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大阪高等裁判所 昭和55年(行コ)4号 判決 1981年10月21日

第一審原告(昭和五五年(行コ)第三号事件被控訴人・同年(行コ)第四号事件控訴人) 久保正清

右訴訟代理人弁護士 江村重藏

第一審被告(昭和五五年(行コ)第三号事件控訴人・同年(行コ)第四号事件被控訴人) 大阪市長 大島靖

右指定代理人 比嘉昇

<ほか一名>

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決中第一審被告の敗訴部分を取消す。

二  第一審原告の請求を棄却する。

三  第一審原告の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

事実

第一申立

一  第一審原告

1  控訴の趣旨(昭和五五年(行コ)第四号事件)

原判決中第一審原告の敗訴部分を取消す。

第一審被告が第一審原告に対し昭和四一年五月二七日付をもってした土地区画整理法に基づく原判決添付別紙物件目録記載(一)及び(二)の土地についての仮換地指定処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁(同年(行コ)第三号事件)

第一審被告の控訴を棄却する。

控訴費用は第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

1  控訴の趣旨(昭和五五年(行コ)第三号事件)

主文第一、第二、第四項と同旨。

2  控訴の趣旨に対する答弁(同年(行コ)第四号事件)

主文第三項と同旨。

控訴費用は第一審原告の負担とする。

第二主張、証拠

当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決八枚目裏一二行目「育地」を「盲地」と訂正する。)。

一  第一審原告の主張

1  (一)及び(二)の土地に対する仮換地指定処分について

(一) 原判決は、原判決添付別紙物件目録記載(一)の土地(以下「(一)の土地」という。同目録(二)ないし(五)の土地についても以下同様にいう。)は盲地であったと認定したが、右土地は次のとおり盲地ではないから、右認定は誤りである。

(1) (一)の土地上には昭和二四年に府営住宅が建てられたが、この建物の居住者はその東隣にある府営住宅の敷地の南側の幅約二メートルの部分を通って公道に出ていた。このことは大阪府が右隣家の南側部分に私道を設けていたことを示すものであるが、仮にそうでないとしても、その部分に(一)の土地のために通行地役権を設定していたものというべきである。

(2) 建築基準法は昭和二五年一一月二三日から施行されたが、同法四三条一項は建築物の敷地は道路に二メートル以上接しなければならない旨義務づけ、この義務違反に対しては罰則(同法九九条一項五号)も設けられていたのであるから、昭和三四年四月に(一)の土地とその地上の住宅が訴外山田巖に払下げられるまでの約一〇年間、大阪府が右法条に違反して(一)の土地に通路を設けない道理がない。したがって、大阪府は、原判決添付別紙図面(二)表示の三四四番一の土地のA部分(以下「三角地」という。)を(一)の土地の通路としていたものであるが、仮にそうでないとしても、(一)の土地のために三角地に通行地役権を設定していたものというべきである。事実昭和三四年ころ以降、大阪府は三角地を不特定多数の人や車が自由に通行しうる私道に供していた。

(3) 建設省都市局区画整理課長は、昭和三九年四月二七日、福井県総務部長の問に対し、「いわゆる廃道敷は、それが道路法第九二条に規定する管理期間(一年間)を経過したものである場合は、原則として、土地区画整理法第二条第六項に規定する宅地であるが、ただ、それが事実上不特定又は多数人の通行の用に供されているときは、同法同条第五項に規定する道路とすべきである。」と回答しているところ、三角地には中央線に添って南北に逓信省の電話線用のマンホール三個が設置されていた(乙第八号証の一、二)から、ここに道路が存在していたはずであり、三角地には廃道敷も含まれていたはずである。そして、この廃道敷の上を不特定多数の人や車が通行していたのであるから、三角地を右の意味で道路と認定すべきである。

(4) 仮にそうでないとしても、三角地は、昭和二四年ころより大阪府によって大阪市都市計画街路用地として空地のまま残され、不特定多数の人や車の通行の用に供されていたから、廃道敷の場合と実質上なんら異る点はなく、前記回答の趣旨に照らして、これを道路と認定すべきである。

(5) 三角地は新御堂筋線の敷地として路線の認定を受け(昭和二五年三月に線引きされた幅員は四〇メートル)、同年ころ三角地と右路線との境界を明示する杭打ちも行なわれ、当時から道路予定地となっていた。したがって、三角地には道路法(大正八年法律第五八号、以下「旧道路法」という。)七条により同法が準用されることになったが、三角地内では同法六条により管理者の許可のない私権の行使が制限されるとともに、三角地など道路予定地に面する土地の所有者は、予定地沿地の公用使用(同法四五条)、非常災害時の使役、予定地沿地の一時使用、土石、竹木等の収用(同法四六条)、損害予防施設の設置(同法四八条)、沿道の区域決定(同法五二条二号)等の義務を負担し、その義務の履行については行政執行法五条、六条及び国税徴収法の適用(旧道路法五四条、五五条)を受けることとなった。道路予定地に面する土地所有者が以上のような多くの義務を負担する以上、その反面において、この義務に対応する利益を受けるのが当然である。したがって、道路予定地である三角地に面する(一)の土地は、認定道路に面している土地に準ずる取扱いを受けるのが当然の条理である。そして、旧道路法は昭和二七年一二月五日廃止され、同日から道路法(昭和二七年法律第一八〇号、以下「新道路法」という。)が施行されたが、同法施行法八条の規定によって、旧道路法の規定による管理者の権利義務は、新道路法の親定による当該道路の道路管理者に移転し、三角地を道路予定地と認めるべき権利義務は道路管理者たる大阪市長に移転した。したがって、第一審被告は、(一)の土地の仮換地を指定するにあたっては、認定道路に面する土地に準ずる土地として取扱うべきである。

