大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)481号 1982年7月06日

抗告人

ニコニコタクシー株式会社

右代表者代表取締役

河野巌

右代理人弁護士

入江菊之助

岩渕利度

杉野忠郷

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も抗告人に本件救済命令違反の事実があり、抗告人を過料に処すべきものと判断する。その理由は次の点を付加、訂正するほか原決定理由の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原決定九枚目表三行目の「(3)」、同裏一二行目の「(ロ)」から一〇枚目表五行目末尾までを各削除し、同裏一〇行目の「代行者」を「代務者」と改め、同一一枚目表六行目の「石けん」の前に「各自動車毎に」を、同行の「用具」の次に「(但し石けんは共同使用でもよい)」を、同七行目の「会社は」の次に「必ずしも充分」をそれぞれ加える。

2  本件救済命令における団体交渉事項(以下交渉事項と云う)(1)は、「一般乗用自動車運送事業(以下タクシー事業と云う)の免許取消に伴う身分保障」と云うものであるところ、記録によると、大阪陸運局長が昭和五四年一月一九日抗告人に対してタクシー事業の免許取消処分をなし、これに対して抗告人が右処分の効力を争って大阪地方裁判所に行政訴訟を提起したことから組合員の身分が著るしく不安定なものとなったので、組合が抗告人に対して前記事項の団体交渉を求めるようになったものである。そして、組合員が雇傭の継続を希望していたことは自明であり、ただそれが右行政訴訟の行方にかかるものであるところから、抗告人より、陸運局長側の前記処分理由がいかなるものであり、これに対する抗告人側の反論がどのようなもので、それが右処分理由をどの程度覆えし得るものであるか等及びこれらを含めた右訴訟の見通しについて抗告人がどのような見解を持っているか等の点についての説明を受けたいと云うのが、右団体交渉を求める主たる目的であったものと考えられる。もっとも、抗告人の右説明の結果、行政訴訟についての見通しが暗くタクシー事業の継続が困難であると判断される場合には、組合側も雇傭継続の希望を捨てて、他への再就職の斡旋又は解雇手当等の要求をすると云う含みもあったもので、このため交渉事項を「身分保障」と表現したものと考えられるが、交渉の主たる目的はタクシー事業継続の見通しについての抗告人の説明を受けたいと云うにあったことは明らかである。そして、抗告人は前記行政処分を受けて間もない頃、組合員以外の従業員を集めて、抗告人の今後の方針や休業中の従業員の生活保障についての説明会をしていたのであるから、組合が求めている団体交渉の内容が前記の如きものであることを当然認識し得たものと考えられる。従って、交渉事項(1)の記載が抽象的であってその内容が不明確であるとする抗告人の主張は採用し難い。

抗告人は、交渉事項(1)については、前記行政処分の効力停止決定を得て従業員の雇傭を継続できるようにし、その旨を従業員に説明していたし、将来のタクシー事業の継続は右訴訟の判決の結果いかんにかかっているので右判決を得て対処するほかなく、そのことも従業員に説明していたから、抗告人としてはこれ以上組合と交渉する必要はなかった旨主張するが、抗告人の右説明は組合員以外の従業員に対してなされただけであるし、又行政処分の効力停止決定は本案判決があるまでの暫定的なものに過ぎないから、右決定があってもタクシー事業の免許取消処分がなされたことによる組合員の不安が解消するものでないことは云うまでもなく、更に将来のタクシー事業の継続は右判決の結果いかんにかかるものであるけれども、組合員の身分に関する重要なことがらであるから、組合が、右訴訟の経過についての説明を聞きたいと望み、或いは抗告人が右訴訟の見通しについてどのように考え、更に判決後の対応についていかなる方策を考えているか等の説明を受けたいと望むのは当然であり、抗告人としてもこれらの点の説明を尽して組合員の不安の解消に努めるべきものであるから、単に処分の効力停止の決定を得たことを説明するに止まることなく、将来の見通しとか、万一右訴訟で敗訴した場合の対応策等についても説明すると共に、組合から要求があれば、雇傭継続が困難となった場合の従業員に対する保障措置等についても交渉すべきものであると考えられる。本件ではその後抗告人が本案訴訟に勝訴し、その判決が昭和五五年四月三日確定したことは記録上明らかであるから、結果からみると、右事項についての団体交渉の必要はなかったこととなるが、右判決確定までは従業員の身分不安定な状態が続いていたのであるから、右保障措置に関する団体交渉の必要性がなかったものとは到底云えないものである。従って抗告人の前記主張は採用できない。

3  交渉事項(2)は「昭和五四年一月二二日から同月二八日までの休業中の賃金補障」と云うものであるが、記録によると、前記行政処分によって抗告人が右期間タクシー事業を休業し、組合員が七日間運転業務に従事できなかったので、その間の賃金補障を求めると云うにあることは明らかであって、交渉事項(2)の記載が抽象的で交渉内容が不明確であると云うことはできない。もっとも、右補障額の算定方法について労使間に意見の相違があるが、斯る相違があるからこそ、正に団体交渉の必要があるのであって、右相違の故に前記交渉事項の記載が具体性に欠けるものと云うことはできない。従って交渉事項(2)の記載が抽象的で内容が不明確であるとする抗告人の主張は採用し難い。

