大阪高等裁判所 昭和56年(う)1118号 判決 1982年3月02日
主文
原判決を破棄する。
本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人中津吉正、同土居利忠、同祝前俊宏及び同中本勝共同作成の控訴趣意書、これに対する答弁は検察官大村須賀男作成の答弁書各記載のとおりであるから、これらを引用する。
控訴趣意第一について
論旨は、要するに、原判決には理由不備の違法が存在する、すなわち、原判決挙示の証拠によっては、被告人が原判示の○○荘一六号室等において所持したとされる物件を銃砲及び実包であると認識していたと認めるに足らず、したがって、右証拠だけで被告人が本件のけん銃等を所持していたとの罪となるべき事実を認定することはできないのであって、結局、原判決は証拠に基づかないで事実を認定したというほかなく、刑訴法三七八条四号前段に該当し、破棄を免れない、というのである。
そこで、記録によって、原判決及びその挙示にかかる各証拠を検討すると、被告人は、捜査段階から原審の公判審理を通じて終始一貫、本件犯罪事実を全面的に否認しているところ、原判決は罪となるべき事実として、「被告人は、法定の除外事由がないのに、宮城稔と共謀のうえ、昭和五四年八月上旬ころから、同月二〇日ころからは更に港裕司と共謀のうえ、同年一一月二八日までの間、大阪市南区《番地省略》○○荘一六号室等において、二二口径回転弾倉式けん銃一丁、三八口径回転弾倉式けん銃二丁、二二口径自動装填式けん銃二丁、八ミリ口径自動装填式けん銃一丁、八・五ミリ口径回転弾倉式改造けん銃一丁、二四番径単身中折式猟銃(散弾銃)一丁及び火薬類であるけん銃用実包六二発、猟銃用実包八発を所持したものである。との銃砲及び実包の所持の事実を認定したうえ、その証拠として多数の証拠の標目を挙示していることが認められる。
しかしながら、原判決挙示の各証拠を仔細に考察してみても、被告人が暴力団榊原組若頭の山本昌の指示を受けた同組組員宮城稔とともに、昭和五四年八月上旬ころ、かねて賃借していた前記○○荘一六号室に、前記けん銃合計七丁と実包合計七〇発の入ったボストンバッグ及び猟銃一丁の入った布包を持ち込んだとする証拠は存在するものの、被告人において、これらが銃砲及び実包であるとの認識を有していたとの事実を認めるべき証拠は、遂にこれを発見することができない。そして、被告人と本件けん銃等とのかかわりあいとか、少なくとも当時における被告人と榊原組、なかんずく同組若頭の山本昌との関係等が証拠上明確を欠いている本件において、被告人が、本件けん銃等を収納したボストンバッグ等の積載された乗用車を運転して自らが借りた○○荘一六号室に至り、同行した宮城をして右ボストンバッグ等を同室に持ち込ませたうえ、同人に同室の鍵を渡し「よろしく頼む。」とその保管方を依頼している事実があったからといって、そのことから、直ちに被告人において右ボストンバッグ等の在中物が銃砲及び実包であることを認識していたと推認することはむつかしいばかりでなく、その後の事態の推移、すなわち、右宮城に対し、前記山本昌からは再三にわたり右ボストンバッグ等の保管方の確認とともに保管確保の依頼があったのに対し、被告人からの連絡は全くみられなかった状況からみても、被告人において右ボストンバッグ等の在中物が銃砲等であるとの認識がなかったと認められる余地がないとはいえないし、また、右○○荘一六号室の賃借の点にしても、その目的は、被告人が当時三栄商事の商号で経営していた金融業の営業上の書類等を保管するためであって、現に、その部屋は、その後一貫してその目的に沿って使用されており、たまたま右物件が被告人において銃砲等であることを知らないまま、その保管場所として利用されたものに過ぎないと解することもできるのである。
その他、原判決が掲げる全証拠を更に精査検討してみても、これらのみをもってしては、被告人が本件ボストンバッグ等の在中物を銃砲等であると認識していたと断定することは甚だ困難であって、原判決がその挙示する証拠だけで被告人を本件けん銃等の所持罪に問擬したのは、証拠に基づかずに事実を認定したものというべきであり、認定事実と証拠との間に理由不備の違法があるといわざるをえず、この違法は刑訴法三七八条四号に該当することに帰するから、論旨は理由があり、原判決は、この点において破棄を免れない。
よって、その余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三七八条四号により原判決を破棄したうえ、原裁判所をして更に審理を尽くさせるため、同法四〇〇条本文により本件を原裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 杉浦龍二郎 内匠和彦)