(6) 建築基準法四二条一項四号は、「道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法又は大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの」で幅員四メートル以上のものを建築基準法第三章の規定における道路と規定する。大阪府は(一)の土地を払下げるにあたり、新御堂筋線が近く築造されるのは確実であると考え、三角地が同法四二条一項四号の道路予定地に該当するとの判断のもとに、(一)の(イ)の土地を幅約二メートルだけ三角地に接面させて払下げた。したがって、新御堂筋線の敷地と決っていた三角地は、建築基準法の右規定の趣旨に従って、道路法及び土地区画整理法上もこれを道路とみなし、三角地に接面する(一)の土地を道路に接面する土地として取扱うべきである。なお、新御堂筋線については、昭和二五年三月二九日路線幅員の変更決定があり、同月三一日建設省告示第四三九号による告示があったから、このような場合には、同法四二条一項四号の「特定行政庁の指定」は要しないものというべきである。

(二) 仮にそうでないとしても、第一審被告は、大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)において、別表(一)の(イ)記載のとおり公図上盲地となっている土地について、(一)の土地を除いてはほとんどの土地につき盲地による減歩をしていない。かえって大部分の土地は増歩し、減歩した土地は五筆にすぎず、それも最高一一・二パーセントで他はすべてそれ以下である。そして、別表(一)の(ロ)記載のとおりこれらの盲地の換地率はすべて七〇ないし七八パーセントであるのに、(一)の土地については換地率が六三パーセントにすぎず、著しく不公平な取扱いを受けている。

第一審被告は、別表(一)記載の各土地はいずれも「換地設計方針」所定の原則的減歩を行った土地ではなく、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての定めによったもの、又は同第1、3「この方針によりがたい場合は特別の措置をする。」を適用したものであると主張するが、右いずれの定めによるにしても、仮換地指定の基準となる方針がないのであるから、この定めを適用すべきか否かの基準は担当者の恣意又は目見当以外にはなく、結局建物のある土地については、無割込、無減歩、過少減歩又は増歩というような不公平で違法な仮換地指定が行われることとなる。

(三) 第一審被告は、通路の構造、形態等の状況及び人の通行状況が三角地のそれと同等又はむしろ劣悪な通路に沿接する土地に対し、それらが公図上盲地であるにもかかわらず盲地として取扱わないばかりか、かえって「換地設計方針」による割込もせず、ほとんど増歩している。したがって、(一)の土地についての換地指定処分は著しく不公平である。

(四) (一)の土地については前記のとおり東隣の住宅の南側の土地部分及び三角地に通行地役権が設定されていたところ、土地区画整理法は地役権については仮換地指定があっても原則として消滅しない旨規定しており(同法一〇四条四項)、仮換地においても従前と同様の通行地役権が必要であるのにそれがないときは、右仮換地被指定者は、従前と同一の利益を保存する範囲内において、右仮換地の承役地に対して通行地役権の設定を請求することができる旨規定している(同法一一五条)。したがって、(一)の土地については、仮に盲地の仮換地指定があったとしても、第一審原告はなんら不利益を被らないのである。したがって、第一審被告が(一)の土地につき、盲地の減歩を行って仮換地指定をしたのは違法である。

(五) 原判決は、照応考慮の基準時である昭和三七年九月二八日以後に設けられた高速鉄道第一号線及び新御堂筋線の存在を前提として(一)及び(二)の土地を評価すべきではないと判断するが、この判断は誤りである。なるほど、照応考慮の基準時以前に予期できない公共施設が整備せられたり、又はデパート等の私的施設が新たに建設せられたために、従前地の利用増進が認められるような場合においては、その新施設の整備等を前提として従前地を評価してはならないのは当然であるが、右の高速鉄道第一号線や新御堂筋のように右基準時以前にすでに建設される位置、範囲、規模、構造等が決定され、一般に発表されている公共施設については、区画整理事業地区内の従前地の所有者は、かかる公共施設が新設された場合における従前地の有利、不利を右基準時以前からよく知っており、新設公共施設に対してどの位置に仮換地が指定せられるべきかも右基準時以前から予期できるものである。このように照応考慮の基準時以前に、それに対して如何なる位置に仮換地が指定せられるべきかが予期できる公共施設については、その存在を前提として従前地を評価することができるし、又かかる評価をするのが当然である。「換地設計方針」には原地換地を原則とする旨定め、それができない場合にはなるべく目白押し換地とすべきであるとせられているのも右のような理由によるものである。したがって、(一)の土地の仮換地は、土地の公的評価において新御堂筋線の西側よりも高価な東側に指定すべきであるのに、これをその西側に指定したのは、従前地の位置及び利用状況に照応しない仮換地指定であるといわねばならない。

(六) 原判決は、(四)の土地は鍵形の地形ではあるが、その各鍵形部分だけでも独立して使用できる十分な広さがあると判断しているが、これは不当である。そのようにいうのであれば、何も無理に(一)と(二)の土地を併合して(四)の土地を仮換地指定する理由はない。(二)の土地はともかく、(一)の土地は元来新御堂筋線の東側にあったのであるから、従前地の地形、利用状況等に照応するよう同路線の東側に仮換地が指定せられるべきである。

(七) 原判決は、(四)の土地の一部に墓地跡が含まれているとはいえ、整地されていて宅地として使用するのになんら支障はないと判断しているが、これは不当である。本件事業において墓地跡を仮換地指定した例は右以外にはなく、しかも、整地したというためには死者を埋葬する穴の深さまで土を取って通常の土又は山土で埋立てるべきであるのに、そのようにされていない。したがって、日本家屋などは到底建てることはできないから、(四)の土地は、その土質及び利用状況において従前地との照応を欠くものである。

