大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)672号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
2 控訴人は、「内規」により計算した額の範囲内で取締役会の定める額の退職慰労金を役員に支給する旨の株主総会決議をするには、株主総会招集通知や公告にその「内規」を具体的に記載すべきであると主張する。
しかし、株主総会招集通知や公告には、原則として会議の目的たる事項を記載するだけで充分である(商法二三二条二項)ところ、特に明文の規定をもつて議案の内容を具体的に記載すべきものとされている場合(例えば、商法二四五条二項、二八〇条の二第三項、三四一条の二第五項、三四二条二項、三七五条二項、四〇八条二項)と本件の場合とを対比し、確定額をもつて退職慰労金支給の決議をする場合でもそれは定款の変更に準ずるものとは解せられないから提案予定の退職慰労金額を株主総会招集通知や公告に記載する必要がないことを考慮すると、「内規」により計算した額の範囲内で取締役会の定める額の退職慰労金を支給する旨の株主総会決議をするにも、株主総会招集通知や公告にその「内規」の内容を記載する必要はないというべきである。
もつとも、株主が「内規」を知る機会がなかつたときは、右のような決議は盲目的、無内容なものとなつてしまう危険があるから、そのような機会のないままで、「内規」の定める額の範囲内で取締役会の定める額の退職慰労金を支給する旨の株主総会決議がされた場合には、その決議は違法というべきである。
本件において「内規」を制定した昭和四五年一月二六日の取締役会については、「内規」をも添付して取締役会議事録が作成保管されていることは、<証拠>により認められるから、株主は商法二六三条によりこれを閲覧することができたわけである。また、株主は株主総会に出席して右「内規」の内容の説明を受ける機会も有するわけである。従つて、本件において株主はこれらの方法で「内規」の内容を知る機会があつたものと認められるから、本件の株主総会決議にはこの点の違法はない。
3 控訴人は、取締役会は退職慰労金支払後にその顛末を株主総会に報告すべきであると主張するが、取締役会又は取締役は各種計算書類の承認を求めるほかに、右のような報告を積極的にすることを法律上義務づけられているとは解せられないから、右の点についても違法はない。
4 控訴人は、役員に対しては毎期に役員賞与金が支払われているから、更に功績によるとして退職慰労金を加算支払することは許されないと主張する。しかし、退職慰労金は役員の在職中の職務執行に対する対価のほか退職役員の功労に報いる趣旨も兼ねているとみられるから、そもそもその支給を前提とする以上役員に対し毎期報酬賞与が支払われている場合であつても更に功績を加味した退職慰労金を支給することが重複支給となるものではなく、役員賞与金を受領して来た役員に対し退職慰労金を支給するに際し功績を考慮して額を加算するかどうかは株主総会(又は一定の範囲で一任された取締役会)の裁量に属することであつて、そのような加算をすること自体が違法ということはできない。
(奥村正策 志水義文 井関正裕)