大阪高等裁判所 昭和55年(行コ)59号 判決 1981年9月30日
控訴人(原告) 株式会社大近 外一〇名
被控訴人(被告) 寝屋川市
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴代理人らは「1 原判決を取消す。 2 本件を大阪地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(訂正)
1 原判決四枚目裏七行目の「法に基づく」の次に「市町村が行う第一種」を、九行目の「事業計画決定」の前に「先ず都道府県知事が市街地再開発事業の施行区域等を定めた都市計画の決定をし、それに基づき施行者である市町村が施行規程及び事業計画を決定し、事業計画で定められた設計の概要について都道府県知事の認可を受ける。そして、その後」をそれぞれ挿入する。
2 同五枚目表八行目、裏一〇行目及び六枚目表三行目の各「申請又は」をいずれも削除する。
3 同六枚目表四行目から七枚目裏八行目までを次のとおり改める。
2 市街地再開発事業計画決定は、前記1(1)記載のとおり施行地区内の土地、建物の権利者に対し種々の権利制限をもたらすものであるから、このような権利制限が右事業計画決定の直接の法的効果ではなく事業計画の公告に対し特に法が認めた付随的な効果であるとしても、講学上いわゆる準法律行為的行政行為として処分性がある。
3 最高裁判所は土地区画整理事業における事業計画決定の処分性を否定したが(最高裁判所昭和四一年二月二一日大法廷判決、民集二〇巻二号二七一頁参照)、土地区画整理事業と市街地再開発事業とは次に述べるように大きく相違するものであり、右判例は後者の事業計画決定の処分性を否定する根拠とはなり得ない。
(1) 前者は、長期的な見通しのもとに広範囲の土地にわたつて施行され、かつ、その方法も土地と土地との交換分合に止まり、建物は平行移動されるにすぎない。そして、事業計画決定があつても、長期間の経過のうちにそれが変更され、施行区域内の者が権利の変動を受けないままに事業が終了してしまうことがままあり、また、権利変動を受ける場合であつても、それがどのような内容のものになるかは、現実に仮換地ないし換地処分が行われるまでは必ずしも明らかでない。
これに対し、後者においては、施行者が極く限られた区域の土地を一旦更地にしたうえ再開発ビルを建築し、施行区域内に存する土地、建物について従前権利を有していた者に対し、その権利に代えて再開発ビルやその敷地についての権利を取得させることを目的とするものであるから、施行区域内の土地、建物について権利を有する者は、事業計画決定があると、必の権利を完全に喪失する運命にある。そして、しかも事業計画決定後最終的な権利変動の基礎となる権利変換計画決定まで一年位の極めて短期間しかなく、さらにそれにつづいて工事が着手され、二年ないし三年という短期間に事業が終了してしまう。したがつて、事業計画決定により期限付ではあるけれども権利者はその権利を喪失させられるものといえるから、この点から事業計画決定の処分性が肯定される。
(2) 次に前者においては、施行区域内の者が権利の変動を最終的に受けることになるとしても、その内容は千差万別であり、しかも権利者は店舗による営業の継続を前提とするものではないから、その被むる不利益は損失補償によつて満足させられ得る。したがつて、事業計画後の手続を進めることによつて権利者の受ける被害はそれ程大きいものではない。
これに対し後者においては、施行区域内の権利者が再開発ビル内で店舗を取得し従前の営業の継続を前提としているから(もつとも再開発ビルに店舗を取得しない者もいるが、それは例外である。)、権利変換によつて与えられる店舗で営業したとして従前どおりの顧客が確保されるかどうかということが重大な問題となる。そして、顧客の確保は、再開発ビルの配置、構造及びキーテナントの出店場所のほか、キーテナントの取扱い商品の構成如何によつて左右されることが、これまでの市街地再開発事業の例からして明らかである。そして、権利者が再開発ビルのどの部分に権利床を与えられることになるかという、いわゆる権利の張り付けは形式的には事業計画後の権利変換計画の段階の問題ではあるが、実質的には既に事業計画の立案の段階でそれが出来上つており(そうでなければ再開発ビルの規模、構造、資金計画等を決定できず、事業計画自体を立案することが不可能となる。)、本件においても、再開発ビルの一号館にはイズミヤが、二号館には控訴人らがそれぞれ入る予定になつている。しかし、このようなやり方ではイズミヤのみが繁栄し、控訴人らの店舗には顧客が回遊してこないことが明白であるから、このような権利の張り付けは控訴人らの営業権を侵害することになるが、権利変換は、従前の土地、建物に関する権利に代えてその価格に見合う再開発後の新たな資産に関する権利を与えるものであるから、これに対する不服の申立は、その評価の適否に関する範囲に限られ、営業権の侵害に対する救済を求めることができないものである。したがつて控訴人らは、事業計画決定自体によつて営業権を侵害されることになるから、この点からしても事業計画決定の処分性が根拠づけられる。仮に事業計画決定の処分性が否定されて本件訴が却下されることになると、控訴人らは右に述べたように事業計画の実行により営業権を侵害されながら裁判上の救済手段を奪われることになるから、憲法三二条に違反するものである。」
4 同八枚目表一〇行目から一一行目の「床面積、位置関係」を「位置関係、床面積」と改める。
三 証拠<省略>
理由
一 当裁判所も本件事業計画決定の取消を求める控訴人らの本件訴は不適法として却下すべきものと判断するが、その理由は次に付加・訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一一枚目表一〇行目の「行政庁の行為が」の次に「行政事件訴訟法三条二項にいう」を挿入する。
2 同一三枚目表二行目の「申請又は」を「登記の」に改め、裏三行目の「申請又は」を削除する。
3 同一四枚目表五行目の「特定の」から六行目の「(一般処分)。」までを「私人の法律上の地位ないし権利関係に直接に影響を及ぼすものではない。控訴人らは、施行地区内の土地・建物について権利を有する者が事業計画決定によりその権利を喪失させられ、また営業権を侵害される旨主張するが、事業計画決定の法的性質は右にみたとおりのものであり、それ自体によつては控訴人ら主張の右のようなことが起り得ないことは明らかである。」と、裏一〇行目から一一行目の「この結論は、憲法三二条の趣旨に反しない。」を「憲法三二条は、訴訟の当事者が訴訟の目的たる権利関係につき裁判所の判断を求める法律上の利益を有することを前提として、このような訴訟につき本案の裁判を受ける権利を保障したものであるから、裁判所が、処分性のない行為の取消を求める訴の利益を欠く訴訟につき、本案の裁判を拒否したからといつて、右法条に違反するものではない(最高裁判所昭和三五年一二月七日大法廷判決、民集一四巻一三号二九六四頁参照)。」とそれぞれ改める。
二 そうすると、前記判断と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 仲西二郎 長谷喜仁 下村浩蔵)