(八) (四)の土地は鍵形の不整形地であり修正すべき土地であるが、第一審被告が「換地設計方針」に基づいてした奥行修正率の基礎となる最長奥行の計算に誤りがある。すなわち、(四)の土地は奥の方が鍵の手に曲っているので、最長奥行の算定にあたっては、鍵の手に曲った部分の奥行距離も勘定に入れて、表口中心点から西へ引いた中心線と曲った部分の奥の中心点から南へ引いた中心線が交差するように計り、この二線の合計を最長奥行とすべきである。しかるに、右鍵の手に曲った部分の奥行距離を勘定に入れず、奥行を三六メートルとして加算率を1としているのは誤りである。右の正しい計算によれば奥行は四〇メートル以上となり、奥行加算率は2となる。

(九) 前記のとおり第一審原告は、旧道路法上(一)の土地につき認定道路に接面する土地に準ずる取扱をすべきことを請求しうる利益又は権利を有しており、この利益又は権利は一種の期待権というべきものである。しかるに第一審被告は、昭和三六年七月二七日、新御堂筋線につき起点、幅員、線形の変更を行い、同年八月二四日付建設省告示第一八五四号をもって、三角地のみならず(一)の土地までも新御堂筋線の道路予定地に含める処分をした。この処分によって第一審原告は、(一)の土地が公道に面する機会を奪い去られた。第一審被告は、なんら正当の補償をすることなく、(一)の土地に対する仮換地処分をしたものであるから、右処分は、憲法二九条に違反するものであり、取消しを免れないものである。

2  (三)の土地に対する仮換地指定処分について

(一) 第一審被告の主張2の(一)、(二)中、「換地設計方針」のうち「過小宅地の基準となる地積」の定めに関連する部分の記載内容が別表(二)記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。右過小宅地に関する②の後段の定めは、当然「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」にも適用されるものである。

(二) 右過小宅地に関する②の後段の定めが第一審被告の主張するように「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」には適用されないとすれば、「換地設計方針」は建物のある土地につき「過小宅地の基準となる地積」の定めを欠くから、建物の有無にかかわらず「過小宅地の基準となる地積」を定めることを施行者に義務づけている土地区画整理法九一条一、二項及び同法施行令五七条二、三項に違反し無効である。このような無効の「換地設計方針」に基づく(三)の土地に対する仮換地指定処分は取消されるべきである。

(三) 仮にそうでないとしても、(三)の土地の地積は三四・六七平方メートルであり、その地上いっぱいに昭和三七年九月二八日以前に建築された建物(木造瓦葺二階建居宅兼店舗)が存在したから、「換地設計方針」第3、3―1、(2)、①「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての定めが適用されるべきである。したがって、(三)の土地については「その住居の利用価値を著しく減少せしめない範囲において減歩」すべきであるが、第一審被告は、右建物を移築できない程に狭い二八平方メートルに減歩したから、(三)の土地に対する仮換地処分は違法である。

(四) (三)の土地はもと京阪土地株式会社の住宅経営地であり、大阪市西中島土地区画整理組合の事業施行地区と同様の区画整備が行われた地区であるから、同組合の整理地と同様に三パーセントの従前地加算をしたうえ減歩すべきである。しかるに、(三)の土地については右加算がなされなかったから不当である。

二  第一審被告の主張

1  (一)及び(二)の土地に対する仮換地指定処分について

(一) 第一審原告は、(一)の土地のために通行地役権が設定されていた旨主張するが、右主張事実を否認する。仮に右地役権の設定が認められたとしても(右主張にいう地役権が民法二一〇条の囲繞地通行権をいうのであるとしても)、土地区画整理事業の目的の一つは、地区内の土地の区画形質等の変更を行い、良好な宅地をつくり出すことにあるのであるから、公道に面しない盲地をこれに面するようにした(一)の土地についての仮換地指定処分は、土地区画整理法の立法趣旨に適合する適法な処分である。

(二) 第一審原告は、三角地が一般通行の用に供されていた旨主張するが否認する。仮に三角地の西側を南北に通じる幅員六メートルの道路の一部が事実上三角地にくい込んでいたとしても、それは三角地の西側部分の一部にすぎず、その中央部分又は(一)の土地に接する東側の部分が一般通行の用に供されていた事実はない。

(三) 第一審原告は、昭和三九年四月二七日付建設省都市局区画整理課長回答をもって三角地を道路と認定すべきであると主張する。しかしながら、右回答における廃道敷の場合は、法律上は「宅地」として取扱われるものではあるが、実際上廃道とされる以前からの形態を失っておらず、不特定又は多数人の通行の用に供されているという事実が存在するのに対し、三角地は道路としての機能及び形態を備えておらず、実際上も宅地であり、人の通行の用に供されていた事実もないのであるから、右主張は失当である。

(四) 第一審原告は、三角地には旧道路法七条により同法の規定が準用されていたから、第一審被告は(一)の土地を認定道路に面する土地に準ずる土地として取扱うべきである旨主張するが、右主張は次のとおり失当である。

(1) 旧道路法の道路、沿道又は道路の附属物に関する規定の一部は旧道路法七条及び「道路法第七条ノ規定ニ依ル同法ノ規定ノ準用等ノ件」(大正八年勅令第四七一号)の定めるところにより新たに道路沿道又は道路の附属物となるべきものに準用されていたのであるが、右勅令第四七一号によれば、沿道となるべきものについては、一審原告が主張する規定のうち旧道路法四五条が準用されていたにすぎない。