抗告人は右期間の休業補障は昭和五四年二月分の給料と共に支払って既に解決済であると主張するが、組合は前記行政処分前の三ケ月間における一日の平均賃金を算出し、その七日分の補障を要求しているのに対し、抗告人は、七日間は三乗務(一乗務は暦日の二日)となるので、昭和五四年一月二九日から同年二月二〇日まで(つまり前記行政処分後)の各組合員の一乗務の平均賃金を算出し、その三乗務分の補障金を支払ったものであり(<証拠略>)、これによると抗告人のした補障は六日分に止まることとなるし、又平均賃金を算出するための基礎期間及び算出方法についても組合との間に意見の相違があったのである。尚抗告人は、抗告人会社の賃金計算は一乗務単位で行っているのであるから、本件休業補障についても同様の計算方法によるべきであり、組合主張の一日単位で計算するのは合理的根拠がない旨主張するが、右両計算方法の何れをとるかは正に団体交渉の対象となるものであって、右交渉を経ることなく一方的に決定した計算方法によって補障したと云うだけでは、未だ右問題が解決したものとはいえない。従って、この点に関する抗告人の主張も採用できない。

4  本件交渉事項(3)は「賃金改定問題」であるところ、記録によると本件救済命令が発せられた昭和五四年九月一二日の約三ケ月前である同年六月一五日に労使間に賃金協定(<証拠略>)が成立して右問題が一応解決したことが認められる。ところで、本件救済命令書には、右命令発令当時右賃金協定の解釈をめぐって労使間に意見の対立があるからなお団体交渉をなすべきである旨の記載があるが、賃金協定のどの条項について意見の対立があるのかは、右救済命令書の記載によるも明らかではない。この点について、原審における(人証略)中には、賃金協定が成立したが、三六協定、拘束時間中のハンドル時間、修理手当、運転手が行政処分を受けたときの下車勤の問題が未解決であった旨の供述があるが、右のうち三六協定については賃金協定が成立する前の昭和五四年四月二三日労使間に合意が成立していることは右救済命令書の記載から明らかであり、又ハンドル時間や修理手当の問題が賃金改定の団体交渉において論議されていたものであるか否かは、原審における(人証略)に照して疑問であると考えられる。僅かに、運転手が行政処分を受けたときの下車勤の問題が右賃金改定問題に関連して話合われたことがあることが認められるが、本件救済命令に云う、賃金協定の解釈をめぐって労使間に存する意見の対立とは、右下車勤の問題を指すものと認めるべき的確な資料は存在しない。そして他に右救済命令の云う意見の対立の内容を確認できる資料はない。そうすると右救済命令において「(3)賃金改定問題」と云う項目のもとに団体交渉を命じているけれども、その交渉すべき内容が特定されていないものと云うべきである。

5  交渉事項(4)の退職金協定について、抗告人は、タクシー業界には抗告人の採用するB型賃金体系(毎月の賃金に賞与、退職金の全部又は一部を組入れて支給するもの)と組合が主張するA型賃金体系(賞与は各期末に、退職金は退職時に支給し、毎月の賃金に組入れないもの、組合が加盟している全自交はA型賃金体系を指向する)とがあり、その何れによるかによって退職金協定の内容が異なって来るが、抗告人の再三の指摘に拘らず組合は単に全自交並みの退職金協定を要求すると云うのみで、具体的な要求内容を示さなかったので、団体交渉が難航したのであって、抗告人に本件救済命令の不履行はない旨主張するが、前認定(原決定四枚目裏六行目から七枚目表四行目まで)の通り、組合は昭和五四年二月二八日抗告人に対し退職金規定の設定を申入れ、その際組合の要求する、勤続年数に応じた退職金額の一覧表(記録三二六丁)を呈示しているのであって、右一覧表の退職金額は、全自交傘下の組合がその所属する会社と締結した退職金協定書(<証拠略>)と対比すると、抗告人の云うA型賃金体系を前提とするものと考えられるが、その際は、抗告人はA型、B型の賃金体系の相違を格別問題とはせず、むしろ同年五月八日には、全自交水準の方向で退職金協定の問題を解決することを組合との間で確認していた(記録三二七丁)のであり、更に本件救済命令後の昭和五五年一月一二日の団体交渉においても右五月八日付の確認書に添った退職金協定案を作成して組合側に呈示することを約束していたのである。然るに右約束は実現されず、却って二月二六日の団体交渉において抗告人は、互助会規約(昭和三六年三月施行のもの、<証拠略>)に定める退職金額に三パーセント上積みしたものを試案として口頭で説明し、これを叩き台として検討して貰いたいと述べるに至ったもので、それ以後数次に亘る団体交渉が行なわれたが退職金協定について実質的な交渉が行なわれなかったのである。以上の事実によると、退職金協定について組合が具体的要求を示さなかったために交渉が難航したものであるとする抗告人の主張は到底採用できない。そして抗告人においてA型賃金体系を前提とした退職金協定の締結が無理であると云うのであれば、自らB型賃金体系を前提とした退職金協定案を作成し、その基礎となった具体的資料と共に組合側に呈示して、団体交渉を進めることは可能であると考えられるが、抗告人は斯る措置を何等とっていないのであるから、抗告人に本件救済命令の不履行があったことは明らかである。

6  抗告人は、交渉事項(6)の組合事務所の問題については、会社内に設置場所がないため、このことを組合に説明すると共に、組合が他に場所を借りるについては不当労働行為にならない範囲で金銭的援助をする旨申入れたのであって、実現不能な事項を交渉内容とするものであると主張するが、記録によると、組合側は抗告人会社の敷地内の自転車置場、廃車となった自動車を長年放置している場所等を整理し、或いは抗告人会社の建物の屋上の物置、三階の空部屋等も整理すれば、組合事務所として使用させることが可能であると主張していることが認められる。従って抗告人としては、組合の指摘する右場所も組合事務所として貸与できないと云うのであれば、団体交渉において具体的にその理由を説明すべきである。然るに抗告人は昭和五五年二月二五日付の覚書(五一一丁)によって組合に対し会社内には空地も空室もないので、組合事務所の設置場所を貸すことはできない旨回答し、更に同年三月一日付回答書(記録三一〇丁)では、右問題は既に解決済であり更に審議の要はないと考える旨を述べ、以後右問題について交渉に応じていないことが認められる。従って、この点に関する抗告人の主張は失当である。

