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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)767号 判決 1981年4月10日

控訴人(第一審第八二六号事件原告、第一一〇七号事件被告、

附帯被控訴人、当審反訴原告、以下、控訴人という。)

藤川明

控訴人(第一審第八二六号事件原告、以下、控訴人という。)

藤川芳夫

控訴人(第一審第一一〇七号事件被告、附帯被控訴人、以下、控訴人という。)

藤川豊明

控訴人(第一審第一一〇七号事件被告、附帯被控訴人、以下、控訴人という。)

藤川正

右法定代理人親権者父

藤川明

控訴人(第一審第一一〇七号事件被告、附帯被控訴人、以下、控訴人という。)

川村民子

右五名訴訟代理人

高木清

被控訴人(第一審第八二六号事件被告、第一一〇七号事件原告、

附帯控訴人、当審反訴被告、以下、被控訴人という。)

藤川フサ

被控訴人(第一審第八二六号事件被告、以下、被控訴人という。)

藤川ハツ子

被控訴人(第一審第八二六号事件被告、以下、被控訴人という。)

大西フサノ

右三名訴訟代理人

坪野米男

堀和幸

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人藤川フサの控訴人藤川明、同藤川豊明、同藤川正に対する原判決別紙目録(二)(1)ないし(3)記載の土地、建物についてなされた昭和五二年四月二八日付贈与契(予)約が無効であることの確認を求める訴を却下する。

三1  控訴人藤川明と被控訴人らとの間で原判決別紙目録(一)(1)記載の土地が同控訴人の所有であることを確認する。

2  被控訴人らは同控訴人に対し同土地について昭和五二年三月四日相続を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

四1  控訴人藤川芳夫と被控訴人らとの間で原判決別紙目録(一)(2)記載の土地が同控訴人の所有であることを確認する。

2  被控訴人らは同控訴人に対し同土地について昭和五二年三月四日相続を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

五1  控訴人藤川明と被控訴人藤川フサとの間で原判決別紙(二)(3)記載の建物が同控訴人の所有であることを確認する。

2  同被控訴人は同控訴人に対し同建物について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

六  被控訴人藤川フサの控訴人藤川明、同藤川豊明、同藤川正、同川村民子に対する原判決別紙目録(二)(1)記載の建物の明渡請求及び本件附帯控訴による拡張請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用(当審反訴及び附帯控訴費用を含め)は第一・二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

事実《省略》

理由

第一まず、本件確認の訴の適否について判断する。

本件確認の訴は、その請求の趣旨からして、過去の法律行為の確認を求めるものであり、この請求を「控訴人明、同豊明、同正に対し(二)(1)ないし(3)の土地、建物についてなされた昭和五二年四月二八日付贈与契(予)約に基く被控訴人フサの履行債務の存在しないことを確認する。」との趣旨に善解してみても、以下のとおり、確認の利益を欠くから不適法である。

すなわち、本件記録及び弁論の全趣旨によれば、同土地、建物は、もと被控訴人フサの夫・駒三郎の所有名義であつたが、被控訴人フサに対し昭和五一年四月二七日受付で同年同月二〇日贈与を原因とする所有権移転登記が経由されているものであるところ、被控訴人フサは、(二)(1)ないし(3)の土地、建物はすべて自己の出捐等により自らが所有権を取得したものであつて、形式上駒三郎の所有名義としたものにすぎないと主張するのに対し、控訴人明、同豊明、同正は、被控訴人フサ主張の昭和五二年四月二八日付念書による贈与契(予)約の存在を否認したうえ、(二)(1)の建物及び(二)(2)の土地はもと駒三郎の所有であつて、同人の死亡によりその共同相続人八名の共有となつたものであり、(二)(3)の建物は控訴人明において建築し、所有権を取得したものであると主張し、控訴人明は、当審において、被控訴人フサに対し、(二)(1)の建物及び(二)(2)の土地が駒三郎の共同相続人八名の共有であることの確認を求める予備的請求並びに(二)(3)の建物は同控訴人の所有であることの確認及び所有権移転登記を求める反訴請求をしていることが認められ、右控訴人三名は同被控訴人主張の贈与契(予)約に基く同被控訴人の履行債務の存在しないことを争つてはいないことが明らかであるから、本件確認の訴は確認の利益がないというべきである。

第二次に、控訴人明、同芳夫の被控訴人らに対する土地所有権確認等請求、控訴人明の被控訴人フサに対する当審反訴請求及び被控訴人フサの控訴人明、同豊明、同正、同民子に対する建物明渡請求(附帯控訴による拡張請求を含む。)について判断する。