(2) 仮に(一)の土地が沿道となるべき土地であったとしても、本件事業の換地照応考慮の基準日である昭和三七年九月二八日までに三角地で道路工事が行われたことはなく、また、現実に(一)の土地につき公用制限が行われたこともないから、(一)の土地の所有者が旧道路法上の具体的義務を負担しているということはありえない。

(3) 土地区画整理事業における宅地の評価は、現実の具体的な状況を基礎として正確に行うことが要請されているのであるから、仮に(一)の土地につき旧道路法上の負担があるとしても、未だ計画段階にすぎない道路をすでに存在するものとみなし、これに沿接する土地を道路に面する土地としてその位置や接道状況等を認定しなければならないとする合理的な理由はない。

(4) 旧道路法は昭和二七年一二月五日新道路法の施行とともに廃止されたが、旧道路法七条に定める道路、沿道又は道路の附属物となるべきものについても、右新道路法の施行日以降は道路法施行法六条、七条、一一条などに掲げる場合であって、従前の例によるか又は旧法の規定が適用されることとなる場合を除いては、一般に新道路法の規定が適用されるのである。そして、(一)の土地は道路法施行法の右各規定に掲げる場合に該当する土地ではないから、新道路法施行後の法律関係については旧道路法の適用を議論することは無意味である。

(五) 第一審原告は、三角地を建築基準法四二条一項四号の道路予定地に該当するものとして道路法及び土地区画整理法上もこれを道路とみなすべきである旨主張するが、右主張を争う。建築基準法にいう道路であるというためには、これに接する敷地を利用するについて、特に防火上、避難上、交通上支障がない構造、形態を備えていることが要求されているものと解される。同法四二条一項四号は、二年以内に設置が確実視されているものについては、右の点に特段の支障がないものとして、特定行政庁の指定を要件として、これを同法にいう道路としているにすぎない。同法による道路であるからといって、他の法律関係においてこれを道路として取扱わなければならないというものではない。しかも、三角地については同法四二条一項四号による特定行政庁による指定も存在しないのである。

(六) 第一審原告は、本件事業において公図上盲地となっている土地については、(一)の土地を除いては、ほとんどの土地につき盲地による減歩をしていない旨主張する。別表(一)記載の土地のうち西中島町三丁目一三五番、同町八丁目八九番二、同所六六番の三筆を除く土地が盲地であることは認めるが、その余の事実は否認する。右三筆の土地は直接道路に接面する土地であり盲地ではない。本件事業においては従前地の地積確定の方法として査定ブロック方式を採用しているので、登記簿上の地積に基づいて記載された別表(一)の減歩率や換地率は本件事業における仮換地指定の内容を正確に反映したものではない。

第一審被告は、本件事業においては、建物のない土地はもちろん、建物のある土地についても減歩可能な土地については「換地設計方針」の第2「換地率計算方法」で定める原則的減歩を行っており、西中島地区に限ってみても、従前地が盲地である土地につき別表(三)記載のとおり原則的減歩を行っている。別表(一)記載の各土地はいずれも右の原則的減歩を行った土地ではないが、それは右各土地の従前地の利用状況や換地後の位置などに特別の事情があり、換地率計算の過程では原則的減歩を試みたが、これにより得なかったものである。すなわち、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての定めによったもの、又は同第1、3「この方針によりがたい場合は、特別の措置をする。」を適用したものである。その具体的内容は次のとおりである。

(1) 西中島町三丁目一八〇番地(盲地、以下「A土地」という。)

原地換地としたうえ、幅員一六メートルの公道に達する通路部分約四三平方メートルを付加して指定した。従前は敷地のほぼ全体に建物が存在するという利用状況で減歩は不可能であった。

(2) 同所一八一番地(盲地、以下「B土地」という。)

A土地に隣接する土地で、形状、利用状況ともほぼ同じであるので、右と同一の理由で通路部分約四四平方メートルを付加して指定した。

(3) 同所一四一番地(盲地、以下「C土地」という。)、同所一三七番地(盲地、以下「D土地」という。)、同所一三八番地(盲地、以下「E土地」という。)、同所一三五番地(盲地ではない。以下「F土地」という。)、同所一三九番地(盲地、以下「G土地」という。)、同所一四〇番地(盲地、以下「H土地」という。)、同所一三六番地(盲地、以下「I土地」という。)

右七筆の土地は、一三五番地が幅員六メートルの公道に接し、その奥に他の六筆が順次接していた(その位置関係は《証拠省略》に示すとおりである。)。右各土地については、いずれも直接道路に面する位置に飛仮換地指定を行ったが、従前地上にはいずれもほぼ敷地全体に建物が存在し、原則的減歩をして仮換地指定を行うことが不可能であった。従前地の地積と仮換地の地積との間にほとんど差がないのは右の事情によるものである。

(4) 同町六丁目六三番の一地(盲地、以下「J土地」という。)

原地換地である。従前地上に建物は存在したが減歩は可能であったので、従前の利用状況を損わない範囲で減歩したうえ、幅員一六メートルの公道に達する通路部分約一六平方メートルを付加して指定した。

(5) 同町八丁目六〇番地の二地(盲地、以下「K土地」という。)

従前地上には宗教上の社、築山が存在し、これを動かしたくない旨の所有者の強い希望を容れて、昭和四三年九月一八日、従前地の位置、地積、形状で指定変更した。二〇平方メートル余の狭小な土地に社と築山が存在し、減歩は不可能であった。

(6) 同所八九番の二地(盲地ではない。以下「L土地」という。)

幅員約三メートルの道路(この道路は南側ですぐに幅員六メートルの公道に接続している。)に面しており盲地ではない。原地換地であり、従前地のほぼ全体に建物が存在し、減歩は不可能であった。