7  抗告人は、交渉事項(7)について、運行管理者の代務者を宿直させ、又夜勤修理工の待機の点は、常時代替車二台を待機させて、自動車が故障等で運行不能となった場合に直ちに現場へ急行させ運行に支障のないようにしている旨主張し、一方組合は、運転手は水揚によって賃金が決まるので、自動車の故障や事故の場合、これによる水揚低下を防止するために夜勤修理工が必要であり、かつて、修理工が自宅待機していたとき自動車の故障発生時から修理工が現場に到着するまでに三時間もかかったことがあり、又運行管理者の宿直も、夜間、乗客とのトラブルや不測の事故が発生した場合に円満な解決、処理が速やかにとられるようにするため必要である旨主張している。そして原審における(人証略)によると、抗告人は代務者を宿直させているが、修理工は自宅待機させていることが認められるところ、運行管理者の宿直に代えて代務者を宿直させるだけで組合の右要求を満し得ると認められる的確な資料はないし、又修理工を夜間自宅待機させておくだけで充分であると認め得る資料もないのであるからこれらの問題はなお団体交渉によって解決に努力すべきものである。

8  交渉事項(8)に付て抗告人は、昭和五五年二月二一日仮眠室にストーブを設置したし、洗車具は長靴を除いて以前から備付けているのであり、抗告人会社には洗車機を設置しているから洗車の際長靴を必要としない旨主張するが、原審における(証拠略)によるも仮眠室のストーブの備付けは認められないし、又組合は洗車具を各自動車毎に備付けることを要求しているが(但し石けんは共同でもよい)、右要求が満されていることを認め得る資料はないし、洗車の際に長靴を必要としないとの点もこれを認めるに足る資料はない。従ってこれらの点についてなお団体交渉の必要があるものと考えられる。

9  もっとも、抗告人は右各交渉事項について誠意を以って団体交渉すべきことを命ぜられているものであって、右団体交渉の妥結を命ぜられているものではない。従って誠意を以って団体交渉し、譲るべきところは譲って妥結への努力をしたが、なお妥結に至らない場合もあり得るのであって斯る場合は合意に達しないものとして団体交渉を打切るほかはない。然し抗告人において予め妥結の見込みがないとか或いは一方的に既に解決済である等として、団体交渉に入ること自体を拒否することは許されないものである。

10  抗告人は、原決定においては前記行政訴訟について抗告人勝訴の判決が確定した事実が考慮されていない旨主張するが、原決定において、抗告人勝訴の判決が昭和五五年四月三日に確定したことが認定され、従って交渉事項(1)についての抗告人の本件救済命令の不履行は同月二日までである旨が判断されている。尚右判決確定の事実は交渉事項(2)ないし(8)には直接関係はない。従って抗告人の右主張は失当である。

11  前記認定(原決定二枚目表六行目から七枚目表四行目まで、但し本決定による訂正後のもの)によると、抗告人は交渉事項(4)を除くその余の各事項について殆んど団体交渉に応じていないし、右(4)についても誠意のある交渉をなしたものとは認め難いところである。抗告人は、その原因は組合側において各事項についての要求内容を明らかにしなかったほか、組合側交渉委員や上部団体の委員らが、会社側委員を罵倒したり等して交渉を混乱させたことに原因がある旨主張するが、右前段の主張の採用し得ないことは前記2、3、5ないし8に説示の通りである。又後段の点については、(証拠略)によると、退職金協定についての団体交渉の席上で、組合側交渉委員や上部団体から支援者として交渉に参加した者の中に、抗告人会社を誹謗したり抗告人側交渉委員に罵言を浴びせたりした者がいたことが認められるが(原審における<人証略>中これに反する部分は措信し難い)、それは退職金協定についての抗告人側の取組み方に不誠実な点があった際に時偶なされただけであって、交渉を不可能にする程のものであったとは認められないから、右後段の主張も採用し難い。そして過料事件においても行為者に故意又は過失の存することが必要であるが、以上認定説示したところによると、抗告人には本件救済命令に定められた交渉事項(但し(3)を除く)について団体交渉に応ぜず又は誠意ある団体交渉をしなかったことについて、少なくとも過失があったものと云うべきである。

12  前記4によると、抗告人が本件救済命令に定められた団体交渉事項中(3)賃金改定問題について、組合の団体交渉の申入れに対して既に右問題は解決済みであるとして応じなかったとしても、これを以って右救済命令の不履行があるものと云うことはできない。従って、原決定が右交渉事項(3)についても命令不履行があるとしている点は相当でないと云うべきであるが、抗告人にはその余の交渉事項について何れも命令不履行があったのであり、その不履行の態様その他諸般の事情を考慮すると、交渉事項(3)についての不履行の不存在を考慮しても、抗告人を過料五〇万円に処するのが相当であると考えられる。

三  そうすると、原決定は相当であって本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき非訟事件手続法二〇七条四項を適用して、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 林義一 裁判官 稲垣喬)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