一(一)(1)及び(2)の各土地はもと駒三郎の所有であつたところ、同人が昭和五二年三月四日死亡し、その妻・被控訴人フサ、長女・被控訴人ハツ子、長男・春男、二男・被控訴人明、二女・邦子、三男・高志、三女・被控訴人フサノ、四男・控訴人芳夫の八名が駒三郎の共同相続人となつたこと、控訴人明が(一)(1)の土地について、同芳夫が(一)(2)の土地について、それぞれ所有権を有すると主張しているのに対して、被控訴人らがこれを争つていることは、控訴人明、同芳夫と被控訴人らとの間で争いがなく、(二)(1)及び(3)の各建物が登記簿上もと駒三郎の所有名義であつたが、いずれも昭和五一年四月二七日受付で同人から被控訴人フサに対し同年同月二〇日贈与を原因とする所有権移転登記が経由されていることは、控訴人芳夫を除く控訴人らと被控訴人フサとの間で争いがない。

二<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  駒三郎・被控訴人フサ夫婦間には、長女・被控訴人ハツ子、長男・春男、二男・控訴人明、二女・邦子、三男・高志、三女・被控訴人フサノ、四男・控訴人芳夫の七名の子が生れた。

控訴人明は、昭和三三年九月一日妻・みよ子と婚姻し、長男・控訴人豊明、二男・同正(昭和三六年一〇月二六日生)を儲けたが、みよ子が昭和四八年四月頃家を出てしまつたことから、昭和五二年五月頃控訴人民子と内縁関係を結び、現在同居している。

2  駒三郎(明治三九年生れ)は、昭和一三年頃から豊業に従事していたことから、昭和二二年一〇月二日政府より(一)(2)の土地について自作豊創設特別措置法一六条の規定による売渡を受け、その所有権を取得し、また昭和二三、四年頃から昭和三〇年頃まで(二)(2)の土地のうち現在(二)(3)の建物の敷地となつている場所で製材業を行い、昭和三一、二年頃自動車運送業の免許を受け、その頃から実際の経営は控訴人明に任せて運送業を行つてきたが、昭和四六、七年頃これを法人化し、藤川運送株式会社(以下、藤川運送という。)を設立したのを機会に名義上も運送業経営から身を退き、以後自適の生活を送つていたところ、昭和五〇年四月頃に脳血栓で倒れ、その頃約二か月間入院治療養を受けたのち自宅療養を始めたが、その頃からほとんど寝た切りで、読み書きはもとより、会話も不自由な状態が続き、昭和五二年三月四日死亡するに至つた。

3  駒三郎は、妻・被控訴人フサ、控訴人明らの協力の下に、前記製材業、運送業等を行い、これらによる収入で買受ける等して、藤川家のいわゆる本家の家屋敷である(二)(1)の建物及び(一)(1)、(二)(2)の各土地のほか、京都市右京区太秦開日町二一番八、同番一八、同番二八の合計四二九平方メートルの土地(以下、開日町の土地という。)、京都市右京区太秦堀池町の約一七〇坪の土地及び同地上の建物(以下、堀池町の土地、建物という。)、京都市右京区嵯峨野清水町一三番の214.87平方メートルの宅地(以下、清水町の土地という。)、京都市右京区嵯峨野天龍寺油掛町二三番の五の土地(以下、油掛町の土地という。)等の各所有権を取得していたものであるところ、昭和五〇年より前に、長男・春男に対し開日町の土地を、三男・高志に対し堀池町の土地、建物を、三女・被控訴人フサノに対し油掛町の土地をそれぞれ譲渡した。

4  控訴人明は、藤川運送設立と同時にその代表取締役に就任し、その経営に当つていたところ、これより先の昭和四五年頃駒三郎の承諾を得て、(二)(2)の土地上に自己が他から借受けてきた資金で(二)(3)の建物を建築し、これを所有するに至つたが、運送事業上の事故の発生等により莫大な債務を負う恐れがあつたことから、駒三郎と相談のうえ、(二)(3)の建物について昭和四八年五月八日受付で同人名義の所有権保存登記を経由し、右借受金は運送業による収入でこれを返済した。