(7) 同所六六番地(盲地ではない。以下「M土地」という。)

幅員約二メートルの公道に約一二メートルにわたって面していたので盲地ではない(その位置、形状は《証拠省略》に示すとおりである。)。右土地は登記簿上の地積は九九・一七平方メートル、査定地積は一〇〇・二六平方メートルに過ぎなかったが、訴外星野は実際は二〇〇平方メートル以上の面積を占有し、所有しており、隣地所有者との間で土地の境界等について特段の争いもなく、右土地上には三棟の建物が存在していた。仮換地は形状はやや変ったがほぼ原地換地であり、右三棟の建物の間にはわずかに空間があったが、減歩できる状態ではなかった。

(8) 同所一二一番の四地(盲地、以下「N土地」という。)

査定地積は七五・二三平方メートルである。右土地のほぼ全体に建物が存在したため、減歩は不可能であった。原地換地(ただし、換地割込みの技術上の理由からわずかに東に寄った。)であるが、幅員一〇メートルの公道に達する通路部分約三〇平方メートルを付加して指定した。

(9) 同所一二一番の三地(盲地、以下「O土地」という。)

査定地積は二三七・一二平方メートルである。建物は存在したが空地が多く、従前地とやや形状を異にする仮換地を指定すれば減歩が可能であったので、幅員一〇メートルの公道に達する通路部分約二平方メートルを付加するとともに、原則的減歩と同程度の減歩を行って指定した。

(10) 同所一一八番の二地(盲地、以下「P土地」という。)

査定地積は二九二・五六平方メートルである。建物は存在したが、減歩は可能であったので、従前の利用状況を損わない範囲で減歩し、幅員一〇メートルの公道に達する通路部分約二五平方メートルを付加して指定した。

そもそも、照応の原則からすれば、原地換地が望ましいことはいうまでもないが、右各土地の存在する土地は、当時としては大阪市の中でも開発の遅れていた本件事業施行地区内では比較的家屋が密集していた地区であったので、このような地区においては道路等の公共施設が未整備のまま宅地が細分化されていることもあって、すべての仮換地を整備後の道路に直接面する位置に指定することは地区内のほとんどの仮換地の間口狭小、奥行長大化と位置、形状の変更に伴う建物移転による事業費の増大という結果を招くことになるので、事業施行後の道路や街区との関係を考慮して、原地換地としても従前地との照応を欠くものでないと判断される土地については、これを原地換地とすることは事業施行のうえでも必要なことである。A、B、J、K、N、O、Pの各土地はいずれも原地換地であり、そのままでは盲地となるが、これを盲地として残すことは土地区画整理事業の目的に反するので、「換地設計方針」の第1、1「換地は道路に二メートル以上沿接するものとする。」を適用して、これらの土地に公道に至る幅員二メートル余の通路部分を付加して指定したものである。また、従前地の利用状況を損う仮換地指定は土地区画整理法八九条の規定に照らして許されないことであるが、AないしPの各土地にはいずれも建物が存在し、Oの土地を除いては減歩が全く不可能であるか又は原則的減歩をすれば従前の土地の利用状況を損うことになるため、これを緩和せざるを得なかったものばかりである。

(七) 第一審原告は、(四)の土地の奥行計算に誤りがある旨主張するが、右主張を否認する。本件事業において「奥行」とは、当該土地の正面道路から最も隔った地点より右正面道路に下した垂線の長さをいう。ただし、不整形地については、右の距離と当該土地の面積を間口で除した数値の平均値をもって奥行の長さとしている(「換地設計方針」の第2、2―3、(3))。本件事業においては例外なく右の取扱をしており、奥行計算に誤りはない。

(八) 第一審原告は、(一)の土地につき認定道路に接面している土地に準ずる取扱をすべきことを請求しうる利益又は権利を有していた旨主張するが、道路が供用されることによって得られる住民の通行の利益は、道路の供用開始に伴う事実上の利益、すなわち反射的利益にすぎないものである。まして道路の建設前においては、事実上の期待ないし反射的利益というべきものであって、法的保護に値いするものではない。

2  (三)の土地に対する仮換地指定処分について

(一) 原判決が(三)の土地に対する仮換地指定処分を違法と判断したのは「換地設計方針」中の土地区画整理法九一条一、二項に基づく「過小宅地の基準となる地積」に関する定めを誤解したことによるものであり、失当である。

第一審被告は、土地区画整理審議会の同意を得て、本件事業のために右「換地設計方針」を定めたが、そのうち右「過小宅地の基準となる地積」の定めに関連する部分は別表(二)記載のとおりである。右定めは①において「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての取扱基準を、②において建物のない土地について、その前段で土地区画整理法九一条三項に基づき金銭清算とする従前の土地を、その後段で同条一、二項に基づき「過小宅地の基準となる地積」に関する定めをしている。右②の後段は表現上若干言葉の足りない点はあるが、前段と同様建物のない過小宅地を対象として定めたものであり、建物のある土地は過小宅地の場合でも右①の基準によるのである。

