日商法四〇六条の三第一項の規定により解散したものとみなされ、同日その旨登記されたことが認められるが、清算結了の登記がなされたことを認むべき証拠はないので、同控訴人は清算中の会社として存在しており、当事者能力を有するものであり、同控訴人の被控訴人に対する本訴請求が給付の訴であることよりして、同控訴人が当事者適格を有することも明らかである。

二  控訴人らの請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

三  本件事故の内容につき原判決理由第二項に判示するところは、次に付加、訂正するほか、当裁判所の判断と同一であるからこれを引用する。

1  原判決八枚目表一二行目の「原告宮川電通」を「控訴人大興電設」と訂正する。

2  同末行目の「到着した。」の後に次のとおり挿入する。

「右材料置場はその北側が道路(国道一六一号線)に面する(道路との境界には障壁はない。)面積約一〇〇坪のもので、その西南角にはプレハブ二階建の倉庫兼事務所一棟が存在しており、当時右土地東部分には古電柱が積んであり、西部分にはレツカー車が置いてあり、その中間に存在した幅(東西)約六米、奥行(南北)約一三米の空地部分に本件事故車を前部を北にして駐車させた。右材料置場付近に人家は少ない。」

3  同行目の「この」を「右」と改め、同裏三行目及び一〇行目の各「荷台後部扉」の次に各「(後板)」を、同六行目の「させたまま、」の次に「前記倉庫兼事務所内において」を付加する。

四  そこで、まず本件事故が自賠法三条にいう自動車の「運行によつて」生じたものか、換言すれば、同法二条にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」によつて発生したものかにつき検討する。

前記認定事実によつて考えると、次のことが明らかである。

1  本件事故は、控訴人大興電設より、その所有の普通貨物自動車(本件事故車)を使用しての、古電柱の回収作業を請負つた控訴人太田やその被用作業員(本件被害者山岡がこれに含まれる。)らが、回収した古電柱を右自動車に積載して控訴人大興電設の材料置場に到着後、右材料置場での右古電柱の荷卸し作業の際、積載中の一本がなんらかの原因で右自動車の荷台から落下したために、作業員山岡がその下敷となつたことによるものである。

2  ところで、本件事故車のような普通貨物自動車の場合、側板や後板と区別された意味での荷台が仮に「当該装置」に当るとしても、右荷台については、ダンプカー等の場合と異なり、「操作」ということは考えられないし、本件事故時側板や後板が操作された形跡も証拠上うかがわれない。

3  右材料置場は、なるほど道路に面し、道路との境界にはなんらの障壁も存在しないとはいえ、面積も約一〇〇坪程度のもので、同置場敷地内には控訴人大興電設のプレハブ二階建倉庫兼事務所も存在し、その余の部分は同控訴人の材料置場及び同控訴人関係車両の発着場として使用されていたとみられ、同控訴人関係者以外の人間や車両が出入することは許容されておらず、付近に人家も少なく、一般通行人や一般通行車が出入するという事態はまず考えられないところである。

4  更に、本件事故は、古電柱を回収してきた控訴人太田やその被用作業員らが、古電柱積載中の本件事故車を右材料置場に駐車させたまま、同置場敷地内の控訴人大興電設の倉庫兼事務所内で昼食を済ませ、更に約一時間休憩を取つた後の荷卸し作業中の事故であつて、駐車前の走行との連続性に欠け、また、右荷卸しが、走行準備のためのものではなく、駐車後の走行との連続性にも欠けている。

以上1ないし4によれば、本件事故が自賠法二条にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」によつて発生したもの、すなわち同法三条にいう自動車の「運行によつて」発生したものということはできない。

五  右によれば、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人宮川電通及び同大興電設が自賠法三条の損害賠償責任を負担したことを前提とする同控訴人らの本訴請求は理由がなく棄却すべきである。

六  また、控訴人太田は本訴請求の原因として、同控訴人が本件事故につき民法七〇九条の損害賠償責任を負うと主張するが、右事実はなんら被控訴人に対し自賠責保険金請求権を発生せしめるものではなく、右は主張自体失当(なお、本件全証拠によるも、本件事故につき同控訴人に過失があつたことは認められない。)であり、同控訴人の本訴請求も棄却すべきである。

七  よつて、右と結論において同旨の原判決に対する本件各控訴を棄却し、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村瀬泰三 古川正孝 篠原勝美)

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