藤川運送は、昭和四八年頃から経営が悪化し赤字経営が続いたので、控訴人明が昭和五一年一〇月運送業免許権を含めて他に売却した。

5  被控訴人フサは、昭和五一年頃、控訴人明が運送業による赤字を補填するために(二)(1)ないし(3)の土地、建物を他に売却することを危惧し、被控訴人ハツ子に駒三郎の実印を、同フサノに(二)(1)ないし(3)の土地、建物の権利書をそれぞれ保管させていたが、被控訴人フサノから高志が右権利書を同被控訴人方より持ち出したことを聞き、昭和五一年四月一〇日すぎ頃控訴人ハツ子、その夫・藤川福之助、右両名の長男・藤川昇らと相談のうえ、控訴人明による売却を防ぐ方法として同土地、建物を自己名義とすることに決め、被控訴人ハツ子、同フサノ、藤川昇らの協力を得て、控訴人明ら男兄弟及び邦子に知らせないまま、駒三郎からの贈与の意思表示もなかつたのにもかかわらず、同土地、建物について昭和五一年四月二七日受付で駒三郎から同年同月二〇日贈与を原因とする所有権移転登記を経由した。

なお、被控訴人フサは、当時、控訴人明が(二)(3)の建物を建築してこれを所有し、駒三郎と相談のうえ、同人名義で所有権保存登記を経由していたことを知つていた。

6  また、被控訴人ハツ子及びその夫、子は、清水町の土地について、昭和五〇年一二月一三日受付で駒三郎から同日贈与を原因とする所有権持分四分の一の移転登記を、昭和五一年四月二〇日受付で同人から同日贈与を原因とする所有権持分四分の三の移転登記をそれぞれ経由した。

7  控訴人明、同芳夫は、昭和五二年四月二〇日、被控訴人ら、春男、高志らとともに駒三郎の四九日の法要を行い、その際に同人の遺産の分割について話合いをしたところ、春男の報告により、同控訴人らの知らない間に、清水町の土地及び(二)(1)ないし(3)の土地、建物について前記5、6記載のとおり各所有権移転登記が経由されているため、結局(一)(1)及び(2)の各土地のみが駒三郎の所有名義であることを知つて立腹したが、話合いを円満に納めるため、やむなく春男や被控訴人フサらの提案に従い、被控訴人ら、春男、高志との間で、「(一)(1)及び(2)の各土地を駒三郎の遺産として、(一)(1)の土地を控訴人明の、(一)(2)の土地を同芳夫の各単独所有とする。(二)(1)の建物、(二)(2)の土地については、被控訴人フサの所有であることを一応承認するが、同被控訴人は後日(二)(3)の建物と合わせて駒三郎の跡継ぎである控訴人明及びその子である同豊明、同正に対しその所有権移転登記手続を行う。清水町の土地は被控訴人ハツ子及びその夫、子の共有であることを認める。控訴人明は(一)(1)の建物において被控訴人フサと引続き同居して同被控訴人を扶養する。(二)(3)の建物及び清水町の土地上の共同住宅の各家賃は被控訴人フサの収入とする。」旨合意した。

控訴人明は、これらの合意が履行されるのであれば、差し当り、(二)(3)の建物が自己の所有であることの主張をする必要もないと考え、当分の間右主張をすることを見合わせた。

そこで、高志は、被控訴人フサの指示により、田中春江司法書士に依頼して、右合意の大筋を記載した念書(但書部分を除く。)及び駒三郎の遺産中(一)(1)の土地は控訴人明の、(一)(2)の土地は同芳夫の各単独所有とし、その余の相続人は相続を受けない旨記載した遺産分割協議書を作成して貰い、控訴人明、同芳夫らの協力により、昭和五二年四月末頃までに右二通の書面に共同相続人八名全員の署名押印を得た。

8  控訴人明、同芳夫は、昭和五二年五月初め頃高志の協力を得て、前記遺産分割協議書に基いて(一)(1)及び(2)の各土地について相続を原因とする所有権移転登記の申請をするため、被控訴人らのほか兄弟姉妹全員に対し印鑑証明書の交付を求めたところ、被控訴人らのみがこれに応じなかつた。

その頃高志は、被控訴人ハツ子から念書に但書部分を挿入するよう求められたので、被控訴人フサの了解を得たうえ、控訴人芳夫らに知らせないまま、念書に但書部分を記入したが、それでもなお、被控訴人らから印鑑証明書の交付が受けられなかつた。