そもそも、施行者が同法九一条一、二項に基づき「過小宅地の基準となる地積」を定めるか否かはその裁量にかかるものであるが、従前建物のある土地と建物のない土地とに分けて、後者についてだけこれを定めることも同条項及び同法施行令五七条の規定の趣旨を著しく逸脱する不合理なものでない限り許される事柄である。第一審被告が「換地設計方針」中で「過小宅地の基準となる地積」について右のように定めたのは、(1) 土地区画整理法九一条の規定の趣旨から、三三平方メートルに満たない程度の狭小な宅地については一律に金銭清算とすることが望ましいという判断があったこと、(2) しかし、本件事業施行地区内では、すでにある程度市街地化した区域もかなり含まれていたことから、建物のある三三平方メートル未満の狭小な宅地も相当存在し、このような現に建物のある宅地については金銭清算によることが不可能であったこと、(3) 建物のある宅地についてはどのような狭小な宅地の場合であっても最低三三平方メートルの換地を指定すると定め、建物のない三三平方メートル未満の宅地については一律に金銭清算とすると定めることは、両者間の公平を著しく欠くことになること、(4) 建物のある宅地については従前地上における利用状況を換地上において再現することが最も重要であるが、建物のない過小宅地については今後どのような利用がなされるか未定であるため、特に同法九一条一項に定める災害防止及び衛生向上の観点から特別の取扱いをすべき実質的な必要性があることなどの点を考慮したことによるものであり、右条項等の規定の趣旨からしても合理的なものである。

(二) 仮にそうでないとしても、(三)の土地に対する仮換地指定処分を違法であると認定した原判決の判断には、次のような誤りがある。すなわち、土地区画整理法九一条一、二項による過小宅地の取扱いの特例は災害防止及び衛生向上の観点から認められるものであって、この規定に基づき「過小宅地の基準となる地積」に関する定めがなされた場合であっても、これに該当する個々の宅地の状況は千差万別であり、右定めに反した指定がされたからといって直ちに、これに該当するすべての仮換地が右災害防止の観点からみて危険なものとなり、又は衛生向上を阻害するものとなるわけではない。したがって、本件仮換地指定処分の違法性の判断は、単に右「過小宅地の基準となる地積」に関する定めに反するというだけではなく、具体的に災害防止及び衛生向上の観点からみて著しく不合理なものであるかどうかによってなされるべきである。一般的に宅地の安全性や衛生上の問題は、単にその宅地の広狭のみで判断できるものではなく、当該宅地の位置、土質、周辺の土地の利用状況、道路状況等を総合的に判断してなされるべきものであるが、(三)の土地の仮換地である(五)の土地は、その北側が幅員六メートル、東側が幅員一六メートルの道路に接する角地であって、中間区画地に比して安全性や衛生上の点において格段優れている。(五)の土地の地積は二八平方メートルであるが、総合的にみて、危険防止や衛生向上の観点からも良好な宅地であるから、右仮換地指定処分に違法はない。

(三) 第一審原告は、(三)の土地上の建物を移築できない程度に減歩した旨主張するが、右事実を否認する。右建物の床面積と(五)の土地の地積とを比較すれば明らかなとおり、(五)の土地は右建物を移築できない程度のものではない。

三  証拠《省略》

理由

一  本件仮換地指定処分及び各土地の位置関係について

当裁判所の判断は、原判決理由一項と同一であるから、その記載を引用する。

二  従前地についての照応考慮の基準時について

当裁判所の判断は、原判決理由二項と同一であるから、その記載を引用する(ただし、原判決一二枚目表三行目「事業計画決定の公告された」を「事業計画決定が公告されたのは」と改め、同四行目「九月二八日」の次に「であることが認められるから、同日」を挿入する。)。

三  (一)及び(二)の土地に対する仮換地指定処分について

当裁判所の判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由三項と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決一二枚目表一一行目「一ないし四、」の次に「第三四号証の二ないし一六、」を挿入し、同裏九行目「真鍋勝松」の次に「、当審証人東崎喬」を挿入し、同一三枚目裏八行目「のA部分」を「及び同番の二〇」に改め、同一五枚目表五行目「御堂筋」を「御堂筋線(ただし、この道路の中央部分には高架式の高速鉄道とその両脇に各三車線の高架式高速車道があり、(四)の土地と同一平面にある道路としては、右高架部分の両側に外側から東西各一本の歩道と東西各二本の二車線の車道(ただし、このうち内側にある車道各一本はいずれも右高架式高速車道の下にある。)がある。)」と改め、同八行目「絶好の」を削除し、同一六枚目表四行目から五行目にかけての「原告本人尋問の結果」を「当審証人久保靖男の証言、原審及び当審における第一審原告の供述」と改める。

2  第一審原告の主張に対する判断

(一)  第一審原告の主張1、(一)、(1)及び(2)について

(一)の土地の東隣の土地又は三角地に大阪府が私道を設け、又は通行地役権を設定したものと認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用することができない。

(二)  同1、(一)、(3)及び(4)について

照応考慮の基準時である昭和三七年九月二八日当時、三角地のうち(一)の土地に隣接する東側部分が廃道敷であり、この部分が事実上不特定又は多数人の通行の用に供されていたものと認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用することができない。

(三)  同1、(一)、(5)及び(九)について

旧道路法七条の「新ニ道路ト為ルヘキモノ」とは、道路管理者が道路にする目的で権原を取得した道路区域内にある土地をいうものと解すべきところ(新道路法九一条二項参照)、前記照応考慮の基準時当時、大阪市が三角地につき新御堂筋線を設ける目的で権原を取得したものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、大阪市が三角地の所有権を取得したのは昭和三八年七月一七日(同年八月二一日所有権移転登記)であることが認められるから、三角地が旧道路法七条の「新ニ道路ト為ルヘキモノ」であったことを前提とする右主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

(四)  同1、(一)、(6)について

建築基準法は建物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図ることを目的とするものであるが(同法一条)、これと立法目的を異にする土地区画整理法上の仮換地指定にあたり、建築基準法の定める道路についての規定の趣旨を類推すべき理由は見出せないから、右主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