抗告人を処罰しない。

との裁判を求める。

抗告の理由

原審決定は、要約するに、申立人を全自交ニコニコタクシー労働組合(以下、組合という)、被申立人を抗告人ニコニコタクシー株式会社(以下、会社という)とする大阪府地方労働委員会昭和五四年(不)第一二号(以下、本件不当労働行為事件という)について、同労働委員会が発した別紙(略)救済命令(以下、本件命令という)が昭和五四年一〇月一二日ころ確定したことは、本件記録によって明らかである。また、本件記録によれば、本件命令の効力発生後の労使間の折衝および団体交渉の経過は

1 組合は、会社に対し、昭和五四年九月一七日から昭和五五年八月一日までの間、二四回(右命令確定後は二二回)にわたり、日時、場所を特定し、本件命令主文に掲げられた団体交渉事項の全部または一部を議題として団体交渉を申入れた。

会社はこれに対し交渉に応ぜず、他の日時、場所を指定したうえ、昭和五四年九月二六日以後十数回交渉の場を設定した。

2 会社は、組合に対し本件命令主文記載の交渉事項((1)ないし(8)の項目につき以下、本件交渉事項(1)、(2)……と略称する)については、本件交渉事項(1)は、一般乗用旅客自動車運送事業免許取消処分(以下、本件免許取消処分という)に対する行政訴訟が大阪地方裁判所に係属中であるから団体交渉に応じないというものであり、また、本件交渉事項(2)、(3)、(5)ないし(8)の大部分については解決ずみであり、或はその要求には応じ難いとして、本件交渉事項(4)を除く、その余の事項については団体交渉の議題とすることを拒んだ。ただ、本件交渉事項(8)のうち仮眠室に暖房がないとの組合の指摘に対し、会社は石油ストーブを設置する用意があると述べながらその後実行していない。

3 本件交渉事項(4)については、会社は昭和五五年一月一二日に至り、会社が組合との間に昭和五四年五月八日、退職金については大阪の全自交の水準に従って早急に解決する旨確認した趣旨を踏まえたものを内容としたもので組合に協定を締結したいとしたうえ、昭和五五年二月二六日の団体交渉において、従来の退職金についての規定、互助会規約に定めた退職金額に三パーセント上積するとして、金額的には、勤続年数一〇年の従業員で約八万円の退職金となるものを提示した。組合はこの試案を文書で示すよう求めたのに会社はこれを拒否した。そうしてこれが会社として支給し得る最高限度額であるとのことについて、「昭和五四年六月一五日組合と賃金改訂の協定を結び、それによると運転者は平均賃金(賞与を含む)が水揚げの五七~五八パーセントとなり、これに退職金の右三パーセント嵩あげを算入すると、水揚げの六〇パーセントを上回る計算になる。タクシー業界における経営常識では賃金、退職金の配分率は水揚げの五六~五七パーセントが限度で六〇パーセントを超えると必要経費の算出が困難となり企業としての存立すら危ぶまれているところである」と口頭で説明したが、それ以上具体的な資料等を示して組合の理解を求める方策をとることはなかった。以来同年三月四日および八日、五月一二日にこれについての団体交渉が開かれたが、従前以上の実質的な交渉は行われなかった。

組合が主張する大阪の全自交の水準に従った退職金とは、組合が会社に提出した昭和五四年二月二六日付の「退職金規定設定について」と題する要求書に記載された退職金額をいうのであり、ちなみに、右要求書によると、勤続年数一〇年の従業員が自己の都合で退職した場合の退職金額は、金四〇万五〇〇〇円である。

4 なお一般乗用旅客自動車運送事業免許を取消す旨の処分(本件免許取消処分)を受けたが、右処分の取消を求めて大阪地方裁判所に行政訴訟を提起した結果、同裁判所は、昭和五五年三月一九日、右処分を取消す旨の判決をし、右判決は、同年四月三日確定した。

ことが認められるとして、右事実を前提として、「会社に、本件命令不履行の事実があるかどうかを検討するに、本件命令は、会社に対し、本件交渉事項(1)ないし(8)について組合と誠意をもって団体交渉を行うことを命ずるもので、会社は右命令を確定させた以上、会社の勝手な裁量や認識のもとに右命令を実行するかどうかを決し得るものでなく、なかんずく、本件不当労働行為事件の審査において主張した事由をもって、右団体交渉を拒否することができないことはいうまでもないところであって、会社としては特段の事情のない限り、労働委員会が右命令の理由中において、団体交渉をなすべき事由として示した事情を十分斟酌して、誠実に組合との団体交渉に応じなければならないものと解するのが相当である」とし、

1 本件交渉事項(1)については、不当労働行為事件の審査において主張したと同趣旨の理由をもって、右交渉事項についての団体交渉を行っていないのであるから、本件免許取消し処分に対する前記行政訴訟が確定するに至る前日である昭和五五年四月二日までは、本件命令の履行を怠ったものである。

2 本件交渉事項(2)、(3)、(5)ないし(8)については、いずれも会社が本件不当労働行為事件の審査過程において主張し、それが理由のないものであるとして付けられたもので、本件全資料によるも会社主張を認めることができず、却っていずれも未解決であるから各交渉事項に関する本件命令の履行を怠ったものである。

3 本件交渉事項(4)については、互助会の規約またはこれに若干の上積みをするというものにすぎず、組合は、右規約内容について書面をもって明示することを要求したのに、これを拒否し口頭をもって説明したにすぎず、従来、組合が大阪の全自交の水準並みの退職金を要求し具体的な金額を示していたこと、会社が提案した退職金額は、組合が要求する右基準に比し著しく低額であること、会社提案にかかる互助会の規約に基づく退職金額については、従来から組合が受入れを強く拒否し、容易に受け入れないであろうことが明らかに推測されたこと、右規約自体組合および従業員にとって明らかとなっていたものでないことが本件によっても指摘されていたことに照らし、また、会社が十二分に検討した結果、右のような互助会の規約に基づき、或いはこれとほとんど変らない提案をなさざるを得ないとするならば、その事情について、単に口頭で説明するというのでなく、具体的な資料を示すなどしてその理解を求めるべきであるのに、これをなさなかったのは組合との間に誠意をもって団体交渉をなしたものとはいえないから、本件交渉事項(4)に関する命令の履行を怠ったものである。