9  そこで控訴人明は、その頃被控訴人フサに対し遺産分割協議の趣旨に従い印鑑証明書を交付するよう度々要求したところ、同被控訴人がこれに応じないばかりか、控訴人明の要求から逃れるため、同年五月一二日自らの意思で(二)(1)の建物から出て、被控訴人ハツ子方へ行つてしまい、右建物へ帰来しなかつたので、控訴人豊明ら子供の世話及び家事の処理等に困り、それまでに交際していた控訴人民子と内縁関係を結び、同控訴人と(二)(1)の建物で同居を始め、(二)(3)の建物の一部をも使用しているが、被控訴人フサが戻つてくる場合にはこれを拒む積りは毛頭なく、控訴人民子とともに迎え入れる意思であり、その後何度も同被控訴人に帰宅を促したが、その都度拒まれた。

10  控訴人明は、妻・みよ子との婚姻後も(一)(1)の建物において両親である駒三郎・被控訴人フサ夫婦と同居を続けていたものであるが、昭和四八年四月にみよ子が家を出たのちは控訴人豊明ら子供の世話を被控訴人フサに委ねたり、また運送業による債務等一二〇〇万円ないし一三〇〇万円を駒三郎所有の不動産の売却代金で返済して貰う等、両親に迷惑を掛けたことがあつたものの、駒三郎や被控訴人に対して虐待したり、(一)(1)の建物に居辛くさせるような行為に出たことはなかつた。

以上の事実が認められ<る。>

三以上認定の事実に基き、本件各請求について以下のとおり判断する。

1  控訴人明、同芳夫の被控訴人らに対するの(一)(1)及び(2)の各土地の所有権確認及び所有権移転登記請求について

(一) (一)(1)及び(2)の各土地は駒三郎の遺産であつたところ、控訴人明ら、被控訴人らを含む共同相続人八名は、昭和五二年四月末頃遺産分割協議書の作成により、(一)(1)の土地は控訴人明の、(一)(2)の土地は同芳夫の各単独所有とする旨の遺産分割協議(以下、本件分割協議という。)を成立させたものであるから、控訴人明は(一)(1)の土地について、同芳夫は(一)(2)の土地について、いずれも駒三郎の死亡時すなわち昭和五二年三月四日相続によりそれぞれ所有権を取得したことが認められる。

被控訴人らは、本件分割協議は、控訴人明が被控訴人フサに対し背信行為をすることを解除条件とするものであつた旨主張し、控訴人明が本件分割協議の際に被控訴人フサを扶養することを約した(なお、控訴人明は昭和五二年五月一二日以来被控訴人フサを扶養していないことは明らかであるが、これは同被控訴人が控訴人明から扶養を受けることを拒んだことによるものというべきである。)ことはあるが、このことをもつて本件分割協議が被控訴人ら主張のような解除条件付であつたとは認められず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、(一)(1)の土地についての控訴人明の、(一)(2)の土地についての控訴人芳夫の各所有権を争う被控訴人らに対する控訴人明、同芳夫の右各土地所有権確認請求は正当としてこれを認容すべきである。

(二) ところで、一般に、遺産分割協議により被相続人所有名義の不動産の所有権を単独取得した者は、当該不動産について単独で相続を原因とする所有権移転登記の申請をすることができる(不動産登記法二七条)が、その申請書には、相続を証する市町村長若くは区長の書面又はこれを証するに足るべき書面を添付することを要する(同法四二条)うえ、申請者が提出する遺産分割協議書には申請者以外の共同相続人の印鑑証明書を添付することが必要であると解され、また登記実務上もそのような運用がなされている(昭和三〇年四月二三日民事甲第七四二号法務省民事局長通達参照)ことは当裁判所に顕著な事実である。

これを本件についてみると、(一)(1)の土地の単独取得者である控訴人明、(一)(2)の土地の単独取得者である同芳夫は、それぞれ単独で右各土地について相続を原因とする所有権移転登記の申請をすることができるが、その申請書には本件分割協議書及び被控訴人ら、春男、高志、邦子、控訴人芳夫(同明の場合)又は同明(同芳夫の場合)の各印鑑証明書を添付しなければならないところ、被控訴人らは右控訴人両名に対し各自の印鑑証明書を交付することを拒んでいるのであるから、右控訴人両名が被控訴人らの印鑑証明書の添付なくして単独で右各登記申請をすることができるようにする趣旨で、被控訴人らに対する(一)(1)の土地について控訴人明の(一)(2)の土地についての同芳夫の相続を原因とする各所有権移転登記請求を認容するのが相当である。

2  控訴人明の当審反訴請求について

(一) (二)(3)の建物は、控訴人明が昭和四五年に建築してその所有権を取得したものであるところ、控訴人明がその所有権を喪失したことを認めるに足りる証拠はない。

(二) もつとも、(二)(3)の建物について駒三郎名義で所有権保存登記が経由されてはいるが、これは控訴人明が当時運送業により莫大な債務負担の生ずることに備え、駒三郎と通謀して行つたものであつて、真実駒三郎に所有権を譲渡したものではないし、昭和五一年四月二七日受付で駒三郎から右事情を知る被控訴人フサに対し所有権移転登記が経由された際にも贈与がなされたものでもない。