(五)  同1、(二)及び(三)について

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 別表(一)記載の一六筆の従前地のうちF土地、L土地及びM土地を除く一三筆の土地は盲地であるが(この事実は当事者間に争いがない。)、右一六筆の従前地に対し、別表(一)の(イ)の仮換地地積欄記載の地積の仮換地が指定された。

(2) 本件事業においては、従前地の地積の確定は原則として査定ブロック方式によったが、この査定ブロック方式とは、各筆従前地を実測する代りに、本件事業施行地区内を道路、水路、鉄道等境界が明らかに認定できるものに囲まれた最小面積の区域(査定ブロック)に分割して実測し、この実測面積と査定ブロック内の土地台帳地積の合計との比率を配分率とし、各筆土地台帳地積に右配分率を乗じたもの(査定地積)を従前地の地積とするものである。そして、別表(一)記載の一六筆の従前地の査定地積は別表(四)の従前査定地積欄記載のとおりである。

(3) 第一審被告は、本件事業においては、建物のない土地はもちろん、建物のある土地についても減歩可能な土地については、「換地設計方針」の第2「換地率計算方法」で定める原則的減歩を行ったが、西中島地区に限ってみても、従前地が盲地である土地につき、別表(三)記載のとおり原則的減歩を行った。

(4) しかし、別表(一)記載の各土地の存在する地区は、本件事業施行地区内では比較的家屋が密集していた地区で、これらの土地の仮換地をすべて整備後の道路に直接面する位置に指定すれば、地区内の仮換地のほとんどが間口狭小、奥行長大化をきたし、更に位置、形状の変更に伴う建物移転による事業費の増大という結果をまねくことになるので、第一審被告は、事業施行後の道路や街区との関係を考慮して、原地換地としても従前地と照応を欠くものでないと判断される土地については原地換地とし、盲地については盲地のまま残すことは土地区画整理事業の目的に反することになるので、「換地設計方針」の第1、1に基づいて、仮換地は道路に二メートル以上沿接するよう指定した。

(5) 別表(一)記載の一六筆の従前地については右原則的減歩を行っていないが、それは右各土地の従前の利用状況や換地後の位置に特別の事情があったため、右原則的減歩によることができず、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての定め、又は同第1、3「この方針によりがたい場合は、特別の措置をする。」を適用したものであり、例外的取扱をした事例である。

(6) 別表(一)記載の一六筆の従前地についての特別の事情は、第一審被告の主張1、(六)の(1)ないし(10)記載のとおりである。

(7) (一)の土地についての換地率は六三パーセントであるが、これは「換地設計方針」に定める前記原則的減歩を行った結果によるものである。

右事実によれば、本件事業施行区域内の土地の仮換地の地積は、原則として「換地設計方針」の定める原則的減歩の結果定められており、別表(一)記載の一六筆の従前地に対する仮換地地積はむしろ例外的な事情によって定められたものであることは明らかであるから、右のような例外的事例があるからといって、(一)の土地の仮換地の地積を定めるにつき不公平な取扱がなされたということはできない。

第一審原告は、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての定め、又は同第1、3「この方針によりがたい場合は、特別の措置をする。」を適用した場合には、担当者の恣意又は目見当によって仮換地の地積が定められることになる旨主張するが、前掲認定事実(特に(5)の事実)に《証拠省略》を総合すれば、本件事業においては、従前地の利用状況や仮換地後の土地の位置に特別の事情があるため原則的減歩を行うことができず右特別の定めによった場合にも、公平を旨としてできるかぎり減歩を行うよう努力し、担当者の恣意又は目見当によって処理することはなかったことが認められるから、右主張は採用することができない。

(六)  同1、(四)について

前記のとおり(一)の土地の東隣の土地又は三角地に通行地役権が設定されていたものとは認められないのであるから、右主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である。

(七)  同1、(五)ないし(七)について

右各主張はいずれも独自の見解によるものであり、採用することができない。

(八)  同1、(八)について

《証拠省略》を総合すれば、本件事業における「奥行」とは、当該土地の正面道路から最も隔った地点より右正面道路に下した垂線の長さをいうが、「換地設計方針」の第2、2―3、(3)は不整形地の奥行は当該土地の面積を間口で除した数値と最長奥行との平均値とする旨定められているところ、第一審被告は、(四)の土地だけでなく、本件事業における不整形地の奥行の計算はすべて右定めによったことが認められ、第一審原告の主張する奥行計算方法は独自の見解によるものであるから、右主張は採用することができない。

四  (三)の土地に対する仮換地指定処分について

1  (三)の土地と(五)の土地の照応について

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一)  本件事業における照応考慮の基準時である昭和三七年九月二八日当時、(三)の土地は間口四・二メートル、奥行八・二メートル、面積三四・六七平方メートルの矩形の土地で、その東側を南北に走る幅員八メートルの道路に接していた。右道路は約三〇〇メートル南で阪急京都線南方駅の東端部に突当っていたが、同駅周辺にはまばらに店舗が存在するのみであり、しかも、右店舗の存在する範囲は同駅から遠くても一〇〇メートル位までであった。

(二)  (五)の土地は、(三)の土地の東方約一〇〇メートル、東海道線の敷地の西方約六〇メートルのところにあり、その東側で本件事業施行地区内を南北に走る幅員一六メートルの準幹線道路に接し、その北側で東西に走る幅員六メートルの道路に接する面積二八平方メートルの角地であり、従前地である(三)の土地に比較して立地条件は優れている。