と認定して、抗告人を過料五〇萬円に処している。けれども、原審決定は、次のような決定に影響をおよぼす誤りがある。

一、違反事実の摘示が明確でない。

原審決定は、地労委救済命令の主文を別紙として掲げて援用し、理由に、記録により明らかなものとして、先ず、本件命令が昭和五四年一〇月一二日ころ確定したと認定し、ついで、八項目についての労使間の折衝および団体交渉の経過を認定して、これを前提にしたうえ、会社に命令不履行があり違反しているとして過料に処している。そこで救済命令の主文を観るに、会社は組合と誠意をもって団体交渉をしなければならないとして、交渉の項目を(1)~(8)を掲げている。けれども、示された右八項目は題目だけで、抽象的なものであり、僅かに「組合が昭和五三年一一月一〇日以降昭和五四年四月一二日までに申し入れた」右項目としているに過ぎず、結局抽象的な項目で団体交渉をせよというものであるから、八項目がどのような内容を有するのか、組合がもっとも関心をもつものと思われる主な項目につき検討するに、

(1)の免許取消処分に伴う身分保障についても、組合員の雇傭継続のことをいうのか、免許取消処分によって会社が事業継続が不可能となった場合、組合員を他の職場に再就職できるよう斡旋せよというのか、または、解雇手当等についての金銭的要求を指すのか不明である。このようなことは組合が具体的に示してこそ明らかになることであるから、会社は組合に対し、地労委の審問においてのみならず、地労委が救済命令を発した後においても、これを明確にするように求めたが明らかにしなかった。さらに、団体交渉の場で、組合は本項目について具体的に主張した事実は一度もない。そこで会社は、これを雇傭継続の意に解し、先ず、免許取消処分の効力停止のための手続をとり、大阪地方裁判所からこれが執行停止の決定を受け、さらに、免許取消処分の行政事件の本案判決で勝訴を得たときも、該判決確定までの執行停止決定を受けて、全従業員の雇傭継続ができるよう努力し、この間の事情を全従業員に説明してきたところである。幸い、勝訴の該判決は確定したので、これについての事情が変動して、身分保障の問題は生ずる余地がないところである。

この項目について、地労委は、その命令書中、第2判断3団体交渉について(1)アにおいて、「処分の経過、処分確定後の会社の対応策等について説明すべきである」と説示しているが、会社側は、これに副って、大阪陸運局長がタクシー事業免許取消処分を行った直後は勿論、右行政処分の執行停止決定を得て営業再開をなした後においても再三、全従業員に説明してきたところである(<証拠略>)。

もともと免許取消処分の効力は、これが取消しの本案判決の結果如何にかかるところであり、命令の説示「確定後の対応策等について説明すべきである」とのことが、本案判決で会社が敗訴した場合を指してのことならば、仮定的なものであり、起り得る総てについて説明せよということになるし、組合は、あらゆることを主張し、説明を求めてくるであろうし、結局、組合の言いなりにならない限り、説明を尽したことにはならず、極めて酷なことを会社に命じていることといわねばならない。けれども、取消しの効力発生が、会社が提起した本案判決の結果に左右され、一方、該判決言渡まで、その効力が停止される執行停止の決定が出されている限り、会社のタクシー業務はなし得るのであるから、執行停止決定がなされた昭和五四年一月二六日の時点では、本案判決の結果(会社敗訴の場合)を待って対応策を講ずる旨を説明すれば足りると解される。本案判決の結果は、執行停止をするに足る十分な理由があるものとし、会社勝訴の判決で、その確定までの執行停止決定もなされていて、判決は一審で確定しているのであるから、結果から観ても会社の説明は十分なものであるといわねばならない。

(3)の賃金改訂問題についても、タクシー業界では能率給的賃金で、賃金の額は、基本給、乗務手当、皆勤手当、歩合給、調整給、深夜手当、年功昇給と算定配分率が定められていて、この率によって支給賃金が決まる制度となっている。そのため賃上げを要求されても、率の組替え、場合によっては新たな項目を設ける等、交渉内容が変ってくるところである(乙第一八号の項目参照)。そこで、組合が要求する賃上げは単に額を上げるだけか、或いは賃金改訂というのであれば、賃金の定め方それ自体の改訂による賃上げとするのか、具体的内容を組合側から示されない限り、団体交渉は進展し難い。そこで、会社は組合に対し度々このことを申し入れたが、組合はこれを具体的に明示せず、そのため、(証拠略)の協定成立までは相当長い日数を要したし難航のすえ、ようやく成立したものである。