なお、控訴人明は、共同相続人の一人として、(一)(1)及び(2)の各土地のみを駒三郎の遺産として本件分割協議を成立させ、(二)(1)ないし(3)の土地、建物について被控訴人フサから後日控訴人豊明、同正とともに所有権移転登記を受ける旨約したことはあるが、右約定が履行されれば、(二)(3)の建物について差し当つては所有権の主張をする必要がないので当分の間その主張することを見合わせたにすぎず(被控訴人らが本件分割協議及び念書による合意に反し、控訴人明の(一)(1)の土地についての所有権移転登記申請に協力しない現在においては、同控訴人が(二)(3)の建物の所有権を主張し、本件請求をすることは何ら念書の約旨に反するものではないと考えられる。)、右事実をもつて、被控訴人フサが(二)(3)の建物の所有権を取得したことを承認したとまでは認めることができない。

そうすると、(二)(3)の建物は控訴人明の所有であり、これについてなされた駒三郎名義の所有権保存登記及び同人から被控訴人フサに対する所有権移転登記はいずれも登記原因を欠く無効のものであるところ、この場合、真正な所有者である控訴人明は、右各登記の抹消登記請求に代え、現在の登記名義人である被控訴人フサに対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求をすることができるというべきであるから、控訴人明の当審反訴請求はすべて正当としてこれを認容すべきである。

3  被控訴人フサの控訴人明、同豊明、同正、同民子に対する建物明渡請求について

(一) (二)(3)の建物は控訴人明の所有であるから、被控訴人フサの同建物についての右控訴人らに対する明渡請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当たるを免れない。

(二) (一)(1)建物は、もと駒三郎の所有であつて、藤川家のいわゆる本家の家であり、駒三郎・被控訴人フサ夫婦及び駒三郎の跡継ぎである控訴人明夫婦、その子供が長年にわたりこれに同居してきたものであるところ、控訴人明は、被控訴人フサが(一)(1)ないし(3)の土地、建物について駒三郎からの所有権移転登記を経由したことを事後に知つたが、本件分割協議との関係上、同被控訴人が(二)(1)の建物及び(二)(2)の土地、建物の所有権を取得したことを一応承認したところ、これと同時に被控訴人フサは、後日同土地、建物について(二)(3)の建物と合わせ控訴人明、同豊明、同正に対し所有権移転登記を経由することを約したうえ、控訴人明と(二)(1)の建物において同居して扶養を受ける旨をも約し、同控訴人らが継続して同建物に居住することを承諾していたのにもかかわらず、控訴人明から本件分割協議の趣旨に従い印鑑証明書の交付を求められるやこれを拒否し、さらにこれから逃れるため自らの意思で同建物から出て、ついには控訴人明らに対し同建物の明渡請求をするに至つたものであるから、(二)(1)の建物が本件分割協議の際の前記承認により被控訴人フサの所有になつたとしても、同被控訴人明、同豊明、同民子に対する右請求は、右に述べた事情及び前記認定の事実にかんがみると、権利の濫用として許されないものというべきである。

(三) そうすると、被控訴人フサの前記各請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきである。

第三以上の次第で、被控訴人フサの控訴人明、同豊明、同正に対する本件確認の訴は不適法としてこれを却下すべきであり、控訴人明、同芳夫の被控訴人らに対する(一)(1)及び(2)の各土地についての所有権確認及び所有権移転登記の各請求はすべて正当としてこれを認容し(これにより控訴人明の当審予備的請求についての判断は要しないこととなる。)、被控訴人フサの控訴人明、同豊明、同正、同民子に対する(二)(1)の建物明渡請求はすべて失当としてこれを棄却すべきところ、これと異なる原判決は相当でなく、本件控訴は理由があるから民訴法三八六条により原判決を取消して、本件確認の訴を却下し、控訴人明、同芳夫の各請求を認容し、被控訴人フサの請求(本件附帯控訴による拡張前)を棄却し、また、控訴人明の当審反訴請求はすべて正当としてこれを認容するが、被控訴人フサの本件附帯控訴により拡張した控訴人明、同豊明、同正、同民子に対する(二)(3)の建物明渡請求はすべて失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(仲西二郎 林義一 大出晃之)

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