(三)  (三)の土地及び(五)の土地から北方にある新大阪駅までの距離はいずれも約五〇〇メートルで、その位置関係にはほとんど差異がない。

(四)  (三)の土地についての換地率は本来八〇パーセントであったが、右土地はもと京阪土地株式会社の住宅経営地であり、大阪市西中島土地区画整理組合の事業施行地区と同様の区画整備が行われた地区であったので、同組合による事業施行地区と同じ取扱により三パーセントの加算がなされ、最終的換地率は八三パーセントであった。そして、仮換地地積の確定に際し端数が切捨てられたため、右土地についての減歩率は約一九パーセントとなったが、それでも本件事業における平均的減歩率二二・二パーセントよりは低い。

(五)  (三)の土地につき飛換地が指定されたのは、右土地付近で都市計画街路である御堂筋線(幅員八〇メートル)と十三吹田線(幅員三〇メートル)が新設されたためで、右土地のみでなく付近の従前地の相当数のものが飛換地を指定され、右土地の仮換地((五)の土地)と同じブロックへ仮換地(飛換地)されたものも数件ある。

(六)  第一審被告が土地区画整理審議会の同意を得て、本件事業のために定めた「換地設計方針」には、基本方針として「原則として原地換地とする。」(第1、1)、「この方針によりがたい場合は、特別の措置をする。」(第1、3)と定められ、更に土地区画整理法九一条一、二項に基づく「過小宅地の基準となる地積」に関連する定めとして別表(二)記載のとおり定められている(この点は当事者間に争いがない。)。

(七)  第一審被告は、(三)の土地の仮換地として(五)の土地を指定するについては、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①の「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についての取扱基準によったものである。

右事実によれば、(三)の土地の仮換地として(五)の土地を指定した処分は、照応の観点からはむしろ、第一審原告にとって有利な処分であったということができるのであって、これが照応を欠いた違法な処分であるということはできない。

2  第一審原告の主張に対する判断

(一)  第一審原告の主張2、(一)について

《証拠省略》によれば、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、②後段の「三三平方米(一〇坪)以上の土地についての最少換地面積は三三平方米(一〇坪)とする。」は、土地区画整理法九一条一、二項に基づく「過小宅地の基準となる地積」についての定めであるが、この定めは、表現上言葉の足りない点はあるが、その前段を承けて「建物のない土地」について定めたものであり、「昭和三七年九月二八日以前の建物のある土地」についてはこの定めは適用されず、右建物のある土地についてはそれが過小宅地である場合にも、「換地設計方針」の第3、3―1、(2)、①の「住居のある土地については、その住居の利用価値を著しく減少せしめない範囲において減歩する。」が適用され、現に(三)の土地以外にも建物のある三三平方メートル以上の従前地に対し三三平方メートル未満の仮換地が指定された事例が二八件あることが認められるから、(三)の土地に対する仮換地の指定はなんら「換地設計方針」の定めに反するものではなく、右主張は採用することができない。

(二)  同2、(二)について

土地区画整理法九一条一、二項は、その規定の仕方からみて、施行者に「過小宅地の基準となる地積」を定めることを義務づけているものではなく、それを定めるか否かは施行者の裁量に委されているものと解すべきところ、《証拠省略》によれば、第一審被告は、土地区画整理法九一条の規定の趣旨により本件事業施行地区内の宅地の地積を適正化する必要を認め、三三平方メートルを基準として、これに満たない宅地については換地計画において換地を定めず金銭清算によることが望ましいと判断したが、右地区内はすでにある程度市街化しており、建物のある三三平方メートル未満の狭小な宅地も存在していて、このような宅地につき換地を定めず金銭清算によることは不可能であったこと、そうはいっても、建物のある宅地についてはどのように狭小な宅地についても最低三三平方メートルの換地を指定し、建物のない狭小な宅地については一律に金銭清算とすることは両者間の公平を著しく欠くことになると判断されたので、第一審被告は、建物のある土地については従前地上の利用状況を著しく減少せしめない範囲で減歩して換地し、建物のない土地のうち三三平方メートル未満の土地については換地を定めないで金銭清算とし、建物のない三三平方メートル以上の土地については最小換地面積を三三平方メートルとすることとし、土地区画整理法九一条一ないし三項、同法施行令五七条一項、三項四号により土地区画整理審議会の同意を得て、「換地設計方針」中に前記認定のとおりの定めをしたことが認められる。右事実によれば、第一審被告が建物のない土地についてのみ「過小宅地の基準となる地積」を定め、建物のある土地についてはこれを定めなかったことには合理的な理由があると認められるので、「換地設計方針」中の右定めが土地区画整理法九一条一、二項及び同法施行令五七条二、三項に違反するということはできない。したがって、右主張は採用することはできない。

(三)  同2、(三)について

《証拠省略》によれば、(三)の土地上には昭和三七年九月二八日以前に建築された建物が存在したが、右建物は木造瓦葺二階建居宅兼店舗床面積一階二四・七九平方メートル、二階一九・八三平方メートルであり、右建物の利用価値を著しく減少せしめない範囲でこれを(五)の土地上に移築することが可能であったことが認められ、《証拠省略》中右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、右主張は採用することができない。

(四)  第一審原告は、(三)の土地において息子の一人に洋品雑貨販売及び洋裁店を開業させる計画を立てていたが、本件仮換地指定処分によってこの計画は壊滅した旨主張するが、第一審原告が右のような計画を有していたとしても、それは仮換地の指定にあたって考慮すべき事柄ではないから、右主張は採用することはできない。

五  結論

以上の次第で、本件仮換地指定処分が違法な処分であるとは認められないので、第一審原告の本訴請求は失当として棄却すべきものである。

よって、これと一部結論を異にする原判決は失当であるから、第一審被告の控訴に基づき、原判決中第一審被告の敗訴部分を取消して第一審原告の請求を棄却し、第一審原告の控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 大須賀欣一 吉岡浩)

<以下省略>

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