(4)の退職金協定についても、毎月支給する賃金、および賃金の能率給並びに会社に対する従業員の貢献度を勘案して、その規定が作られるところである。タクシー業界の賃金は、大別して二種類の形態がある。乃ち、毎月支給の賃金に退職金の一部、または全部、および賞与の一部、もしくは全部を組み入れて賃金の形で支給するものと、毎月支給の賃金に、賞与、退職金を含めず、賞与は各期末毎に、退職金は退職時に、別途これを支給する形のものとがある。会社は、退職金の大部分を毎月の賃金に組み入れた形のもの、したがって支給賃金が少しでも毎月多くなる方法、いわゆるB型賃金の体系(賃金に賞与、退職金を含まないものをA型賃金という)をとり、残りの退職金は互助会規約に支給率等を定めて、退職金を支給してきたものである。組合が加盟している全自交は、A型志向A型死守が基本路線であるが、組合が退職金協定の要求を持ち出しても、A、B型いずれの賃金体系に基づくものか、またどのような内容なのか明示しない限り、団体交渉が難航することは明らかである。会社の場合、B型賃金体系に基づくため賃金との相関関係があるので、組合に再三、再四、具体的な要求の明示を求めても、組合は、単に大阪の全自交なみと主張するのみで、それ以上のことを明示しなかった。大阪の全自交加盟組合の組合員が働いているタクシー会社の賃金体系は、会社の場合と異り、A型賃金体系に基づくほか、一定の水揚げ金額に達しない場合、いわゆる足切りと称する賃金減額算定の方法がとられており、退職金についても抗告人会社とは、その規定や算定の方法が根本的に異っている。会社の場合他のタクシー会社に比して、賃金率(営業収入と賃金支給額との比率)は遥かに高い。そこで賃金とのかねあいもあって、団体交渉が難航してきたところである。

このように、団体交渉が進展しなかったことにつき、複雑な事情が存在するのに、地労委命令の主文に掲記された抽象的な団体交渉の項目について、本件命令を履行しなかったという違反があるとすれば、その違反の態様は具体的に示されるべきである。

原審決定は、違反事実の摘示として、理由中に、団体交渉の経過について認定したところを記載し、これを前提に、会社が本件命令に違反しているかどうかを検討するとして、本件交渉項目

(1)については、会社は、本件不当労働行為事件において主張した同趣旨の理由で交渉しているから理由にならず、(1)の項目についての履行を怠った。

(2)、(3)、(5)ないし(8)についても、会社は、右と同様に、本件不当労働行為事件において主張したと同趣旨の理由で交渉に当っているので理由とならず、いずれも解決していないから、この項目についても履行を怠っている。

(4)については、会社が、本件不当労働行為事件で、退職金規定であると主張してきた互助会規約に、若干の上積をするというにすぎず、これに対して組合はこれを書面で明示することを希望したのに拒否したこと、組合が大阪の全自交の水準なみで退職金を要求し、具体的な金額を示していたのに、会社の提案する額は著しく低額であり、組合が、これの受入れを強く拒否し、容易に受入れないであろうことが推測できたこと、右互助会規約が組合に明らかになっていなかったこと、会社が右規約に基づき、或はこれとほとんど変らない提案をせざるを得ないとするならば、具体的な資料を示すなどして努力すべきであるのに、これをなしていないことから会社は誠意をもって団体交渉をしたとはいえない。

として本件命令に違反していると認定している。

ところで、原審決定が適用している労働組合法三二条には、不履行の場合の制裁として不履行の日数、一日につき一〇万円の割合で算定した金額以下の過料に処する旨を規定していて、刑法に規定する罰金刑に比しても、制裁の内容は逕庭がない。過料は刑法にいう刑罰ではないにしても、事件としては国民に右のように金銭的制裁を科するものであるから裁判の公正誤謬なきことを明らかにするため、理由を附するものとされ、この理由は「実務に於ては、違反事実、証拠、法令の適用を主文が導き出される根拠を示す程度に簡略に記載される」とされている(入江一郎、水田耕一、関口保太郎共編=条解非訟事件手続法、帝国判例法規出版社、七七二頁)。

そこで、前述のような事実摘示のうち本件交渉事項(4)の判示は別としても、(1)、(2)、(3)、(7)については、同項目が前述のように抽象的で、組合の具体的要求を俟って、はじめて交渉内容が明確になるのであるから、組合は何時、どのような具体的内容の要求をしたのか明らかにした事実の認定が記載されなければならないのに、これについてなされていない。かくては違反事実の摘示としては不十分であり、結局、事実摘示がないこととなるから理由不備といわねばならない。

二、事実を誤認している。

1 原審決定は、会社が解決ずみと主張する本件交渉事項

(2)、(3)、(5)ないし(8)はいずれも未解決であると認定しているが、(2)については、理由三、2(イ)において、組合は過去三ケ月の平均賃金から一日の賃金額を算出し、これに昭和五四年一月二二日から同月二八日までの七日間を乗じた金額を保障すべきであり、かつ、昭和五四年一月二九日以降二月二〇日までに会社を退職した者にも、右賃金を保障すべきであると主張しているのに対し、会社は、右組合の主張と異る方法で、右期間の賃金保障額を算出し、かつ、昭和五四年一月二九日以降二月二〇日までに会社を退職したものにはこれを支払わず、右問題は、解決ずみであると一方的に主張しているのに過ぎないのであって、実際には、右問題は未解決であるとしている。

けれども、休業中の賃金保障の計算方法は、組合主張と同様の方法で計算している。過去三ケ月間の一乗務の平均賃金と営業再開後の水揚の一乗務の平均賃金を比較して多い方で一三乗務の計算をし、支給は多い方つまり、従業員に有利な金額を支給しているものである。

組合は一日の平均賃金で七日間の支給を要求したとあるが、会社の勤務は一ケ月一三乗務(暦日で二日に亘る隔日勤務)であるから七日間の休業は三乗務となるので、その三乗務を保障しているわけであり、平均賃金も一乗務毎に算出される方法でなければならぬ、これを一日で計算するということはどのような根拠に基づくものであろうか。もし、従来の賃金計算を日数で計算しているならば理解し得られるが、会社はそのような計算方法を採用していないから、組合の主張は合理的根拠がない。原審決定が、従来、日数計算であったと認定したのならば、会社の賃金計算の方法を誤って解釈し、事実認定を誤っているものといわねばならない。そうでないとすれば、合理的な根拠のない日数計算を主張する組合の勝手な主張、つまり組合の言いなりの要求を容認せよとのことから未解決と認定したもので事実を誤認している。

また、退職者に支払っていないとのことや、日数で平均賃金云々の組合主張は、原審の審尋で突如として主張されたものであり、従来団体交渉の場において、組合がそのような主張をしたことは一度もないし、どのような証拠に基づき原審決定が右事実を認定したのか明らかではないが、僅かに審尋における被審人村上清一審尋調書五項にこの主張に合致するものがあるので、これによる認定であろうと推測される。

なお、休業期間中在職し、その後退職したものにも会社は前述のような計算で三乗務の賃金を支払っている。

(3)については、理由三、2(ロ)において、拘束時間中のハンドル時間、三六協定、修理手当、組合員が行政処分を受けたときの問題等について未解決であるとして交渉を、求めているからこれも未解決であると認定しているけれども、右の主張は団体交渉の場、その他の要求で主張されたことは一度もなかったものである。殊に、行政処分を受けたときにおける問題について観るに、乗務員の受ける行政処分は、道路交通法違反等の交通法規に違反した場合の行政処分のことを指すものと推測されるが、組合は一九八〇年三月二〇日付要求書中に記載した交通罰金共済を設立されたいとの要求を右の行政処分を受けた際の問題にすり替えたものと思料される。交通罰金共済の制度は交通法規違反を助長することになりかねないので、これを設けることは適切でないから会社は、これに応じていないが、右要求書中のその他の事項中、実現可能な無線復活、新車の配車、交通法規等の講習(但し講師の都合で定期的ではないが)は既に実施しているところである。

右の組合主張のハンドル時間等のこれらのことが、未解決なるが故に賃金改訂問題が未解決とするのは認定を誤っている。

なお、地労委が命令書中に賃金協定の解釈をめぐって労使間に対立がある以上、会社は引き続き団体交渉を行うべき旨説示しているが、これは、地労委が証人尋問の終了時をもって結審とみなし、結審後に締結された賃金協定を解決事項とみなさなかったために、そのような表現がなされたものである。

(6)については、理由三、2(ニ)において組合事務所はこれを設置する余地がないからとの主張をして応じていないから未解決であると認定している。

けれども、会社は、会社内に組合事務所を設置する場所がないため、このことを説明し、組合が他に場所を借りるについては、不当労働行為にならない範囲で金銭的援助をする旨を申出ている。

(7)については、理由三、2(ホ)において、これも未解決であると認定しているが、原審決定のいう「代行者」(代務者の誤りと思料される、会社は昭・55・2・25付上申書の二、(7)で代務者を宿直させている旨を主張)は資格のない者と認定して、その人を宿直させているとの趣旨ならば、会社の主張を誤って認定している。運行管理者は、自動車運送事業等運輸規則第二五条の二の要件に該当する資格のある者が選任されるが、代務者は、この運行管理者に代わって、その職務を行う者で、必要に応じて、代務者にも指導講習がなされ、運行管理者が不在のとき、運行管理業務を行うものである。従って、宿直の業務に就かせても代務者で不充分であるとするのは当らない。

また、従来代務者が宿直業務に従事して、会社業務に支障をきたしたことは一度もない。

修理工を夜間会社内に待機させよとの組合の要求は不必要なことである。自動車が故障等で運行不能となるか、運行に適しない状態になれば、常に待機させてある代車(常時二台を待機させている)を現場に急行させ、運行に支障をきたさないようにしてあり、これまで不都合な事態を生じたことはなかった。

(8)については、理由三、2(ヘ)において、組合は、冬の寒いときにおいて仮眠室にストーブを入れること、洗車用具の石けん、ウエス、長靴、ブラシ等を備えつけることを要求しているのに、会社はこれに応じていないので未解決であるとしている。けれども会社はストーブを昭和五五年二月二一日仮眠室に設置し、長靴を除く洗車用具は以前から備えつけているので右認定は誤っている。

組合は、洗車の際、長靴が必要とのことでこれが備えつけを要求しているのかもしれないが、会社には、洗車機が以前から設置されていて、長靴をはいて洗車をせねばならないようなことはない。

以上の事実について、原審決定は事実を誤って認定している。

2 原審決定は、会社の主張を排斥する理由として、その三、1において本件交渉事項(1)について、三、2において本件交渉事項(2)、(3)、(5)ないし(8)についてはいずれも本件不当労働行為事件の審査過程で主張したものであるから理由がないとしている。おそらく該事件が確定したことから、一種の既判力、もしくは拘束力があるとのことからであろうが、この拘束力発生の時点を何時の時点としたのであろうか。

本件交渉事項(1)について「本件命令の効力発生後云々」としているところから昭和五五年一〇月一二日としたものと推察される。けれども、大阪府地方労働委員会は、会社が、昭和五五年二月二九日付上申書二項に主張するように「会社側証人岩崎豊の審問が終った昭和五四年五月二四日の時点を規準に、団体交渉をせよとの事実認定及び判断した」もので、同労働委員会は会社側に最終陳述の機会を与えた同年六月二三日にこのことを判然と明言している。そこで、右の証人審問を終った五月二四日の時点が拘束力発生の時点と解される。もっとも、(証拠略)の賃金協定が成立した(昭和五四年六月一五日成立)これを本件命令中にとり入れたのは、事情変更を考慮してのことと思われる。そこで、原審決定が、拘束力発生を本件命令の確定時として、会社の主張を排斥したのは、賃金について協定が成立したことや、免許取消の行政事件が会社側の勝訴で確定した事情の変動を考慮してない誤った認定である。

3 原審決定は、会社が組合と団体交渉をなしてきたことを認めながら、会社の主張が、本件命令の効力発生前、もしくは、同命令の審査過程において、主張した理由と同趣旨であるから理由とならないとし、また、本件交渉項目がいずれも未解決であるとして、結局会社は本件命令を履行していないと認定しているのは、同命令の趣旨を誤って解釈したもので、延いては事実を誤認する結果を招来している。乃ち同命令は抽象的な本件交渉事項八項目について、誠意をもって団体交渉せよとのことにつきるもので、団体交渉をして解決もしくは妥結せよとは命じていない。団体交渉は誠意をつくしても妥結や解決しない場合もあり得るのに、原審決定はこのことを看過している。

前述のように、本件交渉項目中には組合の交渉内容の具体的主張を俟ってそれが明確となる項目も存在するのに、組合は、これを交渉の場、もしくはそれに臨むまでに明らかにしていない。そのため団体交渉が妥結もしくは解決をみるに至らなかったとしても止むを得ないところであるし、特に重要と思料される本件交渉項目の(1)、(2)、(3)、(4)について、要求の具体的内容を明確にしなかったのは組合側に多大の責任があるものといわねばならない。

本件命令が八項目について解決または妥結せよとの団体交渉を命令しているとする趣旨ならば、八項目について、組合の要求どおり、時によっては言いなりに受けいれなければ団体交渉は解決しない。

もともと過料事件は、その本質が刑罰でないとしても「過料事犯も犯罪と同じく違法有責で且つ故意又は過失ある行為であることが要求されていることは判例も認めている所である」とされている(前掲、条解非訟事件手続法七七一頁参照)。

そこで、本件においても、故意乃ち本件命令を無視して、団体交渉をする意思のないことが必要である。原審決定が認定しているように、会社は組合と団体交渉をなしてきているので、会社が本件命令を無視したことにはならず、真に、団体交渉の意思がなかったものと断定することはできないところである。むしろ、会社は組合と団体交渉をしてきたのであるから本件命令を履行しているところである。

また、団体交渉が全くなされていないとするならば、それは、組合が団交申入書に団交の議題を掲げながら、団交の場で、具体的な主張を一切しなかったほか、終始、全自交の要求を全面的に呑めとか会社ぐるみで保険金詐欺をした等と議題とは全くかけはなれた事を組合執行委員各自が発言し、会社側交渉委員に対し罵詈雑言を浴びせることに終始し、さらに、上部団体と称して全自交大阪地連の委員のほかに、他の会社の組合員を団交の場に参加させて交渉を一層混乱させたことが原因である。

4 原審決定は、審理を十分につくしていず、その結果、事実の認定を誤っている。乃ち

(1) 組合が団体交渉を申入れた希望日に交渉ができなかったことについては、会社は、団交の場所としていた淀川区民センター等に予じめ申込金を納付して予約する手続が常に必要であり、そのために、場所の確保がその日にできず、一方、会社の乗務員の点呼等の業務、その他のことで日程がとれないことから組合側にこのことを申入れ、組合の諒承を得て、日を替えて交渉をなしてきた。

(2) 本件交渉項目、八項目について、会社がその具体内容を明示するよう求めても、組合はこれに応ぜず、今日に至ったもので、これについては前叙のとおりである。

(3) また、八項目中の(2)、会社が休業中の賃金保障をしたことについて、日数による平均賃金を算出して七日間の計算をしていないとか、そのころに退職したものに、これによる賃金計算をして支払っていないとのこと、賃金に関することのハンドル時間云々についての組合の主張は、突如、原審の審尋においてなされたものである。

(4) 原審決定が未解決と認定した具体的事項の、洗車用具の支給、暖房の石油ストーブの設置、娯楽室の整備、仮眠室の整備等は、既に、解決されているものがあり、また組合事務所の設置については、これに代案を出し、会社内に組合事務所設置が困難な事情を組合に、説明しているし、夜勤修理工の待機についても、代替車をおき、また管理者の宿直は、資格ある代務者が宿直しているところである。

のに、原審決定が、未解決のものがあって、且、会社は誠意をもって組合と団体交渉していないと認定したのは、被審人二名の審尋の時間が僅か二時間余であり、それも、団体交渉の内容が複雑な本件違反事実にとっては、時間が短かく、十分な審理がなされていないため誤った認定に至ったものである。ことに、組合が提出した各書証が審尋において、十分検討されたならば、その内容の信憑性に多大の疑問が持たれ、措信し難いものが存すことも明らかになったであろうと信ずる。これについては会社の総務部長岩崎豊の団体交渉の経過、組合の八項目の内容につき具体的主張がどのようであったかを明らかにするために、報告書を別途乙号証で提出する。

さらに、原審は審尋直後、組合に対し、地労委命令七、八項について、未解決とするならば、その不備な点について上申書を早急に提出するよう指示し、会社は組合が提出した上申書を見たうえ、審尋において時間の関係で会社が反対尋問ができなかった点を含めて反論の補充書を提出するよう指示がなされた。ところが、原審は組合が上申書を提出したか否かを会社に連絡せず、会社が上申書の提出をしたい旨原審に申入れたが、これを却下されたものである。

以上のように、原審決定には誤りがあり、この誤りが決定に影響を及ぼすことは明らかであるから抗告の趣旨のとおりの裁判を求め、即時抗告におよんだ次第です。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例